自動人形〈オートマトン〉と生きる第二の人生   作:寅好き

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やっと夏休みです。期末試験、成績なんとか終わり一段落です。遅れて申し訳ありませんでした。


夜会において一波乱

 日は既に落ち、街灯に照らされた道だけが唯一の道標となるメインストリートを、夜会の会場となるコロシアムに向かって歩いている。

 未だに出場する必要もない僕以外の三人が夜会に出向くのは、決して僕の戦いを見たいという理由ではない。

 これから戦うことになりそうな相手の情報を集めることと、今日に限っては、日輪が夜会に行きたいと強く求めたためだという。

 したがって女子寮の一件が終わってからすぐに再集合して夜会に向かっている。

 ただ、翁と姉さんは夜会の会場で合流することになっている。色々と準備があるらしい。

「堪忍な零やん」

「いえ…構いませんよ…」

「怒っとるん零やん?」

「いえ……」

「なにウジウジしとるんや!女々しいやっちゃな」

六連と先ほど女子寮で囮にされたことを話していると、一番の元凶であったはずの昴がお前が悪い!というかのように毒をはいた。

 口元が少しひくつくのを全力で押さえる。まあこの薄暗いなかならそう見えはしないが。

 ここで、少し頭を冷やして考えてみると、一連のやり取りで少し二人の性格が分かった気がする。

 六連はいつもにやけていて、軽そうに見えるが、人をよく観察しており、気が使える性格。

 一方昴は、強面でぶっきらぼう、日輪さえ良ければそれでいいという日輪第一主義。

 今のところ分かったのはここら辺である。

 日輪についてはまだほとんど関わりがないので分からないが…

 日輪は何か考え事があるのか、終始俯いていて表情は伺い知れない。

「はよ行くぞ。モタモタすんなや」

僕たちは夜会の会場に急いだ。

「のお六連、空気重おないか」

「そんな大きな声で言ったらあきませんって!あの二人の感じ見たら分かるでしょうに、ヘタに手え出したらアカンよ!いつ飛び火するか分からんしね」

二人の声が聞こえてくるが、僕は全く反応できなかった。

まるで界王星にでもいるかのように、重力が何倍にもなったように重苦しい雰囲気と重い足取り。

先ほどまで静かに思考の海に潜っていた日輪も、この雰囲気に押されオロオロしている。

 何があったのか。昴に促され早足になった時だった。

―――――

「日ー輪ーーー!!」

薄暗い中辺りに響き渡る何処かで聞き覚えがある、女性の声が。

薄暗く姿は見えないが、心臓はバクバク鳴り響き、脂汗が額を落ちる。

「大丈夫零やん、顔色悪いよ」

「……」

気を遣ってくれた六連には悪いが、返事をするのさえ儘ならない。

「なにもんや!!」

「シャルロットさん」

「日ー輪ーー」

日輪に飛び付く、薄暗い中でも月光を浴び煌めく金髪を靡かせたシャルが。

普段であれば、愛らしいと思えるその光景であるのだが、今の状況がそうはさせない。

どうにかしなくては、僕は剣術によって学んだ足運びで六連の後ろに隠れた。

呪文を使えば簡単なのだが、声すら出せない、情けなさ過ぎる。

「何してるん零やん」

急にこそこそし出した僕に疑問を抱いたらしい。

六連には悪いが黙っていてほしい。お願いだから。

 しかし、願いは通じなかった。

「零やん?」

満面の笑顔で子猫のように日輪にじゃれついていたシャルがはっとしたような表情で振り返る。

 僕は息を潜め祈るような気持ちで六連の影に縮こまる。

 この暗さで気配さえ消していれば誤魔化せるのでは……しかし、その儚い願いさえも、天には届かなかった。

「零夜なぜあなたがここに……」

シャルの声には、驚きと悲しさと怒りが感じられ、鋭い視線が突き刺さる。この暗がりで見えないはずなのに。

なぜあの名探偵は見えそうな位置にいるのに見つからないのに、僕は見つかるんだ。という世の中の不条理に言及する余裕さえもはやない。

僕とシャルの間に流れる沈黙と静寂。

僅かな時間さえとてつもない長さに感じる。

 だがこの沈黙に耐えられなくなったのは当事者の僕とシャルだけではなかった。

「う、うだうだしとっても時間の無駄じゃ。はよ行くぞ!」

「そ、そやな。昴の言う通りや」

「そ、そうですね。早く行かないと夜会に間に合わなくなってしまいますもんね」

三人ともこの雰囲気に耐えられなくなっていたようだ。

 しかしながら当の本人である僕はそれ以上にキツかったので、本当にありがたいことであった。

 僕とシャルは黙ったまま頷き、夜会の開催されるコロシアムに向かい再び足を動かした。

 しかし、この時に余裕があれば気づいていたのではないか。違和感を感じ得ないあの発言に……

―――――

とまあ、そのような流れがあり、今の状況に至ったのだ。

 その後も重苦しい雰囲気の中、僕もシャルも一言も発することなく、またシャルは視線すらこちらに向けてくれることはなかった。

