純白のワンピースを纏った白百合のような十六夜、純白と対照的な黒髪がよく映えている。
十六夜は子供のように目を輝かせながら辺りを見回している。
なんだか微笑ましい姿だ、と思って見ていると、その視線に気づいたのかみるみるうちに顔をりんごのように赤くして、
「行きましょうか」
と冷静だとアピールしている。
可愛いなこんな姿を見られたし、今日は来てよかった。
それだけでも今日祭りに来たことを満足する理由となった。
十六夜と歩くが、人があまりにも多くて歩きづらい。
普段はあまり人混みは好きではなく、好んで人混みを歩くことはないので、少し四苦八苦していると、不意に手が握られる。
「こうすれば大丈夫ですよ」
満面の笑顔を浮かべた十六夜が手を握っていた。
肌と肌との触れ合い、体温を感じるように思える。
嬉しさと恥ずかしさで顔が熱くなる。
ヤバい、可愛すぎる。
もう辺りの人が全く気にならなくなっていた。
それからは、露店や出店を見て回ったが、あまり記憶にない、だって十六夜しか目に入らなかったのだからしょうがない、うん。
つくづく講義の一環で来なくて良かった。
講義の一環だったら、絶対に落第点である。
それがもし、キンバリー教授の講義だったら……怖すぎる、考えるのはやめておこう。
「食事にしようか。こんな時だし、露店のものでもいいかな」
「はい」
実際十六夜は永久エネルギー炉を搭載しているので、食事は必要ないが、僕に気を使ってくれて、一緒にすることもある。
ということで露店でチョコレートがかかったチュロスのような物を買い、分けあって食べる。
今まで手を繋いでいたことを考えると、恥ずかしさで十六夜のことが見れなかった。
なぜだ、いつもはもっと卑猥なことを考えているのに、手を繋いでいただけでここまでとは…。
「どうしたんですか零夜?」
「!!」
目の前に、心配そうな表情の十六夜の顔が。
息がかかりそうなほど近い位置。
整った目鼻立ち、桜色の可憐な唇、仄かに甘い香りが漂ってくる。
心臓が凄まじい早さで脈をうつ。
十六夜はそのまま首を傾げる、小動物のように。
リミットブレイク、理性が飛びかけた時だった。
「また……歌が…」
十六夜は顔を歪める膝をつく。
前回と同様のことが起こった。
そして、異変は十六夜だけではなかった。
辺りの自動人形が急に制御を受け付けなくなり、突如動き出した。
店主や兵士が止めようとするが、人間が自動人形を止まられるはずもなく、自動人形はどこかへ呼び寄せられるようにフラフラと歩いて行った。
何があったんだ、僕は十六夜の背を擦りながら考える。
嫌な予感しかしない。
しゃがみこんでいる僕たちに巨大な影が射す。
見上げると、巨大な戦艦が上空に、戦艦の主砲が動き照準を定め止まる。
鳴り響く轟音、炸裂する砲弾。
その轟音が、賑やかで華やかな祭典が、地獄の祭典に変わる合図となった。
吹き荒れる衝撃波が周囲の建物の硝子を砕き、破片が降り注ぐ。
「アストロン」
瞬時に唱えたアストロンの為に難を逃れた。
しかし、アストロンが解けた時には、周囲は地獄の様相を呈していた。
建物は破壊され、瓦礫が広がるなか、血の海が広がり、千切れた手足が転がり、まるで人形のようにピクリとも動かない人や、失った腕が存在していたであろう部分を抑えて、蹲りうめき声を上げる者。
生きた屍のように血まみれで徘徊する人。
頭を半分失いながらもまだ生きているのか、白眼を剥いて痙攣するようにピクピクと動く人。
阿鼻叫喚の世界。
非現実のような現実がそこには広がっている。
そんな最中であろうとも、未だに戦艦の主砲は火を吹き、爆発と衝撃波を垂れ流しにしている。
なんで祭りがこんなことになるんだよ。怖い、逃げたい。
ルーラを使えば現実に戻れる。
そんなことが頭を巡っていた時、血塗れの子供を抱いて泣き叫ぶ女性が。
僕の体は無意識のうちに走り出していた。
「子供さんを見せてください」
「あなたは…」
「早く!」
「はい」
「うっ!」
腹部から多大な出血が、血の臭いに、噎せそうになる。
この子を救えるのは僕だけだ。
僕はベホイミを唱える。
幾度となく鳴り響く轟音の中呪文を唱える。
