自動人形〈オートマトン〉と生きる第二の人生   作:寅好き

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グリゼルダVSラザフォード

場の空気が凍りつく。

 ラザフォードから怒気を含んだ魔力が吹き荒れる。

 気を抜いたが最後、気を失いそうな程の圧迫感だ。

「何のつもりだね?せっかく得た学院の庇護を失ってもよいのかね?」

口調は相変わらず丁寧なのが尚更恐ろしい。

 しかし、グリゼルダ教授も全く恐れる素振りも見せず、淡々と言葉を宣言するかのように発する。

「買いかぶりだな。私はウェストン家のグリゼルダ!損得勘定なぞ、母の胎内に捨ててきた!!」

グリゼルダ教授から溢れ出た魔力が、ラザフォードの魔力と拮抗する。

 目の前で想像を超えた戦いが起こりそうな雰囲気に、恐怖心よりも、期待感が少し上回る。

 盗める物は盗まないと!

 期待感にうち震えていた時だった。

「このっ馬鹿弟子がーーーーッ!!」

轟音を放ちながら横凪ぎに振るわれた大剣が雷真の脇腹に叩き込まれ、雷真はピンポン玉のように吹き飛び、壁にぶつかった後に地面に転がった。

 ラザフォードに受けた攻撃より遥かに強力な攻撃である。

 あ~あ、雷真は死んでしまったか…合掌…

「貴様もだこのたわけが!!」

返す刃で振るわれる大剣。

「なんで僕まで…大防御」

交差に構えた僕の腕に大剣の峰がめり込み、僕も壁まで吹き飛ばされた。

 キンバリー教授に頼まれたことを実行しただけなのに……

「いきなり何しやがる!金剛力が間に合ってなかったら、今頃あの世に行ってたぞ!」

「黙れ!貴様等はいぬ死にするつもりだったのか!?貴様等には成すべきことがあるのだろう!」

グリゼルダ教授の言葉に、両親の顔や十六夜の顔が頭をよぎる。

僕が言葉に詰まっていると、雷真がポツリと弱々しく呟いた。

「…必ずあいつは倒す……それにアリスも助ける…」

「たわけが、何故貴様は私を頼らんのだ!」

「師匠」

いつの間にか僕はいないことになっているようだ。

 緊迫したはずのその場が、二人だけのなにやらふんわりとした空間と化している。

 すでに戦いへの期待感は消え失せていた。

今なら逃げられるかな?

 少し後退りした直後、ラザフォードの眉間に皺がより、魔本〈レメゲトン〉に指を這わせた。

「聞き捨てならんな。君達は本気で我々を敵に回す気か?」

謝れば許してもらえるのか!

「そんなつもりは甚だないが、教え子が驚異に曝されているのを放ってはおけん!例え相手がお前でも」

ですよねー…儚い希望だった……

緊迫した雰囲気がより緊迫したものに。

二人の稀代の魔術師が睨みあう。

 空間が歪んでいるのかと錯覚してしまうほどの圧倒的な力と力の対峙に僕は腹を決めるしかなかった。

 学院を辞めさせられる前に、得られるものは貪欲に求めてやる!

