突如以前仲間であった私と雷真、夜々との戦いが勃発することとなり、会場がどよめき始める。
そして、それ以上に、シャルが困惑と悲しみに包まれた表情を浮かべている。
シャルの表情を見るだけでもいたたまれず、胸がキリキリと痛む。
ごめんシャル。
すぐに口に出してしまいそうになるが、それでは誰もが良い未来に進むことができない。
待っているのは絶望だけだ。
私は自分に言い聞かせるように頭の中で反芻し、言葉を抑え込む。
「雷真、場所を変えよう」
「ああ、いいが、何故だ?」
「この場では集中し戦えない。しかも根本的な問題なんだが、夜会のルールでは術者を直接狙うことは許されてはいない。したがってここで術者の私と夜々が戦えば、ルール違反となる。それでは戦いを持ちかけた私は寝覚めが悪いからな」
「ああいいぜ。夜々もいいか?」
「ええ雷真」
二人が肯首してくれたことに安堵する。
色々とこじつけはしたが、シャルの悲痛な顔を見たくないのが一番の理由だ。
「待っ――」
「ルーラ」
目の前でシャルが手を伸ばす。
しかし、その手は私達に届くことはない。
視界に映るのは、潤んだ瞳で必死に手を伸ばすシャルの姿から、照明一つなく、明かりといえば月の光だけという、場所にたどり着いた。
「ここは…」
「約二ヶ月前まで戦っていた場所さ。ある意味思い出の場所だ…」
そう最愛の………と二人三脚で戦った場所だ。
「感傷にいつまでも浸っていても仕方がない。さあ拳を、剣を交えよう!」
「ああ、行くぞ夜々」
「はい雷真」
薄暗く視界も冴えない中、夜々が地面を蹴り、砂煙を巻き上げながら、突っ込んでくる。
予想以上の速さだ。しかし。
私は刀を抜き、傾け、眼前に迫る夜々の拳を受け流す。
だが、夜々も予期していたのだろう、踏み出した足を軸に、半時計回りに回転し、裏拳を叩き込んでくる。
「くっ、後方10メートル、ルーラ」
夜々の裏拳が空を切る。
「メラミ!」
ルーラで転移した、後方からメラミを放つ。
圧縮された、火球が夜々に襲いかかるが、片手で振り払うと、火球は空に弾かれ、闇を張らすかのように弾けとんだ。
「確かに零夜お前はつよくはなっているが、夜々には到底勝てない。諦めろ」
雷真が夜々を制して、諭すように宣言する。
「ああ、そんなこと百も承知さ。生身でどれくらいもつか試して見たかっただけさ」
誰が聞いても強がり、もしくは負け犬の遠吠えにしか聞こえないだろう。
しかし、口だけではなく、私には二ヶ月で培った力がある。
「スピオキルト!」
私は呪文を呟く。
三種類の異なった呪文が一つになり、体を強化する。
『スピオキルト』とは、ドラクエ本編ではなく、ロトの紋章にでた合体呪文。
防御力を上げる『スカラ』、スピードを強化する『ピオリム』、攻撃力を上げる『バイキルト』の三種類の呪文が結び付き、一度で効果を表す呪文である。
「いいのか零夜」
「ああ、全力でぶつからないといけない相手だからね」
多分翁は呪文によって起こる副作用について言っているのだろうが、私は敢えて、違う答えをはぐらかしながら答える。
「お前のしたいようにすればいい。ただし、わしもしたいようにするがな」
「分かった」
翁な私の答えを聞くこともなく、闇姿をに消した。
「スピオキルトから偽心眼」
私は目を瞑り、呼吸を整え、魔力を放つ。
『心眼』は長い修行と幾多の経験を必要とし、この夏休みの間では修得できなかったために、自分独自の方法で編み出した『偽』心眼を使用する。
「用意は整った。先程のようにはいかないよ」
「行きましょう雷真」
「やるしかないのか…吹鳴四八衝」
「はい」
目を瞑っているために、視界は零だが、かなりのスピードで私の眼前に夜々が迫っていたのは、目で見るよりハッキリと分かる。
