自動人形〈オートマトン〉と生きる第二の人生   作:寅好き

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シャルの家族を求めて2【後編】

 地に伏し、ピクリとも動かなかったベルゼビュートが、『混沌から生まれし者』から送られた黒い闇のような魔力を、身に纏い、ゆっくりと立ち上がる。

「久しぶりだな。真の姿を見せるのも。光栄に思うんだな嬢ちゃん」

黒い魔力に包まれた中、ベルゼビュートの影が揺らめき、膨れ上がっていく。

 それは姿だけでなく、威圧感、圧迫感、など全ての物が桁違いに膨れ上がり、今まで相対してきた者たちを遥かに凌駕していた。

 ベルゼビュートの魔力が迸り、雷のように放たれた魔力が、床や壁を破壊し、場をも支配し始める。

 観客も飲まれ始め、その場に倒れ始める者さえ出始めていた。

 しかし、僕はそんなことに気を回していられない、体は震え、もう立っていることさえ困難な状態になっているのだから。

 こんな化け物にどうやったら勝てるんだ。

 頭の中は恐怖と絶望に染められ、「対戦相手は全て死んだ」という言葉が何度も頭の中を駆け巡る。

 襲い来る二度目の『死』の恐怖に、膝をつきうずくまりながら、「死にたくない」「早くこの場を離れたい」その思いが自然と言葉になって呟いていた。

しかし、そう思っても、呪文を唱えることすら儘ならない状態にある。

 こつりこつりと僕の元に近づいてくる足音が、動かない体に鞭をうち顔を上げると、包み込むような優しい笑顔で僕の前に膝を下ろす十六夜が。

「安心してください。私が零夜を護りますから」

頭の中から恐怖が消えていく、しかしながら、そんな無力な自分に対してのやるせなさも自然と沸いてくる。

 十六夜に護られてばかりでいいのか?逆に十六夜を護ってあげられないのか?と。

 そんな中、ベルゼビュートから突風が吹き荒れた。

 闇のような魔力が晴れると、姿が大きく変わったベルゼビュートが。

目はギラつき、胸は厚く膨らみ、顔はむくみ、頭部には巨大で禍々しく聳え立つ二本の角が、額には燃え盛る炎のような帯を巻き、その背には蝙蝠のような漆黒の翼、巨大で大木のような足はアヒルのような、尻尾は獅子、全身は深い闇のように漆黒を讃えている。

炎の魔神『イフリート』に似ているとも言える。

 ベルゼビュートが軽く腕を振る、その瞬間十六夜が僕の前に立ちふさがっていた。

僕に襲いかかった衝撃波を十六夜が受け壁まで吹き飛び、叩きつけられる。

 崩れ落ちる瓦礫と共に十六夜もその場に落ち、瓦礫の山に埋もれた。

「少し力が入りすぎたか」

前に立つベルゼビュートが、具合を確かめるように腕を回す。

「確かにかなり力が上がりましたね」

十六夜が瓦礫をはね除け立ち上がる。

「私も本気でいかないといけませんね」

十六夜の表情は今まで見たこともないほど、焦りを含んだものであった。

 十六夜が足を肩幅まで広げる。

 すると、十六夜を中心にして暴力的な魔力が嵐のように吹き荒れる。

 十六夜の体から靄のように魔力が溢れ、発光しているようにも見える。

 まるで、神の後ろからさす後光のように。

 十六夜が一歩また一歩と足を進める度に、周りの欠片が宙に浮き、霧散する。

「マスターあれいくぜ」

「うむ。あれか、久しぶりだな。全力でいくぞ!吹き荒れろ我が魔術!全てを無に帰せSolution!!」

ベルゼビュートの周りに球体の液体のような物が無数に浮き上がる。

 ベルゼビュートが十六夜に指を指した瞬間、液体の球体が宙を乱舞しながら、一斉に十六夜に襲いかかった。

 十六夜は舞うように球体を必要最低限の動きで避け続けるが、次第に十六夜にかすり体に傷を刻みこむ。

 球体の端が触れるだけで、服が溶け、肌が火傷をしたように爛れる。

 そこから見て、また『混沌から生まれし者』が発した言葉Solutionから溶解液の魔術だと察しがつく。

 しかし、厄介なのが、球体全てが、ベルゼビュートの意思で操作されており、隙なく、四方八方から襲いかかっているのだ。

 十六夜も避けながらも、気弾で迎撃しているのだが、数が多すぎて潰しきれない。

「フハハハハハ!楽しいぞ、楽しいぞ、楽しいぞ!さあより低みを目指そうぞ!タルタロスを目指して!」

魔力を体全体から発散し、いや源泉かけ流し、垂れ流しかというほど放出し続けながらラリったような目付きで恍惚の表情を浮かべながら『混沌から生まれし者』が叫ぶ。

 あいつでさえ、戦いの役にたっている、ここで僕が役にたたなかったらいつ役に立つんだ!

