自動人形〈オートマトン〉と生きる第二の人生   作:寅好き

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修行1日目とその他諸々

 燦々と容赦なく照りつける太陽、そして一生のパートナーを見つけるべくなき続ける雄蝉。

 共に夏の風物詩であり、今まで然程気にすることはなかった。

 しかし、こうして重力が1.5倍なだけでも過酷な中で、同時に二つを浴びせられるとさすがに勘弁してほしくなる。

「どうした、動きが止まっておるぞ」

「少し休憩させて、もうもたない……」

「情けないのお、さっき休んだばかりではないか」

じいちゃんも太陽と同様に容赦なかった。

 ただ、この修行を望んだのも自分自身なため気合いを入れて起き上がる。

 これまで、走り込んだり、ダンベルを使っての基礎能力の向上のみを主眼において修行している。

 最初の一週間は地獄だった。

 内部空間の時間の流れは早いのだが、太陽の浮き沈みは外の世界に合わせてやってくる。

 外の時間で昼間の2時間を修行に当てているということで、この世界では2週間まるまる昼間で太陽が上り続けており、満面の笑顔でこちらを焼き殺すかのように、絶え間なく照らし続けていた。

 それに加えて、いきなり過酷な状況で今までしたことなどなかった筋トレをしたことにより、乳酸がほとばしり終始筋肉痛に苦しめられたのだった。

 その二重苦から体が悲鳴をあげていた。

 何度も意志薄弱な僕は心が折れかけた、しかし、その度にあの十六夜の涙、両親が殺されたと聞いた時の悲しみと怒りを思いだし、踏ん張ったのだ。

 人間は太陽の浮き沈みで時間を認識する、しかしこの空間は太陽が沈まないので既に時間感覚は失っている。

 でも諦めるわけにはいかない。

 僕はある意味焼け石に水だが、呪文を呟く。

「ヒャダイン」

 大気は冷え、辺り一面の地面から氷柱が突きだし一時的に快適な空間になる。

「なかなか使い勝手がいいもんじゃの」

じいちゃんは呑気にそう言っているが、僕はそれを気にせず再び筋肉痛で軋む体に鞭をうち筋トレに打ち込んだ。

「ここまでじゃ!」

突然声が掛けられた。

僕がじいちゃんを見ると、優しい笑顔で

「初めの二週間をなんとか乗りきれたのお。まあ終盤は意識も飛びかけ、虚ろな瞳で筋トレを繰り返していたが」

と言い、手を二度ほど打ちならすと空間の遮断が解かれ、元の世界に戻ってきた。

 体が軽い!!

一番最初の感想がそれだった。

 重力が元に戻っただけ、たったそれだけなのに、それが本当に大きかった。

 病気になって初めて健康のありがたさを知るというところか。

 やっと地獄から解放されたので、部屋の中で休もうかと思い踵を返した時

「その汚れた体で部屋に上がり込む気か」

じいちゃんの一声で自分が、とんでもなく汚れていることに気づく。

 皆さんに迷惑をかけるところだった。

 僕は以前説明してもらった井戸に向かった。

 辺りを見回す。

 怖い人なし、人影もなし。

 確認が終わると、服を脱ぎ始める。

 そのまま井戸から汲み上げた水を被る。

「!!」

夏なのにとんでもなく、冷たかった。

 夏の水はぬるいか熱いという認識を改めた時だった。

 体や髪を洗いすっきりした時だった。

「零君何してるの?」

「あっ、葵さん」

僕は何気なく振り向いた。

 葵さんはぽかんとしたまま視線を上下させた。

 刹那葵さんは顔を真っ赤にし、

「キャーーー!!」

響く悲鳴

「お嬢どうかなされましたか」

集まってくる皆さん。

 力なくへたりこんでしまい、顔を手で覆っている少女。

 片や裸で少女を見つめている男。

 誰が見ても犯罪一歩手前の構図である。

「どうなさいました」

お集まりになった皆さんはへたりこんだ葵さんに聞き、こちらを向いた。

 ダメだ死んだかも……

 この家はある意味法律など全く及ばない場所であり、何かあったら指をつめる世界。

 そして、この家でも至宝のように大事にされている葵さんに手を出したような状況=死刑

 顔面蒼白、頭真っ白。人生の終わりを確信した。

「このガキが!お嬢を襲おうとしたのか!!東京湾に沈めたる!!おめえら奴を簀巻きにしろ!!」

「うす!!」

迫る皆さん、近づく『死』

今まで感じたことのない恐怖。

 以前戦ったシンをも遥かに超えた圧力。

 もう逃げるしかない!

「緊急退避ルーラ」

目の前が歪み、次の瞬間、自分の部屋に戻っていた。

「どうした零夜?」

突然僕が現れたことも気にすることなく、じいちゃんは何かの部品を組み立てている。

「まずはこれを着る」

爽やかな薄水色の着流しを渡され、震える手で僕は受け取り、着替えながら今までの顛末を話す。

「そうか、そんなことが…フフフフ」

僕が必死に話しているのに、じいちゃんは笑っていた……

 だが、今頼れるのはじいちゃんしかいないので怒りを抑えて再度尋ねる。

「どうしよう」

そんな最中でも、外では家中を走り回っている音が。

 ここにいたら確実に死ぬ。ルーラで日本を脱出しなければ…

「落ち着け零夜。葵ちゃんは聡明な娘じゃ。きっと誤解を説いてくれるじゃろ。安心せい」

「で、でも…」

「ハア臆病じゃのお。じゃあここに隠れておれ」

僕はその日は青狸のように押入れの住人となって1日を過ごした。

 その日はしばらくしたら喧騒は納まり、葵さんが部屋にやって来て誤解を説いてくれたことを教えてもらった。

 ただ終始葵さんは僕の方から目を反らし、顔を朱に染めていた。

 その後夕食の時間になり、部屋を出ざるを得なくなる。

 そんな時に限ってじいちゃんは「先に行っていてくれ」といい部品から手も目も離さない。

 まあ誤解は説いてくれたって言っていたし大丈夫だろう。

 僕は楽観視していた。

 世の中は、いやこの世界は甘くはなかった…

 家の至るところから注がれる『敵意』のこもった視線、いやそんな甘いものではないもう正に『殺意』という言葉のほうが当てはまる。

 刺すような視線に命の恐怖を認識し、以前Dワークスに忍び込んだ時以上に細心の注意を図りながら先を進む。

広間に着けば大丈夫なはずだ。

 物陰に潜みながら伺っていると

「どうしたのですか零夜さん」

ビクッとし振り返ると、優しさ溢れる慈愛の笑顔と声をした、豪三郎さんの奥さんの小夜子さんがいた。

 気配をまったく感じなかった。

 驚きは隠せないがその優しさ溢れる視線を向けられると、自然と緊張が解け、全てを話してしまった。

 小夜子さんは黙って聞いてくれ、僕の話が終わると、軽く微笑み

「大変だったのね。皆あの子を自分の娘のように溺愛しているから。怖い思いをさせてしまってごめんなさいね。私からも言っといてあげるわね。一緒に行きましょう」

正に地獄に現れた女神だった。

 交わした言葉は少しでも、小夜子さんの優しさを感じた。

 どこか自分の母親を思い出していた。

 あと印象としては映画で見た極道の妻とは似ても似つかわなかった。

 という内容の詰まった盛りだくさんのことがあり、八頭龍組での修行の1日目が過ぎていった。

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