出血は止まり、腹部の傷も塞がる。
苦しそうな呻き声も収まる。
「あ、あ、ありがとうございます」
我が子の蘇生を涙を流しながら喜ぶ女性。
その姿を見て、僕は気づいた。
今すべきことは、呪文で人を救うことだと。
「零夜」
隣に来ている十六夜は、光の衣を纏ったように淡く発光している。
「気を纏って外部からの干渉を阻害しています。零夜のしたいことは分かっています。何でも指示をしてください」
心強い十六夜の言葉。
十六夜がいればなんでもできるような気がする。
「傷付いた人をどこか大きな建物に運んでほしい。できれは周りの人に協力してもらって。僕はあの戦艦の動きを止める」
「分かりました。無理はしないでください」
十六夜は僕を信用してくれ、走っていった。
ありがとう。
あの戦艦の動きを止める。
中級呪文など受け付けないであろう巨大戦艦。
しかし、僕には秘策があった。
動き続け、被害を撒き散らす主砲。
「アストロン」
僕は、戦艦に向けて、アストロンを唱えた。
戦艦は元々金属の塊ではあるのだが、さらに別の金属の塊と化し、動きを止めた。
アストロンは元々自分や仲間にかけ、しばらくの間全ての攻撃を受け付けなくする呪文である。
ただ一つの弱点は、金属に化している間は、一切動けなくなることにある。
ドラクエであれば敵に使うことなどできないが、この世界ならできる。
したがって、少しでも時間を稼ぐ為にアストロンを使ったのだ。
僕が十六夜の元に行くと、何人かの人と協力して怪我人を教会に運びこんでいた。
十六夜の話によると、ほとんどの人は、自分のことで精一杯で、逃げまどい、協力してくれなかったが、教会の人達が協力を願い出てくれたらしい。
さすが神に使える人達である。
教会に入った瞬間、込み上げるものが。
異臭が立ち込めている、鉄錆のような臭い、怪我人の流した出血からだろう。
怪我人の数はすさまじく、数十人はいる。
これだけの数は捌ききれない。
一刻の余談も許さない状況に。
前世で見たある光景が思い出される。
怪我人が多数の場合、怪我のレベルによってランク分けするというものだ。
すぐに行動に移す。
「神父様少し手伝ってください」
「私に出来ることなら」
「ここに赤い布と青い布と黒い布があります。怪我人の状況で、残念ながらお亡くなりになっている方には黒い布を、怪我が酷い方には赤い布を、軽度の方には青い布をつけるようにお願いします」
「分かりました」
神父さんは、他の方と迅速に行動に移してくれた。
全員助けたいが、現実は無理だ。全力でいこう。
僕は赤い布が置かれた重症の方に向かう。
すがり付いて泣いている人に
「お医者様ですか?」
と聞かれるが、呪文で癒すとは言っても分かってもらえないと思うので、
「はい」
とだけ答え、呪文を唱える。
吹き飛んだ腕のあった箇所に呪文を唱えると、傷口が塞がり、出血も止まる。
苦しそうな息遣いも安らかになる。
次に行こう。
腰を上げた瞬間、隣の人に服を掴まれる。
「助けてくれ」
男性はそういうが、その男性には青い布が置かれている。
「次に来ます」
そう言うが、納得してくれない。
僅な時間でも惜しいので、理由を言い去ると後ろから罵声が。
いい気分はしない、人間の理不尽さを垣間見た気がした。
それから何人も癒したが、癒している最中に、他の重症の方が亡くなる。
自分の無力さを強く感じる。
亡くなった方の遺族からは
「あの人は助けたのになぜ家の人は助けてくれないの」
泣き叫びながら詰め寄られる。
これほど胸に突き刺さる言葉はなかった。
今までは呪文が使えて確かにいい気になっていた。
天狗になり、努力を怠っていた部分もあった。
日頃から努力していれば、ベホマラーなどで救えた方ももっといたかもしれないのに…。
だが、確かに僕もいけないのだが、この悲しみを産み出すことさえ止められれば。
この事態を巻き起こした者に天誅を下した後に、こんな悲劇をもう起こさせない。
その為には、力を持たなくてはならない。
つまり、魔王になる。
僕は、誰もが理不尽に殺されたり、傷付けられることのない世の中にする。
多くの犠牲を持って、魔王を目指す理由が芽生えた。