学校が始まり忙しくて、本当に亀更新になってしまいました。
雷真の前には地に伏したシンが。
ただ爆撃のような攻撃を強化なしでまともに受けたはずであるが、まだ「ただの屍」にはなってはいない。
しぶとく地を這うようにもがき、腕からは皮膚が剥がれ落ち、鮮血を撒き散らしながらもなんとか立ち上がる、全ては『お嬢様』の為に。
僕は、今初めて少しシンを見直した。
満身創痍の状態ながらも『お嬢様』である自分の主のアリスを護るために、必死で立ち上がったのだ。
確かに、他の自動人形もシンと同様の行動を見せるだろうが、そう分かっていても、その姿にはグッとくるものがある。
立ち上がったシンにアリスから発せられた魔力が流れ込む。
これ以上どのように戦うつもりだ?と見ていると、宙に舞い上がったシンが、何もないはずの空間を蹴り、勢いをつけ夜々に襲いかかった。
シンは重力をも味方につけ、そのスピードはかなりのものである。
ただし、通常の軽やかな足技ではなく、泥臭く頭をつき出して、頭突きをするつもりである。
前世の愛読書『ドラゴンボール』でのチャオズの戦いを彷彿とさせる。
まあチャオズの頭はダイヤモンド以上の硬度ではあったが。
夜々はそんなシンの攻撃も軽やかに避け、流れるような動きでシンの背に踵を降り下ろす。
シンはそのまま地面に叩きつけられる。
シンが叩きつけられた地面は、蜘蛛の巣状に亀裂が入り陥没する。
僕も、そして戦っている夜々も、いやその場にいる者は全ては『決まった』と思ったはずだ。
それ思わずにはいられないほどに、夜々の攻撃は強烈で、シンの体も傷ついていたからだ。
しかし、シンはまたも宙に舞い上がる。
もう冷静ではいられないのだろう。
先程と同様に、狂った獣のように襲いかかる。
以前のようなトリッキーな動きではない。
それ故もう夜々の相手にはならない。
再度の頭突きもいとも簡単に受け流し、カウンターを返される。
さすがに気の毒に感じたのか雷真がアリスに話し掛ける。
「もうやめろ、俺たちは二人で一つだ。一人になったお前は勝てる道理はない」
雷真の宣言に、アリスは少し口許を歪め、
「だったら証明してごらんよ!」
絞りだすように呟くと、溢れんばかりの魔力を、シンに叩きつけるように注ぎ込む。
膨大な魔力に地下空間も震え、軋み始める。
雷真が言った通り、アリスは一人で戦っているのだ、すでに意識が混沌としているシンに暴力的にまで魔力を流し込み、戦わせているのだから…
魔力を叩きこまれたシンは、ユラリと意識が混濁したような目で立ち上がり、ゆっくりと浮き上がり、間をおかず動いた。
シンの移動の余波で衝撃波が巻き起こり、床が抉れ、瓦礫が舞い上がる。
速いが今回も直線的な動き。
だが、もうアリスは小手先の戦いではなく、圧倒的な力で全てを叩き潰しにきたのだ。
「森閑絶衝」
雷真が呟くように夜々に支持を出すと、夜々は半身になり、シンの攻撃をかわす、交差する僅な時間に、夜々はシンの腕を取り、日本独自の柔術『小手返し』を決める。
『柔よく剛を制す』力のみのシンの突進は繊細な柔術にからめとられ、シンは床に背中から叩きつけられた。
「終わりですね」
僕の隣の十六夜が小さく呟く。
「〈神機御雷〉」
床に叩きつけられたシンに止めとばかりに、夜々は拳をねじ込む。
アリスもシンの魔術回路ベクトル操作を発動するが、すでに勝負は決まっていた。
シンが床にめり込み、それまでの戦闘で脆くなっていた床が崩れ落ちた。
底知れず、広がる奈落の底。
ただただ恐ろしく、おぞましい恐怖を感じる漆黒の闇が支配する空洞。
浮遊感を感じた次の瞬間には、悪寒が全身を走った。
(このまま落ちたら取り返しのつかないことになる)
無意識にその考えが頭を走り、警報が頭の中で鳴り響く、奈落の底から亡者の腕が伸び、引きずり込まれる!という錯覚に襲われたその時、僕は再度十六夜に助けられた。
十六夜の安心した顔にホッとしたのも束の間、奈落の底の闇の中に、おびただしい数の禍々しく光る瞳が跋扈していた。
