自動人形〈オートマトン〉と生きる第二の人生   作:寅好き

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教えていろり先生【前編】

 「ふう、こんなもんかな」

僕は今病室で荷造りをしている。

 昨夜帰ってきた時には、勝手にギブスを外したことについてどやされたが、もう直っていることを確認した後

「どうなってるんだコイツらは…」

と愚痴を溢しながらも、念のため二、三日の様子みをすることを条件に退院することを認められたのだ。

「退院おめでとうございます」

隣の隣にいるロキの付き添いのソフィアが、咲き誇る花のような朗らかな笑顔でそう言ってくれる。

あの時の戦っていた時の悲壮感漂う面影はもう微塵もない。

 助けれて本当に良かったとしみじみ思っていると、それをぶち壊す横槍が…

「東洋人のバカ、一号、二号はともにゴキブリ並の耐久力の持ち主だからな」

ムカッとくる物言い。

ツンデレ、シスコン野郎めと思いながらも、ここは大人の対応をしなくてはと心を鎮めて笑顔でフレンドリーに提案する。

「フフフ、羨ましいのかな。なら回復させてあげようか?」

「貴様の施しなどいらん!」

「そう?もしも回復してあげたら…夜も元気になってソフィアも喜ぶと思うんだけどな~。ガンガンいこうぜ!ってね」

 

