自動人形〈オートマトン〉と生きる第二の人生   作:寅好き

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ダイダロス、甲板での戦い

 いつの間にか降りだした線の細い雨、霧雨が天から舞い降りる。

「いくわよシグムント」

 そんな中雨粒を弾き飛ばしながら、シャルを乗せてシグムントが天高く飛翔した。

 ダイダロスの回りを円を描くように旋回する。

「ラスターカノン!」

 気づいていないだろう相手に先制攻撃。

シャルの声と共に、シグムントの口腔が眩い光に充たされ、そして、暴力的な光の奔流が、ダイダロスに放たれた。

 ラスターカノンがダイダロスを飲み込んだと思われたが、放たれた光の一閃は、何もなかったかのように、ダイダロスを突き抜け、雲を裂き、龍の如く天高く飛び去った。

「ラスターセイバー!」

 しかし、予想通りといったように、シャルは焦ることもなく、冷静に魔力と共に指示を出す。

 ラスターカノンとは違い、洗練された、光の刃が生成され、無数にダイダロスに襲い掛かる。

 今度も動揺にすり抜けるように飛び去る光の刃。

 これはシンのベクトル操作とは違うな。

「何をぼさっとしている。予想通り〈歌〉が止んでいるんだ。行くぞ!」

ロキはそう言うと、ケルビムに乗り、ダイダロスの頂上を目指して舞い上がった。

「行くぜ零夜」

追うようにして、雷真も夜々に掴まり、放たれた矢のように飛び上がった。

 そうこの作戦の第一段階は、魔術〈絶対王権〉を使わせないこと。

 敵は世界制服のキーとなる大事なエヴァンジェリンを放さず、近くに置くだろう。

 すると、一つ問題となることがある。

 『魔活性不協和の原則』である。

 ダイダロスの元で、〈絶対王権〉の魔術を行使すると、ダイダロスの魔術が行使できなくなり、逆もまたしかり。

つまり、ダイダロスが攻撃を防ぐためにはエヴァンジェリンは〈絶対王権〉を行使することはないのだ。

 ということで、厄介な〈絶対王権〉を使用させないために、ダイダロスに魔術を行使させ続ける。

 その為に、シャルは効果がなくても、攻撃の手を止めることはないのだ。

「行きますよ零夜。作戦の第二段階です」

「そうだね。じゃあお願いできるかな」

「はい」

僕は十六夜の背に、身長の差から、後ろから、包み込むように抱き締めるようにしがみつく。

 ふんわりと十六夜の甘いいい匂いが…

そして、女性特有な柔らかさが。 

まずい…

 こんなに緊迫した状況であるのに、不謹慎ながら男としてのあれが…

「どうしたんですか零夜?しっかり掴まってくれないと、落ちてしまいますよ」

色々な葛藤から、しっかりと掴まらない僕を不審に思ったのか、十六夜が尋ねてくる。

 どう答えればいいんだ…

そんなことを考えていると、雷真達が頂上についたようで、見えなくなっている。

しめた

「雷真達も頂上についたみたいだから呪文でいこう。ルーラ」

僕は十六夜の肩に手を置き『ルーラ』を唱えた。

 目の前に、雲に包まれた空が広がり、そして、雷真達の前には、エメラルド色の髪を持ち、エリアーデ教授と瓜二つの顔を持つ、エヴァンジェリンが色を失った瞳で呆然とダイダロスの甲板の先に立っている。

 エヴァンジェリンの横には、微笑みを浮かべた、黒髪で漆黒の衣装を身につけた高貴な感じの美青年が。

 ただ、柔和な笑みを浮かべているだけなのに、言葉にあらわせられないが嫌な感じがする。

 目も笑ってないし。

「ようこそ、我が旗艦ダイダロスへ」

笑顔を崩さず、余裕を見せた感じでそう話す。

 やっぱり目は笑っていない…

「わざわざご本人が出てくるとは、お目通りがかない恐悦至極だぜ、黒太子さま」

「違うよ雷真!御尊顔を拝し奉り恐悦至極にございまする。だよ」

敬語はしっかり使わないと。

「いや、皮肉だから」

「そうなの」

「黙れ東洋バカども!」

ロキがなぜか青筋を額に浮かべ怒鳴る。

 何か気にさわることをしたっけ?

