自動人形〈オートマトン〉と生きる第二の人生   作:寅好き

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新たな始まり、吹き荒れる雷真騒動

 何を履修しようか迷っていた、あの日から約5日たった。

 二学期の講義も始まり始め、〈夜会〉もほぼ苦戦することなく勝利し続け、いたって変わりなく、平穏な日々が過ぎていた。

 しかしながら、証拠も何もない、本当に漠然としたものなのだが、嫌な気配を感じ始めていた。

 少しずつ不穏な空気が迫ってくるような感じがひしひしとしていた……

 そして、その日の朝、動きが現れた。

「おはよう、翁、姉さん」

「おうおはよう零夜」

「おはよう零君」

最初に学院に来た時は、朝に強くなく、早起きが本当に大変だった。

 しかし、夏休みの八頭龍組での朝の支度などで早起きが、習慣になり、然程苦労せず起きられるようになっていた。

「零君、雷真君って友達だったよね」

「………まあね」

「彼、大変なことになってるよ」

葵姉さんは、読んでいた新聞を「ここ読んでみて」と指さして、手渡してくれる。

「ありがとう」と僕は姉さんから新聞を受け取り、見てみる。

『ヴァルプルギス新聞』どうやら、学内新聞らしい、どれどれと見てみると、

『祝☆オルガ·サラディーン嬢ご婚約!お相手は、日本からの留学生、ライシン·アカバネ……』

オルガ嬢の話『彼はとても情熱的なんだ。朝も、そしてもちろん夜も』

こ、これは、荒れるな。

 まあ、もちろんこのようなネタは信じることなど更々ないが、しかしながら、今日の学院、主に講義は荒れるだろうなと、深いため息と共に憂鬱な気分になった。

「おお、おお、盛んじゃのう」

いつの間にか、背後にいた翁が新聞を覗き込んで感想を言う。

「ワシも早く曾孫の顔を見たいのお」

「………」

「………」

とんでもない爆弾を投下された。

「どうしたんじゃ二人とも。顔を真っ赤にして」

「い、行ってくる」

「い、行ってらっしゃい」

ニヤニヤしながら斬り込んでくる翁をなんとか無視して、部屋を後にした。

 やはりと言えばいいのだろうか、学生に向かうメインストリートでも、あの噂でもちきりであった。

 もちろんのことだが、学院内でも。

 そして、一番の懸案事項だったものが、悪い方向で想像通りになってしまった……。

「ギャーーー!!」

「次!!早くかかってこい!!」

たった剣の一振りで、生徒がまるで爆風に吹き飛ばされた枯れ葉のように吹き飛んでいく。

 すでに、受講生はほぼ全滅である。

 受講生相手に、まるで八つ当たりのように暴れ回っているのは、グリゼルダ教授であった。

 白兵戦の講義。

 人気であった通り、運よく受講できた生徒が最初は50人いた。

 しかし、あまりにも講義内容が凶悪(グリゼルダ教授相手に戦いを繰り広げる)であり、三回目の講義ですでに、半数以上が逃げたり、クルーエルの病室送りになり、いなくなっていた。

