自動人形〈オートマトン〉と生きる第二の人生   作:寅好き

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視点がころころ変わりますが、再び葵に移ります。


VS〈偉大なる者〉マグナス

 戦闘の幕が切って落とされた。

 雷真君と密着するほどの至近距離に三体の少女が現れていた。

 先ほどまでいた、火垂、鎌切という娘と加えて玉と書かれたヴェールをつけた娘だった。

 多分伏兵として置いておいて、機を見て放ったのだろう。

 三体の少女は自分の得物で雷真君に襲いかかる。

 前後から襲い来る刃。

 しかし、雷真君は全く怯む様子もなく、難なく攻撃を裁ききった。

 火垂の刃だけを魔術〈金剛力〉で硬化させた腕で受け止め、他二体の攻撃は必要最小限の動きでかわしていた。

 体裁きからみてもかなり修練していることが見て取れた。

 それに零夜がまだ習得していない技法まで、大したものね。

 私だけでなく、三体の少女も驚きが隠せていなかった。

 その対峙を見ていた仮面の青年マグナスが呟いた。

「大したものだ。あの刹那に〈金剛力〉を援用するとは」

仮面のせいで表情は伺うことはできないが、その声色には、皮肉などなく、称賛の色が聞いてとれた。

「誉めるのはまだ早いぜ」

雷真君はまるで舞台役者のように、大きな動作で、右手に巻かれた布を引き裂いた。

 絵になるな。零夜とは違うわね。

 雷真君が外気に晒した右手にはまるで刺青のような紋様が描かれていた。

 私が今まで見た幾多の刺青とは、全く異なっていたことからも、何かしらの魔方陣だと推測できる。

 その紋様が赤い光を発する。

「夜々。吹鳴四八衝」

「はい!」

夜々ちゃんの背中に、雷真君の五つの指から伸びた五本の糸が伸びた。

 魔力の糸からは濃密で高密度の魔力が感じられる。

 これが雷真君の切り札。

 戦いが始まってから驚かされてばかりだ。

「あやつが欲しがるのも頷けるのぉ」

翁もその光景を見て感嘆をもらしていた。

 糸が伸びると同時に夜々ちゃんが爆発的なスピードで突き進む。

 放たれた弾丸のように突き進む夜々ちゃんを阻むために、鎌切が転移させた火垂が前に立ち塞がり、剣を交際し、夜々ちゃんの拳に対峙した。

 しかし、夜々ちゃんの力は火垂の剣の耐久力を遥かに超え、剣を砕き、火垂の体を抉った。

 剣を粉砕しても衰えない拳で抉られた火垂は、そのまま遥か後方に吹き飛び、壁に叩きつけられ、瓦礫に埋もれた。

 夜々ちゃんの攻撃はできれば受けたくないわね。

 夜々ちゃんと戦うことだけはあってほしくない。

 可愛いし、痛そうだし…

「俺には〈糸〉十本を操る器がなかった。それなら五本で十分だったんだ」

雷真君は勝ち誇ったように右の拳を握りながら、吠えた。

 男の子ね……

 マグナスは暑い雷真君と真逆に冷めた声色で呟いた。

「片方の糸車を封じて、もう片腕でのみ糸を紡ぐ、裏門紅翼陣〈捨法散華〉か…」

言っていることがよく分からない。

そう思いながらも黙って聞いていると、

「日本に存在した赤羽一門の血筋の者のみが使えた秘中の秘の技法じゃよ。わしも初めて目の前で見れて感動しておるわ」

翁は感慨深そうな表情をして、簡単に説明してくれた。

 『存在した』過去形になっていることから以前零夜が簡単に話してくれた、雷真君の復讐の理由が蘇る。

 同じような経験をしているからこそ、雷真君が夜々ちゃんと二人だけで戦いたいと言った気持ちが痛いほど分かる。

「古に曰く、〈紅翼陣〉に三つの門あり、〈十重〉〈十束〉〈十厘〉なり。裏門はそのひとつをあきらめ、〈十重〉〈十束〉の二門で完成させる安易な道だ。焦ったあまりに、生まれ持った才を自ら捨てるとは」

