鈍角に傾いた、燃えるような夕日が僕らを照らしている。
その場にあるのは、五つの影と、その持ち主のみである。
「今の見たんか?」
強面の屈強な〈いざなぎ流〉の日輪の護衛、確か昴だったかが、その強面と同様のドスの効いた声で、恫喝するかのように問いただしてくる。
どうしよう!?どうしよう!?どうしよう!?
頭が混乱し、視線が右往左往する。
視界の横に入った姉さんは、苦笑いを浮かべていたが、今はそれどころではない。
「ああ、見とったぞ。しかとな」
後ろから小さなため息が耳に入った後に、翁の助け船が入った。口調には違和感があるが。
「どないしよ昴?」
「見られたんはしょうがないやろ!」
その発言を聞き、今度は〈いざなぎ流〉の二人が慌て出す。
まあ、あんな物を部外者に見られたんだ、焦らない方がおかしいとは思うが…
「いいか、お前、今目にしたことは忘れろ!いいな!」
いや、無理だろ!と思っていると、案の定。
「無理な話じゃ」
翁の答えが。やはり口調は変ではあるが、ありがたい。
答えを聞いた昴の眉間に深い皺がより、魔力の流れが変わる。まるで、一触即発とでも形容できるような…
「なんやと、お前何もんや?」
「わしは日本からの留学生蔕零夜じゃ」
わしなんて言わない!と思いながらも、なんとか口パクを通す。
「プッヘタレ、イヤやて…」
後ろの優男六連は吹き出し笑い始めた。
目の前で笑うとは、失礼なヤツだ。
確かに気にはしている名前だが…
「零夜……どこかで…」
昴は何かブツブツ呟きながら、深く考え込んでいる。
「たしか…昴、零夜ちゅうたら雷真はんと一緒にたたこうてた。あと少し前に多数の自動人形を一瞬で灰にしたっちゅうて結構話題になっとった人とちゃうかな?」
「そう、それや!」
笑いが収まった六連が昴に説明し、昴はスッキリした感じでてを打った。
確かに思い出せないことを思い出せると、気分はいいなとは思うが。
まあそれはさておき、あの戦いが話題になっていたようで、今回は助かった。
「雷真一派が内の問題に首突っ込もうとするんはどういうつもりや!」
来た、チャンスだ。と思いながらも、何か雷真嫌われてない?と思えるほど、昴は雷真という名前が出てから不機嫌になっているのが感じられ、雷真が今回の交渉で障害になりそうな雰囲気が。
六連は後ろで変わらずにやけている。
「袖触れあうも多少の縁というじゃろ、それにあんなもの目の前で見てしまったら、同郷の者として気になってしまうのが人間の性じゃ。ということで、少し手助けをしたいと思ってのぉ」
「お前のようなどこぞの馬の骨信用できんは、それに胸糞悪い雷真とつるんどるやつなぞ、輪をかけて信用できんわ!!」
「そやな、僕も信用できませんわ」
まあ初対面の相手にいきなりそんなこと言われたら不審の目を向けるのは当たり前だし、さらに輪をかけて悪いのは、どうやら仲が悪い雷真と関わりがあったことで…交渉決裂かと諦めかけた時だった。
「それでいいのかのぉ?」
「なんやと!どういうことや?」
「〈いざなぎ流〉の当主を狙うなら当然かなりの戦力を有していることだろう。それをたった二人で守りきれるのかのぉ」
「本家に頼んで増援を」
「日本からここまで来るのにどれだけの時間がかかるか。増援が来るころには、相手はもう動いてると思うぞ」
「くっ、せやかてお前は信用できん」
理詰めで説得するが、頑なに拒む昴、何が昴をここまで拒ませるのか。
「分かった。では誓約書を書こう」
翁が僕の耳元で指示を出す。
僕は頷き、少し刀の刃を出し、指を切る。
