ステンドグラスから、色彩豊かな光が射し込んでいる。
ただし、室内は鉄錆びのような臭いが充満し、濁った空気に満たされている。
外にはコントロールを支配された自動人形や、どこぞの兵士が配置されており、街を支配しているので、教会からは一歩も出ることができない。
僕は回復呪文の使いすぎや、悲惨な状況を目の当たりにしたために、身体的にも、精神的にも疲労しているので、教会で休憩中である。
外に出ることができれば、魔力面の問題はどうにも工面できるのだが。
「戦えるのは自分だけですから」
と静かにはなっているが、万が一が無いとは言えないため、十六夜が先程から外に通じる唯一の扉の前で、番をしてくれている。
本当なら男である僕が、そのような事をしなくてはならないのに…。
十六夜に申し訳ないと思いながらも、疲労のため、いつの間にか船を漕いでいた時だった。
外が少し騒がしくなり、扉が開く音がする。
まさか敵襲?でも十六夜がいるはず。
と考えながらも、僕は体を起こすと、十六夜が番をしている扉にまで、警戒しながら歩いていく。
ここが戦場になったら、せっかく直った人たちがまた…
緊張する気持ちを抑えて、外に通じる扉に通じる扉を開ける。
「零夜殿。キンバリー殿が言っていた通りでした」
扉の前には、美しい銀髪を持ち、雪のように白い肌をし、青色の着物を着た、『雪月花』の長女雪のいろりがいた。
なぜここにいろりが?
突然のことで、起きぬけの僕の思考は追い付かない。
寝惚けたかな?
多分間抜けな顔をしていたのであろう、いろりが少し頬を緩め、笑顔になる。
「私がここに来た理由ですが、どうか雷真殿に力を貸してほしいからです」
「えっどういうこと?できれば今の状況を説明してほしいな。まったく状況が分からなくて」
僕は率直に尋ねる。
全く現状が分からない中では、どう答えればいいか分からないからだ。
「申し訳ありません。では今の状況を説明いたします。手短に――――」
以下いろりが話してくれた、事の始まりと、現状、そして雷真のしようとしていること。
この騒動に関わる人物は、主に三人、黒幕の大英帝国第一王子〈黒太子〉エドマンド、その自動人形エヴァンジェリン、学院の教授であり、エヴァンジェリンの産みの親である、イオネラ·エリアーデである。
イオネラ·エリアーデに関しては僕は一回見ているようで、メインストリートで雷真の近くにいた裸の少女がその人らしい。
僕の冒険の書に残っている人物である。
驚くことに、弱冠16歳にして、実力主義の学院の教授に上り詰めた人物である。
あのロリ美少女が…。
話は戻り、イオネラ·エリアーデは莫大な研究の資金提供を、エドマンドから受けており、その代わりとして、戦争を無くすために作り上げたエヴァンジェリンをエドマンドに提供したらしい。
戦争を無くすためにエヴァンジェリンに内蔵された、敵の自動人形を操り、無力化する魔術回路〈絶対王権(マルチコントローラー)〉が、無情にも今回の惨状を引き起こすために使われたようだ。
エドマンドはエヴァンジェリンを使い世界制服を企んでいる。
まず手始めに、機巧都市リヴァプールを落とすべく、行動を起こしたらしい。
そして、エドマンドは操り支配した巨大戦艦ダイダロスに乗り込み、願望を果たそうとしている。
ただし、それを阻止するべく、大英帝国の戦艦が、街ごとダイダロスを妥当すべく、湾内に集結し、攻撃まで二時間に迫っているというのが現在の状況らしい。
戦争を無くすために作られた自動人形が、逆に戦争を誘発する結果となる、まさに皮肉な状態だ…
で、いつも通り、雷真は、エリアーデ教授とエヴァンジェリンを救う為に行動を起こしたらしい。
僕は、そこまで面識のないエリアーデ教授の為に、命の危険を孕んだ事件に首を突っ込むつもりは更々ない。
しかし、このまま放っておけば、この街全ての人が死ぬこととなる。
それに、この惨状を産み出した人物を許せない。
単純ではあるがこの二点から、協力することを了承した。
もちろん、十六夜にも了承を取ろうとしたのだが、笑顔で頷くということで、言葉すら必要としなかった。
いつもいつも僕の我が儘に付き合ってくれてありがとう。
以上がいろりが説明してくれたことである。
「そして今、雷真殿そして協力してくれるシャルロット殿、ロキ殿がここに向かっております」
「そうか。で、作戦は?僕の呪文は例外として、魔術は使えないと思った方がいいんだよね。物理的にダイダロスを攻めるの?」
僕が質問をすると、少々いろりは表情を曇らせる。
「はい。魔術は〈絶対王権〉の力で封じられています。ただし、〈絶対王権〉の力を無効にするアクセサリーを一組エリアーデ教授が作成してくれたので、誰か一組は自由に魔術を行使できます。そして一番の問題が一つ。ダイダロスには、まだ分かっていませんが、攻撃を受け付けなくする魔術があるようです」
僕の脳裏にシンの魔術が頭に浮かぶ。
攻撃を受け付けなくする魔術。
それなら―――
「雷真殿も作戦は考えていますが、かなり危険で…」
「僕に一ついい案がある。雷真の元に行こう。少し時間をちょうだい」
「はい。わかりました」
魔力を拝借するか。
僕は思いたつと、扉を開ける。
いろり大分暴れたみたいだな。好都合だけど。
扉の外には自動人形や兵士が横たわっている。
「マホトラ」
魔力の消費無しで、相手から魔力を奪う呪文。
倒れている自動人形、兵士全てから根こそぎ魔力を拝借する。
自動人形は魔力を枯渇し、動きを止め、兵士は変わらず倒れたままである。
ごちになります。
僕の魔力も全快とはいかないまでも、約八割ほど回復した。
扉を閉め、再び鍵を閉める。
「じゃあ雷真を迎えに行こうか」
僕が、いろり、十六夜に視線を向けると、二人とも頷く。
「ルーラ」
僕らの視界が映す情景が、揺らぎ一変する。
先ほどまでは、屋内の扉の前であったが、今は石畳の敷かれた街に続くメインストリートの真っ只中である。
「雷真!」
「れ、零夜か」
「本当に貴方はどこにも現れるわね」
雷真とシャルはもう慣れた様子だ。
まあこれまでも何回も『ルーラ』は使用してるしね。
「雷真。これからの作戦についてなんだけど、ダイダロスの魔術を一時的にだけど、無効化する方法があるんだけど」
「そんな方法があるのか!?」
まあ、雷真の驚きも当然てはあるが。
「うん。だからダイダロスの魔術に対しては任せてほしい。で、それ以外の作戦を教えてほしい」
「分かった。だが時間がない。走りながらでいいか?」
「時間は気にしなくていい。僕が纏めてルーラで街まで転移するから」
「そうか。分かった」
雷真は歩みを止める。
続いて、空を飛翔するシグムント、ロキも羽、足を止める。
よかった、走りながら聞くなんて、体力に自信がない僕には無理な話だ。
「じゃあ作戦についてだが―――」
「また無茶な……」
回復呪文用にかなりの魔力を温存しないといけないな…
「ハァ分かったよ。次は戦場だからね気を引き締めて。行くよルーラ」
僕らが次に現れたのは、崩れかけの建物が建ち並び、瓦礫に覆われたメインストリート、そして威風堂々悠然と立つ戦艦ダイダロスのすぐ側であった。