自動人形〈オートマトン〉と生きる第二の人生   作:寅好き

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修行の日々

 八頭龍組に厄介になり、約一ヶ月半が過ぎた。

 夏休みも既に終盤であり、修行の日々も組内での生活にも大分順応してきた。

 最初は敵意の眼差しで見てきた皆さんも、こちらから少しずつ踏み込んでいくことで、序盤は挨拶すらしてくれず、邪険にされていたが、粘り強く続けたことにより挨拶を返してくれるようになった。

 ただ、皆さんとの関係を良好にしてくれたのは、やはりドラクエの呪文であった。

 野菜を持ってきてくれる人が干ばつで苦しんでいると言えば、『ラナリオン』という天候変更呪文で雨を降らせたり。

 組員の家族が病気で苦しんでいると言えば、『キアリー』で病気を癒す。

 抗争や出入りで怪我を負えば、『ホイミ』や『べホイミ』で癒す。

 遠出の仕事に出向く人がいれば、『ルーラ』や『オクルーラ』で対応するといった所だ。

 ある意味、雑用や何でも屋のような仕事ではあるが、適材適所といった感じで感謝され、良好な関係を少しずつ育んできた。

 そして僕自身もこの八頭龍組に親しみを感じ、何か温かさをもらえる、自分の居場所を手に入れたという感慨を受けていた。

 まるで家族のような。

 修行に関しても、最初こそは順調にはいかなかった。

 魔法使いが戦士に転職するなんて、『ダーマの神殿』がなきゃ無理に決まっていると、何度も折れそうになったが、そのたびに十六夜や両親のことを思いだし、諦めることなくし続けた。

 その甲斐があり『継続は力なり』という言葉もあるとおり、僅かながらも前に進み続け、基礎鍛練は終了し、正さんに修行をつけて貰えるという運びとなった。

「まだまだ心もとなくはあるが、体も一回り大きくなった。今日から基礎の剣術を教える」

「お願いします」

じいちゃんが作り出した空間の中僕と正さんは向き合っている。

 空間内の重力は約2.5倍にまで上昇しており、僕は立っているのも結構大変なのだが、正さんは全く普段と変わりがないように見える。

 自分もまだまだだということを思い知らされる。

「お前の得物を見せてみろ」

「はい」

僕は帯から刀を抜き、手渡す。

 正さんは、口に白い紙をくわえ、徐に刀を抜く。

 確か口に紙をくわえるのは、唾が刀につき錆びないようにするためだったかな。と思いながら、正さんの流れるような所作を見つめている。

 真剣に刀を様々な角度から眺めてしばらく経つと、刀を鞘に納め手渡された。

「大業物の黒刀『烏アゲハ』だな。厳密に言うと妖刀だが」

「えっ妖刀……」

妖刀という言葉に背筋が寒くなる。

 頭に浮かぶのは村雨だったり、持ち主に災いをもたらす刀などが頭に浮かぶ。

 そんな戸惑いを見抜いたかのように、正さんは説明を続ける。

「妖刀『烏丸アゲハ』。他の妖刀が人の血を吸うように、この刀は魔力を吸う。お前も聞いたことがあると思うが、この刀で斬ると、まるで黒い輪分が舞うように血を散らす。しかし、血が舞うのではない、流れ出る血を魔力に変換し、そしてそれを吸う。それがこの刀の妖刀たる所以だ」

