目の前には血の海が広がり、骸と化した元騎士型の自動人形の残骸が転がっている。
見ているだけでも心が痛み、気分を害す光景だ。
うん、トラウマ確定だな。
騎士の主人の五人の学生は力なく膝をつきその光景を信じられないといった様子で呆然と見つめている。
しかし、まだ勝負は終わっていないとでも言うかのように騎士の血で塗れた夜々とケルビムと十六夜が睨み付けるように視線を向ける。
その視線を受けた五人の学生はビクッとした後に、いそいそと手袋を脱ぎ、足元に捨てた。
勝負の負けを認めたのだ。
そしてその瞬間アナウンスが流れる。
「第八十六位、第八十五位、第八十四位、第八十三位、第八十二位は権利消失です」
無機質な声と共に五人の学生が夜会の舞台を降りた。
そして残るのは僕と雷真、フレイ、ロキである。
この中では一応僕とフレイは協定を結んではいるが、ロキが復活したのでフレイはロキに預けるのが筋であろうと考える。
僕とロキ、雷真を交互に視線をさ迷わせ挙動不審になっているフレイに近づき、ロキの方にポンと背中を押してあげる。
「えっ!零夜?」
「協定は解消、今からフレイはロキと組むんだ。姉弟仲良くね」
僕は笑顔で見送る。
「……まあ…俺もあんたと組んだ方が、夜会では有利になる、組んでやってもいい」
近づいてきたロキが顔を背けながら呟く。
その言葉を聞き逃さなかったフレイの顔は花が咲くように喜びで満面の笑顔になる。
なんとも微笑ましい姉弟である。
「そうそうロキはシスコ………て、訂正、姉思いだからフレイを護ってくれるよ、きっと」
会話の途中で首に突きつけられた大剣は下ろされた。
あの目は本気だった。
もし四文字目を言っていたら僕の頭と胴はお別れしていかもしれない。
シスコンは禁句だと知った時だった。
「ついでに言うと僕は二人とは戦う気はないから。たぶん雷真もそうだと思うけど」
「ああ俺もお前達とは戦いたくないな」
雷真も僕の問いかけに同意する。
「じゃあ下がろうか雷真」
「ああそうだな」
僕と雷真は笑いあって戦場のすみに下がっていった。
それから一時間、雷真とロキはにらみ会うように険悪な雰囲気を醸し出し、夜々と十六夜は少し警戒しながらも、なにやら雑談をしていた。
待機義務を果たして帰路に着くとき雷真は限界に達したらしく前のめりに倒れこんだ。
「雷真!」
夜々が急いで抱き止める。
(まったく無茶して。まあ人のことは言えないけど)
僕も雷真に肩を貸しながら共に今の仮の宿となる医療室に戻っていった。
同日の深夜、僕は雷真と夜々の話し声で目を覚ました。
声のトーンは普段と全く変わらないのに何か違和感を感じさせる会話であったからだろう。
「さよならです。雷真」
時間を見に行くと外に出ていく時の一言。
何か心配そうに十六夜もその姿を見送った。
そして、夜々は帰ってくることはなかった。
僕が次の日の朝目を覚ますと隣の雷真のベッドはもぬけの殻だった。
十六夜もこの場にはいない。
普段の日課となっているゴミ出し外に出ているのだろう。
朝一番トイレに行き用を足していると突然雷真がトイレの中に飛び込んできた。
相当焦っているのが伺える。
「悪い零夜、夜々を探している手伝ってくれ」
「夜々が!分かったただ少し時間が欲しい。まだ途中だし、それに十六夜がまだ帰っていないんだ」
「急いでいるんだ、帰りなんて待っていられるか!」
「はぁ……」
僕は溜め息を一つはき、なんとかしまうと雷真に視線を向ける。
「うん。メラ!」
今固定された腕ながらやっとこさ使える最大の呪文。
僕の指先から5センチ程の大きさの火球が具現化し、雷真に襲いかかった。
しかし、雷真にメラが当たる直前に剣が突き出され火球が破壊され、はらはらと火花を散らす。
「ふうバレたか。なんで分かった」
「簡単だよ。雷真は十六夜だけでなく自動人形をどんなに急いでいてもぞんざいには扱わないそれだけさ」
「ほう」
雷真だったものがそう言葉を発すると、
「着いてきな」
と言葉を残しトイレの窓から外に飛び出していった。
トイレから出入りをするのは無銭飲食ぐらいしか見たことがないので呆然としていると、十六夜が入ってきた。
「何かありましたか零夜?」
「うん。まあ。今出るから外で待っててここは男子用トイレだからね」
「す、すいません」
十六夜は顔を赤く染めると急いで外に出ていった。
僕も急ぎ外に出ると空を飛翔する騎士を追うロキとフレイに出会った。
「ロキとフレイも雷真もどきを追って?」
「ああ、そんな所だ。見失う訳にはいかん急ぐぞ!」
そう言い走っていくロキについて僕も走っていった。
しばらく追走し、小柄な騎士が降りていく所に着くと、その場には雷真とシャル、馬の大きさ程のシグムントとそれを取り囲むように、銀髪を靡かせる少女とシン、金髪の美青年とその自動人形の小柄の騎士、それ以外にも学生とそのパートナーの自動人形が七人づつ、等間隔に陣を敷いている。
(よくよく事件に巻き込まれるな。また医療室送りか)
と心の中で嘆きながらも、戦闘体勢を取る。
まあこの両手でできるのは、敵に集中するぐらいなのだが。
集まった僕らを見回した後に銀髪の少女は愛らしい笑顔を浮かべて、満足げにうなずく。
「五対九か。十分だ。確実に勝てるねローゼンベルグ?」
「相手を甘く見るな。貴公を入れても八割といったところだ」
金髪の美青年ローゼンベルグはかなり警戒した様子で答える。
「…お前達は何者だ」
「仮に〈十字架の騎士(クロイツリッター)〉と名乗っておこう。この夜会を支配する存在だ」
随分な大言をはいている。
恥ずかしくはないのだろうか。
厨2病かなと思っていると、雷真が叫んだ。
「夜々帰ってこい!」
十六夜はその声に反応し、視線を後方に向けると、俯き隠れるように敵側にいる夜々が。
「お姉さまなんで……」
「………」
雷真の叫びにも十六夜の悲痛な問いかけにも無言を通すばかり。
そんな中ローゼンベルグが一歩前に進み出る。
「夕べの戦いは見事だった。あやつらが捨て駒だったとは言えな」
「捨て駒か…確かに昨夜のゴミはそこのやつらの半分も力を感じなかったがな」
(戦闘力が半分か)
僕は確認を取るべく十六夜に視線を向けるが、夜々に注意が向いているためか全く反応してくれない。
「そうだここにいるのが〈完成品〉。昨晩の偵察のための相手が〈欠陥品〉だ」
その言葉に反応したのが雷真だった。
「それじゃ、そいつらはシンと同じ〈神性機巧(マシンドール)〉」
その言葉は僕には全く信じられなかった。
〈神性機巧(マシンドール)〉であるから表の世界でも裏の世界でも狙われることになった十六夜。
であるならば、〈神性機巧(マシンドール)〉は他には完成していないはず。
それが一点。
花柳斎硝子程の人形師さえも究極の目標という〈神性機巧〉がそんなに簡単にできるものだろうか?
というのが二点目である。
僕は頭の中で色々と考えていると、こちらの血の気の多いロキと、敵側の血の気の多い〈飛来する痛苦(ペインズエアレイド)〉と呼ばれるシュナイダーが戦いを始めていた。