自動人形〈オートマトン〉と生きる第二の人生   作:寅好き

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事件終了、そして夏休みへ

 ロキの勝負は決まったので、間をおかず十六夜の元に『ルーラ』で転移した。

 ということで、雷真と合流したのだが、話はかなり進んでいた。

 雷真側にはフレイと共にやって来たエリアーデが合流。

 雷真の前にいる黒太子エドマンドの隣には、先程までいなかったエドマンドのエヴァンジェリンとは違う自動人形だろうか、青いやつがいる。

 流線型の滑らかなボディは西洋甲冑のようで、コバルトの如く輝く装甲、バランスの取れた体型だ。

 しかし、その姿を見たときから、何か頭に引っかかるものが……そうか、そういうことか、どこかで見たことあるかと思っていたが、ウルトラ〇ンだ。

やつは青いウルト〇マンとも言えるんだ。

 胸の支えが取れた。

 ウンウンと納得し、頷いていると、近づいてきた十六夜が僕の耳元で囁く。

「どうもあの自動人形はイカロスというものらしいです。先程あの王子が言ってました。なんでもダイダロスの子供だとか」

神話と同じだ。

ギリシャ神話では、ダイダロスはイカロスの父親だったはずそこからきたのだろう。

 僕はそんなことを考えていると、雷真が後ろ手にエリアーデに何かを渡し、

「俺達が時間を稼ぐ、その間に……」

と小さな声で呟やいている。

 第二段階で成功させたことであろう。

 それが隙となる、イカロスが、軽業師のような軽やかな身のこなしで跳躍し、僕達を飛び越え様に、戦闘体制に入っていた夜々の肩に軽く触れる―――刹那、夜々の肩袈裟懸けに裂け、血が吹き出した。

「夜々!」

「お姉さま!」

「だ、大丈夫です。雷真、十六夜」

雷真と十六夜の叫びに気丈に答えはしているが、とても戦えそうな感じはしない。

「お姉さま。休んでいてください。私が戦います。お姉さまを傷つけた者はただではおきません」

十六夜は立ち上がると、イカロスを睨み付ける。

「十六夜がやるなら僕も手伝わないと。イカロスを神話通り天から叩き落とさないと。雷真は夜々に魔力を送って癒してあげて。僕は十六夜と共に戦うから。幸い前回よりも使い易い呪文があったことを思い出してね」

「悪いな零夜。準備が整うまでの時間を少し稼いでくれればいい」

「分かった」

僕は頷くと、気を撒き散らす十六夜の隣に立つ。

 明らかに怒っている。

 このまま十六夜に任せても大丈夫そうだが、思い出したんだからあの呪文は使わないと。

「十六夜。さっきの夜々さんへの攻撃は――」

「はい。魔術です。お姉さまの〈金剛力〉に傷をつけたことと、前回シグムントのラスターカノンを反らした事実から考えると、空間を操るのかと。今回は空間を切り裂いたんです」