僕の頭の中で以前の光景が浮かぶ。

 フレイが夜会でロキと交戦した時、血液が魔力に変換されたあの光景を。

「この刀は魔力を吸う度に強くなる。今のお前には共に歩むのに一番いい刀だな」

ただその言葉に一つの疑問が

「この刀は以前父が使っていたはずなんですが、その時の経験値というか、上乗せ分はないのでしょうか?」

「多分だが、新たな持ち手になった為にリセットされたか、お前の父が人を斬らなかったのだろう」

二つの考えられる答え。

 『人を殺す』ということを覚悟していたはずなのに、後者の答えが耳に入った瞬間、父を誇らしく思っていた。

 まあ、そんなことを言ったら正さんにはどやされそうだが。

「ではこれから基本を叩き込んでいく」

 そこから正さんによる指導が始まった。

 足捌きから、刀の扱い、型等の初歩の初歩である。

 中でも足捌きは、一番軽視されがちだが、かわすにしても、攻めるにしても、一番重要だということで念入りに繰り返し、時間をさいた。

 基本が元となり応用に進むということで、時間の許す限り、繰り返し、繰り返し反復して身につけていった。

 物覚えが悪い僕でも、まだやるの?というほど同じことを繰り返したので、身につけることができた。

 授業で言えば、数学の空間ベクトルのような難しい(主観)項目であっても、しつこいほど同じ問題をこなせば、どんなに苦手であっても解けるようになるということであろう。

 空間内で二週間、外の世界で二時間繰り返し、先に進むこととなった。

 次の段階では、『剛剣』か『柔剣』どちらに向かうかということだった。

 もう正さんは僕がどちらに進むか決めていたようだったが、一度両方を見せてくれた。

 『剛剣』では、巨大な岩を轟音をたてて降り下ろした刀で両断するといった、圧倒される実践であった。

 対して『柔剣』は木の葉を降らせて、魅了されそうなほど、無駄がなく、舞を踊るかのように流れる剣捌きで、舞い散る木の葉が地につくまでに両断していった。

 一枚のこらず木の葉は対称に両断されていた。

 まさに力の『剛剣』に対して、技術の『柔剣』といったものだった。

 そして僕が進むのは当然『柔剣』のほうだった。

 まあ見せてもらった瞬間、僕自身も『剛剣』は無理だろなーと思っていたので、然程いや、全く驚きはなかった。

 それからは、基本を元に応用に進んだ。

 剣捌きについては幾つかの流派の中から学んで行くことになり、あまり癖がなく、どの流派にも対応しやすい流派を教えてもらえることになった。

 確か、よく時代劇で聞く流派で、江戸と尾張に分派した流派であった。

 因みに正さんの扱う流派は幾つもの剣術の中から自分にあう物を取り入れた、ある意味我流と言ってもいいものだと教えてもらった。

 こちらは一朝一夕にはいかず、かなりの時間をかけることとなった。

 そして、ついに実践に入ることとなった。

「えっ!?」

僕の修行の相手に僕は思考が止まる。

 修行の前に正さんが言っていたのは、

「俺が相手をするといくら加減をしても、最悪命に係わる、それに少し気になることがあってな、お前にうってつけの相手を用意しといてやる」

ということだった。

 で、やって来たのが

「いつもこんな過酷な状況で修行をしていたのね。久しぶりに腕がなるわ」

流れるような長い黒髪を後ろで束ね、袴姿で襷を巻き、手には5尺ほどの棒を持った葵さんがいた。

 袴姿も綺麗だなーと見つめていたが、そこで僕にとってショックな事実を知ってしまった。

 僕が1.5倍でも立ち上がることさえ苦労したのに、葵さんはいきなり2.5倍の重力を浴びながらも、然程苦労しているように見えなかったなかったのだ……

 僕は女の人より軟弱だったのか……

 自覚はしていたが、現実を目の前に突きつけられるとショックが隠せない。

「どう驚いた?私が御相手するわ。これでも薙刀術を得意としているの」

見惚れる程の美しい笑顔でそう宣言すると、地面を蹴り、すでに目前に迫っていた。

 対応が遅れ、既に棒の鋒は喉元につけられていた。

「油断しちゃダメよ。さあ次いくわよ」

以降に何度も稽古をつけてもらったが、一回も一本を取ることが出来ず、さらなるショックを受けるのだった。




後二、三話で本編に戻ると思います。
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