自動人形〈オートマトン〉と生きる第二の人生   作:寅好き

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 小説では夜々を奪還して次の日が日曜だったんですが、まあ話を作るために改変しました。
お許しください。


明明後日に迫る自動人形エクスポ

 静寂が支配する教室にチョークの走る音だけが響き渡る。

 チョークはリズムよく黒板に流れるような美しい文字を刻み、チョークの主たるキンバリー教授はさながら、指揮棒を振るう指揮者のようだ。

 一様に壮絶な音楽を奏でた後に、生徒達のペンが一斉に走り出す。

 それはさながら行進曲いや、軍歌のようだ。

 そんな中なのに僕のペンは一向に動く気配すらない。

 走り出さないペンは、スタートラインにすらついていない状況である。

 手が痛みで動かないという訳でもない。

 翻訳蒟蒻の効果がきれたのか、いや食した翻訳蒟蒻は永遠の効果を持つものだし、キンバリー教授の言っていることは分かる。

 それ以前の問題……つまり学力的な問題だ。

 僕は常に、黒板に書かれたものを頭の中で整理し、まとめてノートに残す。

 しかし、整理することすらできないのだ。

 分からない所が分からない、という絶望的な理由。

 手袋持ちが何故?と言われれば、怪我したり、戦ったりして勉強や講義に出るのが疎かになっていた訳なのだが。

 なんて言ったか忘れたが騎士もどきと戦ったり、中二病の用心棒と、魔界の君主たる自動人形と戦ったりしたからだ。

 あ、ちなみに魔界の君主たる自動人形とは、ベルゼビュートのことだ。

 どうやら蝿の王ベルゼブブのフランス語表記がベルゼビュートだったのだ。

 ベルゼブブだったら前世で嵌まっていたペルソ〇で知っていたのに…。

 そう言えばペル〇ナでは―――

「へぶっっ!?」

少し幻想的な世界にトリップしていた所で、僕を過酷な現実に引き戻す幻想殺しのチョークが唸りを上げた。

 チョークの出所はと言うと、もちろん……キンバリー教授です…。

 キンバリー教授は冷酷な微笑を湛え、ピリピリと痛みを感じるほどの、鋭い視線をこちらに向けている。

「私の講義に妄想に耽るとはいい度胸をしているな〈一匹狼〉。いやもしかしたら問題が簡単すぎたのが悪かったのか。ならばこの問題を解いてみろ」

僕はこの時、キンバリー教授の口許が、本当に愉快そうに緩んだのが伺えた。

 そうキンバリー教授は分かっているのだ、僕が分かっていないことを…

 なんてドSな教授だ!と思ってもどうにもならない。

 逃げる?いやボスからは逃げられない!戦う?武器(知識)がないので無理だ。

 ならば取る行動は一つ、後に体力と何か大事な物を犠牲にするがしょうがない。

「…分かりません…」

「後で私の部屋に来い」

死の宣告、いやマヌーサザラキ(ドラクエⅡの裏技。マヌーサをかけた後ザラキをかけると百パーセント成功し、相手を確実に一撃死させるという凶悪な裏技)か…

「はい………」

そして、地獄の90分が過ぎた。

 キンバリー教授が教室を出ていくと、生徒は皆倒れ込んだり、立ち上がって背伸びをする。

 キンバリー教授の講義は気を抜くことができず、集中力もきらすことができなくて、身体的にも精神的にも疲労感が凄まじいのだ。

「零夜参りましょうか」

「うん…」

土曜で午前中の講義で終わりなのに、と思いながらも、十六夜と共にキンバリー教授の部屋に向かう。

 ただでさえ緊張する教授達の研究室の並ぶ建物に入っていく。

 なぜだか無意識に『忍び足』を使用している、この静かで何らかの緊張感がある雰囲気がそうさせるのかもしれない。

 しばらく歩くとキンバリー教授の研究室にたどり着く。

 深呼吸をした後、手に汗握る状態で軽くノックをする。

「入れ」

その一言のみが中から聞こえてくる。

「失礼します」

僕と十六夜がお辞儀をして入る。

 キンバリー教授の研究室は西向きの窓から傾いた日の光が燦々と差し込んでいる。

 部屋にあるソファーには幾つもの書類が無造作に広げられ、読みかけであろうなにやら難しそうな専門書も積み上げられている。

 前世ではこのように僕も積みゲーをしていたな、と考えると自然と緊張も解け笑みが溢れた。

「ただいま帰りました、あ、零夜さんもう来ていたんですね」

不意に後ろから声がするので振り向くと、メイド服を着て、シャルによく似た容貌のあま色の髪を持つアンリが立っていた。

「〈一匹狼〉お前はアンリと共にここの掃除だ。そして、十六夜には、このメモに書かれているものを町に取りに行ってもらう。お前なら門番に見つかることなく町へ出ることもできるだろう」

雑用か…掃除ぐらい自分でしたらいいのに…

「どうかしたか〈一匹狼〉」

「なんでもありません(心が読まれている!)」

「フフ」

僕の心を見透かしたような瞳で、視線を向けるキンバリー教授に恐れを感じる。

「さあ行動を開始しろ」

棒立ちになっている僕、アンリ、十六夜と視線を向けた後にキンバリー教授は、手を叩いてそう指示を飛ばす。

 僕たちは指示に従い行動を開始した。

 それからは地獄だった、掃除をしていると10分おきに問題を出され、答えられないとレポートの宿題を出されるという。

 アンリは苦笑いして見ているだけという。

 ただアンリは男性恐怖症だったはずなのだが、意外にも慣れてくれたのか、恐れることもなく、僕と協力して掃除してくれたのは嬉しかった。

 僕とアンリが掃除を終え、十六夜が山のような荷物を持って帰ってきた時には、レポートの宿題はとんでもない量になっていた。

「〈手袋持ち〉で私の担当の生徒がその体たらくでは話にならんからな。レポートの提出は早めにな」

にやりと笑みを浮かべるキンバリー教授にうすら寒い恐怖と、少々の感謝を感じて挨拶をした後に、キンバリー教授の研究室をあとにした。

 外に出ると、夕日が傾き、辺り一面が濃いオレンジ色に染まっていた。

「もうこんな時間か。それにしてもなんか活気があるね」

辺りにいる生徒が、いつになく活気づいていることに気づき、周りを見回しながら十六夜に話す。

「なんでも明後日からAuto-matton Expo at Liverpoolというお祭りがあるそうですよ」

「自動人形エクスポか。でそれはどんなお祭りなの?」

「なんでも自動人形の祭典で、欧州の名だたる名工が自作の自動人形を披露したり、即売会やオークション、大きな商談会などが開かれるのだそうです」

楽しそうに話す十六夜。

「そうか楽しそうだね。でも十六夜はなんでそんなこと知っているの?」

「町に行った時に教えていただいて」

何か言いたそうにモジモジしている十六夜。

鈍い僕でも気づかないことはない。

「そうか。明明後日に行こうか。明日、明後日はさすがにレポートで手一杯だと思うから」

「本当ですか!嬉しいです!」

頬を染めて、嬉しそうにはしゃぐ滅多に見られない十六夜の姿に、提案してよかったなと思いながらも、明日、明後日は地獄だなと覚悟を決めるのだった。

 

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