大企業に就職したと思ったら職務内容がブラックだった   作:斎藤 一樹

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 続きました。


大丈夫? もずく風呂入る?

 鴻上会長に呼び出されてから2週間。今日から俺も本格的に仕事に復帰することになった。

 

「おはようございます馨くん、今日からなんですね」

 

 肩口に切り揃えられた茶色の髪を揺らしながら椎名が微笑んだ。彼女のトレードマークと言える側頭部の編み込みがお洒落だ。

 

「おはよう、椎名。しばらくこっちでお世話になるぜ」

 

 骨折していた右手をひらひらと振って応えつつ、俺は新たに割り振られた席へと向かう。

 

 

 

 俺が会長に「この仕事を続けたい」と言った後、問題となったのが俺の配属先だった。なにせ俺が所属していたライドベンダー第一小隊は、俺と隊長の後藤さん以外の全員が未だ入院している。たった二人で隊として活動出来る筈もなく、更に後藤さんは後藤さんで会長の指示で単独で動くことになったようで。

 

 俺の意思と関係なくクビの危機だった。

 

 やっべぇ。

 

 そんな俺の配属先として選ばれた…というか引き取ってくれたのがここ、ライドベンダー第二小隊。椎名の所属する、もう一つのライドベンダー隊だった。

 

 ちなみに主な仕事内容は輸送と緊急時の出動・戦闘。やる事は第一小隊と変わらないらしい。その辺りの話を聞いたのは俺が自宅で療養休暇を消化している時。そこに見舞いという名目で遊びに来た椎名からだった。

 

 俺は職場である鴻上ファウンデーション本社に程近いアパートの一室で一人暮らしをしているのだが、そこに一台を分割して二人でのプレイを可能とする某ゲーム機をソフトと共に持ち込んで椎名がやって来た。

 

 俺、お前にウチの住所教えてなかったよな。

 

 その疑問に答えることなく、椎名はただ微笑んだのだった。

 

 俺のプライバシーは何処行った。

 

 閑話休題(全くもって良くないが一旦置いといて)

 

 女性慣れしていない自覚のある身としては「一人暮らしの男の家にノコノコやって来るとかこの娘ちょっと不用心すぎるのでは」等と思ったりもしたが、それだけ信用されているのだと思うことにした。手を出せないヘタレだと思われている可能性とか、そもそも男として意識されていない可能性もあり得たが、その辺りは考えないようにする。俺としても微妙に不自由な体に退屈していたのは事実であり、遊び相手が遊び道具と共に来てくれるなら拒む理由はなかった。

 

 そもそも不用心も何も、怪我を抜きにしても俺が襲ったところで返り討ちに合うのがオチという気がしないでもないが、気にしてはいけない。

 

 気にしては、いけない(強調)。

 

 遊びに来る度に毎回手土産と称した料理を持ってきたり、もしくは食材を持ってきて料理を振る舞ってくれたりするので、鍋を振るうのが得意ではない身としてはとても嬉しかったりもする。可愛い女の子の手料理(しかも美味しい)を喜ばない男はそう居ないだろう。

 

 詰まるところ俺は、完全に胃袋を掴まれていた。

 

 何の問題もないな、うん(もう考えるのはやめた)

 

 さて、この第二小隊ではツーマンセルで動くのが基本らしいのだが、俺が新たに入ったことで隊員が奇数名となってしまった。つまりボッチが発生する……もしくは3人のチームが一つ出来上がる事になるわけだが、ボッチを危惧した俺と組むことになったのは椎名だった。こういうのって新人は経験豊富な先輩と組むのが良くあるパターンじゃないの、と思わないでもなかったが、椎名が楽しそうだったので何も言わないことにした。

 

 決して「今日からは私が馨くんの先輩ですね~……ふふっ」と微笑んだ椎名が可愛かったとかそういう理由ではない。少なくともそれだけではない……と思う。

 

 確かに可愛かったけど。

 