「フフフ、苦しゅうない。大英帝国第一王子が問う。何の用だい」

笑顔で落ち着いた声で聞いてくるだけなのに、凄まじい圧迫感が。

「エヴァをイオに返してもらおうと思ってな」

「交渉というものが分かっていないのだね。絶対的に優位のある側に、何の利益もなしに、無理に要求を通そうとはね」

「あんたは話がわかる方だと思ったからさ」

「ほうなぜそう思った」

言葉のラリーが雷真と黒太子エドマンドの間で交わされる。

 大したもんだ、大英帝国第一王子に物怖じせず話せるなんて。

「わざわざ御尊顔を見せてくれたからさ」

「だから相談にのると思ったのか。ハハハ、愉快だ。実に甘ったれた思考だ。俺はただ、世界の王になる者に噛みつく愚か者を直に見物しに来たんだ」

「…交渉決裂な――

「もういい時間の無駄だ。力尽くで行くぞ」

焦れたのかロキが大剣と化したケルビムを持ち、強烈な踏み込みから飛び出した。

「面白い」

刹那、押されるほどの巨大な魔力が迸る。

 ハッチが開き、数十体のフレイのガルムによく似た犬型自動人形が飛び出す。

 犬型自動人形は、一斉に口を開き、口腔内が光った、刹那、火炎の塊魔術〈ファイアボール〉が飛び出す。

 飛び交うファイアボールをロキは軽々切り払い、雷真は交わし、十六夜は虫でも払うように手を振り、消し去っていく。

 少し強くした『メラ』ぐらいかな。

「マジックバリア」

僕の前に出来上がった、不可視の壁がファイアボールを防ぐ。

 すでに、犬型自動人形に迫っていたロキが、ケルビムを一閃する。

 道を防ぐように立ち塞がっていた犬型自動人形が、バラバラに砕け散り、道が開かれる。

猪のようだ…こういう勇猛果敢な斬り込み隊長を猪武者って言うんだっけ?

「死ね!」

ロキがケルビムを振り上げる。

「陛下慢心めさるな!」

余裕の笑みを浮かべたエドマンドに 振り下ろされたケルビムを横から現れた青年が剣で受け止める。

 動きが止められたロキの横をすり抜けるように、雷真と夜々が走り抜ける。

 突如現れ立ち塞がる怒声を上げた初老の将校。

「ぬうっ」

「雷真には触れさせません!」

 老獪な剣さばきで道を塞ごうとするが、〈金剛力〉を発動した夜々に阻まれる。

 道を阻む者がいなくなったことで、雷真はそのまま走り抜け、エヴァンジェリンに飛び付いた。

「帰るぞエヴァ」

熱の籠った問い掛けにもまるで反応を示さないエヴァンジェリン。

「雷真危ない!」

僕は雷真の背に銃を向けるエドマンドを見て、声をあげる。

 気づいた雷真は身を捻りかわそうとするが、放たれた銃弾は、血液を撒き散らし、雷真の腕を撃ち抜いた。

「ぐっ…」

まずいな、一応最低限のことは出来た去り時か

「十六夜、雷真を頼む。皆戻って」

十六夜は瞬時に雷真の元に移動し、抱えて、舞空術を使用し甲板から飛び降り、宙を舞った。

 鍔迫り合いから押しきりロキが戻り、雷真が助けられたことを確かめた後に、少し安堵した感じで夜々がバックステップを踏み、戻ってくる。

「二人とも戻るよルーラ」

僕たちはダイダロスの甲板から、地上のダイダロスを全て視界に収められる、少し離れた位置に転移した。

 最低限の第二段階は成功、次は

「行くよシャル」

「ええ分かったわ」

空を旋回しているシャルに声をかける。

「マホターン!」

僕はダイダロスに向け呪文をかける。

 マホターンとは、どんな呪文も一度だけ必ず跳ね返す補助呪文。

 跳ね返す呪文には例外などなく、自分に対する補助魔術であっても必ず跳ね返し、効果を打ち消す。

 ダイダロスを取り巻くように、薄い魔力の幕が張る。

「シグムント、ラスターカノン!」

シグムントの喉が光った時だった。

 ダイダロスがシグムントのラスターカノンを防ぐべく魔術を行使したのだろう、マホターンにより張っていた薄い幕が消え、行使された魔術の魔力の行き場がなくなり宙に煌めく、刹那、その魔力の煌めきを飲み込むようにラスターカノンが放たれ、ラスターカノンはすり抜けることもなく、ダイダロスの中核を撃ち抜き、融解させた。

 ついに巨大戦艦ダイダロスは炎に包まれた。

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