本当は正月ということで番外編とか書きたかったんですが、物語をぶったぎるのはさすがにまずいので断念しました。
二人の騎士を分担することはできた。
後は一体ずつ叩くだけだ。
左半分と右半分では苛烈であるのは同じであるが、内容は全く違う戦いが行われている。
左半分では十六夜が騎士を相手している。
見た目には騎士が一方的に攻勢にいっており、押しているように見えるが、実際は違う。
十六夜は必要最小限の動きでヒラリヒラリと騎士の槍での攻撃をかわしている。
まるで羽のように、もしくは暴れる牛を華麗にいなす闘牛師のように。
まさに『静』、しかしここから一転して『動』の姿勢に変わる。
突き出される槍の穂先を避けることなく左手で掴む。
掴まれている槍の穂先がミシミシと悲鳴をあげる。
騎士は引けども押せども微動だにしない。
「もうそろそろいいでしょうか。零夜の作戦とは少し違いますが、私はお姉さまに早く会いたいので終わらせてもらいますね」
美しい見惚れるような可憐な笑顔で十六夜は宣言するように告げると、ついに槍の穂先は限界に達し砕ける。
砕けた破片が舞い散る幻想のような中で、十六夜の姿が消えた。
いや僕と相対している騎士には消えたように見えたのだ。
次に十六夜の姿が目視可能になったのは、十六夜の後ろ姿であり、騎士の首と胴体が分断され、首が宙を舞い、切断面から噴水のように鮮血を巻き上げた時だった。
十六夜の右手に持つ『刻死大鎌』からは赤き鮮血が滴っている。
鎌から滴る鮮血の一滴が水面に赤い波紋をたてると同時に、鎌が縦横無尽に死に誘う舞いを舞うかのように騎士を切り刻む。
騎士は散る桜の花びらのように血液を舞い散らしながら水中に没し、水面を朱に染めた。
(僕が隙を作るはずだったのに…まあいいか。シャルの方は――)
僕はシャルともう一体の騎士の戦いに目を移す。
重力を全く感じさせない動きで宙を舞いながら、攻撃を仕掛けてくる騎士に、シャルとシグムントは翻弄されていた。
シグムントは馬程の大きさに抑えられており機動性を重視している形態なのだが、騎士は素早いだけでなく、トリッキーな動きであるので、捕らえきれていないのだ。
騎士とシグムントが空中ですれ違う度に、シグムントの鋼鉄でてきたかのように硬質で黒い鱗に覆われた体に傷をつけられる。
「大丈夫シグムント?」
「ああ大したことはない」
シグムントが言うように一撃一撃はたいしたことはないがこのままではじり貧なのは明白である。
ついに十六夜と騎士との戦いでは全くすることがなく、手持ち無沙汰であった僕が役にたつときがきた。
「シャル、シグムント、今から隙を作るから間髪いれずに頼むよ」
「分かっているわよ、早くしなさい」
「心得た」
二人の答えを聞き、僕は腕をあげる。
「ライデイン!」
呪文が地下空間に響き渡る。
僕が掲げた手のひらに黄色い雷がバチバチと音をたてて迸り、収束し、一直線に騎士に襲い掛かる。
雷が宙を舞う騎士に直撃するかと思った時だった。
騎士は空中を逃げることもせず、制止すると、槍の鋒を一直線に遅い来る『ライデイン』に向ける。
槍の鋒に『ライデイン』が触れると同時に、『ライデイン』が逆流するかのように返される。
(予想通りだ)
僕は徐々に呪文に込める魔力量を増やす。
返される『ライデイン』を更に押し返す。
「いまだシャル!!」
ほぼ全力で魔力を込め、騎士と打ち合いで膠着状況になっている中で僕はシャルに告げる。
「準備万端よ。シグムントラスターカノン!!」
すでにシグムントの口内には溢れんばかりの暴力的な光が収束しており、間髪入れず騎士に放たれた。
