大企業に就職したと思ったら職務内容がブラックだった 作:斎藤 一樹
鴻上ファウンデーションの本社ビル、その会長室。この部屋の主であり、一見して上質と分かる椅子に深々と身体を沈めた壮年の男……鴻上光生は、壁面に備え付けられた大型モニターを眺めながら一人考え込んでいた。
モニターに映るのはメダルから産まれ出た怪物、欲望の具現……ヤミー。そしてそれと対峙するのは黒を基調として上下3色の装甲に身を包んだ戦士……オーズ。
欲望の王、オーズ。
本来、彼……火野映司はオーズとなる予定では無かった。火野映司は幾つものアクシデントが重なった結果として偶発的にオーズとなった存在だす。元々は鴻上がその候補として見出だしていた者が居たし、そもそもグリードが目覚めオーズが必要となる時もまだ先となる予定だったのだが。
物事にアクシデントは付き物だ。日本有数の大企業である鴻上ファウンデーション、その会長という座に就いている鴻上はその事をよく理解していた。
当初の予定ではまだ先となる筈だったが、現にこうしてグリードは現代の日本に復活し活動を再開してしまった。そこから生まれもたらされる利益はセルメダルの貯蓄の増加という目に見える形となって鴻上を上機嫌にさせたが、それはそれ。無闇矢鱈と被害を出すべきではない、そう考えるだけの良識と常識を彼は持ち合わせていた。持ち合わせた上で欲望を優先し、時にその良識を踏み越えるのもまた彼の持つ如何ともし難い性だったが。
兎も角。
ヤミーがメダルを増やすのは望むところであるとは言え、増えただけで回収出来なければ意味がない。果樹が実をつけたのならば後は収穫するのみである。
そしてメダルを回収する手段として鴻上ファウンデーションはカンドロイドを開発。ライドベンダーと合わせて量産・配備を進めてあったのが効を奏し、先日の交渉では有利な条件を引き出す材料とすることも出来た。
問題はメダルの回収を行う前の段階、つまりヤミーを撃破するという点にある。
鴻上ファウンデーションではカンドロイドやライドベンダーと並行して、コアメダルを使用したパワードスーツの開発を進めていた。しかし開発は難航、現在はコアメダルの使用を諦めセルメダルを使用したパワードスーツの開発に着手している。このパワードスーツを以てヤミーの撃退を行い、そこで入手したセルメダルの回収をカンドロイドを使って行う……というのが本来想定していた展開だった。
しかし、件のセルメダルをエネルギー源として駆動するパワードスーツ……バースシステムは未だ完成を見ていない。当面の間はオーズ……火野映司に頼るしか無いだろう。机の上に設けられたモニターの1つに目をやり、鴻上はついと片眉を上げつつため息をこぼした。
モニターに映し出されていたのは2種の設計図。バースと呼ばれるパワードスーツと、もう1つは…………。
「これは予定を少々変更しなければならないようだね……」
誰に言うでもなくそう呟き、彼は椅子に背を預けた。
さて。これは一体どうしたものか。
「馨くん?」
分かってるって。分かっちゃいるけど出来れば少し考える時間が欲しい所なんだが……。
「ほら、早く選んで下さい」
その手に持った2枚のカードを突きつけて椎名が言う。そしてそれを左右から眺めているギャラリーが2人。ライドベンダー第二小隊の隊長である
近藤さんはウェーブのかかったプラチナブロンドのロングヘアーが特徴的な、クール系の美人さんである。完璧超人という言葉がしっくり来るような人で、容姿端麗で頭脳明晰かつ文武両道、等と凡そ非の打ち所がない人物像の割りに意外とお茶目だったりする。普段はクールなのに。格闘戦の腕は椎名と互角に戦えるほど、射撃もバイクの運転も、更には部隊の指揮においても高い能力を持っているので、もう同じ種族なのか疑わしい。属性盛りすぎだろう。
仁藤さんは黒髪ストレートのロングヘアーから覗く額が眩しい、笑顔のよく似合うこれまた美人さんだ。明るく元気で世話焼きな、部隊のムードメーカー的な存在と言える。そんな彼女は無類のバイク好きであり、バイクの運転技術はライドベンダー隊随一の腕を持っている。
そんな2人は椎名の学生時代からの親友であるらしい。近藤さんが俺より1つ上の学年で、椎名と仁藤さんが俺と同学年だったそうな。嘘だろ、近藤さん俺と一歳しか変わらないのかよ。
さて、そんな俺たちが何をやっているかというとババ抜きだ。出動要請もなく訓練も一通り終わり、暇を持て余していたところに椎名がトランプを持ってきたのだった。そしてどうせならと椎名が近藤さんと仁藤さんを呼んできて今に至るわけである。ちなみに近藤さんと仁藤さんは既に上がった。
「……じゃあこっちで」
意を決し、こちらから見て右側のカードを引く。
「…………」
ババだった。
「じゃあ今度はこちらから行きますね~」
楽しげに椎名が言う。こちらの手持ちはババであるジョーカーと、クラブの8。身体の後ろで隠すようにシャッフルした2枚のカードから、彼女は躊躇い無く俺から見て左側のカードを……つまりクラブの8を引いた。
そして彼女は手にしたカードを手元のカードと共に捨て、
「私の勝ちですね!」
微笑みながら言ったのだった。
なお現在、俺が4回連続で最下位だった。嘘、私トランプ弱すぎ……?