 ちなみに第二小隊の隊長である近藤さんが司令塔として1人で動くことになったらしい。第一小隊も後藤さんが司令塔として独立して動く事が多かったので、これはこれで理に適った編成なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライドベンダー第二小隊に配属されてから2日が経った。

 

 3週間ほどの療養生活で落ちた筋肉を取り戻すため、この2日間は取り敢えずひたすら訓練をしていた。走り込みや筋トレ、椎名に頼んでの組手に射撃訓練など。

 

 ただ我武者らに。

 

 強くならなくては。

 

 誰かを助けたければ、その分強くならなくては。

 

 強くなりたい。その一心で、俺は俺を鍛え続ける。

 

「馨くんは」

 

 組手の合間の休憩中に椎名が言った。

 

「馨くんは何のために強くなろうとするんですか?」

 

 何の為、か。

 

「そりゃアレだよ、強くなって誰かを助けるためだよ」

 

 ガラじゃない、なんて言われるだろうか。

 

「では単刀直入に言いますね~? ……何でそんなに焦っているんですか~?」

 

 焦り?

 

「馨くんが復帰してから今日までの三日間、馨くんが鍛練しているのを見ていました。組手の相手もしていました。その上で言います」

 

 すぅ、と息を吸って椎名は口を開いた。

 

「人間の身体には効率的な鍛え方と言うものがあります。その加減は人それぞれですが、馨くんの今のトレーニングは体を必要以上に痛め付けるだけで休息が足りていません。ここまでは良いですか?」

 

 穏やかに諭すように、椎名が言う。

 

「あ、ああ」

 

 何か思ってたのと話の方向性が違ったので少し戸惑ってしまった。

 

「トレーニングはやり過ぎると身体を痛め、最悪骨折などの怪我に繋がります。……とは言え人間の身体はそう壊れやすくは出来ていません。現状では筋肉が上手く付きにくいぐらいで、骨折などのリスクはあまり無いでしょう」

 

「ふんふん」

 

 トレーニング、やりすぎってダメなのか。スポ根漫画とかだと無茶なトレーニングは鉄板ネタだと思うが。

 

「トレーニングについての話はまた後で詳しくやるのでこれぐらいにするとして。組手については明らかに問題ですね~」

 

 むぅ、と桜色の唇を可愛らしく尖らせて椎名が唸る。

 

「格闘戦に限った話ではないですけど、まずは視野を広めに持って下さい。目の前の相手の動き、特に飛んでくる突きや蹴りとかを一々目で追ってたらダメです。何でだか分かりますか?」

 

 はい馨くん、と椎名が俺を手で促した。さながら先生のようだったが、学校の先生と言うよりも家庭教師の女子大生とでも言うべき感じだった。

 

「あー……不意打ちに備えるため、とか?」

 

 無い知恵を振り絞って考えた答えだったが、どうにも不評らしい。何と言うかもにょっとした微妙な表情をされた。

 

「……大負けに負けて50点ですね」

 

 実質半分以下か。

 

「不意打ちの警戒というのも無いわけではないんですけど、もっと大きな理由は対応が追い付かなくなるのを防ぐ事です」

 

 分かるような分からないような。

 

「そうですね……じゃあちょっとそこに立ってて下さい」

 

 廊下でバケツ持って立ってなさい、みたいなアレだろうか。取り敢えず言われた通りに立ち上がる。

 

「今から10発……いえ20発、寸止めで馨くんに攻撃します。決して当てないので、馨くんはそのまま動かずに私の攻撃を目で追ってみてください。目を閉じちゃダメですよ?」

 

 え。

 

「行きますよ~?」

 

 ……マジかよ。

 

「……お手柔らかにお願いします」

 

 椎名を信じよう、そう腹を括って足に力を込める。

 

「寸止めはしますが全力で行きますね~」

 

 待って。

 

 

 

 

 

「どうでした~?」

 

