自動人形〈オートマトン〉と生きる第二の人生   作:寅好き

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バッドエンドよりハッピーエンド

 「さてと地上に着いたわね、じゃあ…」

シャルは回りを見回して、地上に着いことを確認した後、ヴァイツゼッカー姉妹に歩みよる。

 月光によって煌めく金髪を靡かせながら、シャルは映える笑顔で姉妹に近づいていく。

 ただその姿は美しいながらも、何か怖さを感じさせる何かがある。

「ひっ!」

シャルが姉妹の前に立ち、見下ろすと、姉妹は軽く悲鳴をあげる。

「さあ、手袋〈ガントレット〉を渡しなさい」

シャルは手を出し、姉妹に〈夜会〉の参加資格となる手袋を渡すように迫る。

 僕はそれを黙って見守るしかない。

「やだやだ、ローゼンベルグにしかられちゃうもん」

だだをこね始める姉妹。

 まるでおもちゃ屋の前で、駄々をこねる子供のようである。

 とても年上には見えない。

 その光景を変わらぬ笑顔で見ているシャルの額に青筋が浮き出ている、笑顔であるのが逆に恐ろしい、そしてかなり御立腹のようだ。

「いいからさっさと寄越しなさい!負け犬!」

辺りに響き渡る怒声。

 僕が怒鳴られた訳でもないのに、震えが走る。

 絶対にシャルは怒らせてはならない、と再び肝に命じられた時である。

『ウワ~ン』

怒鳴られ、遂に泣き出してしまう姉妹。

 事情を知らなければ、確実におっかないお姉さんが、小さな子供をいじめているように思える。

 いや事情を知っている僕でも、なんかシャルが姉妹をいじめているように感じるのが不思議である。

 姉妹を見ると潤んだ瞳で助けを求めるように上目遣いで僕を見上げている。

「あの、シャル――」

「黙ってなさい!」

「すいませんでした」

ついつい止めに入ってしまった僕は、一喝され、金縛りにあったように動けなくなる。

 シャル怖すぎる!ゴメンね僕は何もできないよ。

 ブルブル震えてシャルと姉妹の成り行きを見守っていると、しびれを切らしたシャルが実力行使にでる。

 小さな姉妹を押さえつけ手袋を取り上げたのだ。

『ウワ~ン』

さらに大きな声で泣き出す姉妹。

 シャルは疲れた表情で僕に歩み寄ってくる。

 シャルの帽子にずっと停まっていたシグムントも疲れたような表情である。

「じゃあ戻りましょ」

「ゴメン。僕は気になることがあるから、シャルだけ十六夜の元に送るね」

「気になるのは、地面に残るこの血痕のことかね」

僕の答えに呼応するように、シグムントが聞いてくる。

 どうやらシグムントも気づいていたようだ。

「そうなんだ。ロキがいるから大丈夫だとは思うんだけど、相手が相手だけにね…ロキ達が怪我をしていたら大変だから…」

血液量から見ても、どちらかは分からないが、かなりの怪我をしていることが伺える。

「シャルよ。私たちも着いていこう。零夜には十六夜がいない。今襲われたら多分、いや申し訳ないが絶対に命に関わる」

「そうね。死ぬわね」

二人揃って「死ぬ」と断言する。

 そりゃあ襲われたら死ぬ自信はあるけど、そこまで断言されるとさすがにへこむ。

「それに雷真の方には十六夜が向かっている。彼女の強さは本物だ。大丈夫だろう」

うんうん、そうだよ。僕は十六夜がいないと何もできないよ!

と心の中で少しいじける。

「さあモタモタしてないで行くわよ」

「待ってよ」

走り出すシャルを追って、一足遅れで僕も追走する。

 月光に照らされ美しく輝く金髪を目印に、シャルを追う。

 木立の立ち並ぶ森の中をしばらく走ると、円形状の闘技場のような物が見えてくる。

「零夜あれを見て」

シャルが指し示す指の先を見ると、血まみれの金髪の青年、確かローゼンベルグとその小柄な騎士、そして赤髪の青年シュナイダーとその騎士を、見下ろすロキの姿が。

 ただそのロキも額が、腕が、胸が切れて血が滴っている。

 その後ろには弟を心配するように見守るフレイと六体のガルム。

 フレイも所々傷ついている所もあるが大丈夫のようだ。

 ただその光景だけでも、ロキが勝利を収めているのは明白である。

 多分二人を相手にしたのだろう、流石元〈十三人(ラウンズ)〉だと思っていると、大剣と化したケルビムを手にローゼンベルグに近寄る。

 切り殺すんじゃないかと遠目から見ると思える光景。

 背筋が寒くなる程の眼光でローゼンベルグを見つめ、何かを言っている。

 明らかに怯えた表情でローゼンベルグとシュナイダーは手袋を外すと、忌々しげに手袋を地面に叩きつけた。

 ロキは手袋を引き寄せ掴むと、二人に背を向けた。

 しかし、その時だった、ローゼンベルグの体から魔力が迸る。

 僕は直感でまずいと思い、瞬時に「ルーラ」を唱える。

 ローゼンベルグの小柄な騎士がナイフを抜きロキに襲いかかった。

 ロキと小柄な騎士の間に『ルーラ』で割り込んだ僕は、流れで唱えた『メラミ』を左手から放ち、小柄な騎士を弾き飛ばし、右手で抜いた黒刀『烏あげは』で迫り来る大剣のケルビムを受け止める。