「貴様らは先に行け!私が時間を稼ぐ」

グリゼルダ教授も勝てないことを悟っているようだ。

「僕もここでお手伝いします」

「足手まといだ」

「足手まといにはならないつもりです。僕なら――学院長の防御結界を解除できます」

グリゼルダの眉がピクリと動く。

「それは本当か?学院長の魔術防壁は何物も寄せ付けないぞ」

「大丈夫です」

僕は言いきった。

ある意味切り札的な特技。

 歴代の大魔王や勇者が使用し、抜群に役にたつ特技を僕は有しているのだから。

「分かった。お前には手を貸してもらう。で、お前の後ろで姿を隠している二人はどうするつもりだ?」

「!!」

「驚くことはない。超一流の魔術師、私やあの狸爺となれば、看破することなど容易いことだ」

どうやらモシャスで変えていた僕の正体や、レムオルで姿を消していた翁や姉さんの姿も見えていたらしい。

「零夜よもう意味もないらしいし、呪文を解いてくれんか」

「分かった」

僕は二人にかかったレムオルを解く。

「お初にお目にかかる。まあ長話は後に回して、わしはもっとこの施設と自動人形を見たいのでな。先に行くつもりだ。道中ともに参ってもよいかの雷真君」

「あ、ああ…」

以前対峙したことが後を引いているのか歯切れが悪い答えどはあるが、肯定はしてくれたようだ。

「私も翁が心配だから着いて行くわ。それに零君のお友達がどんな人かも知っておきたいしね」

「分かった。では私が隙を作る。貴様等はその隙をついて突っ走れ!」

「だが…師匠は…」

雷真の表情が曇る。

当然ではある。策があるとはいえ戦うのはあの十九世紀最強の魔術師なのだ。心配になるのもおかしくはない。

 そんな雷真を見てグリゼルダは安心させるように笑顔を見せる。

「案ずるな。今の私には、これがある」

グリゼルダ教授が剣を放すと剣は空中で崩れ、機械人形に姿を変える。

「ほう、これはなかなかの代物だ。彼女の作ったもののようだな」

翁が感嘆するならこの自動人形も相当な物のようだ。

「雷真!これはケルビムじゃないですか!?」

言われて見れば、確かに似ている…

雷真も驚いたように見いる。

 大きさはケルビムと違い人間の少女位の大きさであり、女性的なフォルムである。

 装甲には繊細かつ美麗な彫刻が施され、美術品のようである。

 しかしながら、所々がケルビムに似かよっていた。

 驚いて見ていると、先ほど目の前に現れ僕たちを護ってくれた、白い光沢を放つ盾もやって来て、剣と同様に機械人形へと姿を変えた。

「この二体はサーバント·レプリカ。〈ミカエル〉型と〈ラファエル〉型だそうだ。私の知り合いの教授に試運転をしてくれと託されてな。間に合わせだが時間稼ぎくらいならできるだろう」

『間に合わせとは失礼な』

剣の機械人形が言葉を発した、しかも滑らかに。

 機械音のような言葉を発するケルビムとは大きく異なっている。

 たぶん技術力の差が顕著に現れた結果なんだろう。

「喋った!」

雷真、夜々、姉さんが同時に驚きを声にする。

 二体の機械人形はその様子を見て、口許に手をつけ笑うような様をとる。

『エロい視線を向けないでもらえるかしら。間抜け顔の坊や』

『言葉が過ぎましてよお姉さま。たしかに間抜けな顔をしていますが』

かなり毒舌だな…

雷真も唖然としている。

「見事なものだなミス·ウェストン」

「うむ。素晴らしいものじゃ」

ラザフォードと翁は共に称賛を送り、頷いている。

 年寄りどおし、かなり息があっているようにも見える。

 そしてラザフォードはふっと笑うと、

「たしかになかなかのものではあるが、果たしてその人形で、私の女神に敵うのかね?」

「試してみるか」

グリゼルダ教授から溢れ出した魔力が二体に送られる。

 二体は散開し、両側からラザフォードとイシュタルに迫る。

「まさかフラガラッハ!そんなバカな!」

滑るように移動する二体の動きにアリスが驚愕する。

 それもそのはず、二体の動きは、シンのそれと全く変わりがないからなのだから。

 イシュタルが放つ怨霊をあり得ない動きで容易にかわし、鋭い動きで間合いに瞬時に入りこみ、ブレードで斬り込んだ。

「させはせん!」

イシュタルの前に滑り込んだラザフォードが防御結界を使い金属音をならし、ブレードを弾き返す。

「エドよ、さらなる魔力をもて」

「ははっ仰せのままに!」

再び送られる膨大な魔力。

 まるで底が見えない。

 とんでもない相手を敵に回していることを痛感する。

 イシュタルは矛先を変え、グリゼルダ教授に怨霊を放った。

 しかし、あえなくその怨霊は盾の人形によって進路を阻まれ霧散した。

「想像以上だ。これもいけるのだろ」

グリゼルダ教授は笑みを浮かべると、地を蹴ることなく、宙を舞った、まるで舞空術である。

 それ自体には驚きはないが、その動きが、やはりシンと同様なことには衝撃を受ける。

 盾の人形が作り出した死角を使い、ラザフォードに肉薄する。

 その手には、剣の人形が姿を変えた美しい剣が。

 グリゼルダ教授から放たれた魔力が、赤い糸のように紡がれ、剣に直接魔力を送り、魔術回路を稼働させた。

 瞬間的に、最高速にまでスピードがはねあがり、ラザフォードに斬り込む。

 だが、ラザフォードもさるもので、再び防御結界を使用し、一撃を受け止めた。

 ただ、その一撃の衝撃までは殺すことはできない。

 ラザフォードの足が地にめり込み、粉塵を撒き散らしながら、クレーターを作り出した。

 粉塵の中から拍手が鳴り響く。

「見事だミス·ウェストン」

イシュタルと共に未だに晴れることがない粉塵の中から、浮上してくるラザフォード。

 どうやら二人は念動で宙に浮いているようだ。

 すでになんでもありである。

「手応えはあったはず。しかしまさか傷一つついてはいないとはな。さすが十九世紀最強の魔術師だ」

称えながらも、その表情はひきつっていた。

 桁外れの者同士の対峙。しかしながら、そこにも計り知れない大きな溝が存在していた。

「幾重にも物理防護を施したこの場をこれほど痛め付けるとは」

苦笑いを浮かべ溜め息を吐いたラザフォードに向かい、グリゼルダ教授は間髪入れず剣を放った。

 しかし、それも防御結界にはばまれ、拮抗し、火花を散らした。

「今しかこの男は突破できん。行け!」

グリゼルダ教授が叫んだ。

 雷真、アリス、夜々、翁、姉さんは走り出す。

 振り返ることもなく、一心不乱に。

 グリゼルダ教授の助けを無為にしないために。

「よいのかエド?小僧を見逃しても」

「構いませぬ。魔王すらも足止めに使うとは見事なものだ。私からの厚意だ。行くといい」

穏やかな笑みを浮かべるラザフォードの横を、雷真たちは走り抜けた。

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