「///」

「!!」

顔を真っ赤に染めて俯くソフィアと、こちらも顔を真っ赤に染めて殺気を纏った魔力を撒き散らすロキ。

 そして、巨大な大剣と化したケルビムが目の前に突き刺さる。

 テンプレ化した行動に、鈍い僕でも対応は容易にできる。

 避けて、先に寮で準備している十六夜に向けて『ルーラ』を唱える。

「ソフィアには悪いけど、気まずくなるがいい。バイバーイ」

僕の姿が消える前に

「復帰後の夜会では貴様を真っ先に葬ってやる」

と宣言されるという恐ろしい顛末を迎えた。

 ヤバい軽い冗談のはずが…冗談の通じない男にしてしまった…

軽く落ち込んでも後の祭りであった。

「お帰りなさい。掃除はもう終わっていますよ」

「ただいま。ありがとう十六夜」

ついに帰ってきた我が居城。

 狭く、古いが一番安心できるプライベートスペース。

 そして、優しく迎えてくれる十六夜。

 やっと帰ってきたと嬉しさが込み上げてくる。

 それからしばらく、二人で入院先から持ち帰ってきた荷物を整頓して午前中を終えた。

「あの零夜、申し訳ないのですが、今日少しお暇をいただきたいのですが…」

十六夜が畏まって、なんとなく遠慮がちに話かけてくる。

「いいよ。まだ2、3日は夜会も出なくていいみたいだし、十六夜も羽を伸ばしたいもんね」

「いいえ、そんな…ただ今日はお姉さまと少し…」

「気にしなくていいから、行ってらっしゃい。一応鍵持っていってね」

「はい。行ってきます」

十六夜は満面の笑顔でまるでスキップをするかのごとく、外出していった。

 嬉しそうな十六夜を久しぶりに見れたなと感慨深く思いながら、まあ惰眠でも貪ろうかなと横になった時だった。

 コンコンと遠慮がちに扉がノックされる。

 誰かな?と頭に思い浮かべるが、この時間にくる人物は想像できない。

 そろりと『忍び足』で音を殺して扉に近づき、覗き穴を除く。

 覗き穴から見えた人物は予想を裏切る人物であった。

 銀色の流れるような美しい長髪、雪のように白い肌、日本独自の青い着物を着る、『雪月花』の長女いろりが、キョロキョロと少し挙動不審に立っていた。

「こんにちはいろりさん」

僕はすぐに扉を開け、挨拶する。

「よかったいらっしゃいました。こんにちは零夜殿」

ホッとしたような安堵の表情で挨拶を返してくれるいろり。

「よく僕の部屋が分かりましたね」

「雷真殿に聞いたので。急の訪問で申し訳ないのですが、今日はお時間ありますか?」

「まさかデートのお誘い!!」

青少年の淡い期待を込めて、問いかける。

「でででで、デート!!ちちちち、違います。少し主から時間をいただいたので、以前に約束した魔術の件で来たのです」

雪のように白い肌を真っ赤に染めて、あわあわと手で宙をかきながら否定する。

 クールな印象のあるいろりからは考えられない行動で、少し吹き出してしまった。

「な、何を笑っておられるのですか!」

「ご、ごめん。つい可愛らしくて」

「かかか、可愛い!……もういいです。で時間はありますか」

拗ねたように顔を一度背けた後に、仕切り直しと行った感じで問いかけてくるいろり。

「大丈夫だよ。有り余っているし、暇だったので」

「それはよかった。では行きましょうか」

「そうだね。ただ学院の中ではさすがにまずいから、人目につかない場所に行きたいんだけどいい?」

「ええいいですよ」

人目につかない場所ということで少し警戒されるかなと思いきや、全く気にする素振りもなく答えるので、ホッとしながらも、少し残念というか悲しいというか複雑な感情が込み上げてくる。

「零夜殿?」

不思議そうな顔をして覗きこんでくるいろり。

 急に目の前に現れた愛らしく、美しい顔が息のかかる程の距離に、そして甘いいい匂いが…

「だだだだ、大丈夫です」

後退りしながら、裏返った声で答える僕に、首を傾げるいろり。

 色々とまずかった。

 高鳴る鼓動を治めながら、深呼吸をする。

「よし。では行きましょうか。ルーラ」

 僕たちがやって来たのは、人里離れた山の中だった。

「以前にも一度体験しましたが。驚きです。まさか魔術回路も必要とせずに、転移魔法まで使えたとは…」

そうこの世界では、転移魔法は魔術回路があったとしても、容易に唱え、発動させることなど叶わない魔術である。

 そのために、いろりも驚愕しているのだ。

「つかぬことをお聞きしますが。零夜殿はいったい幾つの魔術が使えるのですか?」

魔活性不協和の法則などを飛び越えた質問にたじたじになる。

 今冷静に考えても、回復呪文か三つ(ホイミ、べホイミ、キアリー)、補助呪文が十一(アストロン、マジックバリア、ラリホー、ラリホーマ、ザメハ、スカラ、ピオリム、ルカニ、アバカム、ルーラ、リレミト)、攻撃呪文が十一(メラ、メラミ、ギラ、べギラマ、ヒャド、ヒャダルコ、バギ、バギマ、イオ、イオラ、ライデイン)……。

 二十五個です。なんて言えるわけがない。

 一つの魔術が精一杯の世界でこれはない。

「ええと…四つぐらいかな…」 

あからさまにキョドりながら、目線が定まらずに答える僕。

 背中には冷や汗がダラダラ。

「四つも!!規格外ですね!!」

目を丸くして驚くいろり。

四つでこの驚き、二十五個なんて言った暁には一体…となんとも言えない気分になる。

「申し訳ありません。差し出がましいことを聞いてしまい。怒っておられますか?」

「いや怒ってないよ。自分でも普通じゃないと思っているから」

女神に僕自身が望んでもらった力、そんな訳で、かなり棒読み発言になってしまう。

「いろりさん。この事は僕といろりさんの二人だけの秘密にしてもらいたいんだけどいいかな?」

「二人だけの…」

「ダメかな?」

「い、いえ、大丈夫です。二人だけの秘密です」

なぜか顔を赤らめている、怒らせてしまったかなと少し頭を悩ませていると、

「ああ、大切なお時間を無駄にはできませんね。では始めましょうか」

真剣な表情に変わったいろりが宣言する。

 いろり先生による、氷結呪文講義が始まる。

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