「…………」
僕は目の前で目まぐるしく変わる展開に驚きが隠せないでいた。
それは、シンが立ち去った後のことであった。
雷真が覚悟を決めた顔で何かをいろりに伝えた時だった。
いろりの表情と雰囲気がガラリと変わり、空間が震えるほどの魔力と殺気が荒れ狂う程の一触即発の状態に。
しかし、そこからが目を見張る程の驚きを植え付けられることになったのだ。
まさに『雷真マジック』といっても過言ではない展開に。
雷真が言葉巧みに話を進め、いろりの心を読み取り、いろりを陥落させたのだ。
険悪な状態を真逆に、さらにフラグまで立てる荒業、感服するしかなかった。
「零夜、お前も来てくれるか?」
「お前『も』?」
僕が聞き返すと、笑顔で雷真は振り返る。
すると月明かりに照らされた場に三人の影が。
すでにそこには覚悟を決めた三人、シャル、フレイそしてロキが集結していた。
三人がいたことに今気づいたいろりも驚いているようだ。
三人を見て僕も無意識に笑みが溢れる。
「皆が行くのに僕だけが仲間外れというのはお断りだよ」
僕は雷真にそう答えた後、振り向きながら続ける。
「ねっ言った通りでしょ。雷真は絶対に諦めないって」
「はい…」
月明かりに照らされ美しい輝きを放つ雫を流しながら満面の笑顔でそこに立つ十六夜がいた。
「雷真五分でいい時間が欲しい」
「ああ分かった」
僕と十六夜は『ルーラ』で久しぶりのトータス寮の自室に戻り戦闘の準備を整えた。
僕と十六夜が戻ると皆も準備万端といった感じでそこにいた。
そんな中僕はある人物に熱い視線を無意識の内に送っていた。
「あの零夜殿私の顔に何かついていますか?」
いろりが僕の視線に気づき何かを探るように尋ねてくる。
「ああごめんね」
「いえ責めているのではありません。気になったので」
僕は心を決めて思いの丈を告げる。
「付き合ってください!」
「!!」
「!!」
「!!」
「!!」
場に一瞬の静寂が訪れ、空気が一瞬で凍りついた。
「れ、零夜あなたいったい何を言ってるのよ」
取り乱しながらシャルが僕に恐ろしい剣幕でまくし立ててくる。
「いったいどういうことですか」
シャルに胸ぐらを掴まれている僕にいろりがあたふたしながら雪のように白い肌を紅葉のように赤く染めて尋ねてくる。
「そのままの意味です」
「お姉さまのお姉さまに愛の告白ですか、いい度胸ですね」
さらにもう一人先程までの嬉しそうな笑顔が一変して、無表情の感情が失われたような顔をした十六夜が先程準備した『刻死大鎌』を掲げてゆっくりと歩みよってくる。
いろりはいろりで
「私達はあったばかりでお互いのことを……それに私には…心にそのあの…」
とうつむき顔を真っ赤にしながら雷真にチラチラと視線を送っている。
「浮気ものー!」
と言いながらシャルの首を締め付ける力が強まることと、
「れーいーやー」
と無表情で断罪の大鎌を持ち迫ってくる十六夜に、迫り来る『死』を感じながら、自分の過ちに気づく。
緊張ではしょりすぎて言葉が足りなすぎた。
「ギブ、ギブ、説明するから…」
シャルの手を軽く叩きながらそう言うと、
「チャンスは一回だけよ」
と凍えるほど冷たい声で告げられ解放される。
「はあ、はあ、…説明します…」
呼吸を整えながら僕は真意を話す。
「魔術の練習に付き合って欲しいという意味です」
なぜか正座をしながら僕は話す。
「魔術…ですか?」
いろりはすでに冷静さを取り戻しているようで不思議そうにそう問いかけてくる。
「さっきシンとの戦いを見せてもらって、僕も氷結系の呪文を持っているんだけど伸び悩んでいて…」
そう本心を話す。
この場にいる皆はすでに僕が複数の呪文を使えることを知っているからだ。
まあロキは知らないかもしれないが興味なさそうに離れた所に座っているから大丈夫だ。
で、今僕は正直伸び悩んでいた。
すでに危機的状況下で『イオラ』まで体得しており、中級呪文は制覇したつもりになっていたが、実際はまだであった。
ヒャド系の中級呪文は二つ存在し、『ヒャダルコ』は使えたが、まだ『ヒャダイン』が使えないのだ。
『ヒャダイン』はドラクエのシリーズによっては出てこないこともあるのだが、覚えられると仮定するとドラクエマニアとしては諦めきれないのだ。
それに流れから言ったら『イオラ』の前には覚えているはずということで、同じ氷結系魔術を使用するいろりに頼むことにしたのだ。
「教えてあげたいのは山々なのですが、私達とあなたたちとでは魔術の使い方が違いますし…」
多分魔術回路のことを言っているのだろう。
だがここで食い下がる訳にはいかない。
ここで諦めたら上級呪文なんで夢のまた夢になりそうだからである。
「心構えみたいなものでもいいですし、魔術を見せてもらって勉強したいんですこの通りです」
日本の最上級の誠意の見せ方奥義『土下座』を使用する。
いろりもある意味日本人、効果は抜群のようだ。
「分かりましたから顔をあげてください。私には主の護衛の任がありますので、限られた僅かな時間になりますがそれでも良ければ…」
「ありがとうございますいろりさん!」
「えっ!えっ!れ、零夜殿!!」
「!!」
「!!」
ついつい嬉しくていろりに抱きついてしまった。
ああなんでいい匂いだや、柔らかいまるでマシュマロみたい等々煩悩が溢れだしそうになった時には僕の目の前は真っ暗になっていた。
次に目を覚まし気づいた時には僕は縄で縛りあげられていた。
「シャルさんほどいてくれませんか」
「獣にはお似合いの格好よ」
汚いものを見るような蔑みの目。
ゾクッとはするがMではないので耐えられない。
「十六夜さんほどいて欲しいのですが」
「………」
無言で凍てつくような視線を送られる。
死にたくなってくる……。
「はあ、もういいだろ。許してやれよ」
神様雷真がやって来て縄をほどいてくれる。
耳もとで「お前の気持ちはよく分かるぞ。今回は貸しだ。俺が巻き込まれた時には頼む」
と小声で呟かれ、次回の雷真の修羅場では僕が助け船を出すということで話は成立した。
で、話は進んで、敵の本拠地にたどり着いていた。
闇に包まれる木立の中に、苔むし、蔦がはる廃墟が見えてくる。
現実の世界であれば、肝試しに入ったり、中には落書きだらけだったり、ヤンキーのたまり場だったりしそうな廃墟である。
前世であれば、お金を積まれても近づきたくない場所である。
「ここの裏手…」
どうやら調べあげたのはフレイらしく、フレイが先頭を進み皆が続いていく。
しばらく雷真のランプで照らされた暗闇を進むと焼却炉が見えてくる。
雷真が焼却炉の中をランプで照らす。
ビンゴ、焼却炉の中には鉄格子がありそこから入るらしい。
まるで秘密基地か、抜け道である。
とうとう敵地に到着した。
小説本編では午後7時で、しかも夏に近いということで夕日も沈みきってはいない時間でした。
謝罪します。