自動人形〈オートマトン〉と生きる第二の人生   作:寅好き

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シャルの災難

 日が落ちたメインストリート。

 〈夜会〉にまでは時間があり、普段ならあまり人がいないはずであるのに、今回は違った。

 あわただしく走り回る警備員。

 ただ、以前見た警備員とは少し身なりが変わっている。

 学生の礼服から装飾を取り去り、実用を高めたような戦闘服のような体裁。

 カラーリングも普段は白いのだが、その戦闘服は青を基調としている。

 雰囲気も、物々しく、漂わせている気配が違う。

 一般的な警備員とは一線をかくした者に見える。

 また、ヘイムガーダーを連れていることから何かを追っていることは分かる。

「何かあったのかしら」

「分からないが、あまり関わりたくはないな」

「そうね」

以降も目的の教授棟に着くまで、何度か同様の光景を見かけた。

 静寂に包まれ、重々しい空気をもった教授棟を歩く。

 そして、目的の部屋にやって来た。

 扉を三度ノックをする。

「今行きます」

中から返事が聞こえ、すぐに扉が開かれる。

「どなたですか?あ、零夜さん」

「えっ!零夜!?」

「今シャルのような声が聞こえた気がしたが。まあいい。キンバリー教授はいらっしゃるかな?」

アンリの後に室内から、シャルの声が聞こえた気がした。

 下手をすると最近見かけないシャルを求めての幻聴だったのかも…

どこまで僕は未練がましいんだ。

 自分に辟易しながら、目的の教授がいるか聞いてみる。

「零夜さん今までどこに行っていたんですか。探していたんですよ」

「そうなのか?で教授は?」

「来てください」

「ちょ、ちょっと…」

アンリは僕の質問に全く答えることなく、手を掴み、室内に引き入れる。

 アンリの目にはすがるような色が見てとれたので、何か悩んでいることがあるのだろうと、従うことにした。

「姉さん。零夜さんが見つかりましたよ」

「ちょ、ちょっとアンリ!こんな姿で零夜に会えるはずがないじゃない!!」

幻聴ではなかったようだが、シャルの姿はそこにはなかった。

「シャルはいったいどこに?」

「姉さん隠れてないで出てきてください」

「いや、嫌よ。アンリ」

アンリが籠の影から何かを持ってきた。

 不思議なことに、アンリの手の中からシャルの声が聞こえる。

 そして、アンリは僕に手を向け、手を開く。

「えっ……!?人形?」

目の前に出されたのはリボンのような物を巻き付けた、人形のようなものだった。

「ちょっと見ないでよ!変態!」

「姉さんです……」

「えーーーー!!」

 僕やついてきた翁、葵姉さんの驚きが一旦収まった所で事情をアンリが話した。

 どうやら、シャルは何らかの魔術か呪いかで、小さくされてしまったらしい。

 それを解くために、雷真やキンバリー教授が苦心しているらしいが、なかなか苦戦しているらしい。

「そうか…そんなことが…」

「珍しい症状じゃのう」

「一寸法師みたい」

僕たちが一様に感想を述べている時に、シャルは

「こんな姿を零夜に見られた…もうお嫁にいけない…」

と呟きながら、頭を抱えていた。

「で、シャルは魔術によって小さくなったの、それとも呪い?」

僕は聞いてみる。

 魔術と呪い、どちらかによって対処法が異なるからだ。

「私が答えよう」

パサパサと羽音をたてて、シグムントがやって来て、続ける。

「どうやら呪いのようだ。私を媒介にしてシャルは呪いにかけられたのだ……」

シグムントの声は弱々しかった。

 その話から察するに、シグムントは責任を感じているのだろう。

 シャルの保護者的な立場の自分が、守らなくてはならないのに、逆に呪いをかけてしまったと、自責の念を抱えているようだ。。

「呪いか…解呪できると思う。あまり期待してほしくはないが」

僕の頭の中に一つの答えが導き出された。

「本当か」

「本当ですか」

「う、うん、落ち着いて」

目の前に迫ってくるシグムントとアンリを落ち着かせる。

「すまない」

「すいません」

二人が謝っていると、扉が開かれる。

「私が不在の間に千客万来だな」

部屋の主、キンバリー教授が険しい表情でそこに立っていた。

「〈一匹狼〉と……その老人はまさか…」

「前話した通り―――」

「零夜の祖父。いや地竜と言ったほうがよいかな」

僕の前に一歩出て自己紹介をする。

「そうか…貴方があの花柳斎殿と比肩するという……」

「いや、今はただの自動人形じゃよ。お主もただの教授ではなさそうじゃのう」

「ええと、いいですか?」

