自動人形〈オートマトン〉と生きる第二の人生   作:寅好き

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二学期の始まり

 強い陽射し、しかしながら日本と違い湿度は低いのでからっとした暑さである。

 ただもう九月だというのにまだこの暑さ、残暑というのであろう。

 たった二ヶ月されど二ヶ月。

 あまりにも多くのことを体験したがために、懐かしさすら感じる。

「ここがかの有名なヴァルプルギス王立機巧学院か。少し見て回りたいものじゃ」

「それは明日にしよう。まだ帰っていない。それに今から行くところがある」

「うむ、そうじゃな。わしらだけで見て回ったら、あやつはきっと気分を害すであろうしな」

 私と自動人形のパートナー『翁』が話していると、周りから遠巻きに奇異の視線が向けられ、誰も近寄らないようにしている。

 まあ、分からなくもない。

 私の姿と翁の姿はここにはにつかわないのだから。

 私は、身分証代わりの学生服を着用しながらも、上に着流しを着、腰には布に巻かれた二本挿し、鉄ゲタを履いて歩く度に高らかな音を響かせている。

 翁は、正に黄門様ルックというのか、亀甲竹の杖、黄色い頭巾に着物、袴に黄色いちゃんちゃんこ、足には草履を履いている。

 見た目にしても、白い眉、白い髭、優しげな瞳、正に御老公といった所で、若者が集うこの学院には不釣り合いである。

「これだけの奇異の視線を集めても自然体でいられるとは、成長したものじゃの」

「ああ……」

そうだろうな以前の私であったら、これだけ衆目の視線を集めたら、部屋に引きこもるか、より気配を消しながら、こそこそしていただろう。

 だが、今は違う。

 人の視線など、気にする必要もない。

 本当に恐いのは、人間関係を作ることであるのだから。

 良い、悪いに関わらず、人間関係は必ず負の感情に既決する。

 あのような気分はもう味わいたくはない…

 遠巻きに視線を向けられ、避けられた方が私にとってもやりやすい。

「今からどこへ行くのじゃ?」

「夜会執行部へ行く…」

「そうか…」

翁はそれ以上聞くことはなかった。

 私の心情を察してのことだろう。

◇◆◇◆◇◆

 

「失礼しました」

ある建物の一室、〈夜会執行部〉である手続きを済ませる。

 私と同様の手続きが殺到しているのか、かなり慌ただしい雰囲気であり、役員達は新学期早々疲れはてた様子であった。

 まさか夜会の舞台が変更されるとはな。

 しかもあの舞台とは…

 二十三人での戦いには、前回のフィールドでは手狭なために、広い舞台に変更されたのだ。

 それは奇しくも、前回〈十字架の騎士団(クロイツリッター)〉と一戦を交えた場である。

 建物から出ると既に日は傾いている。

 オレンジ一色の幻想的ながら、寂しさを感じさせる光景、建物だけでなく、学生や自分たちの影も長く伸びている。

 以前は共に寄り添い並んだ小さな影も今では、そこにはない…。

 まだ暑さは残っているとはいえ、日が短くなり、日が暮れる時間も早くなっているからだ。

「そろそろ会場に向かった方が良いのではないか?開幕の宣言があるらしいしの」

「……行こうか。ただ…大丈夫かな」

「あやつは零夜お前よりよっぽどしっかりしておるから大丈夫じゃよ。お前も大概心配症じゃな。安心せい。この学院ではめったなことなど起こらん。あのエドワード·ラザフォードのお膝元で、騒動を起こそうとする愚か者もおらんじゃろうしな」