「ライデイン!」

僕の手のひらに魔力により生成された雷が迸る。

 雷は蜘蛛の巣のように広がり、全ての球体を迎撃し、破壊していく。

「今だ十六夜!」

「ありがとうございます零夜」

十六夜は地を蹴り、ベルゼビュートに突っ込む。

 弾丸のように突き進む十六夜は、その勢いのままに拳を叩きつける。

 ベルゼビュートは腕を交差してガードするが、その一撃によりガードを崩された。

「ぐっ」

「はっ」

ガードが崩された所に十六夜の拳が豪雨の如く、絶え間なく襲いかかる。

 一秒に数百いや数千か、とも思えるほどの怒涛のラッシュ。

 このまま押しきれるか!とも思えたが甘かった。

 ラッシュを掻い潜り、ベルゼビュートが十六夜に手を向ける。

 ブワッと手のひらにから波紋が広がり、十六夜は宙を舞っう。

 仮面は砕け、服は半分消し飛び、白く綺麗な肌は、溶け落ちたように爛れ、血液のようなものを撒き散らしながら宙を舞う。

 だがなんとか体制を立て直し、地面に降り立った。

「終わりだ!」

ベルゼビュートの低く、ドスの効いた声がこだまする。

 ベルゼビュートが向かい合わせた手のひらから、桁違いの密度の魔力で構成された液体が現れる。

 ベルゼビュートが両手でそれを押し出すように放つと、巨大な蛇のような姿と化した液体が十六夜に襲いかかった。

 液体を四方に撒き散らし、融解させながら十六夜に襲いかかる。

 蛇が丸のみにせんと食らい付く、しかし十六夜は二つの牙を掴む。

 掴んだ手から白い煙りのような物が発生し、十六夜は顔を苦痛に歪ませるが蛇はそのまま暴れまわり、十六夜を壁に何度も何度もぶつける。

 しかし、十六夜は手を話すことはない。

「メラミ!」

僕は狙いをつけて、蛇にメラミを放つが、焼け石に水、体を構成する液体は揺らぐことすらなくメラミを打ち消す。

「ならば…。ヒャダイン!」

広範囲に渡り、気温が低下し、霜がはしり、床を突き破り無数の氷の刃が突きだし、幾重にも蛇の体を突き刺し、刺さった部分を凍結させる。

 そして、項をそうす。

 僅かながら蛇は動きを止める。

 それを十六夜が見逃すはずがなかった。

 瞬時に気を高め、牙を掴んだまま渾身の力で左右に開く、蛇は左右に真っ二つに引き裂かれ、液体に戻り、舞台の床を融解する。

「まさかこの術を破るとはな…だがここまでだ」

すでに更なる魔術が迫っていた。

津波のような液体の波が迫り来る。

 十六夜は蛇を消し去った所で動きが止まっていた。

「十六夜ーーー!!」

僕は無意識のうちに飛び出し十六夜の前に仁王立ちしていた。

「零夜!!」

十六夜と観客席のシャルから叫び声にも似た声がこだまする。

「零夜逃げてください!」

十六夜が僕に触れた時だった。

 何かが体の中で開く感じがする。

 何かが沸き上がり、頭にある呪文が浮かび上がる。

「〇〇〇〇」

僕は必死に頭に浮かんだ呪文を叫んだ。

 腕が発光し、至るところから切れ目が入り血飛沫を散らすが、魔力を放ち続ける。

 目の前に光の柱が立ち上る。

 迫り来る波を消し去り、天井を貫き、地上に立つ城を消し去り、空を貫き、ベルゼビュートを呑み込んだ。

「零夜ありがとうございます」

 十六夜の声が耳に入り、理解すると同時に目の前が暗転し、意識を消失した。

◇◆◇◆◇◆

 次に目を覚ました時には、見慣れた天井、嗅ぎなれた薬品の匂い。

 顔を横に向けると泣き腫らしたような顔をした長い黒髪、美を体現するような美しい美貌を持つ十六夜と、煌めく金髪を持つ妖精のような容貌を持つシャルがいた。

「良かった」

「やっと目を覚ましたわね」

シャルと十六夜の安堵した顔をしながらそう話す。

 二人が話すには、僕が意識を失った後『混沌から生まれし者』と彼を護るように前に立ちはだかったベルゼビュートは、満身創痍ながらも立っていたようだが、

「満足いく戦いであった。今回は俺たちの負けだ。次も心踊る戦いをしよう我が宿敵よ」

と言い去っていったらしい。

 二人が負けを宣言し、綺麗に切り取られたように開かれた天井から飛び去っていった為に、僕たちの勝ちとなり試合は終わったらしい。

 僕の腕は至るところから出血し、酷い状態であったが学院の医師クルーエルに縫い合わせて治してもらったらしい。

 ただ帰り際、喜んだ僕の雇い主の男、名をダグラスと言うらしいが。

 彼が、「これからは何かあったら言え力を貸す。俺はお前たちを気に入った」

と言い、連絡先等を教えてくれたらしい。

 そして、その後急いで僕を担いで、目視不可能な程の高度を飛んで学院に降り立ったらしい。

 シャルは「今日はありがとう」と赤くなりながら一言呟いて帰っていった。

 そんな訳で新たな出会いを果たし、有意義な1日を過ごした…のかな?

 

 




 次回から第5巻に入ります。
 ただ5巻は雷真メインの話だったので短くなると思います。
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