自動人形〈オートマトン〉と生きる第二の人生   作:寅好き

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突きつけられる現実

 僕は今病室に一人でいる。

 隣のベッドの雷真は、十六夜と共に夜々さんを探しに、ロキは森の中で別れてから戻ってきてはいない。

 ここまで送ってくれたシャルは、講義を受けに学院に向かった。

 ということで僕は病室に一人でいる。

 誰の目もなくちょうどよいということで僕は行動を起こす。

 一応念には念をとベッドの周りのしきりのカーテンを引き、誰にも見られないようにする。

 ベッドの上で足を組み、静かに目を閉じる。

 部屋の中には静寂が訪れる。

 僕は呼吸を整え、無心になる。

 回復呪文は患部に当てることができないので他の回復手段を講じることにした。

 そして今行っているのが特技『瞑想』である。

 ドラクエ本編では戦闘中のみ行え、一回で大半の怪我は癒すことができる。

 その上MPを使わなくてよいというとんでもなく使える特技である。

 まあ、戦闘中にどうやって使うんだろうという疑問もあるのだが。

 体の芯から何かが沸き上がってくる気がする。

 次第に腕の痛みもひいてくる。

 ただし僕は臆病者であるので念には念をと『瞑想』を続けた。

 気づいた時には部屋の中はオレンジ色に染まっていた。

 

◆◇◆◇◆◇

 

 私と雷真さんは皆と別れてから、原生林とも言える広大な森の中を走り回っていた。

 私の魔力探知能力でもお姉さまの魔力を捉えることはできなかった。

「大丈夫ですか雷真さん?」

「ああ大丈夫だ。気を使わせたかありがとな十六夜」

「いえ…」

気丈に振る舞ってはいるが、明らかに雷真さんの具合は悪そうである。

 ここまで足場が悪い森の中を走りっぱなしであり、それだけでも大変なのに、雷真さんはまだ怪我が完治したわけではない。

 雷真さんが心配になった私は一つの案を提案する。

「このまま走っていても埒があきません。上空から探そうと思うので私の背に乗ってください」

私はそう言い、雷真さんに背を向ける。

「え…いやそれは…女の子の背に乗るなんて…」

明らかに雷真さんは戸惑っている。

 雷真さんも零夜と同様に私を自動人形(道具)として扱わずに、一人の人間と同じように考えて接してくれているのがよくわかった。

 こういう所にお姉さまは惚れて、慕っているのだろうなということが私にも分かったような気がする。

 だからこそ、お姉さまがなぜ自ら慕っている雷真さんの元を離れたのか問いたださなくてはならない。

「気にしないでください。上空から探したほうが効率がいいと思うので。私もお姉さま、いえ夜々さんを絶対に見つけたいので」

「分かった。このままじゃ俺は足手まといだ。その提案に乗らせてもらうよ」

雷真さんも覚悟を決めてくれたようで私の背に乗る。

「では行きます」

私は舞空術を使い空を駆ける。

 初めの頃は驚いていた雷真さんも順応性が高いようですぐに上空からお姉さまを探し始めた。

 そしてそれから日が暮れるまで共にお姉さまを探したが、お姉さまは見つからなかった。

 日が暮れ、人通りがなくなったメインストリートに私は降り立つ。

 すると、降り立った地点にクチナシのような甘い香りが漂う。

 以前一度かいだことがある匂い。

 私がハッとして振り返ると、私と零夜の前に現れた、眼帯をし、花魁のような様相をした美しい女性花柳斎硝子さんがいた。

 ただ以前には一人であったが、今回は二歩下がって奥ゆかしく控えている、雪を思わせる自動人形いろりさんもいる。

「硝子さん、いろり」

二人を見た雷真さんが呟く。

 そして直後雷真さんの表情に緊張が走ったような気がした。

 何かを思い出したのだろう。

「連絡がつかないなんて。あきれたわ」

 