以前落ちた地下空洞だと察しはつくが、そんなことを冷静に考えてはいられなくなるほどの恐ろしさを身を持って体験することになった。
決して触れてはいけないパンドラの箱といった感じである。
そのまま十六夜に連れられ、崩落を免れたところまで運んでもらう。
その隣には、シグムントの背に乗り、難を逃れたシャルの姿もある。
「ありがとう十六夜。本当に助かったよ」
「どういたしまして。お姉さまと雷真さんの元にいきましょう」
十六夜の提案に頷き、視線をシャルにも向けると、シャルも同意するといった表情で頷く。
僕は視線をさ迷わせると、床が崩れ奈落の底に落ちかかったアリスを、雷真が必死に手を伸ばし掴んでいる光景が目にはいる。
このままじゃ二人とも落ちて、助からないと判断した僕は、
「いけない。行こう十六夜、シャル」
「はい」
「急ぐわよ」
僕と十六夜、そしてシャルは雷真とアリスを助ける為急いだ。
しかし、あと僅かという所で、無情にも、アリスが何か雷真に笑顔で答えると、するすると雷真の腕からすり抜けるようにアリスは落ち、闇に消えていった。
雷真はただただそれを見送ることしかできなかった。
僕たちが雷真と夜々の元にたどり着くと、無力感に苛まれた表情を浮かべながらも
「シンの心臓は潰れていない。だからあの二人は大丈夫だ」
と自分に言い聞かせるように呟く。
残酷な現実は感傷の時間など与えてはくれない。
すでに崩落は目の前にまで迫っていた。
天井からは瓦礫が降り注ぎ、目下には崩落が…
「もう時間がない。僕の近くに集まって。行くよ『リレミト』」
僕たちのいた床が奈落の底に飲み込まれた時には、僕たちは地上に脱出していた。
「悪い助かった」
「いいよ気にしないで、仲間なんだから」
雷真にお礼を言われて、なんとなく恥ずかしく思いながらも、感謝されるのはいいなと染々思っていると、隣では、十六夜が涙を流しながら、夜々に抱きついて泣いていた。
「お姉さまはバカです。皆がどれ程心配したと思っているんですか……」
「夜々がバカでした。ごめんなさい」
普段の冷静さなど消え、感情が爆発したように泣きながらまくし立てる十六夜に、夜々も涙を流し言葉を詰まらせながら謝罪していた。
その姿は姉妹そのものに見える。
そして、自動人形になど見えようもなかった。どう見ても人間にしか見えない。
しばらく経ち、やって来たロキとソフィア、フレイと合流して、夜々とフレイがお礼に『デート』がどうのこうのと一波乱あったが無事に、解決に至った。
アリスを助けられなかったことには悔いが残るが、第一目標の夜々の奪還は果たせたので、達成感はあった。
だが、雷真が本当の達成感を得たのは、それから数時間後の夜のことであった。
病室で静かに寝ていると、横から話声が、なんなんだと重たい瞼を擦り擦り開けて見ると、月明かりのさす、幻想的な光景の中で、妖艶な美女花柳斎硝子に唇を奪われている雷真の姿が。
目を開けたらいきなり見せつけられる光景に、えっと…これなんてエロゲ?なんて思っていると、花柳斎硝子はくちなしの香りを残し、去っていった。
僕が見ていたことにも気づかず、雷真が少しの間呆然とした後に、唇に手を当て、口紅がついているのを見た瞬間、顔を真っ赤にしながら悶え始めた。
見ている方も恥ずかしくなるほどに。
普段、夜々やフレイの誘いを華麗にスルーしていることを考えると、些か過剰な反応にも思えたが、まあ本命の人からの口づけならこうもなるのかなと静かに考えていると、まるで『マヒャド』(最上級の氷結呪文)を唱えたのではないかと、錯覚するほど部屋の空気が凍りついた。
悪寒が走るほどの冷気が発せられている元を見ると、陶器のコップを粉微塵にし、瞳のハイライトが消え棒立ちになっている夜々と、不満げな眼差しを雷真に向けるフレイの姿が。
以降雷真が死ぬより恐ろしい目にあうのは言わずもがなである。
第四巻が駆け足ながらも無事に終わりましたので、次回はオリジナルの話になります。
一応予定ではいろりによる魔術指導を予定しております。