相手の僅かな動きさえも、全て把握できている。
夜々が繰り出す流れるような動きからの攻撃も、全て紙一重でかわし、夜々に続いて現れた雷真の攻撃も難なくかわす。
「マジかよ」
同時に繰り出される攻撃を、全てかわし、もしくは流されたことに雷真は動揺する。
私はその動揺さえも逃さない。
夜々に足払いをかけ、動きが止まった隙に、雷真に向き直る。
「アンカーナックル!」
雷真の腹に魔術さえも撃ち抜く掌ていを打ち込む。
「ガハッ」
くの字に曲がり、突きだされた顎を刀の束頭で撃ち抜く。
「雷真!」
夜々の声が響くが、攻撃を止めることはない。
宙に浮いた雷真に闇を切り裂く、紫電の一閃、逆袈裟に切り上げる。
キンという金属と金属の触れあう音が。
雷真が咄嗟に突きだした包帯の巻かれた腕と、刀が交錯し、闇に映える火花を散らす。
「夜々、俺に構うな」
「はい…」
剣圧で吹き飛びながら夜々に檄をとばす。
刹那、体勢を立て直した夜々の手刀が頬を掠める。
さすがのコンビネーション。
返す刃で切り下ろすが、かするのみで手応えはない。
夜々も足を止め、嵐のような連打を撃ち込む。
迎え撃つ私も特技『五月雨斬り』を発動し、真っ向から撃ち合う。
闇に響き渡る金属と金属の擦れあう音と、飛び散る青い火花。
数十、いや数百だろうか、刀と拳が幾度となくぶつかり、弾きあう。
終わることのないぶつかり合い。
時間にしてはほんの僅かなものであっても、すでにかなりの時間がたったのではないかとさえ思えてくる。
「はっ!」
「甘いです!」
互角の打ち合いに焦れた私が放った一閃が甘く入り、弾かれた。
「天剣絶衝!」
闇の中、雷真の声と共に、魔力が夜々に収束する。
視界を閉ざした中だからこそ、まざまざと感じる魔力の大きさ。
ここまでか。
大気を切り裂きながら迫る拳。
しかし、当たることはなかった。
閉じていた目を開くと、夜々の胸を刃が貫いていた。
「すまんなお嬢ちゃん」
翁の声と共に刃がするすると抜かれ、血液を散らすと、夜々は前のめりに崩れた。
「翁…」
「お嬢ちゃんには悪かったが横槍を入れさせてもらった。見ていられなかったからの」
翁は白い顎髭を撫でながら話す。
翁の助けがなければ今頃やられてた。
唇を噛んでいると、「夜々!」と雷真が駆け寄る。
「安心せい。お嬢ちゃんは一晩お主が抱いてやれば次の日には回復するわい」
「ほ、本当ですか!だそうです雷真」
倒れながらも、満面の笑みを浮かべる夜々。
しかし、雷真は聞き流し、翁に詰め寄る。
「なにをしたんだ?」
「簡単なことじゃ。わしの仕込み刀、拮抗刀は魔術を斬り、吸収する。故に、お嬢ちゃんの腹も難なく貫いたそれだけじゃ。そして、魔力の回路を貫き、君の魔力を全て吸収したがために、お嬢ちゃんは地に伏すことになってしまったということじゃ」
「そんなことできるはずが…」
「確かに、わし以外にはできないじゃろうな。これだけ複雑な魔術回路の流れを読み、適格に貫くのはな。しかしわしにはできる。そうじゃな木の影に隠れている花柳斎よ」
「フフフ、そうね」
いつからいたんだ。
当然のようにいたずらな笑みを浮かべて振り返った翁の視線の先から、花柳斎硝子が現れる。
「零夜よ。今日はお前の負けじゃ。話してやれ。わしは少しこやつと話がある」
翁はそう言い残すと、花柳斎硝子と共に闇に消えていった。
沈黙が辺りを支配し、虫の音だけが静かに鳴り響く。
しばらく経つと、雨が降り始める。
私が天に顔を向ける。
「あの日もこんなふうに雨が降っていたな」
私の頬を雨が伝い流れ落ちる。
いや、それ以外のものも止めどなく、頬を伝っていた。
私は思い出すように、口を開く。
あの日あったことを話すために…
次回からは原作から解離した完全オリジナルの話になります。