ワイヴァーンの本来の色なら
ワイヴァーンは無数の牙を上下に開き、開口する。口腔の奥で燃え盛る炎。ユウマはその脅威に気づきすぐさま、抵抗を開始する。
「【
『———————————————ッッッ!!』
瞬時に魔法を唱え、身体を右の方向へ飛ばした。そのままゴロンと転がり、瞬時に立つ。本来あるはずの
ユウマは瞬時に判断していなかったら自分も霧のように、焼き滅ぼされていただろう。その想像をすると冷や汗をかいてしまっていた。
そんなことを考えてる間でもワイヴァーンは目の前の敵を抹消しようとする。
飛躍し、宙空より急降下で襲いかかる。まだ今ならユウマは回避できる。だが回避したところで、この状況は変わらない。かえって悪くなってしまう。ユウマは覚悟を決め、この
『オオオオオオオオオッ!』
「クッソ!」
抜刀し、狙いを定める。今ユウマが狙っているのは相手の目。視界を奪えれば、こちらが有利に運べるからだ。だが失敗すればただでは済まない。最悪、即死じゃなかったとしても、重症を負うことになるだろう。
なのでユウマは、回避と攻撃を
そして時はきた。5メートルになる瞬間、抜刀した剣の柄を地面に突き刺し、右へ回避。ここまで引きつけたのは、敵が転回しないためと、位置を見定めるため。
そして急に移動した敵を捕らえられる当然出来ず、そのまま地面へ突っ込む。
『ギャオオオオオオオオオオオ!?』
竜の左目が潰れた。赤い血潮を流し、もっとも柔らかいであろう、目の部分はすんなりと貫通した。目に剣を突き刺したまま、痛みに悶える。その瞬間をユウマは見過ごさなかった。回避した直後、砂煙が大きく舞っている、空間に飛び込む。
「【
脳内でカチリと音がして、ギアが一段階上がる。今のユウマの状態は三段階移行している。ここまで出したのは今回が初めてだった。だが今戦っている敵は自分より格上。出し惜しみなんてしていられない。
だがいきなり、
「ユウマ!私も詠唱に入る。私が詠唱を終えるまでは耐えてくれ!」
『ヴォオオオオオオオオオ!!!』
「ッッ!!」
今聞こえた声はリヴェリアの声だった。ユウマはリヴェリアに返事を返すほどの余裕は残されていなかった。リヴェリアの詠唱がかすかに聞こえる。ユウマは竜に致命傷を与えるほどはできないと理解していたが、一泡吹かせてやろうという気力が出てくる。
ユウマはまず最初に狙ったのは、左目に刺さっている、剣を狙った。
『ふッッッッッッ!!!!」
『グオオオオオオオ!?』
綺麗に着地し、痛みに悶え苦しむワイヴァーンを見る。ユウマはこの瞬間、ワイヴァーンを舐めてしまっていた。今のオレなら勝てると慢心してしまっている。ここが冒険をあまり経験していない、初心者が命を落とす原因。
実際、ユウマは危機的状況には気づいていなかった。人間には持っていない、第三の攻撃、尾の攻撃をユウマの死角からワイヴァーンは繰り出す。
繰り出される、尾の攻撃、それは相手の心臓を狙ったのか、心臓を貫こうと伸びていく、
「グッッ!!」
なんとか剣で
顔を上げれば、竜は開口し、口腔の奥で炎の塊が燃えていた。
******
リヴェリアは詠唱は終えていた。しかし、魔法を唱えることができなかった。理由は簡単。ユウマに被害が及ぶからだ。壁の向こうでは、
リヴェリアはこれまでの経験則で、音で大体の位置を把握できていた。ユウマは今私の近くにいると、リヴェリアは感じ取っていた。このまま放てば、
今ユウマにそこから離れろと言っても、
******
相手の炎の攻撃をかわして三度、彼は疲弊していた。リヴェリアからの援護は来ない。リヴェリアの魔法を、ユウマは見たことはないが、きっと強大なものなんだろうと理解はできていた。だが強大すぎるゆえに、きっと自身も食らってしまうのだろうと思っていた。
実際、竜との距離はだいぶある。その位置を変えることができれば、リヴェリアからの魔法の支援を受けることができるだろう。彼はこれ以上戦いが長引けば、自分の命が尽きることがわかっている。
ユウマは今いる場所から離れようと、駆け出す。ワイヴァーンはそれを許さないとばかりに、灼熱の炎を吐き出す。それを完全に回避しながら進めば永遠にたどり着けないかばかりか、先に
なので完全には避けない、致命傷だけは防ぎ、一歩でも前へ、さっきよりも先へ進む。致命傷を避けて進んでるため、リヴェリアに選んでもらっていた、上半身の服が焼け落ちていた。
熱い、熱い、熱い、これほどサラマンダーウールが欲しいとは思ったことは初めてだろう。