「馨くん、分かりやすいんですよね」
そう言う椎名に仁藤さんがうんうんと頷いた。
「そんなに顔に出てた?」
「表情は頑張って変えないようにしていたみたいですが、細かい動作などで思考が分かりやすいですね」
俺の疑問に近藤さんが言う。動作か、確かにそっちは気にしてなかったな……。
ちなみに他の三人はと言うと椎名がにこにことした微笑み、近藤さんがいつも通りのクールな微笑、仁藤さんは不敵な笑みとそれぞれ見事なポーカーフェイスを披露してくれた。可愛い。
「道理でカモになる訳だ……これからは動きにも気を付けてみよう」
苦笑いと共に言うと、
「んー、そのままで良いんじゃない?」
と仁藤さんが言った。
「そりゃまあ今のままの方が俺をカモに出来るだろうけどさ」
「いやいや、そうじゃなくて。ねぇ琴ちゃん?」
そう言って意味ありげに椎名を見る仁藤さん。何だ?
「もう、加奈ちゃんってば」
椎名は椎名でその視線から何かを読み取ったのか、微かに赤みの増した頬をむくれさせた。可愛いけどなんだこれ。
近藤さんに目で問うも、黙って首を横に振られてしまった。何故。
平和なだけの日々は長くは続かない。
繰り返すようだが。俺たちライドベンダー隊の仕事は、突発的な緊急事態の対処だ。何かが起こった時にライドベンダーの機動性を活かして現場へと急行し、状況に応じて様々な対応を行うというのがライドベンダー隊の主たる任務である。
つまり何が言いたいかというと。
「ではこれよりブリーフィングを始めるわ」
ヤミーのお出ましである。
「今回出現したヤミーはサメを模したタイプ。以降はサメヤミーと呼称します」
恐らくタカカンドロイドによるものと思われる、空中から撮影された映像をスクリーンに映しながら近藤さんが言う。
サメ型……って事は本来は水中用か? そう思う俺だったが、オーズと陸の上で交戦するサメヤミーの映像を観てその感想を取り消した。何かあいつ地面の下を泳いでるっぽいんだが。何アレ。
地面から背ビレだけを出した状態ですいすいと動き回るサメヤミーの姿は、そのシュールな絵面から乾いた笑いを生む。何と言うか、とてもB級サメ映画を彷彿とさせる光景だった。
何にせよ、水場以外でも十分動けることは分かった。歩行も出来るらしい。サメの癖に。いや、サメだからか。
「サメなのに人型で歩けるんですね……?」
「サメだもの」
「サメだからね!」
ポツリとこぼした椎名に、近藤さんと仁藤さんがそれぞれ言った。うんうん、サメだからしょうがないよな。
「……ねぇ馨くん、これ私がおかしいのかな?」
困惑した顔で椎名が言う。他の二人と違って彼女はサメの類に馴染みがないらしい。
「タコの足が生えたサメや首が3つ4つあるサメがいるんだ、サメが人型になっても何ら不思議な事は無いだろう?」
そう返してやると仁藤さんにイイ笑顔でサムズアップされたので、こちらもサムズアップで返す。サムズアップとは元々、古代ローマで満足・納得できる行動をした者だけに与えられる仕草であったらしい。つまりこの回答こそ間違いの無いものだったのだろう。
椎名はと言えば混乱が深まったのか、頭を抱え唸り声をあげていた。これは洗の……もとい布教しなければならない、そんな使命感を抱きつつ近藤さんに先を促す。
「見ての通り対象は地面を水のように泳ぐといった能力を持っている他、炸裂する水の塊を発射するという攻撃も確認されているわ」
「炸裂」
炸裂て。
ただの水の塊じゃないのかよ。
スクリーンの中ではオーズがちょうどその水を受けて吹き飛ばされていた。近藤さんの言葉を受け、今の部分を巻き戻して映像をよく見直せば……確かに着弾後に爆ぜているらしかった。
マジかよ、何でもありだな。
「つまりすばしっこい上に遠距離攻撃が主体、と」
近藤さんの言葉を仁藤さんが簡潔にまとめた。
「で、どうするんです……生半可な銃火器では効かないんですよね?」
俺たちでは打つ手なしでは。そうボヤいた俺に近藤さんが言う。
「個体によるらしいのだけれど、ヤミー相手ならば拳銃弾でも怯ませることは可能らしいわ」