周りを放っておいて、そのまま長話に入りそうな気配が漂っていたので、間に割って入る。

 保護者と教師は、どの世界でも長話をするのが世の常のようである。

「なんだ〈一匹狼〉。あの件についてか」

「ええ、そのつもりできたのですが…その前にシャルの呪いを解けると思うので」

「それは本当か」

キンバリー教授の鋭い瞳が光った気がした。

「は…はい」

「面白い。見せてもらおう」

キンバリー教授は楽しそうに呟いた。

 根っからの魔術師らしい。

 僕はシャルに近づき、そして徐に、腰に挿した刀を抜き、帯を解く。

「「えっ!?えっ!?えーーーー!?何してるのよーー!?」」

シャルの叫び声と葵姉さんの慌てた声がハモる。

「それは―――」

「簡単じゃ」

僕の答えを妨害するように翁が悪魔の微笑みを浮かべて答え始める。

「お嬢ちゃんの呪いを解いた礼として、体で払ってもらうために、用意しておくのじゃろう。ワシが曾孫の顔が見たいと言っていたのを、覚えていてくれたのじゃろう。嬉しいのう」

室内の時間が止まった気がした。

 そして、瞬時に凍りつく。

「えーーーー!?ダメよ、こんなところで!そんな、まだ心の準備が!!」

シャルが真っ赤になった顔を手で覆い隠し悶え始め

「零君!お姉さんとすこーーーし、お·は·な·ししようか」

晴れ渡るような笑顔を浮かべていながら、体からはその真逆なおぞましい闇のオーラを纏った葵姉さんが立ちはだかり、

「零夜さん……いい人だと思ったのに……やっぱり他の男と同じ獣で、変態でした。近寄らないでー!!」

アンリは穢らわしいものを見るような目で、冷たく睨み付けてくる。

「ち、違うんだ。そんな気は更々ない。別の意味があるんだ」

僕は皆を手で制す。

「それに、僕は、そんなふざけた真似はしない。そういうことは、本当に思い合った人と、気持ちが通じあってからしかしない!信じてくれ!」

逃げることなく僕は真剣に訴えた。

 下手に言い訳したり、逃げて痛い目にあっている雷真を見ているので、僕は誠意を見せることで対処しようとした。

 僕は三人から目を反らすことなく、真剣に見つめた。

 そして、やっと信じてくれたみたいだ。

「そ、そうよね。私は零夜はそういう人だって知っていたわよ」

本当にすると思って悶えていたくせに。

「まあ、今回は信じてあげるわ」

今回だけか……まあ死だけは回避できたことでよしとしよう。

「私は零夜さんを信じていましたよ」

嘘だろ!思いっきり逃げてたじゃないか!

それぞれに突っ込みたいことはあったが、まあよしとしよう。

 そんな騒動を引き起こした張本人と、キンバリー教授は嫌らしくニヤニヤと笑っていた。

 許すまじ。

「はぁ……」

僕は着流しを脱ぎ、右手に持ち、左手をシャルに向けた。

「シャナク」

解呪の呪文。

どのような種類の呪いも例外なく解く呪文である。

 僕の手から溢れた光が、シャルにふりかかり、シャルの体からはモヤモヤとした煙のようなものが浮き上がり、霧散する。

 そして、シャルの体が元の大きさに。

 僕はシャルから顔を反らしながら、右手に持った着流しを肩から羽織らせた。

「そういうことだったのね」

僕の様子を見て、葵姉さんはうんうんと頷きながら、感心するように呟いた。

「あ、ありがとう」

シャルは湯気が上りそうなほど真っ赤な顔をして、着流しに顔を埋めながら上目遣いで礼を言ってくる。

心なしか、瞳も潤んでいるように見える。

「もしかして、あんな格好(薄いりぼんを巻き付けた格好)をしてたから風邪ひいたんじゃない?」

あまりにも赤い顔をして、湯気まで出ているので心配になる。

「じっとしてて」

僕は、シャルの前髪を手でかき分ける。

 サラサラとした、上質な生糸のような感触と、仄かに甘い香りが鼻孔をくすぐる。

 そして、僕はシャルに顔を近づけた。

「!!!!」

「ウーーン。少し熱があるかな」

僕は、シャルのおでこから自分のおでこを放した。

 直後、シャルはばったりとその場に倒れた。

「やはり風邪をひいていたのか」

僕が近づいて、シャルを抱き起こそうとすると、

「いきなり姉さんにキスするなんて、獣近寄らないでください」

アンリがシャルを護るように立ちはだかる。

刹那、肩が恐ろしい力で押さえ込まれた。

 添えられた指は肩にめり込んでいる。

「やはり信じるんじゃなかった」

闇より深い漆黒を湛えた虚ろな瞳で葵姉さんが背後に立ち、肩に手を置いていた。

「えっえっえっ!?なんでなんだーーー!!」

僕の断末魔が室内に響き渡り、共に意識が刈り取られた。

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