大企業に就職したと思ったら職務内容がブラックだった   作:斎藤 一樹

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大企業に就職したと思ったら職務内容がブラックだった

 

 

 鴻上ファウンデーション、という会社をご存知だろうか。会社というか財団と言うべきなのか分からないが、ついでに言うならば何をやっている企業なのかも多くの人は分からないという謎に包まれた組織でもある。

 

 その実態はというと、……何だろうここ。

 

 正直、そこで働いている俺も今一つ分かっていない……というのが偽らざる俺の本音というやつであったりする。

 

 如何せん、組織の規模が大きすぎるのだ。

 

 鴻上ファウンデーションは美術品の保護から謎の研究まで手広くやっている。噂では会長である鴻上光生自らが陣頭指揮をとって遺跡の発掘調査をやっているとも聞く。

 

 そんな俺が配属されていたのは、ライドベンダー隊というバイク部隊だった。輸送用の部署ではない。いや、輸送もやるがその本分は戦闘用だ。バイクに乗って銃火器をぶっ放すのがお仕事であるが、何故こんな部署があるのか俺はずっと謎だった。

 

 謎は謎のままにしておきたかったなぁ、と今では心から思う。

 

 というか銃刀法はどうなっているのか不安で仕方がない。隊長の後藤さんに聞いてみても遠い目をされるだけだった。何故か気に入られてる鴻上会長に訊いてみたら高笑いで返された。

 

 答えて。

 

 あまり深く考えちゃいけなさそうだと悟った俺は、その事については考えないようにする事にした。

 

 ……現状、上手く行っているとは言い難いのだが。

 

 さて、そんな俺たちライドベンダー第一小隊は元エリート警察官の後藤さんを隊長に、多分侵入者撃退を目的とした訓練を重ねていた。

 

 そしてつい先日、俺がライドベンダー隊に配属されてから初めての出動があった。

 

 初陣である。

 

 現場は鴻上ファウンデーション所有の美術館。

 

 先輩たちに励まされながら急行したそこにいたのは、メダルが集まって人の形を為した化け物だった。

 

 奴等は腕の一振りで激流を起こし、一跳びで空を駆けた。

 

 俺たちの放つ銃火器による攻撃では奴等に傷一つ付けられず。

 

 ……程無くして俺たちライドベンダー第一小隊は壊滅した。

 

 隊員の殆どは大怪我を負い、比較的無事だったのは隊長の後藤さんと……隊で一番の新入りである俺の二人だけだった。

 

 ライドベンダー隊が出動時に装着を義務付けられている戦闘服は見た目以上の頑丈性と対衝撃性を兼ね備えているらしく、殉職者が出る事は無かったらしい。だが、極めて危険な状態にまで追い込まれた隊員は少なくないらしい。

 

 そんな中で俺が命に別状がない程度の怪我で済んだのは別に俺が強かった訳ではなく。ただ、運が良かっただけなのだろう。

 

 斯く言う俺も右腕と左膝、ついでにあばらを骨折して今は病院のベットの上である。

 

 何でもこの病院も鴻上ファウンデーションの系列の施設らしく、入院費用は会社持ちらしい。加えて危険手当てが出るらしいので懐は安心である。

 

 大企業万歳。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飽きた。

 

 俺は元々飽きっぽい性格である。

 

 一週間近くベッドの上で大人しくしていただけでも褒めて欲しい。

 

「まだ1週間経ってないじゃないですか」

 

 呆れたように隣から言うのは椎名 美琴(しいな みこと)。ライドベンダー第二小隊の隊員で、俺の同期の才女だ。

 

 ミディアムの長さに切り揃えられた柔らかな茶色の髪と小柄なボディが特徴的だが、その小柄な体型から繰り出される拳はとても鋭い。

 

 というか拳に限らず格闘全般が強い。どれぐらい強いかと言うと、ライドベンダー第一・第二小隊合同での訓練をやった時に先輩たちをばったばったと薙ぎ倒す椎名というギャグのような光景を目にしたぐらいだ。

 

 俺はその時人生で初めて、人間が生身で空を飛ぶ様を見た。俺はと言えば早々に彼女に張っ倒されて訓練場の床と熱いキスを交わす羽目になっていたのだが。

 

 蹴りや突き、受けや動きから見るに空手がベースと見たが、柔道っぽい投げ技も使っていたから他にも色々混ざっているのかもしれない。

 

 何にせよ、こうして休日にわざわざ同期の俺の見舞いに来てくれるとても良い娘であるのは確かだ。

 