「すまなかった。手を貸して欲しい。夜々が…」

雷真さんの言葉が途中で止まる。

 何かに気づいたようだ。

「…いろり?どうしたんだ?」

雷真さんが声をかけたいろりさんは、何かに耐えているかのように無言で、微かに肩を震わせて俯いている。

 そんなとき冷たい声が辺りの暗闇を引き裂くように轟いた。

「夜々は放棄するわ。坊やは今後はいろりを使いなさい」

雷真さんだけでなく、私もその言葉に何も言えない。

 そんな私達を気にする素振りもなく硝子さんは懐から手鏡ほどの大きさの板を取りだし、魔力を込めたのか、その板が光を放ち始める。

「見なさい。これは機巧都市に見立てた式盤よ。ここに二つの光があるでしょ、この光がいろり、そしてこっちが小紫よ」

硝子さんの言葉に雷真さんは愕然とした表情で疑問を呈す。

「…夜々は…」

「ないわ。夜々の反応は。十六夜貴女もわかるのでしょ」

「…はい…」

全てを見透かすかのような瞳でい抜かれた私は一言しかいえない。

「そう夜々は死んだか、もしくは魔力を絶縁されている。つまり、機能が停止したか、それに近い状態である。死んだのと同じだってことよ。だから、夜々は放棄するの、そして坊やはいろりを」

突き放すような冷酷な物言い。

「納得できない!」

「しなさい!そしてご覧なさい」

硝子さんの声が雷真さんの声をかき消した時、硝子さんから莫大な魔力が流れた。

 いろりさんの瞳が銀色に輝き、大気が、風が、空間に存在する全てが『凍結』した。

 そして、眼前に以前あった時計塔とかわらないほどの高さの氷柱が出来上がっていた。

 以前零夜が使った『ヒャダルコ』と属性は同じながら、威力にしてみると天と地ほどの差を感じた。

 それだけで、いろりさんの力を垣間見た気がした。

「これが〈氷面鏡〉。いろりの攻撃能力は夜々を遥かに越えて」

「俺はそんなことを言ってるんじゃない!」

その言葉と同様の勢いで雷真さんは硝子さんに詰め寄った。

「生きているなら助ける。奪われたなら取り返す。当然のことだろ!硝子さんがしないなら、俺が――」

その時だった辺りに響く頬を打つ音。

「今朝、私の元にお客が来たわ。大胆にも、直接ね。そして言ったわ。我が国は友好を望む。されども、悪意ある中傷は看過しない。十分に考えて行動せよ。つまり『言いがかりをつけるならば、即戦争だ』ってことよ」

 

雷真さんも言葉を失った。

 事実上の降伏勧告だった。

「情報部調べでは、敵の首魁はドイツの名門のローゼンベルグ。手を出せば戦争になる相手」

私と雷真さんも言葉がでない。

 お姉さまと私達の問題が世界を揺るがす程の物にまでなっていたからだ。

「…だからって夜々を見殺しには…」

雷真さんは絞り出すように言葉を発する。

「坊やの飼い主は誰?言ってみなさい」

再び放たれる有無を言わさぬ冷酷な言葉。

 雷真さんは言葉を失った。

「坊やはまたあの日に戻りたいの?」

「……」

「私との賭けは覚えているわよね?約束通りに今坊やの命を貰ってもいいのよ?」

「…自分の命惜しさに、夜々を諦めると思うのか?」

思い詰めた感じで雷真さんはポツリと呟く。

「坊やは世界大戦の引き金を引く覚悟があるの?」

硝子さんの最後通告だった。

 硝子さん曰く、今世界では、オーストリアとセルビアが争っている。

 そして背後にはドイツとロシアが。

 今日本とイギリスは同盟を結んでいる。

 日本の自動人形のお姉さま〈国家機密〉が奪われたらイギリスがドイツに圧力をかける事態に悪化する。

 イギリスがドイツに攻撃を仕掛けたらロシアも参戦。

 その後世界に戦いの火花が――。

 ということで世界大戦に繋がるということらしい。

 さすがに世界大戦という言葉まで出されたら雷真さんも何も言えなくなっていた。

 私もお姉さまをどんなことがあっても助けたいとは思ってはいたが、世界大戦にまで繋がると言われると何も言えなくなる。

 私と雷真さんに訪れる絶望。

 お姉さまと世界かける重さが違いすぎる。

 私の瞳からも人知れず涙が溢れて止まらなかった。

 もうどうにもならないと悟ってしまったから。

「分かったら謹慎なさい。いろり後のことは頼んだわよ」

「はい主」

それだけ言うと硝子さんは夜の暗闇に消えていった。

 

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