こぼれ落ちる血液は魔力に生成され刃に吸収されるが、刃を納めると、切れ目から流れ出る血液は玉になる。
「なにしとるんやお前!?」
僕は昴の問い掛けを無視し、その血液をもって誓約書を書き、母音を押した。
「血判かいなこれまたえらく古風やなぁ」
「………」
六連にはあまら響いていないようだが、昴は黙り込んでいる。
それでいい、翁の考え通りに進んでいる。
実質上〈いざなぎ流〉の決定権を持っているのは間違いなく昴であり、昴にはこのような古風な行動が心に響くだろうと翁が考えた末の行動だ。
「まだ信用できんか、ならばわしの命の次に大事な自動人形を夜会以外の時間預けよう」
「えっ!!何を言ってるんだ翁!?」
「そうよ、いったい!!」
「あんさん自分で発言して自分で突っ込むて器用なもんや」
翁の発言に驚き僕と姉さんは振り返り問いただす。
六連はそれを笑いながら見ている。
まあ滑稽に見えたのだろう。
名探偵コ〇ンでも博士との口パクでよく見られた展開ではあるが、今はそんなこと考えてはいられない。
「少し耳を貸せ。わしがあやつらの元に行くのは、信用させるためだけじゃない。二人のうちのどちらかが怪しく思えてな。それにこの事件のバックにはかなり大きな影がちらついててな…」
最後は言葉を濁した感がしないでもないが、確かに頷ける内容だった。
僕と姉さんは渋々納得した、生前から一回言ったことは曲げない翁であることも、知っていたからでもあるのだが。
「しょうがあらへん。認めたるは」
「ちょっ昴!それでいいんどすか!」
「ああかまへん。それとお前は何が目的や。ただ助けたいだけでここまでしたらただのバカや。なんか見返りがほしいんやろ」
翁の口角が僅に緩んだ。
やっとここまで来た。
「ちと〈いざなぎ流〉の陰陽術を学びたくてな。主に召喚術の方面でな」
翁は包み隠さず本音を語った。
相手に信用してもらえたのなら、こちらも本心を言わなくてはということだろう。
「〈いざなぎ流〉の陰陽術は部外に出すわけにはいかんが、お嬢の命には代えられん。その代わり命懸けてもらうで」
「了解じゃ」
話は纏まった。
今回僕は終始口パク状態だった…眠りのなにそれさんの気持ちが分かりかけた気がした。自分の預かり知らぬ所で話が進むという。
「じゃあついてこい。お嬢に面通しするためにな」
「一つ質問が?」
「なんや?」
「女子寮は男子禁制では?」
「かまへんかまへんそんな小さなこと気にせんといてや。僕と昴もよくお嬢の護衛のため入り込んどるから大丈夫や」
何が大丈夫なんだ!突っ込みそうになるのをなんとか飲み込み、小さく頷いた。
「行くぞ」
僕は昴と六連に続いて禁断の女の園に潜入した。
男子寮ては違い、入った瞬間甘い良い香りが…変態っぽい感想だが、健全な男子なのでしょうがない。
ただ緊張したのは、寮長に見つかったら等ということではなくシャルに鉢合わせしないだろうか、ということであった。
その後、〈いざなぎ流〉の可憐な当主、まさに大和撫子と呼ぶのにふさわしい少女日輪に謁見を無事に済ませることができた。
会話中に「嫌らしい目で見るなドアホォ!」と言われのない暴言を昴に浴びせられたりはしたが、筒がなく済んだ。
「これで零夜はんも仲間入りや。よろしゅうな」
「こちらこそ…あ、あれ?」
挨拶途中に昴と六連は逃げ出した。
昴は「新入りあとは任す」で、六連は「あとはよろしゅうな」という言葉を残して。
背後から不穏な雰囲気を感じたので振り向くと、鬼の形相をした寮長が立っており、その後僕は長々と説教される運びとなった。
関西弁が上手くいかない……かなり違和感があるかもしれませんがお許しください。