「まだ5日目ですよ?」

 

 持ってきてくれたリンゴをしゅるしゅると慣れた手付きで剥きながら彼女は嘆息した。

 

「大体半分以上経ったんだし、これはもう殆ど1週間と言っても過言ではないのでは?」

 

「過言ですー」

 

 もう、と溜め息をつきながら椎名が言った。

 

 しょりしょりとリンゴの皮が剥かれる音が響くこと暫し、出来ましたよという声と共にことりと皿が置かれる。

 

 そこには種を取られ綺麗に切り分けられた6切れのリンゴと、桂剥きで一本の帯状に剥かれた皮が添えられていた。すげぇ、これ出来るやつ初めて見た。

 

 さて。言ってみるだけならタダとも言う。

 

 包帯に吊られた右腕を然り気無くアピールしながら行ってみよう。

 

「右手こんなだし、食べさせてくれると嬉しいんだけどなー……なんて」

 

 リンゴの代わりにデコピンを頂戴した。

 

 手加減してくれたのだろうが、それでも割と痛い。

 

「ダメかー」

 

「これ以上のサービスは別料金です」

 

 にっこりと笑いながら椎名が言った。

 

「金取るの!?」

 

 値段次第で払うぞ。

 

 結局左手を使って食べた。

 

 

 

 

 

「そっちは最近どうよ?」

 

 椎名の剥いてくれたリンゴを二人で食べ終わり、一息ついて。ふと職場の様子が気になったので訊いてみた。

 

「第二小隊はみんな元気にやってますよ。ただ第一小隊が居ないので輸送のお仕事がちょっと増えぎみです」

 

 だからちょっとだけ大変ですねー、と言いながら彼女は伸びをして。

 

 ああそうだ、と手を打った。

 

「そう言えば馨くんはあの化け物について何か聞いてます?」

 

 あの化け物。

 

 どう考えても、俺たちが交戦したあのメダルの化け物の事だろう。

 

 あれを交戦と言って良いのかは悩ましいところだが。一方的な蹂躙と行った方が適切かも知れなかった。

 

 第一小隊を壊滅に追い込んだ例の化け物の話は、第二小隊にも広がっているらしい。

 

 口外しても良いものか少し悩んだが、特に口止めもされていないので良いのだと思うことにする。

 

 少ないとは言え折角の情報だ。どの程度助けになるかは分からないが、知らないよりは知っていた方がマシな展開があるかもしれない。

 

 もっとシンプルな言い方をするならば。

 

 俺はこの友人に少しでも危険な目に遭わないでほしかったのだ。

 

「俺がこの病室で目を覚ました時に聞いたのは2つ。奴等がグリードと呼ばれる存在であること。そして、グリードとはメダルで構成された存在であることだけだ」

 

 目を覚ましたらいきなり病室の備え付けのテレビが「デン!」という音と共に点り、そのディスプレイに鴻上会長の顔がドアップで映し出されたのは非常に心臓に悪かった。

 

 危うくまた夢の世界に逆戻りするところだったぜ、等と今でこそ冗談混じりに話せるが。

 

「グリードは今のところ4体が確認されているが、俺が交戦したのは水を操る個体だった。少なくとも支給品のショットガンとサブマシンガンは効いていない様子だったな。そいつが手から出した高圧水流で俺たちは吹き飛ばされて、その後は気が付いたらここにいたって訳だ」

 

 歯が立たない、とはこの事を言うのだろう。

 

「ま、出来るなら戦わないのが一番だろうな」

 

 軽い口調で言ってはみたものの、本心からの忠告だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 椎名が見舞いに来てくれてから3日後。

 

 未だ完治していないとは言え無事退院した俺は呼び出しを受け、鴻上ファウンデーション本社に来ていた。

 

 俺の前では真っ赤なスーツを着た壮年の男性……鴻上ファウンデーション会長の鴻上光生が、鼻歌混じりにケーキを作っている。

 

 どういう状況だ、これは。

 

 会長室備え付けのソファに腰かけてティーカップを傾ける里中さん……会長秘書の里中エリカさんへと視線を向ける。この状況に無反応な様子を見ると、これはいつもの事らしい。

 

 待つしかなさそうだった。

 

「神座くん」

 

 徐に会長が口を開いた。

 

「は、はい」

 

 慌てる俺を他所に、会長は言葉を続ける。

 

「君は先日のグリードとの戦闘を経験してどう思ったかね?」

 