 左腕を前に半身に構え、左右の中段突きに左上段突き、右縦裏拳から右の横裏拳、左中段突きからの左下段蹴り、右上段突き……と合わせてきっかり20発分。一息にそれだけの攻撃を放って尚且つ宣言通りに俺には一発も当てなかった椎名は、軽く呼吸を整えるだけで汗もかかずにいつもの調子で言った。

 

「……めっちゃ怖かった」

 

 対してこっちは動いてないのに冷や汗で背を濡らしていた。少しでも動いたら俺の身体に当たるのでは、という緊張感で疲労が溜まった気がする。

 

「そうじゃなくって、目で追えました?」

 

 そう言えばそんな趣旨だった。

 

「……無理だったな、どんどん目が追い付けなくなっていく」

 

 8発目の攻撃までは何とか目で追えたが、そこから先は一々見てられなかった。目まぐるしい、という表現が正しいのだろうか。

 

「今回のように相手が私1人でも対応が難しくなる、という事が分かって貰えましたよね?」

 

 実戦では周囲にも意識を向けなければならない訳で。

 

「……良く分かったよ」

 

 身を以てな。

 

「でも視野を広くって、具体的にはどうすりゃ良いんだ?」

 

「取り敢えず私の頭の更に少し後ろぐらいを見て下さい。そうして視界の中に私の全身を納めるように出来れば、一先ずはオッケーです」

 

 俺の疑問に椎名はそう言った。

 

「話を戻して、問題は馨くんの焦りについてです」

 

 良いですか、と椎名は言葉を繋いだ。

 

「馨くんの戦い方は、以前と比べて荒々しく……もっと正確に言うなら無駄が多くなってます。ただひたすらに相手を倒そうとしすぎて、相手の攻撃を受けてしまえば簡単にペースを乱される。さっきまでの組手で馨くんも気が付いたんじゃないですか?」

 

 図星だった。

 

「やり過ぎ気味なトレーニングと合わせて、私は『何かに焦ってるんじゃないかな』と思ったんです。思い当たる節、ありますか~?」

 

 ぐうの音も出ない程、見事に言い当てられている。

 

 思い当たる節と言えば、やっぱりアレしかないだろう。

 

「……グリード、か」

 

 自覚さえしてしまえば、その言葉は意外なほどすんなりと口から出て来た。

 

 

 

 

 

 例えば。

 

 一度命の危機に晒されても尚、当たり前のように他の誰かの為に再びその危機へと立ち上がり向かって行けるのなら。

 

 きっとその人はヒーローと呼ばれるような、勇気を持った人間なのだろう。

 

 だが、誰もがそのような勇気を持っている訳もなく。

 

 そういう意味では、神座馨は至って普通の人間だった。

 

 当たり前のように笑い、当たり前のように悲しみ、

 

 そして当たり前のように心を折られた。

 

 グリードという圧倒的な存在を、その力を前にして「敵わない」と諦めてしまった。

 

 神座馨は、そんな人間だった。

 

 だけど。

 

「だけどさ、やられっぱなしってのも悔しいじゃない」

 

 ベンチに腰かけ俯いたまま。馨は本人も気が付かない内に固く握りしめた拳を、膝の上に軽く叩きつけながら言った。

 

 悔しい。その感情も嘘ではない。だが、それが全てでもない。

 

 あの時に相対したグリードという存在が、馨は堪らなく怖かった。一歩間違えば自分は死んでいた、そう思うと今も背筋が冷たくなる。

 

 それでも。

 

 軽口のように口にした「悔しい」という思いを、そして「誰かを守るために戦いたい」という誓いを抱いて、不格好にでも無理矢理立ち上がろうと思えるぐらいには。

 

 神座馨は、諦めが悪かった。

 

「そうだ、俺はグリードが恐ろしい」

 

 力を込めすぎて白くなった左の拳をゆっくりと解きながら、馨はそう認めた。

 

「グリードが怖かった。そして俺がまた何も出来ないまま力尽きるのが怖かった。無力な自分のままでいるのが怖かった」

 