「そりゃまたありがたい話で」
怯ませられるだけとも言う。倒すには程遠いのだろう。
するとつまりアレか。
「俺たちはひたすら足止めに徹して時間を稼いで、撃破するのはオーズに任せるって事になるんですかね」
「そうなるわね」
微妙な顔をしているであろう俺に、近藤さんは事も無げに言う。
今一つ格好のつかない話だった。
それでも。
俺たちが時間を稼ぐことで助けられる誰かがいるなら、きっと意味はあるのだろう。
少なくとも何も出来ないまま見ているだけよりはよっぽどマシには違いない。
「愛理、武器はどうしよっか?」
仁藤さんが手を上げながら言った。
「足止めが主目的なのだし、ショットガンで面攻撃かしらね」
顎に手を当てて近藤さんが言う。
「あるならライオットシールドも欲しいですね、足止めが目的なら時間稼ぎには有用かと」
眼鏡が特徴の百瀬さんが眼鏡をクイッとやりながら付け加えた。確かに相手が遠距離への攻撃手段を持っている以上、こちらも対策はいるだろうからな。
「では各員、ライオットシールドとショットガンを基本装備として別命あるまで待機を」
そう近藤さんが締め、会議室に承知の声が木霊した。
現時点で、ヤミーには複数の種類がいることが確認されている。というのも出現したヤミーの動きはカンドロイドである程度捕捉・記録されており、これはそれを分析した結果得られた情報だ。
その中でも大雑把に分類するならば、現時点では3つの系統に分類出来る。
1つ目は昆虫型。カマキリやら何か巨大な昆虫やらをモチーフとしたタイプで、包帯を巻いたような姿の未完成な状態から虫よろしく脱皮して完全体へと変貌するのが特徴。
2つ目は哺乳類型。現在はネコっぽい個体と牛っぽい個体が確認されている。特筆すべき点としてどうも人間を核としてそれを覆うようにヤミーが形成されている個体が存在するようで、オーズはヤミーの中から核となっている人間を引きずり出してから撃破と言う流れを取っていた。ネコっぽい個体がこちらの「人間を核とする」タイプのヤミーだ。牛っぽい個体はやたら硬くて強かったものの、人間を核としていたわけではなかったらしい。昆虫型と異なり、包帯のような未完成形態を経ずに最初から完全体で出現するのが分類上の特徴。
3つ目は魚型。同型の個体が複数体、同時に出現するのが特徴である。今までは非人型の魚……魚? の様な個体が確認されるのみだったが、今回のサメヤミーは恐らくこの魚型に分類されると思うので必ずしも人型にならないわけでは無いらしい。
以上が現時点でのヤミーについて分かっていることで、……飽くまで現時点での話なので当てにし過ぎないようにと言われたことでもある。いやまあそうなのかも知れんけどさ。
兎も角。
今回ヤミーのモチーフとなった生き物はサメらしいので、系統は魚型と分類。魚型だから恐らく複数体存在するのだろうと判断されたが、そもそも魚型の個体も今までに一体(一種?)しか出現していなかったりするので、同型の個体が複数体出現するという特性もあの個体だけの特徴なのかもしれない。
解らないことばかりの無い無い尽くしな状況だが、確かなのは件のサメヤミーがまんまと逃げ果せたことだけだった。
それはつまり事態が解決していないことを意味していて。
同時に、俺達にも出番が回ってくるかもしれないという事でもあった。
正直、未だに色々と割り切れない思いはある。
それはもしヤミーと対峙しても倒すことの叶わない、自分自身の無力さだったり。
鎧袖一触という言葉の如くグリードに負わされた怪我が、その時の痛みが、背中にのし掛かるようにもたらしてくる恐怖感だったり。
それでも。
「簡単に言ってくれるよなぁ、ホント」
椎名はあの時、俺に「恐怖心を飼い慣らして、乗り熟こなして下さい」と言った。
これからもまだ、戦うのならば。それでも、と理不尽なまでの暴力に抗うのならば。
恐ろしいと感じる心を、無くさずに失わずに乗り越えてみせろ。
それが、俺が椎名に教えられた心構えだ。
俺を静かに見つめる赤茶色の瞳には、一体どんな光景が見えていたのか。