ユウマの一番の目的は、リヴェリアに詠唱してもらうこと。そうしてもらえれば、この危機的状況を打破するにはそれしかないと、ユウマは思っていた。
「【
ワイヴァーンとの間合いまで10メートルとなった、火炎攻撃をやめ、白人戦へと攻撃が変わる、爪は当たれば無事で済まないと錯覚させるような、一撃が振るわれる。
『ブォォオオオオオオオオオ!!!』
ユウマの
爪の攻撃は見えていた、三段階目のユウマでは、気づくと同時に、体はバラバラになっていただろう。四段階目になった彼なら、躱せる。
そう思ったのが彼の失態。
「グッッ!?」
ほんの少し、ほんの少しだけ、掠っただけだが、無事では済まなかった。ここまで走ってきた努力を欺くか如く、後ろまで吹き飛ばされる。後ろの分厚い壁にあたり、背中を強打する。ユウマの身体が悲鳴をあげ、骨の何本か砕けた。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
ユウマの脳内がその言葉だけで埋め尽くされる。動けない、身体が言うことを聞かない。その間でも、動かなくなった標的を、確実に仕留めようと、足音が響く。
これこそが、神タナトスが望む、死というものが近づいてくる。ユウマを包む。黄金色に輝く光も徐々に薄れていく。すると、足音とは違う音が響いた。カランッ、という音に気づき、音がした下を見る。
「これは............!」
神ヘスティアからくれた、贈り物が入った紫の包みが肩からずり落ちた。今まで落ちていなかったのが不思議だが、ヘスティアからのご加護だと、勝手に結論づけたユウマは少し笑ってしまった。
危機的状況になった今、ユウマは包みを開けることを決めた。その中には、猛々しい、灼熱の色をした、ガントレットと呼ばれるものが存在した。
それをすぐさまユウマは装備する。ヘスティアがユウマの手のひらのサイズを知っているのかと思うくらい、ちょうどよかった。そして、不思議と力が湧いてくるような気がした。
ユウマの消えかかっていた闘志に火がつく、黄金色の輝きも強くなる。
「ヘスティア様、ありがとうございます。このお礼はちゃんと面と向かって挨拶します。それまで待っていてください」
彼は駆け出す
******
「一体どうなっている!」
リヴェリアが驚愕したのも無理はない。
魔法待機状態をずっと続けていると、この数分の間で、ユウマが何か変わった。音だけでしか聞こえないが、わかる。
ワイヴァーンとの好戦がまた始まった、ユウマとワイヴァーンがほぼ互角、いや気迫だけなら彼の方が優っている。ユウマはワイヴァーンを仕留めようと、確実に接近し戦っているのを理解できた。
リヴェリアは魔法待機状態をやめ、違う詠唱を始めた。彼の勝利を願って、彼の生命を助けるためのすべになることを祈って魔法を唱える。
「【集え、大地の息吹――我が名はアールヴ】」
「【ヴェール・ブレス】」
******
自分の身体に何かまとわりついたのが感じた。考えるまでもなかった。リヴェリアの魔法だとユウマは理解できた。心の中でありがとうと、呟きながら眼前の敵を見据える。
生きて帰る、ベルにまだ教えたいこともある、ベルとまだ夢を果たしていないではないか。また、この武器をくれたヘスティア様に感謝もしていない。オレが死んだらヘスティア様にまだ恩返しもできていない、まだ死ねない。
そして、リヴェリア様に本当の冒険者と認めてもらってないんだ。認めてもらいたい。何度も、修羅場をくぐり抜けている、リヴェリア様に認めてもらいたくて、そして何より、リヴェリア様に追いつきたくて、まだスタート地点にも立っていないんだ。
今この冒険を終えて、冒険者になろう。
そうだ、冒険者は冒険をしないといけない。
今この時だ、オレが、オレが冒険するときはこのときだ。
オレは、オレを越えよう。
「うぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!」
『ッッ!?』
気迫に押されわずかに後ずさる。ユウマはその瞬間を見過ごさなかった。一歩踏み出し、跳躍する。相手の頭上まで飛んだとき、そのまま拳を振り下ろす。
「フッッ!!」
『グォォ............』
鱗が砕ける音がした、その一撃に耐えきれず、頭を地面に叩き落される。土煙が舞い、この一撃がとてつもない衝撃だと思わせる。
まだだ、まだ仕留めきれてない!
