今回からオリキャラが多数登場しますので、タグに加えさせてもらいます。
前日と同じように、日本特有のアブラゼミの大合唱が目覚ましがわりとなり、目を覚ます。
前日と違うのは、十六夜がいないということだけだ……
朝早々に沈みがちになりそうなので、顔を洗い気合いをいれる。
台所に向かう途中で、なにやら難しい顔をしたじいちゃんが立ち尽くしている場に遭遇する。
「じいちゃん、おはようございます」
「おはよう零夜。その様子だとよく眠れたようだな」
「うん。で、じいちゃんはこんな所でどうしたの?」
気合いをいれたとはいえ、昨日のことはあまり思い出したくはないために、話題を変える。
「ああ、今日必要な大事なものは金庫に保管してあってよかったんじゃが、自動人形を作る工具やら、部品やらが根こそぎ奪われておっての、どうしようか思案していたところじゃ」
そう、昨日確認した時にも思ったが、自動人形関係のものは、粗方盗まれており、何もかも残っておらず、部屋は閑散としている。
途方にくれるのも仕方がない。
しかし、ここで重要なことに気づく。
「盗まれたものには、重要な資料や、相当高価な自動人形があったんじゃないの?」
じいちゃんは、知る人ぞ知る人形師で、悪用されたら、国家間のバランスを崩すほどの物があってもおかしくない、少し狼狽しながら聞いてみる。
しかし、じいちゃんはそんな僕を見て、楽しそうに笑いながら答える。
「ああ、わしの書いた資料はわししか分からん、どうせ役にはたたんじゃろ。大体重要なものは紙などには残さず、頭の中に残しているからな。それに工具以外の自動人形の部品はどれもそこら辺で安価で手に入るものだ。心配する必要はないぞ」
じいちゃんは高らかにそう言うと、
「じゃあ飯にするか」
と続け、台所に歩いていった。
本当にじいちゃんは、自動人形になってもまったく変わりはなかった。
懐かしさと、嬉しさが込み上げてくる、一幕であった。
僕が台所につくと、食事が用意されていた。
ただ、食事といっても、簡素なもので、家庭菜園で作られたキュウリやらトマト、ただ焼いただけの茄子、しまいには夏の風物詩スイカ。
学院の豪華な食事が懐かしい……
そんな僕の心の内を見透かしたのか、じいちゃんが拗ねたように言う。
「しょうがないじゃろ。わしは食事はしないし、これだけあればいいんじゃし。零夜もこちらにするか」
涙目のじいちゃんが出したのは、今でも見るだけで、あの味が思い出される、あの葉っぱであった、しかも皿に山盛り。
「すいませんでした」
「うむ」
どうやら魔力補給のために食べていたらしい。
じいちゃん、祖父孝行のために、これから僕の魔力をあげるよ。
その後僕たちは淡々と食事をとりながら、これからの段取りを確認した。
今から、僕の修行をつけてくれる、じいちゃんの旧知の仲の人の所に行き、御厄介になること。
そして、家やその人の所以外では、じいちゃんのことを『翁』と呼ぶこと。
これは、死んだはずのじいちゃんが生きていることが知られると、色々と厄介事が舞い込むかもしれないからだという。
使い分けなどが上手くいかない僕は、結構苦労するかもしれない。
「よし、行くかの。しっかり戸締りをするんじゃぞ」
「大丈夫」
これから必要になるだろう金子を多めに金庫から出し、準備を整え、家の戸締りをして、家を出た。
太陽が中天に上り、燦々とまるで閃熱呪文『ベキラマ』を放つかのように、照らしている。
熱くてフラフラなのに、じいちゃんもとい翁は平然と、涼しげに歩いている。
「じい――いや翁は熱くないの」
「ああこの体になってから季節の寒暖差は気にならなくなっての」
ずいぶんと自動人形の体は有用なようだ、あの魔力補給さえなければの話ではあるが。
陽炎がたつ道を、黙って歩き続ける。
夏の熱さがいつも以上に体力を奪う。
熱い、熱い、熱い、早くつかないかな。
黙々と歩き、人里を少し離れた辺りまで歩き、やっと翁はとてつもなく大きな屋敷の歌舞伎門と言えばよいのだろうか、よく時代劇などで見かける大きな門の前で立ち止まった。
「えっ!?」
そこで目に止まったもので、僕の熱さはぶっ飛び、逆に背筋に悪寒が走る。
門の隣に大きな標識がある『八頭龍組』と……
いやいやいやいや、どういうこと!?じいちゃんの旧知の仲の人って、僕が修行をつけてもらう人って、その道の人!?マズイマズイマズイマズイ!
