自動人形〈オートマトン〉と生きる第二の人生   作:寅好き

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夏休みの終焉

 風を斬るように放たれる斬激を黒刀『烏アゲハ』で全て受け流していく。

 今までであればそのスピードについていけなかったのだろうが、これまでの修行でこんなスピードではない容赦ない突きを受けてきたので、かわすのも雑作もなかった。

 ただ、今はそれ以上に気になることが―――

「始まったみたいだねえ。君のお仲間さんの大掃除がよお!!」

「!!」

組の皆、頭、小夜子さん、正さん、そして葵さんの顔が脳裏を掠める。

「気がそれちょったかなあ~」

「くっ」

身を傾けてかわそうとするが、かわしきれず、ナイフが頬を掠める。

「はっ!」

「ザ~ンネン」

返す刀で切り上げるが、すでに相手はバックステップを踏み、間合いを広げていた。

「こんなところで時間をくっていられないのに…」

嫌な予感と皆の顔が浮かび戦いに集中できない。

「こうなったら呪文で……えっ!?」

目の前の光景が揺らぎ、立っていられず、方膝を地面につく。

「おやおや~、どうしたのかなあ」

目の前の男の口角が満月のようにつり上がる。

 まるで苦しむ僕を見て楽しむかのように。

 まさか…毒!

「気づいたみたいだねえ。そうさ速効性の毒なんだ~。素人さんにはキツかったみたいだね~」

ニヤニヤと虫酸が走る笑顔を浮かべ見下したような視線を向けて、ゆっくりと近づいてくる。

「隙ありーってところか」

「まあね。でも俺には一回の隙だけでいいんだけどね~」

 ただその足取りには余裕に満ち溢れ、安心しきったものだ。

 もう負けることはないと思っているのか。

目には目を卑怯には卑怯をだ。その余裕を利用させてもらう。

「死なない程度にあそんであげるね~いつも殺す時が一番ぞくぞくするんだけど、今日は殺しちゃいけないみたいだからさあ」

愉悦を含んだ笑み。

この快楽殺人者が。

一歩ずつ、一歩ずつ、やはり足音をたてることなく近づいてくる。

 あと三歩、二歩、一歩――入った。

「はっ!!」

「なに!!」

膝をついている側の足で地面をけり、相手の懐に入り込み、刀を逆袈裟に切り上げる。

 刀が黒き一筋の剣閃を残し、相手の体からは黒い輪分が吹き出した。

「なぜ動ける…」

依然として体からは黒い輪分のように魔力へと強制的に変えられた血液があふれ、地面に崩れ落ちる。

 もうその表情には余裕など欠片もなく、驚きと、恐怖――『死』への恐怖に怯え、ひきつり空虚な笑みを浮かべている。

「簡単なことだよ。呪文で解毒した。それだけだよ」

会話の中に解毒の呪文『キアリー』を交ぜたことにより、相手の余裕という名の隙をつけたのだ。

「お前達の目的はなんだ」

今は一時でも時間は惜しい。

 しかし、僕は聞いておかなくてはいけなかった。

 僕の足止めをなぜ目的としたのか。

 なぜ、皆が襲われなくてはならないのか。

 情報が絶対的に欠如していたのだから。

「助けてくれ、助けてくれ」

「安らぎは与えてやる」

「言う。お前を殺さないのは、お前から奪った自動人形にいうことを聞かせるため。お前以外を排除するのは、お前が他人と手を組み我々に逆らう力をもたせないためだ。だからお前が誰かと関わりを持てば、その関わりを持った者はこれからも排除されるということだ」