 クリームを塗り終えたケーキスポンジにホイップクリームでトッピングしながら、鴻上会長は俺に問う。

 

 どう、か。

 

 あの時感じた思いを表すなら、そう。

 

「圧倒的だな、と思いました」

 

 圧倒的、という言葉が正しいのだろう。絶対に勝てないと思わせるような、そんな格の違いとでも言えばいいのだろうか。

 

「訓練はしてきたはずなのに、どうやっても勝てる未来が見えなくて。自分より強い先輩たちが次々とあっさりやられていくのが堪らなく恐ろしくて。正直逃げ出したくなりました」

 

 実際には逃げる間もなくやられた訳だが。

 

「成る程、君の抱いた『恐怖』と言ったところか」

 

 ……そうだ。俺は、怖かったんだ。

 

「……そうですね、死ぬのは怖いです」

 

 ふんふん、とうなずく会長。

 

「では辞めるかね? 今なら危険手当てと合わせて退職金も多めに出そう」

 

 どうするね、と会長が目で問う。

 

 魅力的な提案だと思う。

 

 でも。

 

「せっかくのお話ですが、俺はまだここで働きたいです」

 

 そう答えると、会長は右の眉をくいっと上げながら言った。

 

「ほう。それは何故かな?」

 

「会長は以前、俺に『世界の平和を守る』為の仕事と仰いました」

 

 俺が就活をしている時のことだ。自分に何が出来るか、自分が何をしたいのか分からずに悩んでいたところに、鴻上会長が掛けてくれた言葉だ。

 

「そうだな」

 

 続けたまえ、というかのように頷く会長。

 

「俺は今回、人を襲うグリードという存在を知りました。それを知っていて戦いから逃げ出すのは、俺には出来かねます。俺は……誰かを守るために戦いたい」

 

 俺も幼い頃は画面の向こうのヒーローに憧れたクチである。

 

 格好良く変身して悪者を倒すようなヒーローにはなれなくても。

 

 誰かを助けられるような存在ではありたいと思うのだ。

 

「だから俺は、ここで戦いたい。もっと強くなって、誰かを助けたい」

 

 俺は、強くなる。

 

 今の俺は弱いから。

 

 一方的にやられてしまうぐらい弱かったから。

 

 だから。

 

 次に戦うときはせめて、誰かを助けられるように。

 

 そう思った。

 

「素晴らしいッ!!」

 

 鴻上会長が嬉しそうに言った……いや、叫んだ。

 

「Happy birth day!! 君は君自身の欲望を見つけられたようだ!!」

 

 そう言いながら会長は完成したらしいケーキを手に取ると、俺へと差し出した。

 

 白い生クリームで覆われたケーキスポンジに、チョコレート製のプレートとイチゴ、ブルーベリーがホイップクリームとともにトッピングされている。とても美味しそうだ。

 

「これを、俺に?」

 

「ああ、君のために作ったものだ。これからの君に期待しているよ、神座くん」

 

 そう言って会長は俺にケーキを手渡した。

 

「さて、休暇中に呼び出してすまなかったね。もうしばらく休暇を楽しみたまえ!」

 

 はっはっは、と上機嫌に笑いながら会長は離れた。

 

「…ありがとうございます」

 

 ただ、一人で食べるには流石に量が多い。椎名のところに持って行くか。あいつ甘いもの好きだったはずだし。

 

「……すみません里中さん、ケーキ持ち帰る用の箱とかってあります?」       

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 本作は仮面ライダーオーズ本編のパラレルワールドという想定で書いてます。


神座馨(かんざかおる)

 ライドベンダー隊所属のモブ系主人公。鴻上ファウンデーション入社後はライドベンダー隊の隊員として訓練しつつバイクでの輸送等をやっていたが、初の戦闘でグリードと遭遇。相手が悪かった。


・椎名美琴

 本作の暫定ヒロイン (まだ友人ポジ)。少なくとも格闘戦は主人公より強い。


 りんごは縦方向に皮を剥いた方が美味しく食べられる、という話を何処かで聞いた気もしますが、今回は描写優先で桂剥きになりました。料理経験値が低い作者が思い浮かべられた精一杯の「料理が上手い人」アピールがりんごの桂剥きです。


 ふと思い浮かんだ深夜テンションの産物を手直ししたのがこの文章なんですが、原作が仮面ライダーなのに誰一人変身後の姿が出ないのは流石に詐欺なのではと思わないでもない気もします。そんな息抜きついでの見切り発車作品なので、続くかどうかは未定です。
      

 
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