自動人形〈オートマトン〉と生きる第二の人生   作:寅好き

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男達の目的

 薄暗い広間の中心に十六夜、囲むように多くの銃を構えた兵士がいる。

 兵士が持つ冷たく鈍く光る銃の銃口は、動きを封じられ、首筋に鋭いナイフを当てられた僕に全ての照準が向けてられている。

「いった―――」

「喋るなと言ったはずだ。次はないぞ」

問い掛けようとした僕を、重低音の効いた低く威圧感のある声で制する。

 怖い!今頭の中を巡るのは、コイツらが何者なのかということより、男と直接的に僕の命を刈り取ることができるナイフへの恐怖にある。

「貴方たちはいったい何者ですか?そして目的は何ですか?」

薄暗い広間に怒りが交じりながらも、冷静に問い掛ける十六夜の声が響き渡る。

「俺達が何者かなどは答えるつもりはない。目的は簡単だ。神性機巧(マシンドール)と目されているお前を手に入れることだ」

男の答えに僕と十六夜に緊張が走る。

 花柳斎硝子が言っていたことが今になって現実になるなんて……

 僕が自ら招いてしまった危機が目の前に現れていた。

「アス―――」

僕の首筋に鋭い痛みが走り、生暖かい液体が滴る感覚を感じる。

「零夜!」

「先ほど言ったはずだ次はないと。お前は言の葉を紡ぎ、たった一言の言霊をもって魔術をなすと調べがついているからな」

「!!」

僕の呪文についても全て調べられていた。

 全てが絶望に染まる。

 たった一つこの危機を脱する方法は、僕が「僕のことはいいからコイツらを倒してくれ」というテンプレ的なものであるが、次に僕が口を開けばナイフは躊躇することなく確実に僕の喉を裂き、全ていう前に言葉を失うだろう。

もし言いきれても、喉を裂かれれば呪文を使えずに僕は死を迎えるだろう。

それ以前に、そもそも十六夜は僕が指示を出したとしても、僕の身を案じて行動を起こしてはくれないだろう。

 もう八方ふざかりだった。

 男達は完全に僕達の事を調べあげた上で作戦であった。

「神性機巧(マシンドール)よお前が我らの祖国の為に戦うと誓い、こちらに下るならばお前の主は生かしておいてやろう。しかし、もし抗うならば、お前の主は命を失うこととなる。お前の力をもってしても、ここに集う全ての者を無能力化することは不可能だ」

「私の力まで分かった上で……」

十六夜は苦悶の表情を浮かべる。

 十六夜を助けたくても、何もできない。それに、一度経験しているはずなのに『死』への恐怖から体が動かない。

 自然と頬を涙が伝う。

 恐怖、男達に対しての怒り、無力な自分に対しての怒り、全ての感情がない交ぜになった涙だ。

「私が貴方たちの仲間になれば、本当に零夜は助けてくれるのですか………」

十六夜は絞り出すように、か細い声で俯きながら男に尋ねる。

 やめてくれ十六夜。

僕はそう思いながらも、十六夜を見つめることしかできない。

「ああ約束しよう。お前には相手の魔術を感じる能力があることは知っている。我らが約束を守らず殺したならば、殺されるのは我々だからな」

男の声には愉悦がまじっている。

 自分の思い通りに進んでいるからなのだろう。

「あと、お前の不安を一つ解消してやろう」

男がそう言うと、奥の暗闇の中から、二人の兵士が、何かを抱えてきて、僕の前に横たえさせた。

 うっすら見えたのは、老人型の自動人形であり、僕はそれを知っていた。

 自分で美少女自動人形を作ろうとしたが、うまくいかず、じいちゃんの作りかけの自動人形を使わせてもらおうと部屋の中を探した時に、机の上に置かれており、その時見たものであった。

 ただ、僕は自動人形は美少女がよかったことと、似てはいないがその老人型の自動人形を見るたびに、亡くなったじいちゃんを思い出すことになるのが辛かったため、見向きもしなかったものだ。

「これは?」

「こいつは元々お前の主のパートナーとなるはずであった自動人形だ」

「えっ!どういうことですか!」

十六夜は声を荒げる。

「フッ、知らないのも無理はない。こいつのじいさんは、自分が死ぬ時に、あとを任せるために、この自動人形を作っておいた。しかし、何の因果か、じいさんが死に完成することが永遠に失われたと思われていた神性機巧が完成し、そのままパートナーに修まったというわけだ。つまり、こいつのパートナーはお前ではなく、この自動人形だったのだ」

 そういうことだったのか……前に花柳斎硝子が「貴方の自動人形は本当だったら…」と言いかけたことがあったが、そういうことだったのか。

「ということで、神性機巧よ、お前は何も気にすることなく、我らの元に来るがいい」

「…………」

十六夜は俯いたまま、動かなかった。

 表情も伺えない。

 気にすることはない、僕のパートナーは十六夜だけだ。と言いたい、いや言わなくてはならない、今言わないと後悔する、分かっているのに声が出ない……

「分かりました……」

俯いていた十六夜が、弱々しく呟いた。

「よし、ついてこい」

僕を兵士に渡し、男は満足げに言い放つと部屋を後にした。

「零夜……さようなら……お体をお大事に………」

十六夜は振り向くことなく、男の後を歩いていく。

 去っていく十六夜からは、宝石のように輝く雫が宙に舞っていた。

「十六よ――」

「黙れ!!」

「ガハッ!!」

十六夜に待ったをかけようとした僕の腹を、とんでもなく重い一撃が抉っていた。

 あまりの激痛から僕の意識は朦朧となり、崩れ落ちた。

 十六夜、十六夜、十六夜ーーーー!!

 声に出していたか、出していなかったかは定かではない。

 僕の目の前は真っ暗になっていた。

 冷たい雫が僕の頬を伝う。

 目を覚ました時には、穴の空いた天井から、雨が振り込んでいた。

 どれくらいの時間が経っているのか、でももうそんなこと関係ない。

もうすでに、僕には起き上がる気力もない。

 十六夜を失い、僕の心は空になり、絶望しか残っていなかった。

 もう僕には何も残っていない。

僕の軽率な行動が、その結果を導き出し、更には十六夜を苦しめてしまった。

最低な僕はこのままここで―――朽ちた方がいい。

 涙が止めどなく頬を伝い、床に落ち、水溜まりを作る。

 それは目を閉じても変わることはない。

 このまま………

「情けない。いつまでそんなところで寝ているつもりじゃ」

 厳しくも、暖かみがある声。

 もう聞くことはないて思っていた―――じいちゃんの声だった。

 もうあの世についたのか

 目を開けて見ても、そこは依然として、暗く闇に包まれ、廃墟のような広間であった。

 ただ一つ、今までと違うのは、僕の横たわる目の前に、あの老人の自動人形が立ち、優しげな眼差しで見つめていることだけだった。

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