そんな……では僕のせいで皆は襲われているのか……

「クソッ」

絶望だけでなく、心の底からどす黒い、闇のようなものが沸き上がってくる。

「た…助けてくれ…」

「ああ、安らぎを与えてやるよ。お前が今まで他者に与えてきたようにな」

僕は手を天に掲げる。

「メラミ」

掲げた手のひらに浮かび上がった多大な熱量を持った火球を降り下ろした。

「えっ。グギャアアァァァアア!!」

火球は快楽殺人者を呑み込み、巨大な火柱となった。

 断末魔が消え、灰となると同時に僕は……人の命を奪うという、人間の最大の禁忌殺人を犯していた。

 もう戻れない道に踏み込んでしまった。

 それなのに、自分でも驚くべきことに、なんの感情も起こらなかった。

 覚悟をしていたからか、いや違うだろう。

 ただ怒りに任せて何も考えずに殺していたのだから。

 でもこれでいいのかもしれない。

 感情がなければ苦しむことはない。

 だってこれから、皆を救うためにさらに人を殺しにいくのだから。

「ルーラ」

青々とした自然の風景とは対照的な、真っ赤に燃え盛る光景と、夏の暑さとは違うやけつくような熱が辺りを支配していた。

 僕の安らぐ居場所となっていたところが、火の海と化していた。

「そんな…」

それだけじゃない、そこらじゅうに見知った顔の亡骸や、敵であった者の躯が転がっている。

 もうそこには、僕の見知った八頭龍組は存在しなかった。

 目の前がぼやける。

 気づかないうちに頬を涙が伝っていた。

 でも、まだ絶望するわけにはいかない!

