はあ、休みは短かった、もう少し欲しいなと思いながら更新です。
薄暗くカビ臭く迷路のようにいりくんだ道を舞空術で進む。
(地図を見せて貰わなかったのは失敗でした)
私は今更になって、後悔する。
今私は雷真さんの魔力を追って進んでいるが、何度か行き止まりに足止めされることがあり、雷真さんとの距離はなかなか縮まらない。
(お姉さま、お姉さま)
頭の中にはにこやかに微笑むお姉さまの顔が。
(早く会いたい。邪魔するものがあれば破壊すればいい)
最短距離は目的のものに対して一直線に進めばいい。
私は足を止め、雷真さんから少し外した辺りを照準にする。
「ヘルズフラッシュ」
放った自分でも目の眩む程の光と共に放たれた気功波は、障害物は全て消し去った。
「お姉さま!」
私が一蹴りで穿たれた穴を進み、大広間にたどりつく。
「あれ?」
何かが爆発したような後がある大広間に入った私に、奇異の視線が四つほど注がれる。
「面白い入り方をするね」
銀色の美しい髪を靡かせた、妖精のような美貌を持つアリスさんが、愉快だと言わんばかりの声色で私に話しかけてくる。
「恐縮です。お姉さま、雷真さん大丈夫ですか?」
アリスさん達のお家を破壊してしまい、なんと答えればいいのか分からなかったので、無難にそのように答え、お姉さまと雷真さんに視線を移す。
「ああ、なんとかな」
「十六夜、夜々も大丈夫です」
雷真さんはぎこちない笑顔で、お姉さまは吹っ切れたような清々しい笑顔で力強くそう答えてくる。
お姉さまの悩みも解消されたようで嬉しい。
ただ少し心配なのは、雷真さんに関してで、顔色が少々青ざめ、腰を抜かしたような感じで床に腰を下ろしている。
多分アリスさんと大変な戦いをしていたのだろう、ご苦労様です。
「おやおや十六夜さんもいらっしゃいましたか。おもてなしをさせて頂きたいのですが、今は雷真赤羽と夜々さんをお相手しており手が放せないのですが、どういたしましょう?なんなら貴女も加わりますか?」
丁寧な口調で笑顔を絶やさず、落ち着いた佇まいでシンが話しかけてくる。
以前少し遊んであげたのを忘れてしまったみたいだ。
再び恐怖と一緒に思い出させてあげようかしら、と少し黒い感情が心の底から沸き上がるのを、抑え込みながら、私も同じように笑顔で答える。
「いえお構い無く。私は加わるつもりはありません。貴方はお姉さまと雷真さんの素晴らしい愛の前には到底敵わなのですから」
「その通りです十六夜!」
お姉さまが私の言葉に喜んでくれる、それだけで私の心も温かくなる。
「ほう、面白いことを仰いますね。いいでしょう。貴女にはそこで最愛のお姉さまが敗れ、雷真赤羽がお嬢様の物になるのをしっかりと見届けてもらいましょう」
お姉さまのおかげで温まっていた心が、このおバカさんのために怒りで冷えてしまう。
舌戦では勝てないな、少し腹立たしいから一発気づかれないように殴ってやろうかなどと考えていると、シンがキザったらしい笑みを浮かべて舞い上がった。
「行くぞ夜々!」
「はい!」
お姉さまとシンがぶつかりあう。
◇◆◇◆◇◆
「危なかった。ロキに殺されるところだったよ」
「あんなこと言えば当然じゃない」
「でも考えてみてよ。同じ病室、カーテンで仕切られているとはいえ、隣とその隣から、【禁則事項】している音や、その他五感を刺激する感じがしたら嫌でしょ」
「確かにそうかも…」
よし初めてシャルを言い負かせたと思っていると、目の前で夜々とシンが壮絶な戦いを繰り広げていた。
「十六夜、戦いはどう?」
「戦いはシンの方がやはり押しています。それに雷真さんはまだアリスさんやシンの魔術回路を把握していないので少し厳しいですね…」
少し浮かない顔で話す十六夜。
十六夜にも参戦してもらわないといけないかな、と思っていると、「しかし」と逆接の接続詞を繋げ、力強く断言する。
「お姉さまと雷真さんは諦めません。雷真さんなら起死回生の一手を導き出します。以前そう言ったのは零夜ですよ」
「そうだった。僕がいったんだよね」
「はい」
二人でまったりとにこやかに話をしていると、
「はいはい。雷真が何かするようよ」
不機嫌そうな声でシャルが入ってくる。
やはりシャルもまだシンを許せないのだろう。分かる、分かるよ。
「夜々俺に身を任せてくれ」
「はい雷真ベッドの中でも」
「いや今だけでいい」
軽快なやり取り、やはりロキに釘を刺しておいて良かったと我ながら思う。
僕と同じように雷真と夜々のやり取りを見ていたアリスが、クスリと笑いながら語りかける。
「何か気づいたようだね。だけどさっきのはいただけないよ。髪は女の命なのに、煙くさくなっちゃったよ。後で洗ってよライシン」
どうやら爆発の跡のことと関係がありそうだ。
「アホか。自分で洗え」
「一緒にお風呂に入るのはいいの?」
な、なんだと…雷真め、敵の女さえも落としたか。
一緒にお風呂だと…羨まし過ぎる。
爆発しろ。
僕が涙を流しながら睨みつけていると、雷真の隣の夜々から、殺気のような、覇気のようなものが吹き荒れている。
隙を見逃さないアリスは、魔力をシンに送り、シンの姿が消えた。
そして、気づいた時には既に、シンは雷真の右手に現れた。
雷真はその姿に動じることはない。
またもや医療室送りかや、『ベホイミ』かけるだけの魔力の余裕あるかな、と考えていると、
「天剣九六衝!」
雷真の声と魔力が上がる。
魔力は夜々に流れ込み、夜々は渾身の力で、側面に迫るシンにではなく、真正面に向けて拳を繰り出した。
踏み出した足は床に亀裂を走らせた、拳が繰り出された前方一直線上の床が砕け、欠片が吹き飛ぶ。
大気を、大地を揺るがす強大な衝撃波が放たれる。
「流石です。お姉さま、雷真さん」
十六夜がポツリと呟くと同時に、何かが床に倒れる音が。
雷真の右手のシンの姿が消え、雷真の前に突如倒れ伏したシンが現れたのだ。
残像拳か?と疑問に思った僕は、先程夜々と雷真を称賛していた十六夜に尋ねる。
「シンはベクトル操作の魔術、そしてアリスさんが幻影の魔術を使うということです。そして、二つの魔術は、どちらかが発動している時には、片方を使えないという魔活性不協和の原理があります。なので、シンが幻影で姿を消しているときは、ベクトル操作が使えず、動くスピードも、防御も弱くなるということです」
「じゃあその幻影と本物の見分けかたは?」
「動作するときの周りへの影響でしょう」
シャルは十六夜の答えに頷き、言葉を繋げる。
「そういうことか。あれだけ早く動けば周りにも風が起きたりするからね」
十六夜に続いてシャルが丁寧に答えてくれた為に、どういうことが理解できた。
戦闘中にその事に気づき、それだけで終わることなく、しっかりと対処した雷真の機知に僕は驚きが隠せないと共に、戦いたくはないと素直に思わされた。