ユウマはすぐさま落下し、ワイヴァーンの腹部の下に潜り込む。そのまま、
「うぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!」
『グォォォオオオオオオオオオ!!??』
辛い、痛い、苦しい、そんな感情が沸き起こる中、一撃、一撃を稲妻のように叩き込みながら、吹っ飛ばしていく。負けたくない、勝ちたい、そんな気持ちが湧き出てくる。
「【
最終段階、彼の最後の力を振り絞り、ワイヴァーンを仕留めようとする。最終段階になった途端、魔力の消費量がこれまでとないくらい減っていく、あと2分この戦いが続けば、彼は
『グォォ、オオオオオオオオオ!!』
「なッ!?」
またしても、不注意、人間には真似できない、尾の攻撃。不注意だった故、回避も
ラッシュしていた手もワイヴァーンから離れ、そして転がっていく。何回転も何回転もしながら、ワイヴァーンは勝利を確信した。雄叫びをあげようとした瞬間、やつはきた。
「まだだぁぁああああああああああ!!!」
ユウマは雄叫びをあげながら、突っ込む。回避も防御も許さない一撃、彼は防ぐことができなかった。だが、リヴェリアの魔法が救っていたのだ。もし助けがなければそのまま死んでいただろう。
爪の攻撃をガリガリッと音をさせながらも、左手のガントレットで擦りながら防いでいく、本当にこのガントレットはよくできている。ユウマの身体の一部のように、存在してくれる。一撃も重い、ユウマの力を最大限引き出してくれる武器だと感じた。
攻撃を一撃、一撃決め、爪の攻撃も防ぎ、尾の攻撃も回避する。ユウマが一方的に試合を進めていく。だが、あと1分もすれば、力つきるだろう。この攻防戦は、【必殺の一撃】を叩き込むためにユウマは準備しているものでもあった。
父親が教えてくれた、【必殺の一撃】相手の芯を貫く、そんな一撃。
「捉えた」
攻撃を避け、敵とゼロ距離になる。芯は敵の心臓。敵の心臓に右手の握り拳を当てる。自分の身体と握り拳もゼロ距離、これで準備が整う。必殺といえど、この姿勢を取らなければ、その一撃を放つことはできない。なのでユウマは敵の体力を削る必要があった。
「貫く」
自分にまとっている黄金色の光が強く輝く。
大きく力強い一歩を踏み出す。それと同時に、拳もひねりながら前へ、貫く。
「いっけええええええええええ!!」
『グォォォオオオオオオオオオ!?」
貫いた、自分にまとっていた、黄金色の光が衝撃波を出すかのように、まっすぐ一直線に、ワイヴァーンを貫いていた。
閃光と衝撃。
それが放たれた一撃の全てだった。
弾け飛ぶ怪物の体。灰となり消し飛んだ。そこにただ一人立っているのは勝者だけだった。
勝者は一人。ユウマ・アルセルド。
ユウマは拳を掲げて、意識を落としていた。
遅くなってすみません。
次回はどれくらい時間がかかるかわかりませんが、お待ちいただけたら幸いです。
今回の話は、ワイヴァーンとの戦いです。生きるか死ぬかの戦いでした。
次回は