今の俺には分からないが、きっと彼女はそれが必要だと思ったからそう告げたのだろう。そしてそれはきっと間違っていないんだ。
俺にはオーズのような力はない。
そりゃあるなら欲しいが、残念ながらそう都合よく世界は回らない。
だから俺にヤミーは倒せないし、どの程度足止めが出来るのかすら分からない。
でもな、特別な力が無くったって俺は人を助けて見せる。
どれぐらいやれるのか分からない。無謀な願いなのかもしれない。
でも俺はやってみるぜ。
やってみせるぜ。
何にも特別な力の無い俺にだって誰かを助けられるんだって。
その事を、他の誰でもない俺自身に証明して見せるために。
俺は、もう一回頑張ってみようと思うんだ。
取り敢えず今はそれが、俺の欲望だ。
だからさ。
頼むぜ、オーズ。
ヤミーを倒すのは、俺にゃ出来ねぇからな。
『月1更新を目安に投稿予定』とか書いた次の話までに4ヶ月の間が空くマン「本当に申し訳ない」
良い最終回でしたね……(注:終わってません)。まーた映司くん出てないまま話が終わってしまった……。
そんなこんなで第3話です、ギリギリ2018年の内に間に合いました……大変お待たせしました。原作だと9話の辺りでしょうか。
・茶髪小柄ステゴロ系家庭的ヒロイン
射撃の適正はまあまあ。ヘタクソとまではいかないものの、決して上手いとは言い切れない感じ。
・銀髪ロングカリスマ系ヒロイン
愛理《あいり》ではなく愛理《えり》。正確には本文にもあるように銀髪ではなくプラチナブロンド。射撃、格闘、バイク操縦、部隊指揮の全てのステータスが高い。器用貧乏が極まったら万能、みたいなキャラ。こういうキャラは落差でギャップ作りたくなる……ならない?
・黒髪ロング世話焼き系バイク乗りヒロイン
ライオーン!な古の魔法使いの人と名字被っちゃったけど特にその辺りの設定上の関連性はありません。たまたまです。
・残りのヒロイン2名の紹介の為に挟まれたババ抜きパート
特に意味は無い。
無いったら無い。
(少なくとも今は何も考えて)無い。
という事で本当にお待たせしました、まだエタって無いです。デス。Death……。
今話を書くに当たって改めてオーズ本編の序盤を見返していたわけですが、やっぱり良いですねオーズ。そんな仮面ライダーオーズは今ならAmazonPrimeで観放題! お得!
本作では結構あちこちダイジェストと言うかカットしてたりするので、もし未視聴の方がいらっしゃればそこを補う意味でも是非。
オーズと言えばジオウのオーズ回もありました。何かちょっと違う方向にカッ飛んだ社長とアンクに出逢わなかった映司くん、そしてン我がン魔王ことソウゴくん。それぞれの王道などと書くとどこぞの地方都市で行われた聖杯問答を思い出しますが、こっちもこっちで大概アレな面子です。
ジオウに登場する将来のソウゴくんっぽい最低最悪の魔王こと霞のジョー……じゃなかったオーマジオウですが。正体についての考察の1つに逢魔時王、つまり魔に行き逢った……闇落ちしたソウゴくんという説があります。ジオウに出てきた映司くんがアンクに出会わなかった映司くんだとするなら、グリードのひとりであるアンクという魔に出会ったオーズ本編の映司くんはさしずめ逢魔映司とでも呼ぶべき存在なのかもしれません。その魔であるアンクも、後半ああなっていってしまった(一応のネタバレ対策表現)映司くんと対照的に物語が進むにしたがって魔から人へと近づいていった、というのがまたオーズという物語の面白いところだと思います。
いただいた感想に跳び跳ねて喜んで小指をぶつけたりしつつ。ふとお気に入り登録ユーザー見てみたら、以前めっちゃハマってたライダー系SS(完結済み)の作者さんに登録されててビビったりしつつ。この……SS? まあ本作は牛歩の如き進みの遅さで書き進められております。
そんな拙作にお付き合いいただけるのであれば、次回も気長に広い心でお待ち頂ければ幸いです。1月中に更新できれば良いなと思います。
それではよいお年を!
……ところで劇場版シナリオいります?