 俯いたまま、吐き出すように馨が言う。

 

「だから、取り敢えず鍛えてみるしかないと思った。ただひたすらに体を鍛えていれば、恐怖心を忘れていられるんじゃないかとも思った」

 

 途方に暮れたように、馨は顔を上げてそのまま天を仰いだ。

 

 実際、後者の目論見についてはある程度成功していたと言える。

 

「少なくとも、体を動かしてりゃ気は紛れたからな」

 

 そう言って馨は困り顔で美琴を見た。

 

 言うなれば誤魔化していた恐怖心を改めて目の前に突き付けられたようなもので、見ないフリをするのも限界があった。どちらにせよ遅かれ早かれ、克服しなければならない問題でもあったのだが。

 

「恐怖心っていうのは無くしちゃダメなんですよ~」

 

 だからこそ、そう美琴に言われた馨は困惑した。

 

「無くした方が良いんじゃないのか?」

 

 そう馨は聞き返したが、

 

「いえ、私はそうは思いません」

 

 きっぱりと美琴は言い切った。

 

「恐怖という感情は、『生きたい』という生存本能が鳴らす警鐘とでも言うべきものです。無くしてしまえばこれから馨くんが戦う上でも大きな問題となります」

 

 だから、と美琴は言葉を重ねた。

 

「必要なのは、恐怖を感じながらも普段と変わらず体を動かせるようになること。その為にはどうか、恐ろしいと感じる心を無くさずに乗り越えて下さい。馨くんの抱える恐怖心を飼い慣らして、乗り(こな)して下さい」

 

 そう言ってから、

 

「大丈夫。馨くんならきっと出来ますよ~」

 

 そう付け加えて美琴は微笑んだ。

 

 そしてそんな彼女の笑顔に馨は弱いのだった。

 

 





 あとがき

 お待たせ致しました。何やかんやで続きが書き上がりましたので投稿します。尚、未だに原作主人公と会えてない模様。予定通りに進めば次話で会う事になりそうですが、果たしてどうなるやら。「こんなのオーズの二次創作じゃないわ、ただのオリジナルものじゃない!」とかクレーム来ても返す言葉が無いレベルですが、展開上必要な話だったので勘弁して下さい。

 ところでお気付きの人もいるかもしれませんが、本作オリジナルのキャラクターの何人かは某ゲームのキャラクターが元ネタと言いますかイメージ元になっています。と言ってもそれっぽいキャラクターがいるだけで、そちらの世界との繋がりはありませんのでご了承下さいorご安心下さい。

 本作はあくまで仮面ライダーオーズの二次創作です。



・モブ系主人公

 恐怖心 俺の心に 恐怖心

 もずく風呂に放り込まなきゃ (使命感)

 修行パート的なお話しを経て覚醒するかもしれないししないかもしれない馨くんにご期待ください。



・低身長茶髪ヒロイン

 ヒロインポジの予定 → まだ友人ポジ → 主人公を鍛えて導く師匠ポジに ←New!

 どうしてこうなった……?

 書いてる側も困惑しているステゴロ系ヒロイン椎名さんの明日はどっちだ。



・筋トレのお話

 作者が知らない分野の話のため、にわか知識で書いてます。間違ってたらごめんなさい。





 本文の最終チェックと後書きの大部分を夜勤バイト明けの妙にハイな頭でつらつらと書いてるので、余りにもアレな様なら後ほど修正するかもしれません。

 何か他にも書く事他にもあったような気がしますが、思い出せないので思い出せたら後書きに追記するか次回の後書きに書きます。それではまた次回、9月下旬頃にまたお会いしましょう。本作品は月1更新を目安に投稿する予定です。


 追記

 思い出しました。感想や評価を付けてくれた方、ありがとうございました。初めて評価9を頂きました。感想もありがとうございます、続きを書く上で大変励みになりました。これからもお付き合いいただければ幸いです。 m(_ _)m

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