「そうだな…」

 翁はカッカッカと高らかに笑いながらそう答え、私もあの学院長の姿を思い浮かべると、自然と肯定していた。

「場所は分かっている。行こう。ルーラ」

目の前の光景が歪み、次の瞬間、大きなコロシアム風の建物の前に辿り着いた。

 第五十位から始まる、ある意味本当の〈夜会〉の始まりのためか、かなり華やかに、賑わっている。

 ただ、もう開幕式が始まっているのか、コロシアムの外にはまばらに学生や、観客がいるだけである。

 今回も変わらず浴びせられる奇異の目。

 気にしないとはいえ、だんだん煩わしく感じる。

 殺気交じりの魔力を軽く体から放つ。

 ビクッと体を震わせ、ひきつらせた表情をしたものたちが視線を反らし、逃げていく。

「短気は損気と言うぞ」

「少し不味かったかな。以後自重する」

 少し高い見晴らしのよい所に移動する。

 コロシアムの全貌が見える位置。

 コロシアムは、以前とは全くことなり、補修工事が行われたのであろう、綺麗に新築された感じの建物へと変貌を遂げていた。

 あの頃の面影は…ないか。少し安心した。

「まさかこのような場に姿を見せるとは。珍しいこともあるものじゃ」

翁は遠目に何かを見つけたのか、笑みを浮かべている。

 刹那、何か妙案を思いついたように、正に愉快と言った感じで私に提案する。

「零夜よ。当然今日は力は出し惜しみはせんのだろう」

「ああ。あの人の教えでもあるからな。『どんな相手でも戦ってくれることに感謝し、出し惜しみはするな。力を見られ対応策を見いだされ、敗北を決するようなことがあるならば、それは自分に力がないだけだ』その教えに背くわけにはいかないからな」

「そうじゃな。悪かった…」

翁は失言だったという表情を浮かべ謝罪する。

「いや、いい。しかし何故そんなことを?」

「あやつに零夜の成長ぶりを見せてやりたくての。まあ、注目を浴びることにはなるが、都合は良いからな」

翁と話をしていると、開幕式も終わったのだろう、舞台にぞろぞろと学生達が現れる。

 そこには見知った顔も。

 かなり力をつけているな。

 遠目にもその成長具合が見て取れる。

 その進化はすぐに明らかになる。

 雷真が突然現れた、巨大なゴーレムの斧を包帯が巻かれた片手で受け止め、受け止めたのだ。

 そして驚くべきことに、斧の方が押し負け、刃が欠け落ちた。

「ほうさすがはあやつが見込んだだけのことはある。あれを修得しているとは」

翁は雷真を称賛したのち、イタズラっぽい笑みを浮かべ、

「まだお前は修得していないのにな」

と続ける。

 さすが雷真大したもんだ。しかしながらばつが悪い。

「あんなものを見せられたら、負けられないの」

「ああ出し惜しみなしだ。アレを使い終わらせる」

「悲しみの代償に得たアレか」

私は頷くことはなかった。

 再び視線を舞台に向けると、ザワザワし始めている。

 開始の時刻が近づいているのだろう。

 懐かしさを感じさせる、金髪の少女は辺りを見回し、何か焦っている。

 私を探していると考えるのは、自惚れだな。

「しかし、凄い差じゃの。左右で両極端な数じゃな。戦力はそれに比例するとは限らんが」

翁の言うように、乱戦であるはずなのに、乱戦足り得ない。

 左右にばらけ、方や約二十人程の学生と、自動人形。

 しっかりと前衛、中衛、後衛と分け、陣をしいている。

 前衛には重級の自動人形が五体で壁を形成し、中衛には遊撃タイプの軽量級、後衛には精霊や魔神を型どった自動人形が並ぶ。

 方や雷真側には、雷真、夜々、フレイ、十数体ものガルム、ロキ、所々黄金に光るケルビム。

 ガルムの数が多いとはいえ、実数は雷真、フレイ、ロキの三人だけだと言ってもいい。

 危険視された結果がこれだろう。

「そろそろ行った方が良いのではないか」

視線の先では、オロオロしながらも、夜会執行部の学生に促され退場するシャルの姿が。

「分かった。力を得るために経験値を求め、そして全ての関係を絶つために!ルーラ」

夜会第二幕が幕を開ける。

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