ダイダロスが黒煙を巻き上げながら、幾度となく辺りに響き渡る耳をつんざくような爆音を鳴り響かせている。
少し離れているとはいえ爆風も届き、辺りの窓ガラスを揺らしている。
よくニュースで工場が爆発するなどの映像を、一番注目の記事として取り上げていたが、理由がよく分かる。
凄まじい迫力である。
「おい東洋バカ二号まだ終わってはいないぞ」
「ああ、そうだね。ごめん見いっちゃってたよ」
あれ、ついつい東洋バカ二号で反応をしてしまった…まあいい仕返しは次の機会にしよう。
「じゃあ今からロキと夜々さんを雷真と十六夜の元に送るよ。僕は少し遅れるけど」
「お願いします。雷真のことが心配で心配で」
「フン、お前は足手まといだ」
ロキめ、コイツ目にもの見せてくれようか。
そうだいい考えが。
「じゃあ夜々さんからオクルーラ」
僕は笑顔で夜々に手を向けて呪文を唱える。
夜々の姿が霞み消えていく。
『オクルーラ』とは、ルーラの一種で任意の相手を望み場所に送る呪文である。
ドラクエ本編ではなく、漫画ロトの紋章の呪文である。
ドラクエ関係のものならば全て使えるらしい。
女神様に感謝しなくては。
「おい、早くしろ!」
「はいはい。じゃあ空の旅行を楽しんでね。バシルーラ」
僕はロキに向けて夜々とは違う呪文を唱える。
「!!」
ロキは勢いよく吹き飛ぶ、空を舞うロキの姿はどんどん小さくなり、お星さまになりましたとさ。
ではないが、目的地に飛んでいき、そのまま墜落し、煙を撒き散らしていた。
ケルビムもロキが空中に舞い上がると同時に、追うように空に舞い上がった。
「ふう。いい気味だ。じゃあまずは……ルーラ」
建物の屋上から転移し、自動人形が多数転がっている場にやってきた。
瓦礫の上に腰を下ろし、金髪を風に靡かせているシャルがそこにいた。
先程からの小雨のため、ブラウスが透けて、本当にささやかな体の起伏が目に見える。
いい光景だ。透けて見えるブラ最高だ。でも必要なのかな?
「ああ零夜、成功したみたいね。皆動きを止めたわ。私も魔力切れでだるいけれど…」
不埒な考えをしている僕に気づき、声をかけてくる。
確かに辛そうだ。
当然か、あれだけ『ラスターカノン』や『ラスターセイバー』を撃てば、ラウンズのシャルだからこそ、意識を保っていられるのであって、他の生徒ならば意識が飛んでいてもおかしくない。
「動かないでね。マホアゲル」
僕の体から魔力の塊が現れ、シャルの体に入っていく。
『マホアゲル』とはその名の通り、自分の魔力を任意の相手に譲渡する呪文である。
「えっ、何、どういうこと!?魔力切れのだるさがなくなったわ!何したの?」
驚いたように立ち上がりあたふたしている。
かわいらしい。
「シャルがきつそうだったから、僕の魔力を注ぎ込んだんだ」
「そ、注ぎ込んだ!い、言い方が卑猥よ」
突然シャルは顔を真っ赤にして、声を上げた。
何か不味いことを言っただろうか?