「また厄介な。呪文を唱えたら間髪入れずにって、十六夜ー」

話している最中なのに十六夜は飛び出した。

 石畳がひっくり返る程の踏み込みで。

 迎え撃とうとするイカロスは、腕を降り下ろす。

 今回も魔術を使っているのだろう、空間を切り裂きながら十六夜をも切り裂いた。

 袈裟懸けに両断される十六夜―――の影。

 揺らめくイカロス。

 イカロスの懐に、小柄な十六夜が入り込み、拳を叩き込んでいた。

 十六夜の拳は、イカロスの腹を貫通している。

 まるで以前ラスターカノンがダイダロスに流され、突き抜けたように見えたように。

 ただ今回は実際に突き抜けている。

「フフフ、貴方が攻撃をするときに実体化すると予想して攻撃しましたが、こんなに上手くいくとは」

十六夜は小悪魔的な笑みを浮かべる。

 十六夜、怖い…

 それにしても呪文、魔術を消し去る〈マジャスティス〉は必要なくなっちゃったよ…

 十六夜は腕を引き抜き、バックステップで僕の元に戻る。

 その時だった、

「零夜。準備ができたぞ」

雷真の声、イカロスは立ち上がるのだが、機能を停止したように動きを止める。

 その場に、いや街全体に流れる、美しい歌声。

 まるで鈴の音、天使の歌声。

 この歌声を聞きながら眠ったら、いい夢見られそうだ。

 歌声の先を見ると、生き生きとした目をしたエヴァンジェリンが。

 エヴァンジェリンの服に隠れた部分には鉄の輪が、そしてエリアーデの腕にも鉄の腕輪がついている。

 エリアーデの作った対魔術用の腕輪と首輪である。

 ダイダロス甲板での戦いの時に、雷真がエヴァンジェリンに飛び付いた時につけたものだった。

「なぜだ。なぜこの俺が……」

「終わりだぜバカ王子!」

茫然自失といった感じで棒立ちになっているエドマンドに、雷真の拳が叩き込まれた。

 とても痛そうだった。美形の顔が歪んでいたほどだ。

 その後駆けつけた軍や警察によってエドマンドは捕縛され、何処かへ連行された。

 エリアーデも事情を説明するために軍に同行していった。

 事件は無事に終結したはずであった。

 しかし、その事件は思わぬ余波を学院にももたらしていた。

「えっ中断期間…ってなに?」

「はぁ、夏休みのことよ」

溜め息混じりにあきれながら答えるシャル。

 いつもいつも申し訳ない。

「八月と九月は学院のカリキュラム上、長期休暇になるのよ。そういうことで夜会も一時的に中断されるのよ」

「へえー」

なんということだ、夏休みが二ヶ月も!高校は約一ヶ月だったもんね。夢のようだ!

「本当だったら夜会の〈五十番目の夜〉が終わってからが通例なんだけど、あの事件のせいで第五十位近くまで棄権が続いちゃったから、前倒しになったのよ」

明日から楽しい夏休みか。

「嬉しそうね。でも頭を使わないと、もっと悪くなるわよ」

なんという暴言、確かに頭は良くないけど、こうなったら

「シャルは胸を使ってないから小さいのかな?」

やってしまった。

 場が凍りつき、時間が止まった。

 その後五分間ぐらいの記憶はない。

 気がついた時には般若のような顔をしたシャルの前に、正座して土下座していた。

「もういいわ。考えてみなさい。二ヶ月後には棄権していた生徒を含めて二十人以上の乱戦になるのよ」

に、二十人…予想外の言葉に頭が真っ白に。

 ま、まあ十六夜がいれば大丈夫だよね。

「ね、ねえ零夜」

「なに?」

シャルが手をモジモジさせ、顔をゆでダコのように真っ赤にして聞いてくる。

「夏休みなんだけど……用事ある?なかったら私と…」

「明日から実家に帰ろうかと」

しばらくの間ののち、

「えっ。日本に?」

正直驚いた感じでシャルが聞く。

 まあ当然だろう。この時代イギリスから日本まで帰るとしたら、日本に着いた時には夏休みもほとんど終わり、休むどころの話ではない。

「零夜。準備できました」

後ろを振り向くと、よそ行きの格好ながら、背に巨大な鎌を背負った十六夜が荷物を持って立っていた。

 簡単なこと、十六夜に担いでもらい舞空術で飛ばしてもらえば一日もかからないうちに日本につける。

 ただ、普通に担いでもらうだけだったら、当然僕の体はその風圧に耐えられず、空中分解するだろう、いや確実にするから、『アストロン』で金属の塊と化している間に運んでもらうという運びになっているのだ。

「で、何か用シャル?」

「な、なんでもないわよ。さっさと日本に帰っちゃいなさいよ」

僕と十六夜が首を傾げているうちにシャルはズンズンと去っていった。

「シャルを悪く思わないでほしい。零夜と夏休み遊べると考えていたみたいでな」

「そうか悪いことしちゃったかな」

「いや、気にするな。久しぶりの里帰り楽しんでくるといい。体には気をつけるてな」

帽子から振り落とされたシグムントが、パサパサと羽ばたきながら声をかけてくれる。

「うん。ありがとう。シグムントもお元気で。アストロン」

「ではまた」

金属の塊と化した僕を抱えあげると十六夜は飛翔し、音速を遥かに越えるスピードで日本に向けて飛び立った。

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