窓から飛び出した雷真に追い付くと、マグナスを一方的に睨み付けている。
マグナスとは〈十三人(ラウンズ)〉の一人ではあるが、技術も魔力もずば抜けており、総合成績も歴代一位という夜会での優勝候補の筆頭である。
現時点で、〈魔王〉に一番近い所にいるものである。
そして、なぜ雷真がマグナスを見た瞬間血相を変えて向かって行ったのか、それにも深い理由がある。
雷真の両親、妹、そして同門の赤羽一門は全て、雷真の兄『赤羽天全』に殺されている。
そして、その『赤羽天全』こそがマグナスと目されているためである。
ただ、傍目に見ると、六人のゴスロリの少女(火垂 玉虫 鎌切 姫蜘蛛 蜻蛉 蜜蜂)を引き連れた、青年であり、どうもロ〇コンにしか見えないとも言える。
アニメではロ〇キューブなどでいわゆるロ〇コン的な物を見てきてあまり変には感じなかったが、さすがに現実に実物を見せられるとかなりの違和感を感じる。
しかも、仮面被ってるし(変態っぽい)。
現実世界だったら職質どころじゃすまないだろう、いや僕にとってはこの世界は現実なんだが…。
とか色々考えてはいたが、僕は集中して彼らの動向を凝視している。
六人の少女が可愛いからとかいう理由ではもちろんない。
これからここで起こることが分かっているからだ。
雷真がマグナスに突っかかりながら、懐に手を入れた時であった。
マグナスの回りにいた六人の少女が二重、三重にぶれて見えた瞬間、マグナスのもとから姿が消え、雷真を取り囲んで各々自分の得物を雷真に突き付けている状態になっていた。
さすが、六体の自動人形で戦艦を数隻落とせるというだけのものはある。
僕は唖然としながらも小声で隣の十六夜に問う。
「僕は集中して見ていたけど全く見えなかったよ。十六夜は見えた?」
「問題ありませんでした」
無表情でいう十六夜に安心しながら更に僕は確信に迫る問いかけをする。
「十六夜なら何人まで相手できる?」
少し意地悪な質問でもあるが、この問にも無表情で返す。
「今の状態であれば零夜を守りながらなら2、3人にまでなら問題ないと思います。それ以上になると今のままではきついですね」
やはり十六夜ほどの戦闘力を持ってしても、マグナスはかなりの強敵であることを確信した。
囲まれた雷真が何かの小さな壺をマグナスに手渡し、その場は終着した。
僕は先ほどのやり取りでついた雷真の首もとの傷を『ホイミ』で癒していると、後ろから何者かに声を掛けられる。
雷真と僕が振り返ると、爽やかな笑顔を浮かべたいわゆる美男子が立っていた。
モヤシに近い僕が言うのもなんだが、彼は線が細く、少女にすら見える。
また声もよく響き、弦楽器のように美しい声色である。
手もとに視線を移すと夜会に参加する者の証となる白い絹の手袋をしている。
そう彼こそこの学院でも絶大な権力を有する風紀委員長『フェリクス』であった。
友好的な笑顔を浮かべながらやって来て、
「二人とも時間をもらえるかな?」
と問いかけてきたが、僕はぶっちゃけ彼の内面を(ラノベ本編で)知っており、流れも同様に知っているので、丁重に断りをいれて宿舎に帰っていった。
自室で布団に横になっていると、十六夜が近づいてくる。
「零夜はなぜ彼の誘いにのらなかったのですか?以前聞いた話では彼の話に乗っておいた方が良いような気もしたんですが」
「うん、最初はそうしようかとも、思ったんだけど、僕はできれば被害者を減らしたいと思う。全てを解決するのは彼らだけど、そうすると僕は裏方に回りたいと思ってて」
僕がそう話すと、十六夜はふっと口元を緩めて
「零夜がそういうのなら」
と了承してくれた。
ただその今まで見たことがない十六夜の表情は、あまりにも可愛くて、いたたまれない気持ちになったのは言うまでもない。
そういうことで悶々としながら夜を過ごすことになった。
翌日昨夜悶々として眠れなかったために、恐ろしい睡魔に襲われていた。
ただし、今の講義はそんな睡魔など裸足で逃げ出しそうなほど恐ろしいキンバリー教授が担当のものであり、夜会に出場するためにも重要な時期であるのは間違いないので、奥の手を出すことにした。
眠りに落ちそうな意識をなんとか維持し呪文を唱える
「ザメハ」
僕の中の睡魔は速やかに撤退し、講義もなんとかやり過ごした。
まさか、あの女性(女神様)もこのように呪文を使われているとは思いもよらないだろう。
だが使えるものは使わないと。
まあ、前までは『ザメハ』がこんなに使える呪文だとは思いもよらなかった。
ドラクエ本編でさえ一度も使ったことがなかったのに、この世ではかなり役にたってもらっている。
『ザメハ』でさえこれなら早く、早く『レムオル』や『モシャス』が欲しいとつくづく思っていると、その歪んだ欲望を読んだのか、十六夜がこちらを少し軽蔑するかのようにジト目で見ていたので、
「食堂へ行こう」
と急いで教室を出ようとした時だった。
ちょうど出口間際で窓から中庭をじっと見つめているシャルがいるのに気づいた。
前までは気づかれないようにソローっと逃げるところだが今は少し慣れてきたので声をかけて見ることにした。少し冗談を交えて。
「こんにちは、何を見ているの恋する乙女のような顔して」
「な、な、何を言っているのよ」
いきなり声をかけられて驚いたのか、はたまた恋するフェリクスを見ていたことをばれたと思い焦ったのか、どもりながら声をあらげる。
僕はしっやったと初めて勝った気でいると、目の前には以前と同様に般若のような顔をしたシャルが。
(しまったからかい過ぎたか)
と思ったときにはもう遅く追いかけられる展開になっていた。
シャルの足が速いのか、はたまた僕の足が遅いのか、一歩また一歩と距離が詰められ、襟首を捕まれると思ったときだった。
外から女子生徒の悲鳴が辺りに響き渡る。
その悲鳴を聞いた瞬間シャルの表情は変わり
「行ってみましょう」
というので、シャルに続いてついていくと、技術科裏の木立の物影に人だかりができている。
なかなか見えないのだが、隙間から覗いて見ると、自動人形の亡骸が転がっていた。
現実に見るとさすがにショックは大きかった。
「百聞は一見にしかず」を実感した時だった。