今も勉強に終われて…
更新次回はかなり遅れるかもしれません。
注:紛らわしくて申し訳ないのですが、夏休みの話になるので、零夜の一人称は以前の「僕」に戻ります。
『アストロン』の持続時間を考えてくれてか、英国から日本に着くまで何度かの休憩を挟みながら、日本に向かった。
そして、その十六夜の真意を知ることになるのは、少し後になってからである。
◇◆◇◆◇◆
辺りは既に日が暮れ、夜の帳が降りていた。
しかしながら、英国から日本にまで、この距離を、たった半日で走破してしまったのは、やはり十六夜のおかげである。
感謝以外に思い付くことはない。
そして今、僕の目の前には懐かしさを感じる、僕が生まれ育ち、じいちゃんと生活した家が。
まだ家を離れてたった4ヶ月ぐらいしか経ってないのに随分と懐かしく感じる。
「ありがとう十六夜。大丈夫疲れてない?」
「大丈夫ですよ。私は疲れとは無縁ですから」
僕の質問に笑顔で返してくれる十六夜。
夜の暗闇の中ではあるからか、輝いて見える。
疲れが取れる感じが、まあ僕は『アストロン』で金属化している時に、抱えて運んでもらっただけなので、疲れることはないのだけど。
「こんな所で感慨に浸っているのもなんだから、家に入ろうか」
「はい」
僕は、鍵を懐の御守り袋から取り出し、鍵を開けようとした。
その時、何か違和感が……。
漠然としたものなので、何が?と言われても答えることはできないが。
「どうしたのですか零夜?」
鍵穴に鍵を差し込んだまま手を止めている僕に、十六夜から声がかけられる。
「ごめんごめん、なんでもないよ」
気にすることもないかな。
僕は楽観視して、家の鍵を開け、扉を開いた。
英国の扉とは違い、日本独自の横開きの扉が開かれる。
月明かりに照らされ、見えてくる玄関は、人が住まなくなって4ヶ月が経過しているはずなのに、埃が積もっていることさえなかった……。
まるで今まで誰かが生活していたように……。
そんなことが僕の脳裏をかすめ、棒立ち状態になっていると、僕の考えを読み取ったのか、はたまた異常を感じたのか、十六夜が僕の前に無言で出て、気配を消し、足音もけし、中に入っていく。
そんな中、臆病でヘタレな僕は、十六夜を待っているしかできない……
ごめんね十六夜。臆病でヘタレは学院でも克服できなかったよ…
十六夜が家に入ってから、約一分が経過した。
中々戻ってこない十六夜、何かあったのか?と心配になりかかった時だった。
「零夜、家の中には誰もいません。ただ……」
口を濁した感じで、聞こえてくる声、安堵はしながらも、何かあったというのは明白であった。
事件への巻き込まれ体質は雷真だけで、日本ではゆっくりできると思ったのに…。
僕は靴を脱ぎ、家に足を踏み入れた。
「えっ……!?」
十六夜が顔をしかめる横で、僕も驚き、動きが止まる。
家の中が荒らされていたのだ。
物がひっくり返り、棚やタンスの中の物が全て放り出され、至る所開け放されている。
そして中でも一番酷いのは、生前のじいちゃんの部屋だった。
ほとんどの資料が消え、工具や自動人形の素材など、元々そこには存在していなかったように、綺麗になっている。
「これって……泥棒…だよね」
「ええ、そうですが、盗まれた物から言えば、一般的な泥棒とは違うかと…」
「どういうこと」
十六夜の言葉から、ある程度、いや明確にその意味合いを理解するのだが、僕は理解したくなかった、そのため聞き返していた。
恐怖、不安様々な感情が襲ってきていて。
「………。零夜こちらに来てください」
しばしの沈黙の後、十六夜は言い、歩き出す。
「うん…」
僕も十六夜の後を追う。
「これは……」
十六夜についていき、着いた所は、あの部屋一つあるような巨大な金庫の前だった。
金庫は幸い開かれてはいないのだが、そんなことは関係ないとばかりに、目をひく物が。
何か巨大で、鋭利なものでつけられたような裂かれた跡、力付くで開こうとしたのか、至る所に凹んだり、傷が無数に刻まれている。
「泥棒なので金庫にたどり着き、開けようとした、しかし金庫は頑丈で開けることは叶わなかった。ここまでは、この様相から見てとれると思います」
「……うん……」
「しかし、問題はそこではないのです。この鋼鉄の金庫にこれだけの傷をつけたことと、辺りに漂う魔力残しからも、だだの泥棒とは思えません」
「人形遣い?」
「はい。十中八九。おじいさまの資料が盗まれていた所からも疑う余地はなかったのですが。魔力を使ったあとがあることが、その考えを確信に変えました」
僕は声がでなかった。
ただの泥棒ではない。
人形遣い。
その十六夜の答えが頭の中を駆け巡り、そして、以前花柳斎硝子が言っていたことが、脳裏を駆け巡る。
「貴方の軽率な行動のために、十六夜が神性機巧ではないかと注目されている」
花柳斎硝子の声が何度も何度も頭の中に響き渡る。
どうすれば…頼る人もいない。助けてくれる人もいない。ボッチの僕には頼る人さえも……
急に僕の手が温もりに包まれる。
「怯えないでください。私がついています。何が起ころうと私が零夜を護ります」
十六夜が両手で包みこむように僕の手を握っていた。
その温かさ、そして、慈愛に満ちた言葉に、負の感情が解消されていく。
「それに、私は唯一の神性機巧(マシンドール)なんですよ。恐れるものはありません」
僕の真正面にきてウインクをしながらそんなことを言った。
ありがとう十六夜。僕は一人じゃなかったんだ。これからも十六夜と歩いていきたい。そのために障害を乗り越えないと。
「どうします零夜?打って出ますか?それとも学院に戻りますか?私は零夜のことを考えると後者の方が良いと思うのですが。相手も全く検討もつかず、用心した方が良いと思うので」
「十六夜の言いたいことはよく分かるよ。でも障害は乗り越えないと。だから打って出る」
「そうですか。分かりました。では今日は体を休めて、明日明るくなってから魔力残しを追って打って出ましょう」
「うん」
話が決まり、荒れ果ててはいるが、休む所はここしかないため、寝る所だけ急遽作り、布団は無事だったので、布団を敷き眠りにつこうとした。
しかし、眠れない…体は睡眠を求めている。そして眠い気もする。なのに目を閉じても眠りにつけない。
夜の闇が、一端解消されたはずの不安を再燃させたのだ。
夜の闇は体を休ませてはくれるが、心は蝕む。
「眠れませんか?」
十六夜の優しい声が。
「うん……なぜか怖くて…不安で…」
「そうですか」
そう言うと、十六夜は体を起こし、僕の布団に入ってくる。
「えっ!えっ!えっ!」
急展開に頭が働かなくなる。
そういえば、あれをした後はどっと疲れがきて心地よい眠りにつけると聞いたことが。
頭の中が桃色で、青少年の欲望に満ちた卑猥な思考に満たされる。
仕方がないことなんだ。男なら。
十六夜が僕を抱き締める。
そして――
「安心して眠ってください。私がいますから」
安心感のある声が。
期待していたようなことは微塵もなかったが、母親のような優しさに包まれ、僕は安らかな気分で眠りについた。