自動人形〈オートマトン〉と生きる第二の人生   作:寅好き

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一時の休息。喜ばしいお誘い。

 校内の森の中。

 僕は一人で刀を振るっていた。

 枚散る木の葉の動きを読み刀を振るう。

 木の葉へ到達するために最短距離で、最速で、一太刀で無駄なくできるだけ多くの木の葉を切り落とす。

 刀の閃きが少しでもぶれるだけでも無駄が生まれる。

「これではまだダメだ…」

今まで修行してきたことで、僕はある程度接近戦をこなせるようになり、ある意味少し調子にのっていたのかもしれない。いやしていたはずだ。

 しかし、今回のエドワード·ラザフォードやグリゼルダ教授の戦いを見て、その認識を改めなくてはならなくなった。

 あの戦いを目にした今では、僕の力はちっぽけなものに思われた。

 確かに最強の魔術師エドワード·ラザフォードほどの使い手などそうそういることはないが、それでもグリゼルダ教授ほどの敵は出てこないとも言いきれない。

 噂では、あのグリゼルダ教授をも赤子同然に扱った魔術師も暗躍しているらしいし。

 ということで、今僕は一人で刀を振り続けていたのだ。

 本当ならば、翁の結界の中でも効率よく修行をしたかったのだが、生憎翁と姉さんは朝から、フェニックスの自動人形の残骸を探しに出払っていた。

 きっと風紀委員が片付けているはずといっても、行ってみないと分からないと言い張り、姉さんを伴って行ってしまったのだ。

 僕がいれば、レミラーマで探すのは楽なはずなのに、気を遣ってくれたのか、二人だけで出ていってしまった。

 そろそろお腹が減ってきたな。

 本当だったら呪文の修行もしなくてはならないのだが、中々に伸び悩んでいた。

 ある程度まで、見えてきているものもあるのだが。

 そういうことで、僕はそれを口実にし、修行を切り上げて一端部屋に戻ることにした。

 部屋に戻るが、未だに二人は不在で、更に時間も想像以上に経っていたため、もう食堂ではいいものも残っていないだろうなと思い、食堂へ行くのを諦めた。

 こういうときにコンビニやファーストフードがあると楽なんだけどな。

 現代のことが頭に甦り、少し郷愁の念に駆られたが、すぐに頭を切り替え、体を癒すのに時を割こうと決心した時だった。

 不意に部屋の扉がノックされた。

 誰も僕を訪ねてくる人などいないはずなのに。

 まあ学院内には、敵もいないというし、少しの警戒心は残しながら、扉を開ける。

「良かったご在宅で」

いつぞや見た光景だった。まるでデジャビュとでもいうかのように。

 そこに居たのは、青い着物を着て、雪のように美しい白い肌を持ったいろりだった。

 また笑顔で、表情はとても生き生きとしており、以前の影を落とした暗い表情など全くなくなっていた。

元気になったようでよかった。

「いろりさん?いったいどうしたの?」

僕がいろりに問いかけると、少しモジモジし、頬を軽く朱に染めながら、深呼吸を一二度し、話始めた。

「あ、あの、以前の御礼をしなくてはと……お時間ありましゅか?」

あっ、噛んだ。

 一瞬の間をあけ、いろりの白い肌が真っ赤に染まった。

 相当恥ずかしかったのだろう。

「噛んだ?」

「い、いえ、噛んでおりません…」

「そう」

「はい…」

まあいいか。いつもの凛としたいろりではなく、可愛らしいいろりが見られたし。

「は、話を戻させていただきます。お時間はおありですか」

咳払いをし、いろりは見事に軌道修正をした。

 いろりのお誘いは、以前雷真の婚約という話を聞き、落ち込んでいた時に、元気付けてあげたことへの御礼みたいだ。

 本当にいろりは律儀だな。

「お礼なんて、そんな気を遣わなくてもいいよ。それより、雷真を誘ったら?『よくも私を騙しましたね』ってね。きっと誘いにのってくれるよ」

いくら鈍い僕でも、ここまであからさまな様子を見れば、いろりが雷真が気になっていることぐらい、手に取るように分かっていた。

 そのため少しお節介ながら、背中を押してあげようと思ったのだ。

 こう言えば少しはいろりも積極的になれるかも。

 なぜだか、僅かに心が痛んだが。

「いえ、今回は零夜殿をお誘いに来たので。それに雷真殿は、今多くの女性に囲まれて……」

いろりの体から、まるで巨大な冷凍庫をあけたかのような冷気が溢れ出す。

「フフフ、あのように、多くの女性に囲まれて…顔をだらしなく緩ませて……」

いろりは体を僅かに震わせ、さらなる冷気を撒き散らす。

や、ヤバい。

頭の中で警鐘が鳴り響く。

 このままでは凍死する!

 すでに、着流しの袖は凍り付き、辺りが真っ白に染まっている。

こうなったら仕方ない。

「お誘い嬉しいよいろりさん。時間はいくらでも空いてます」

僕はいろりの手を握り、真正面からいろりの瞳を見つめた。

 少しでも気を雷真から反らせたら…

「えっ、えっ、えっ、れれれれ、零夜殿!?」

予想以上の取り乱しようだった。

 あたふたしたいろりが再度まるで熟れたりんごのように耳まで真っ赤に火照らせ、あたふたと手を顔の前で左右に振っている。

 癒されるし、もう少し見ていたい気もしないでもない…

 僕は多分笑みを浮かべていたのだろう。いろりのその様を見ていると。

 いろりはハッとしたように、気を取り直し。

「申し訳ありません」

一言呟くように言葉を発し、まだ頬を赤くしたまま、

「お時間があるようで安心しました。零夜殿にあうかどうかは分かりませんが。お食事を用意させていただきます」

「まさか…いろりさんの手料理!?」

「はい」

花開くような可憐な笑顔。

 生きていて(転生してて)良かった。

 まさに感無量。前の世界ではあり得なかった幻想の世界。

生まれて初めての「手料理」という言葉と笑顔に魅了されていた。

 十六夜は食べるという行為が必要なかったので、手料理はなく、姉さんも料理はできるみたいだが、ここに来てからは学食で充たしており、食べたことがない。

 リア充への仲間入りか。

 浮かれてはいるが、これがもし、生身の人気だったら、悩んだかもしれない。

いや悩んだだろう。

 しかし、いろりは自動人形だしいいよね。という考えが僕を動かしたのだ。

「喜んでもらえたようで私も嬉しいです。準備するお時間も必要ですよね?」

準備?必要なのだろうか?経験のないことなので分からないが、気を使ってくれているのは分かったので、少し時間をもらうことにした。

 身支度を軽くし、翁や姉さんを心配させないように書き置きを残すことにした。

『いろりさんにお呼ばれをしたので、手料理を食べに行ってきます。遅くなっても心配しないください』

 これが、地獄への片道切符になるとも知らずに。

「お待たせ。何処へ行くの?学院外は遠慮したいのだけど…」

「分かっております。前回恥ずかしながら幽鬼のようにさ迷っていた時に、景観のよい場所を見つけたのでそこでお食事にしたいと思います。用意もできていますし」

にっこりと笑うと、風呂敷に包まれた四角のものを軽く見せてくれる。

「気を遣ってくれてありがとう」

「いえ、零夜殿に負担をかけたくなかったので」

いろりの心遣いが心に染みる。

「では、参りましょうか」

「お願いします」

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