自動人形〈オートマトン〉と生きる第二の人生   作:寅好き

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騒動の終息

 幾度となく降り下ろされる大きな鎌。

 しかし、鎌を武器とすると、一度鎌を掛けた後に引くという作業が必要なため、扱いが難しく、二度手間になるため、相手にすると簡単にいなすことができた。

 しかも、鎌が大きくとも、リーチはあまり長くないため、鎌の届く範囲外からリーチが長い薙刀なので安全に相手をできるのも、こちらが優位にたつ上で大きなアドバンテージだった。

 鎌の刃を薙刀の柄を滑らし流す。

 流されがら空きになった脇腹に逆時計回りに回転し薙刀の峰で打ち付ける。

「ぐっ!」

ベールから覗いた鎌切の顔が歪む、少しの罪悪感が心を苛むが、隙を与えたら、転移を行われるために、追撃する。

鎌切は崩れた体勢から尚も鎌を横凪ぎに振るう、私は踏み込み、懐に入り込み、薙刀を地面に突き立て鎌を受け止め、そのまま動きの止まった鎌の柄を掴み、引き寄せる。

 体勢が崩れているために、軸は安定せず、容易く引き寄せられる。

「ごめんね…」

鎌切が引き寄せられた勢いをプラスして、全力の掌底を鳩尾に撃ち込む。

「ぐふっ!」

鎌切は短く声をあげると、吹き飛び後方の壁にめり込み、そのまま落下した。

 自動人形とはいえ、心は痛かった。

「補助タイプの自動人形とはいえ、傷ひとつなく、一対一で倒せるとは大したもんじゃ」

「心は傷だらけですよ…」

「見た目があれではのう」

近づいてきた翁は、視線を一度鎌切に向けた。

 翁も苦笑いを浮かべている。

「そのためか、何度か一刀のもと切り伏せることができる機会がありながらも、必要に刃の峰や束で打っていたのは。最後も掌底だったしのお」

「そうですね……相手があいつらだったら、容赦はしないのですが、今回は……」

私は翁を見てはいられず視線を反らした。

 今回のことで本当に仇の命を奪うことなどできるのか?と疑問の目を向けられるのではないかと、少し怖かったからだ。

 でもそれは杞憂だった。

「それでいいんじゃよ。相手が誰でも刃を降り下ろせるようになったら終わりじゃよ」

振り返り見た翁の表情は大変優しく、まるで孫を見守っているような視線だった。

 いつもこうだったら尊敬できるのに……。

「それはそうと、そろそろ帰り支度をしようかのお」

「え、まだ戦いは……」

翁から視線を戦いを続けているはずの夜々ちゃんへ移すと、夜々ちゃんと火垂、玉虫が間合いを取りながら睨みあっていた。

「玉虫のドレインの魔術を気にして攻めにいけなくて、膠着状態に入っておってのお。それに上の戦いも終わったみたいじゃしな」

翁はそう話すと軽く口許を緩め笑みを浮かべた。

 その直後だった。

「時間切れだよ、マグナスくん」

静かに重みがありながらも、柔らかい口調の声が響いてきた。

 声の響いてきた方に視線を送ると、柔らかい笑みを浮かべた学院長がゆっくりと階段を降りてきていた。

 その後ろには縮こまったような、グリゼルダ教授と零夜が。

 なぜだか、情けない姿に……

「相当力の差を二人とも見せつけられたようじゃな。まあ良い経験になったじゃろ」

翁は普段と変わらない表情で笑いながらそう呟くと零夜に手招きをしていた。

◇◆◇◆◇◆

 良かった無事のようだ……

 僕の視線の先にはいつもと変わらない笑顔を浮かべ、僕に手招きをする翁と、着物は少し汚れてはいるが、目立った傷一つない葵姉さんが立っていた。

 葵姉さんは軽く微笑みをこちらに見せてくれてはいるが、その笑顔には疲れが滲んでいた。

 相手が相手だったんだ、疲れない方がおかしいよな。

 お礼しないと。

そのように考えていると、僕の隣にいたはずのグリゼルダ教授がいつの間にか、雷真達のもとに。

 グリゼルダ教授も転移呪文が使えるのか?まあいいか。今更だ。

「ルーラ」

僕は頭を切り替え、元に戻し、二人、いや主に姉さんにお礼をすることを誓いながら、二人の元に転移した。

「翁と主に姉さんありがとう」

「わしはついでか?まあ、わしは確かに戦ってはいないがのお」

「いいわよ、私がしたくてしたんだから」

優しい笑みを姉さんは向けてくれるが、やはり少しぎこちなかった。

 僕がだらしないばかりに、本当に迷惑かけちゃったな。

「零夜、気を使わせたみたいで悪かった。それとありがとな」

グリゼルダ教授から貰ったのか、手紙を握りしめながら、青ざめた表情で全力で走りながら、雷真は早口でそう言うと、そのまま走り抜けていく。