失望を滲ませた声色でマグナスは吐き捨てた。

 辛辣に切って捨てられたことにショックを受けたかなと思い、雷真君の顔を覗き見たが、確かに顔面蒼白ではありながらも、気力を失った感じは全くしなかった。

「お前に勝つためならなんだってする。それに、少ない才能も捨てちゃいねえ!それよりも、お前は今やらかしたぜ」

「……何をだ?」

「自分を、赤羽天全だと認めたことだ!」

より魔力が増した糸が夜々ちゃんに更なる力を与える。

 夜々ちゃんは先ほど以上の速さで駆け抜けた。

 まるで砲弾のように辺りに衝撃波を巻き起こしながら、夜々ちゃんが繰り出した拳を、自分のマスターを護るために立ちはだかった火垂に叩きこむ。

 しかし、今回は吹き飛ばなかった。

 火垂を後ろから玉と書かれたヴェールをつけた少女が支えていたからだ。

 けれど、それでも夜々ちゃんの力が上回り、押しきれると思った刹那の出来事だった。

 マグナスの指から伸びる五本の糸。

 内二本は火垂に、二本は玉と書かれたヴェールをつけた少女に。

 そして、力は拮抗した。

 ただ、拮抗しただけではない、夜々ちゃんが力が抜けたようにガクンと項垂れた。

 でも今はそれよりも―――

「ここまでじゃな。ここで雷真君を殺されてしまったら、零夜にも、あやつにも会わせる顔がないわい。葵よ頼めるか」

「ええ、もちろん」

私は走り出す。

雷真君の隙をつくべく現れた鎌切は雷真君が類いまれなる反応で対処する。

 鎌切はさらに動きが止まっている夜々ちゃんに鎌を降り下ろす。

 しかし、見るべきところはそこではない。

 雷真君は気づいていなかった―――雷真君に肉薄している火垂がいることに。

 鎌切が陽動で、本命が将を狙った火垂である。

 火垂の掌底が迫っていた。

「ごめんね。徒手の貴女に武器を使って。でもね彼を殺させる訳にはいかないのよ」

私は薙刀の柄で火垂の脇腹を抉った。

 火垂のヴェールが捲れ、一瞬の苦痛を表した表情をしたまま吹き飛ばされた。

「すまない…」

「いいのよ。ここからは私も手を貸すわ。貴方の夜々ちゃんと二人だけで戦いたいという気持ちはよく分かるわ。私も復讐したい相手はいるし…でもね貴方をここで失わせる訳にはいかないから」

「……分かった」

まだ、二人での戦いを諦めきれていないようでもあるけど、なんとか納得はしてくれたようだ。

 私も〈魔王〉断トツの筆頭候補である彼の力を、零夜のためにも見ておきたいしね。

「雷真、大丈夫ですか?」

「ああ、助けられてな。大丈夫だ。まだ行けるか夜々」

「はい、行けます」

雷真君を心配して駆け寄る夜々ちゃんが、こちらに歩いてきて、頭を下げた。

「雷真を助けてくれてありがとうございました」

可愛い!!

抱き締めたい!

でもダメよ葵。今からまだ本番があるのだから…

「気にしなくていいわよ。夜々ちゃん貴女はまだ大丈夫?」

「大丈夫です」

「じゃあよろしくね」

「はい!」

夜々ちゃんの目からは全く変わることない気迫を感じた。

 先ほど力を奪われた感じだったけど、大丈夫だったみたい。

 気を入れ直さないと。

 久しぶりの実践だし、腕がなるわね。

「夜々ちゃん私は鎌切を相手にするわね。転移なら零夜で慣れてて、対処法もあるから」

「はい、じゃあ私は、火垂と玉虫を相手します」

「ごめんね。二人も任せちゃって…」

「夜々なら大丈夫です」

夜々ちゃんは朗らかな笑顔でそう言った。

夜々ちゃんみたいな妹が欲しかった。

「い、行きましょう」

「はい」

私と夜々ちゃんは、それぞれの相手を目指して突き進んだ。

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