フレイの指示のもとラビを含む五体のガルムが、焼却炉の入り口に向かって遠吠えをする。
けたたましく響き、反響する遠吠えに耳が痛くなる。
廃墟の中にいる相手が少し不憫に感じる。
しかし、これは攻撃や嫌がらせではない。
廃墟内の把握をしているのである。
フレイと黄泉やラビなどの六体のガルムは知覚を共有している。
そのために、フレイは五体のガルムの魔力混じりの遠吠えの反響を感じ取り内部を把握しているのだ。
相手にこちらが来ていることを知らせるというリスクはあろうとも、内部を把握できることの方がリターンは大きい。
フレイはスラスラと見取り図を書き上げる。
見事なお手並みで「すごいな」と言う感嘆の言葉しかでない。
感心しながら頷いていると何か違和感を感じる視線が。
拗ねた表情のシャルの刺さるような視線が僕を射抜いている。
何か悪いことをしたのだろうか?
そして雷真とロキがフレイが作成した見取り図をにらんだ後に、作戦をたて始める。
「入り口は表と裏の二ヶ所どちらから攻める?」
ロキが口火を切る。
どうやらこの廃墟には二つの出入口があるらしい。
ならば―――
「二手に分かれよう。夜々を裏から運び出されたら厄介だ。俺は正面から、裏はロキお前に任せる」
「命令するな。貴様が―――」
「ケンカはめっ」
いつものごとくケンカごしになりかける二人をフレイが諌める。
二人は渋々引き下がる。
フレイには二人とも、いや主にロキが弱いらしい。
笑みがこぼれかけた時に、殺気が籠った視線がロキから投げつけられる、姉のフレイ以外には狂犬のようだ。怖い怖い。
「これは私の私見であるのだが、フレイは裏に回った方がよい」
会話が途切れた所に話を元に戻すべく最年長で一番頼りになるシグムントが声を挟む。
場が一気に引き締まる。
シグムントが続ける。
「〈ガルム〉の策敵能力、空間能力を見ただろう?いざという時のために――」
「そうね。敵が逃げようとした時、また奇襲をかけられた時にもすぐに対処できる」
シグムントの意見の意図を組み、シャルが頷きながら言葉を繋げる。
まさに阿吽の呼吸といった所か。
二人の意見に雷真も肯首し
「じゃあロキも裏手だな」
と繋げる。
「ふん。〈多重なる騒音(サラウンドロア)〉の脱落はオレにとっても不利になる」
ツンデレ+シスコン気味のロキをニヤニヤして見ていると、
「何を笑っている?貴様死ぬか!」
と大剣と化したケルビムを首元に突きつけながら、恐ろしいことを宣う。
「姉思いだなあと思って…」
「ロキ?」
「フン」
僕の言い訳を聞いたフレイがロキを見やる。
ロキはなんとか矛を納めた。
色々と問題がある人物である。
そんなこんなでシャルは雷真と同じ正面に収まる。
「じゃあ零夜お前はどうする?」
雷真が聞いてくる、僕はしばし考えた後に答える。
「裏に回ろうかな――」
シャルが少し落ち込んだようにしょぼんとする。
「と思ったんだけど、ロキとフレイの姉弟の連携に入っても足を引っ張ることになりそうだし(ロキもフレイと一緒になりたそうだし)、十六夜も夜々さんにすぐにでも会えるように潜入したそうだから正面からにするよ。よろしくね、雷真、いろりさん、シャル、シグムント」
「よし、頼んだぜ」
「足は引っ張らないでよね」
雷真は笑顔で、シャルはそっぽを向いてはいるが、頬を少し赤くして嬉しそうである。
いろりとシグムントも頷いている。
「行くぞ、十字軍の根城に突貫だ!」
雷真の声と共に、散会した。
先頭を雷真、続いてシャル、シグムント、いろり、僕、十六夜と続く。
廃墟の中は不気味に闇が占め先が見えず、少しカビ臭い。
ついでに言うともちろん落書きなどはない。当然か。
ランプの光だけでは心許ないので呪文『レミーラ』を唱える。
魔力で作られた光弾が浮かび小さな太陽のように闇を払い、辺りを照らし出す。
「!」
「まったく便利なものだな」
「ほんとね」
「ああ」
所見で驚くいろりと、慣れた感じで感想を言うシグムントと頷くシャルと雷真。
僕と十六夜は苦笑いをするしかない。
「明るくなったのはいいけど、湿気が嫌ね」
湿気に濡れた髪を気にしながら、ぼやくシャルに雷真が注意する。
「髪もいいが、足下には気を付けろよ。罠があるかも知れないからな」
(フラグを建てたか)
と僕が思っていると、不愉快そうにシャルが反応する。
「あきれたわ。今の台詞は罠にかかる伏線じゃ―――」
シャルの言葉が言い終わる前に、シャルが沈みこみ、僕と十六夜が立っている場の床が消えた。
「やっぱりねーーー!!」
目の前のシャルはいろりと雷真によって助けられていたが、僕は不意を突かれて奈落の底に落ちていく。
以前にも同様の経験がと思っていると、
「掴まってください零夜!」
と言う声と同時に差し出される手を掴みなんとか難を逃れる。
「ありがとう十六夜助かったよ」
「前回のようなことは嫌だったので」
十六夜もほっとしたような表情を浮かべている。
前回の落下事件は僕だけでなく、十六夜の心にも深く刻みこまれていたようだ。
「皆さんも落ちて来そうなので、穴の底まで下ろしますね」
と言うと、腕に捕まったままゆっくりと降下していく。
ついてきた『レミーラ』の光弾が照らし出した底には一面のプールのような光景が広がっており、金槌の僕はひたすら胸を撫で下ろし、十六夜に感謝しきりであった。
助けてもらえなければ今頃僕はあの水面にうつ伏せで浮かんでいただろう。くわばらくわばら。
浮島に下ろしてもらってすぐあとに、まるで僕を追ってくるかのように、シャルや雷真達も上から水と瓦礫と共に落下してきて、プールに着水した。