 突然現れた僕にロキとフレイは驚いているようだ。

 まあ当然だが。

 そんな喧騒の中、「撤退だ」

と言うローゼンベルグとシュナイダーは小柄な騎士をその場に捨て、走り去った。

「もう貴方本当にバカなの。死ぬ気?」

シグムントに乗ったシャルがやって来る。

 その顔は呆れたと端的に物語っている。

 その時、先程僕の『メラミ』で吹き飛んだ小柄な騎士がヨロヨロと立ち上がる。

 よろめいた時に兜が落ちる。

 ロキ以外、その騎士の姿に驚き絶句する。

 長い髪が風に靡き、百合のように白い肌を持つ、森の妖精を思わせる程の美貌だった。

「私を殺してロキ」

そして呟いた言葉にさらに驚かされる。

 僕はその言葉を聞いて、心の底から怒りが込み上げてくるのが分かった。

 僕は生前そりゃあボッチだったし、良いことすらなかった。

 しかし、死のうと思ったことはさらさらないし、事故で死んだけれど決して死にたくはなかった、生きたかったんだ。

 その命を自ら捨てようというのだ。

 どんな理由があろうと、自ら命を捨てるということは到底看過することはできない。

 僕はなんとか怒りを抑え聞いてみる。

「どうして死にたいと思うの…」

僕は少し声が震えていた。

 その少女は呟くように、儚げな声で答える。

「戦争で……人が死ぬ。…私が……殺すのが嫌だから…」

ポロポロと涙がこぼれ落ち、痛みに耐えるように、小刻みに肩を震わせ、自分自身を抱き締める。

 そういうことか、この時代、雷真のような考えは珍しく、自動人形は戦争の道具として使われてきた。

 そして、その現実に漏れず、この少女もローゼンベルグに戦争の道具として使われてきて、それにこの少女は耐えきれなくなったということだろう。

「……」

ロキが苦々しい表情を浮かべながら、ケルビムを持ち、少女に歩みよろうとする。

 少女は嬉しそうに、ロキを見つめている。

 どうやら二人は惹かれあっているのかもしれない。

「もう死ぬ必要はないんじゃないかな」

僕は力強くいい放つ。

「どういうこと?」

「君を道具として使っていたローゼンベルグは、君を捨てたんだよ。つまり言い方は悪いが、所有権を放棄したんだ。ならば新たな所有者を探せばいい。君を道具としてではなく、人間として扱ってくれる人を」

「私を人間として…」

「うん」

涙を流しながら少女は膝から崩れ落ちる。

 フレイに押されたロキが歩みよる。

「お前は人間だ」

遠回し過ぎる!なんで俺の者になれとか言えないんだ!と心の中で突っ込んでいるが、ツンデレロキの言葉の真意に気づいたのか、少女は晴れやかな笑顔を浮かべてロキに抱きつき、しばらく泣き続けた。

「良かったわねフレイ」

「うん、良かった」

シャルとフレイも喜んでいる。

 僕はシャルにそろそろ行こうかと言った後に、あることに気づき、足を止め、ロキに話しかけた。

「あ、最後にもう一つ。病室でイチャイチャし過ぎて、情事だけは起こさないでね。雷真と二人揃ってそんなことされたら堪んないから」

ロキからブチッと何かが切れた音がしたような気が。

そして、泣き止んでいる少女が、百合のように白い頬を林檎のように真っ赤に染めて、手で顔を覆ってイヤイヤと頭を振っている。

ウンウンと僕は頷いていると、大剣のケルビムを大きく振りかぶったロキが、殺意がこもった目で僕を睨み付け、プルプルと震えながら、

「オレは謙虚で寛大だが、どうにも許せないものが三つある。オレに命令する奴。オレに歯向かう奴。そしてオレをあの女好きの東洋バカと同様に扱うアホだ!」

大きく振りかぶったケルビムを容赦なく降り下ろす。

「シャル行くよ。十六夜の元にルーラ」

僕はなんとか緊急離脱した。




黄泉に続きソフィアも生還。
雷真とロキのBLより、ソフィアとツンデレロキを添い遂げさせたいという願望によりです。
主人公目線なので、今まで出てこなかったソフィアが唐突に出てきて何?と原作をしらない方は思うと思います。申し訳ありません。
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