 そして、今日、残っていた生徒全て殉職し、残りは僕だけになっていた。

 グリゼルダ教授がバーサーカーとなる原因となった当の本人、赤羽雷真はこの講義を受けていなかった。幸か不幸か…

「だらしない受講生ばかりだ。さあ最後の一人かかってこい」

正直逃げ出したい。

全力でいってもどうせ手も足もでないのだから。

「来ないならこちらからいくぞ」

怒気を撒き散らしながらこちらに向かってくる。

 今までに感じたことの内容なプレッシャー。

 立っていられない程の圧力。

 何もせずに死ぬ訳にはいかない。足掻いてやる。

「スピオキルト」

攻撃力、守備力、スピードを、限界まで底上げする呪文。

呪文発動と同時に体の底から力が溢れてくる。

「行きます!」 

「来い!!」

圧倒的だった。

演習場はまるで、近代兵器での戦争があったかのように、荒廃し、見る影もなくなっていた…。

今思い出しても、恐怖で体の震えが止まらない。

全力+ステータス底上げ、それらを合わせても、全く歯が立たなかった。

 辛うじて、保健室送りにならなかったことだけが幸いだったぐらいだ。

 魔王の恐ろしさを身をもって感じたのだった。

 いい経験?だったのだろうか……

―――――

「いたたたた……体がボロボロだ」

僕は、体を引きずるようにして、回復呪文を唱えながら歩いていた。

 日は傾き、メインストリートも人は疎らだった。

 ふと前を見ると、見覚えがある、青い着物を着た、女性がまるで幽霊のように、フラフラと歩いている。

 大丈夫かな。

と思って見ていると、何もない所で、躓いた。

「ハァ、大丈夫?」

僕は躓いたのと同時に走りより、体を抱き支えた。

「どなたか存じ上げませんが、ありがとうございますって……零夜殿!?」

「あ、あれいろりさん!?」

フラフラ歩いていたのはいろりだった。

 顔は、何があったのかは分からないが、蒼白であった。

「顔色が悪いよ真っ青だよ。何かあった?」

「どうかお気遣いなく、もとより私は青白い女でごさいます。それはもう、死人のように……フフフフ」

俯き悲しそうに呟く。

 いったい何があったんだ。

かなり危ない状態じゃないか。

 このままにしておく訳にもいかないということで。

「失礼します」

「えっ!えっ!えっ!れ、零夜殿!何を!?」

全く動かないいろりを抱き抱える。

所謂お姫様抱っこして近くのベンチに連れていく。

 青白かった顔色も熱をもったからか、少し改善されていた。

「いきなりびっくりしましたよ」

「すまない。ベンチの方が落ち着けるかなと思って。いろりさん全く動かないし」

「す、すいません……しかし、零夜殿は、雰囲気も出で立ちも変わりましたね」

いろりがこちらをゆっくり向きながら話す。

 先程の危ない状態からは脱したようだ。

「まあ、色々あったからね。この着流しは、前に着物と袴を履いた女学生がいたからそれに倣っただけだよ」

「そうなんですか」

上から下までまじまじと見ながらいろりは呟いた。

 で、本題に移る。

「話したくないなら構わないんだが、いったい何があったんだ?」

いろりは思い出したかのように、また暗い表情に戻った。

 無理して忘れていたのかも、不味いことをしたか……

 しばらく悩んでいたいろりだが、決心したのか、重い口を開いた。

「雷真殿が……ご婚約なさったのです」

いろりは豊満な懐から一枚の紙を取りだし渡してくる。

 ヒンヤリしている、これがいろりのぬくもりか…少し感慨深い気持ちをもちながらも、気を取り直して真剣に答える。

「ああ、これか。どうせデマだろう」

「私も初めはそう思いました………しかし、先程雷真殿に直接尋ねたら……」

いろりの瞳孔が開き、どす黒いオーラが体から迸り始め、いろりから膨大な冷気が迸り、辺り一面が凍り付く。

「…ご婚約なさったと……」

地面から巨大で鋭く尖った氷柱が無数につきだす。

まるで傷つきささくれだったいろりの心を表すようだ。

 瞬く間に、存在するもの全てが、凍結し、至るところから鋭く尖った氷柱がつきだしている、白く輝く極寒の世界が創造されていた。

 このままじゃ学院全てが凍結する!

 なんとかしないと。

「この婚約は偽物だろう」

「なぜそう思うのですか?」

いまだに瞳は深い闇を湛えている。

「雷真とオルガはほとんどかかわり合いはないはずだ。なんたって雷真はずっと病室に籠っていたんだ。オルガと親密になるどころか、面識をもつさえないだろう。まあオルガだけが知ることはあるかもしれないが」

「しかし」

「さらに言えば、政略結婚もないだろう。確かに日本では、赤羽は有名だが、もう絶えてしまい、名は落ちた。まったく旨味はないだろう。それが、カニバルキャンディー事件を解決した英雄だとしても。学生総代のオルガならば大層なご子息で〈十三人(ラウンズ)〉辺りのお相手がいてもおかしくない」

「そ、そうですよね」

いろりの瞳に僅ながら光が戻ってきた。

 あと一押しだ。

「雷真のことだ。また何かしら事件に巻き込まれたかなんかして、芝居にお付き合いしているだけだろう。敵を欺くならまず味方からってね。だから、大丈夫だよいろりさん」

僕は笑っていろりに語りかけながら、頭を撫でた。

「れ、零夜殿!?」

「ご、ごめん。嫌だったよね」

かわいらしいいろりに我慢できず、ついつい頭を撫でてしまった。

 かなり痛い行動じゃないかーー!滅茶苦茶恥ずかしい。

「い、いえ。構いません」

雪のように白い肌を顔だけでなく、耳まで真っ赤に染めて、頭を向けてくる。

 撫でてほしいのか。

 しばらく、ヒンヤリして、絹のようにさわり心地の良い髪と頭を撫でていた。

「今日はありがとうございました」

「どういたしまして。落ち着いた?」

「はい。落ち着きました」

目にもしっかりと光が戻っている。

 本当に大丈夫そうだ。

「送っていこうか?」

「い、いえお構い無く。も、もう大丈夫です。またお礼をいつか」

いろりは再び雪のように白い肌を赤らめて、頭を下げて、帰っていった。

「ずいぶん優しかったじゃない」

「説教キャラは嫌われるぞ」

「えっ!?いったいいつから」

いつの間にか背後に翁と葵姉さんがにこやかに立っていた。

「「雰囲気がかわりましたね」辺りからかしら」

かなり最初からいらっしゃったらしい。

「良いのかあのように親しくして?」

「大丈夫だろう。いろりさんは」

「自動人形だから?」

問いかけるかのように疑問調に姉さんが答える。

「そうだよ。あいつらは人間の絆というものを恐れている。こういったらいけないが、自動人形ならば気にしないだろう」

「そうじゃな。ワシは本気で殺しには来なかったし、ワシをお前に渡したのも奴らじゃしな」

僕は肯首した。

「では帰るかの?」

「僕はこれから行くところがあるから」

「女のところじゃろ」

ニヤニヤしながら翁は尋ねてくる。

「ま、まさか、そんなことないわよね」

肯定はさせない!といった感じで姉さんが迫って聞いてくる。

何を焦っているんだ?

「まあ女性の所ではあるけど、不純な目的ではないよ。気になるならついてきて」

僕は薄暗くなったメインストリートを歩き出した。

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