「まだ生きている人を助けるために」

 僕は涙を振り切り走り出す。

「零夜ー!」

「じいちゃん」

後ろから呼ばれる声に振り返ると、血が滴る抜き身の亀甲刀を持ったじいちゃんが走ってきた。

 その顔には安堵の色が読み取れた。

「どこに行っていたんじゃ」

「足止めをくらって」

「なぜじゃ?今日襲ってきたのは、以前の抗争で打ちもらした奴等のはずじゃ。ええい、関係ない。いくぞ零夜」

「うん」

じいちゃんの呟きには、疑問に感じることが多分にあったが、聞いている時間さえ惜しかった。

「皆強いはずなのに、なんでこんなに被害が?」

走りながら聞く。

「朝食に出された食事に体が痺れる毒が入っていてな、症状が出るとほぼ同時に襲われたんじゃ」

「そうか……」

多分、いや確実にヤツが運んできた野菜に毒を混入させたのだろう。

 この事態にも僕の失態が……

「来るぞ零夜!」

「………」

前から襲いかかってくる、男達を、躊躇することなく斬り倒す。

 悲鳴と共に腕が、首が飛び、黒い血液だった魔力が顔を染めても、なぜか他人事のように冷静でいられた。

「零夜……お前……」

「行こうじいちゃん」

「あ…ああ……」

じいちゃんには戸惑いが見えるが、今は気にしている余裕はない。

 それからも、降りかかる火の粉のように、襲いかかってくる者を、切り飛ばしながら先を進む。

 しかし、その先で血の気がひき、冷静さが吹き飛ぶ光景が……

 四方八方から、つき出された凶刃を浴び、血液を散らす正さんと、拘束された葵さんの姿が。

「ぐふっ、こ…これでいいだろ……お…お嬢を……離せ」

「ああ、それでいい離してやろう」

「い、イヤアアアァァァ」

吐血しながらも、葵さんを思いやり言葉を発する正さんと、それを見て泣き叫ぶ葵さんの姿が。

「ま、正さん!!」

「れ…零夜か…俺のことはもういい!お嬢を頼む!!」

正さんに走りよろうとする僕をさらに吐血しながら、制止する。

ただその口調、瞳には優しさが感じられた。

「うおおお!!」

正さんは僕に向かおうとする4人の内の二人の頭を掴み、地面に叩きつけた。

最後の力で二人を葬った正さんは力尽き、地面に倒れこんだ。

 死ぬことなど絶対にないと思っていた、正さんの『死』だが、今は悲しんでいい時ではない。

それを空虚な瞳で見届けた男が徐に剣を抜き振り上げた。

「さあ、お前も死ね」

「や、やめてくれえええ!!」

葵さんを解放した男がなんの感情もないような無表情な顔で、剣を降り下ろした。

 燃え盛る炎に重なるように、切り裂かれた葵さんの背中からは、まるで噴水のように赤い血液を撒き散らした。

「うわああぁぁあ!!」

僕は一心不乱に走り出した、崩れ落ちる葵さんに向かい。

「邪魔だ、どけーーー!」

迫りくる男は正さんの血液に濡れた槍を突きだす。

僕はそれを紙一重でかわし、柄を掴み、引寄せ、顔面に刀を突き立てる、男は痙攣したようにピクピクし事切れた。

 そのまま刀を引き抜き、さらに横から迫る男に死んだ男を蹴り叩きつけ、崩れ落ちる葵さんを抱き止めた。

「大丈夫、大丈夫、葵さん。今から治療するから」

「零君?」

「そうだよ。もう喋らないで」

僕は『ベホイミ』を唱えるが、傷が深すぎて出血がとまらない。

 ただでさえ、先程の出血て大量の血液を失っているのに、このままじゃ……

「泣き虫ね……そんな…零君を残して…お姉さん…死ねない…じゃない」

葵さんは僕の頬に血にまみれた手を当てて、涙を流しなから微かに微笑んだ。

 その手からは、確実に温かさがなくなり命の灯火が弱まっているのが現実として感じさせられた。

 そして視線を僕の後ろに反らし続けた。

「先生……私…まだ…死ねません……お母さんと…同じように……してください」

僕の後ろにいるじいちゃんに懇願するように話した。

「いいのか。本当に……」

「はい…お願いします」

「……分かった……」

じいちゃんは苦痛に歪んだ険しい表情で葵さんを抱き上げると

「零夜。あいつらの処分は任せた」

一言告げ、走り出した。

「分かった。全員あの世に送ってやる」

僕が視線を向けると、そこには更にどこからか集結した男達が十人ほど集まっていた。

「退いてくれないか。君は殺してはいけないと言われている」

葵さんを斬った男がリーダーで、こいつも僕に関係があったようだ。

 だがもう関係ない。

 僕は腕をあげ、手のひらを男達に向けた。

 頭に呪文が浮かぶ。

 僕はそれを呟いた。

「ベギラゴン」

手のひらから、網膜をも焼き付くす程の暴力的な光が迸る。

極大閃熱呪文、ギラ系最上級呪文『ベギラゴン』

 閃光が辺りを過ぎ去ると、回りの燃え盛っていた炎も消え、辺り一面焦土と化していた。

「たった一言の言霊でこれほどの力とは…」

「一匹逃がしたか。ルーラ」

僕は呪文の負荷で焼け焦げた右手を見つめながらも、誰も逃がす気はないので、男の後ろに転移し、背中を踏みつけた。

「いったいいくつの魔術を…まあいい。殺せ」

命乞いすらしないか

男の瞳は変わらず何も写してはいない空虚なものだった。

 死を恐れないか…ならば

「人が一番痛覚を刺激されるのは電撃らしいよ」

「それがどうかしたか」

「うん、苦しんで死んでほしいから。ライデイン」

僕は呪文を唱えた。

 しかし、呪文は発動しなかった。

 それどころか、僕の手のひらからは青白い雷が。

 そうか、そういうことか…もう僕は勇者ではないか…ただの殺人鬼だもんね。

「ドルクマ」

空間に開いた黒い穴から、青黒い地獄の雷が、まるで生者を求める亡者の手のように男に這いより侵食する。

 男は、無表情だった顔を初めて変え、ひきつらせ、世にもおぞましい表情で引き付けを起こしたようにひくひくと微かに動く。

 体のさきから風化したように、崩れさっていく。

 体が消え去る最後まで、男の表情は苦痛に歪んでいた。

ドルクマとは、ドルマ系中級呪文。

 ドルマ系とは地獄の雷を呼び寄せ攻撃する呪文で、敵の体だけでなく、相手の魂までも破壊する呪文である。

 その地獄のような時が僕の夏休みの最後の日だった。

 僕はその後、皆の墓を作り、そして、学院に『ルーラ』を繰り返し、帰りついたのだった。




次回から本編(小説8巻)に戻ります。
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