騎士は僕と『ライデイン』の鍔迫り合い状態で〈ラスターカノン〉には反応できず、万物をも融解する暴力的な光に飲み込まれ、塵も残さず消し飛んでいった。
敵の騎士は槍の鋒で呪文であろうが魔術であろうが、物理攻撃であろうが反射する。
しかし、それは攻撃に対して槍の鋒を向ける必要がある。
二体の騎士であれば槍を交差する必要があるのだが。
そしてそんな訳で一つの攻撃に対して一回の行動を必要とし、同時に二つの攻撃がなされるとどちらかを受けなくてはならない。
という訳で、僕は先に『ライデイン』の撃ち合いという形で騎士の動きを固定し、〈ラスターカノン〉を撃ち込む隙を作ったのだ。
本当だったら十六夜の騎士も全体攻撃の『ライデイン』で同時に動きを止めるはずではあったのだが、十六夜は必要としなかったようだ。
「終わりました」
「やったわよ」
「二人とも御苦労様」
十六夜が舞空術を解き、シャルはシグムントの背中から降りると二人とも笑顔で戻ってきたので、僕は労いの言葉をかける。
そして、視線を二人から反らし、その後方に向けると、二人の少女、ヴァイツゼッカー姉妹が騎士を失い力なく地面に膝をついていた。
こういう時に勝者が敗者にかける言葉はないと言うが、それでも僕は放って置くわけにはいかなかった。
僕が一歩一歩姉妹に歩み寄ると、二人はビクッとしてお互いに抱き合い震え始める。
小動物のようで可愛らしくもあり、少し不憫にも感じる。
「ごめんね。君たちの騎士を倒してしまって…」
僕はその言葉しか出てこなかった。
戦いの場であれば当然のことではあるが、騎士を失い怯えているどう見ても年上には見えない二人には謝罪しないといけない感じがしたのだ。
怯えて抱き合っていた姉妹が不思議な顔をしてこちらを潤んだ瞳で上目遣いで見上げてくる。
あまりにも可愛く抱き締めてあげたくなるが、後ろからの視線が氷点下に達してきたので、なんとか理性を立て直し、自重する。
「戦いだもん。しょうがないよ」
「そうそう、しょうがないよ。でも次は負けないからね」
「負けないからね」
姉妹が交互にそう言うと、姉妹はゆっくりと立ち上がり、落ちている自分のパートナーの〈イブの心臓〉を広いあげ、抱き締める。
「このままここにいるのは危険だから外に出ようか」
僕は二人に手を差しのべる。
「うん」
「ありがと」
二人は小さな微笑みを浮かべ僕の差しのべる手を掴む。
その手はあまりにも小さく、そして温かかった。
しかし、背後からの刺さるような二つの視線はさらに温度を低下させていた。
「じゃ、じゃあ。二人を地上に送り届けてくるから十六夜とシャルは雷真を助けに行って、たぶんシンと戦っていると思うから。僕は二人を送り届けたら、十六夜を目印に『ルーラ』で向かうから」
「はい。分かりました。ではシャルさん、シグムントさん行きましょう」
十六夜は小さく頷くとシャルとシグムントに声をかける。
しかし、シャルは納得いかないといった感じで、僕にジトッとした視線を向けると、
「ごめんね十六夜。先に行ってて。私は零夜についていくわ。ヴァイツゼッカー姉妹に悪さしないか心配なのよ。幸い届けたらすぐに戻るっていうから時間はほとんどかからないはずよ」
シャルには全く信用されていないようだった。
「よろしくお願いします」
そしてそれに深々と頭を下げる十六夜、さらにショックである。
「分かりました。じゃあ行くよリレミト」
呪文を唱えると、目の前の光景がどんよりした空気の漂う薄暗い地下空間から、澄んだ空気の月明かりに照らされた木々が立ち並ぶ外の景色に変わっていた。
ただ一つ違和感を感じるのは辺りに月明かりの元でもしっかりと目視できる、血液が辺りに飛び散っていることぐらいであった。