僕は気にすることはせず、シャルと同じように瓦礫の上に腰を下ろしているシグムントに歩みよる。
「シグムントは大丈夫?少し怪我してるね。ホイミ」
シグムントの羽にある傷がふさがる。
「すまない。恩に着る」
「どういたしまして。大変な役回りありがとう」
「いや構わない。雷真たちはどうしたんだ?」
「今から見に行くんだ。マホトラ」
そこらに転がる自動人形から魔力を搾り取る。
「じゃあ行こうかな。またねルーラ」
ある建物の上に転移する。
そこには、向かい合う、ロキとケルビム、そしてダイダロスの上で突然現れた老いた将校と、大剣のケルビムを受け止めた青年がいた。
将校の纏う、気配と魔力が威圧的で、そして巨大なことに驚きが隠せない。
修羅場を幾つも乗り越えてきた人物と言うことか。
「行こうか。我が手、我が剣――シルフィード」
将校が渋く重みのある声で青年に呼び掛けると、青年の体が光の粒子となり飛び散り、再び結合し、ひとふりの長剣となった。
長剣は繊細で、芸術品の如く美しく、研ぎ澄まされた刃は、水鏡の如く辺りを写し出している。
刃だけでなく、柄等にも技巧が凝らされ、柄尻には神々しいまでの女神の彫刻が施されている。
剣からは、妖刀のごとき怪しい光が放たれている。
遠くから見てもその切れ味が容易く想像できる。
僕の愛『刀烏アゲハ』にも比肩する程の名剣に見える。
将校が地に刺さった剣を掴むと、雰囲気がガラリと変わり、姿が消えた。
ロキは姿を見失っている。
高い所から見ている僕には見えた。
突然ロキの後ろに現れたのだ。
危ない!と思ったが、ロキは気配を感じ取ったのか、ケルビムを操り、背後を攻撃させる。
ケルビムのブレードは確かに将校の胸を貫いたように見えた。
しかし、将校は何か呟き、楽しそうに口許を緩めると、靄のように消えた。
それから神出鬼没に現れる将校に翻弄され、切りつけられながら、一方的な戦いに展開していく。
あのロキが赤子の手を捻るが如く遊ばれている…なんてじいさんだ…
ロキの動きがだんだん鈍り出す。
将校に戦慄を感じ、恐怖に憑かれたように。
将校は背後に現れると、とてつもない踏み込みで、ロキに肉薄し、峻烈な斬撃を繰り出す。
脊椎反射の域に達するのだろうか、ロキはケルビムでなんとか、耐え忍ぶ、一太刀、二太刀と弾くが、多分一撃、一撃がとてつもなく重いのだろう、ケルビムがブレードごと吹き飛ばされた。
そして、がら空きになったロキに凶刃が迫る。
降り下ろされた刃は、弾かれた。
ロキの背中に現れた、巨大なタワーシールドによって。
そして、弾かれた将校を砲弾のような空気の塊が襲う。
再び将校は離れた位置に現れるが、裂傷を負っていた。
「ソ、ソフィア、なぜここに?」
巨大なタワーシールドを持つ、甲冑を身につけた小柄な騎士。
今ではロキの自動人形になったソフィアがそこにはいた。
「それはこちらの質問です。私が病室を離れていた時にいなくなるのですから。私がどれだけ心配したか…」
「す、すまん」
目を潤ませて、詰め寄るソフィアにタジタジのロキ。
いいものを見れた。
生きて帰ってきた時にいじってやろう。
「姉貴と来たのか」
「はい。フレイさんとエリアーデ教授と一緒に」
「そうか」
ロキは、将校の怪我を見て、口許を歪めた。
何か気づいたようだ。
「姉貴、もう一度だ!」
「させん!」
将校も何かを察したのか、剣を水平に構え、ガルムを貫こうと強烈な踏み込みで襲いかかった。
しかし、それも回り込んだソフィアの盾によって防がれる。
ソフィアが加わっただけで防御面が完璧になる。
フレイの魔力を受けたガルムが咆哮し、音の砲弾が将校を襲う。
しかし、今回も姿を消して、そう考えられた時だった。
ケルビムの背中から射出された短剣が八方に飛び、刹那火を噴いた。
「ケルビム焼き尽くせ!」
短剣が赤く輝き、一帯が灼熱の地獄と化した。
爆発をまとい、辺りを閃光が飛び交う。
勝負は決した。
さすがロキ、たった一つの将校の傷から、魔術〈密度操作〉を見抜いたのだ。
僕はロキの凄さを改めて感じながら、雷真の元に向かった。