呆然とその様を見ていると、般若のごとき様相をしたグリゼルダ教授が、先ほどまで学院長と戦っていた時以上の怒気を放ちながら、

「またもや私以外の女を手籠めにしおったな!!切り捨てる!!」

とグリゼルダ教授が疾風のような速さで走り去り。

「ありがとうございました。私も気になります雷真。説明してくださーーい!!」

と夜々が頭を下げた後走り去っていった。

 ため息混じりに雷真達の後ろ姿を見送っていると、先ほど雷真が握っていたはずの手紙がそこに落ちていることに気づいた。

 手紙は汗で湿っているため、滑り落ちたのかもしれない。

「その手紙は何?」「たぶん先ほどの争いの火種になった物だと思う」 

次の瞬間姉さんの目が光った気がした。

「見てみない」

一応予想通りの提案。

見てみたいのも分かるがさすがによくない。

「プライバシーの関係状、それはさすがに了承できないよ」

「こ、好奇心じゃないわよ!本当にそれが雷真君が落とした手紙か確かめるためよ!」

こんな所に、それも今さっき湿ったような手紙から、雷真の物だというのは確実なのだが…

と思いながらも、人間は弱い物だった。

誘惑に駆られて開いてしまった。

 手紙の差出人はイオネラ·エリアーデ。

内容は一般的な手紙と至って変わらない物で、グリゼルダ教授が使っていた二体の自動人形は、イオネラ·エリアーデ教授が作ったものだということ。

そして、最近の近況などであった。

 ここまでは、グリゼルダ教授や夜々が怒る要因はない。

 しかし、さすがはイオネラだった。

 最後にとんでもない一文があった。

『貴方のイオネラより、裸の愛を込めて』

………、こりゃあまずいな。

 まあイオネラも他の女性に見られることは想像していなかったのだろうが…

 いや、あの天才ならそこまで想像していたかも。

わざわざグリゼルダ教授に手渡していたのだから。

 恐ろしい女である。

「まあ、これはしょうがないわよね」

「……そうだね…」

「私も付き合っている彼氏がこんなものもらっていたら…」

急に言葉が止まる。

えもいわれぬ恐ろしさは感じるが、聞かないわけにはいかなかった。なぜだか分からないが。

「もらっていたら?」

「地獄もぬるく感じるほどのお仕置きするもんね」

晴れ渡るような笑顔だった。

それが、言葉に表しようがないほどの恐ろしさを醸し出していた。

 まず見るという前提からしていけないのだが、まあ、この世も現代も、女性はプライバシーなど関係なく、メールや手紙は覗き見るものなんだなということを、学んだのだった。

 それでも、この手紙を通して、先ほどまで少し影を落としていた、姉さんが幾分元気になったのは、感謝すべきことであった。

 今頃お星さまになっているだろう雷真、感謝するよ。

 僕は、雷真の冥福を祈りながら、心の中で、感謝も込めて、手をあわせていた。

 しばらくたち、その場から帰ろうとした時だった。

「よくやってくれたな。予想以上だ」

いつの間にか背後にキンバリー教授が。

もう、慣れたな。

「いいんですか、こんな所まで来て?学院長に気づかれますよ?」

「フフッ、私がそんなへまを踏むと思うかね?」

「いや思いません」

いつもながら自信に満ち溢れた表情をしている。

 いつか僕もこのようになれるだろうか。

「多分性格的に無理じゃよ」

「ああ、私もそう思うぞ」

まさかキンバリー教授だけでなく、翁にまで心を読まれるとは…

特技や呪文の前に、ポーカーフェイスを身に付けるべきかも…

「で、皆は上手くいったのですか?」

「ああ、今見届けてきた所だ。ロキは、伝説級の自動人形フェニックスを使ったローゼンベルクを打ち倒し、シャルロットとフレイも上手くやってくれた。ロキは怪我を追ってヤブ医者のもとに運ばれたがな」

「そうですか…」

またもやロキは病室送りか……

これで一体何度目だろうか?

「お前が聞きたかったことも伝えたし、仕事を果たしてくれたことも確認できた」

キンバリー教授はニヤニヤしている。

何も言い返せないことが悔しい。

「後はお前の本当に求めている情報を調べておく」

口調が真剣なものに変わる。

ギャップは凄いが、メリハリははっきりしている。

「お願いします」

「ああ」

キンバリー教授は黒いマントを翻し、見事な身のこなしで颯爽と去っていった。

「じゃあ僕たちも帰ろうか」

「ええ、そうね」

「ああ、わしもすぐにでも今日得た情報をまとめたいしのお」

やっと命懸けの仕事を終えた僕は、翁と姉さんと共に、帰宅の途についた。

 

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