あわてふためく僕を気にする素振りもなく、じいちゃんは門を叩く、黄泉の世界に続く……。
以前、シャルとマフィアの人たちと関わりを持ったことは確かにあった。
しかし、日本人である僕としては、前世で見たドラマや映画の影響か、こちら(極道)の方が数倍怖かった。
「どちら様で」
で、出たーー!!!
反り込みをいれ、眉がなく、頬に一本刃物で負った傷のようなものをつけた、あからさまにそっちの道ですよ、といった風体の男が、見るものを威圧するかのような眼光で現れた。
「豪ちゃんいるかの?」
「アアッ!!何いってるんだじいさん」
「じゃから豪ちゃんじゃ、豪ちゃん」
「意味分からねえこといってんじゃねえぞ。三途の川拝みたくなければ、さっさと帰れや」
生きた心地がしない、帰ろうよと言おうとした時だった。
騒ぎを聞きつけた他の人たちも何人かやって来る。
ああ死んだかも…
「何事だ」
一際重く迫力のある声で、着流しを着た桁違いの威圧感を持つ男が現れる。
「いえ、このじいさんが意味分からねえ世迷い言をほざいてまして」
「ん、誰だじいさん?」
男がじいちゃんを見据える。
ほんの僅か視線が僕を横切っただけでも、足が震え、金縛り状態になるのに、じいちゃんはまったく怯むことはなかった。
いったいじいちゃんは何者なんだ。
僕はじいちゃんを全く知らなかったのかもしれない。
「おお、正さんじゃないか、久しぶりじゃの」
「そのお声はまさか地竜先生じゃ。いやしかし先生は死んだと…姿も違う…」
「いやその地竜じゃ。これを見てもらえば分かる」
狼狽え始める男にじいちゃんは、懐から懐剣を取りだし、示した。
ついでに言うと、地竜とはじいちゃんの人形師としての別名で、地竜(もぐら)のように地に潜り、表に出ることなく知る人ぞ知る人形師という意味で呼ばれたらしい。
「おい、親父を呼んでこい」
「えっでも…」
「さっさとしろ!!」
「は、はいっ!」
最初に現れた男が、じいちゃんが正と呼んだ男にどやされ、転がる様に屋敷の中に走っていった。
そして、角刈りで幾つもの修羅場を乗り越えたであろう、正と呼ばれた人とはまた違った威圧感を持った男と、40歳位であろうか、和装で凛とした美しさを持つ女性と、僕より一、二歳年上であろう肩まで延びる美しい黒髪を持ち、その髪とは対照的に白磁の陶器のような白い肌をして、穏やかながら意志の強そうな瞳をした、まさに大和撫子といった美少女が現れた。
「正どういうことだ。死んだはずの地竜先生が現れたってえのは」
「久しぶりじゃの豪ちゃん」
じいちゃんが気さくに声をかける。
本当にじいちゃんは何者なんだ…
「まさか…その声と、そのわしの呼び方、そしてその懐剣…間違いねえ。お前らその二人を丁重にお通ししろ!」
「はいっ」
じいちゃんに豪ちゃんと呼ばれた男の檄が飛び、僕とじいちゃんは、畳30~40畳ほどある大広間に通された。