 ついでに、シャルの帽子の上に止まっていたシグムントは、度々呆れるようにため息を吐いていた。

「日輪行きましょ」

「は、はい」

夜会の会場に着くやいなや、シャルは日輪の手を握るとそのまま観客席に去っていってしまった。

 日輪は申し訳なさそうに、こちらに視線を向けると、シャルに引き摺られるように着いていった。

 ただ、この時の日輪の瞳には何かしら決意を決めたような力強い光が点っているような気がした。

「零やんお疲れー」

六連が人懐っこい笑顔で肩を叩く。

気遣いがしっかりとしている。

「零夜、今日お前がするんわ二つのみや。一つ、敵をあらかたぶちのめすんや。日輪の敵になりそうなやつをな。無理やったら死んでも情報を引き出すんや」

死んでもって……

いやいや夜会じゃ死ぬことはないでしょ。とは思うが、普通なら死ぬよなということが何度かあったのも事実だ。

審判が止めに入ることもなさそうだし。

「二つ目が一番重要や」

昴が間を開ける。何か気合いを入れているようだ。六連は依然としてヘラヘラしている。

「雷真のド阿呆をぶちのめすんじゃあああああ!!」

予想外の要求が。自分で倒せばいいのではと思いながらも、聞き流すことにした。

まあ隙がなかったということにしとけばいいし。

「わあったな。あんの阿呆んだらは、女を取っ替え引っ替えイチャコラしよってムカつくんじゃ」

私怨、モテない男の僻みである、言わば人物特定の上での『リア充爆発しろ!』である。分からないこともない、いやよくわかる。

ブツブツと文句を垂れて昴は去っていった。

その背中には一種の哀愁を感じずにはいられなかった……

「昴にとって雷真はんは恋敵なんやよ」

六連の説明でこじれた三角関係が容易に読み取れた。

昴→日輪→雷真→硝子?

といった感じかな。

まあいいか。

「頑張ってえな」

六連は一言残し昴の後を追っていった。

「上手くやっておるようじゃの」

「ほんとほんと、心配する必要もなかったみたいね」

翁と姉さんが笑顔で後ろに立っていた。

「まあ、一回入り込めばね。まあ僕のことは置いといて、翁の準備はいいの?」

「一応準備はできたわ。策とはいえ人質になるのだから、準備はしとかないとね」

笑顔で姉さんは話すので大丈夫のようだ。

「分かった。じゃあ今夜も夜会頑張ろうか」

「まあ今宵もにらみ合いで終わるんじゃろうがの」

「まあまあそう言はず。頑張ってね」

僕と翁は今宵も夜会の舞台に上がった。

 夜会の舞台には既に雷真とフレイの姿が。どうやらロキは伝説の自動人形との戦いの怪我が癒えていないらしく、入院中らしい。つくづく不運な男だ。

僕が舞台に上がってすぐに、観客席がざわついた。

観客の視線の先には、優雅に入場ゲートを通る、夜会執行部の白いコートを羽織り、ライトに照らされ輝く蜂蜜色の金髪をひらめかせた美少女――オルガが。

なぜ彼女が舞台に?誰もが考える疑問である。

 そんな疑問もよそに、オルガは舞台に足を踏み入れると、はっきりとした通る声で宣言した。

「執行部の諸君、客席の皆様に告げる。私ことオルガ·サラディーンは夜会における〈第三位〉の地位を捨て、〈第三十五位〉にまで降格したい」

コロシアム全体が大きくざわめき出す。

執行部の者も聞かされてはいなかったのか、その狼狽ぶりは相当なものであった。

「おい、学生総代。一体どういうことだよ」

雷真が疑問を呈す。当然のことである。突然強大な敵がなんの前触れもなく、眼前に立ちはだかったのだ。

「君が口を出すのはお門違いだ。私の意向は君のそれに優先する」

オルガは雷真の疑問を凛とした声で一掃した。

気の強い女だ。

まあ、彼女の真意が読めない訳ではない。

彼女自ら僕たちを倒すつもりなのだろう。

決まりきった試合ほどつまらないものはない。

「夜会は国家間の利害や賭博も絡む国際競技って話だから、色々な方面から苦言を呈されているんだろうよ」

雷真が言ったことが、全てなんだろう。

「面白い試みだが、俺たちがあんたを倒せば済む話だよな」

「その通りだ。君たちにそれができればの話ではあるが」

オルガは余裕綽々といった感じで微笑んだ。

虚勢でも、はたまた威嚇でもない。倒されない自信があるのだろう。

僕の苦手とする人種だ……

「さて、皆には異論はないだろうか。ないのならば、私が降格する許可をもらいたい」

観客だけでなく、コロシアム全てが、彼女のパフォーマンスで支配されていた。この状況で異論を挟めるものもいないだろう。

全会一致で可決になるだろうと、思った時だった。

「お待ちください!その役目、わたくしにお譲りくださいませ!」

凛とし、覚悟を決めた声がコロシアムに響く。

袴を翻し、声の主の日輪が戦場に足を踏み入れた。

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