「で、ハイエルフ君と待ち合わせして、今に至るのか」
「は、はい。ヘスティア様納得しましたか?」
「まあ、そこのハイエルフ君は君のことを対象として見てないようだし、なら許すか」
ヘスティア様はボソボソっと最後に何か呟いたがオレの耳に届くことはなかった。芝生でヘスティア様と出会って数分。ヘスティア様にこっぴどく叱られることはなかった。
オレはヘスティア様の背中に背負っている2つの袋が気になった。1つは小さく、もう一つは少し大きめだった。
「で、これからリヴェリアさんと一緒にダンジョンに行こうと思うんですが、ダメですか?」
「............ハイエルフ君、君は許可したのかい?」
「今日はユウマと
ヘスティア様はムッって顔をしていたが、すぐにため息をつき、こちらにちょいちょいと手招きして来た。
「ユウマ君、ちょっとこっちにくるんだ」
「は、はい」
オレはヘスティア様に呼ばれたので、ヘスティア様の近くまで寄っていく。ちょいちょいと身の丈を合わせろと手を招かれたので少ししゃがんでヘスティア様の身長に合わせる。
ヘスティア様はオレの耳に口を近づけて、オレとヘスティア様しか聞こえない音量で喋り出す。
「いいかい、第一級冒険者がいるなら安心だけど、油断はしちゃダメだ。特にハイエルフ君なんかに手を出したら、他のエルフたちが黙ってないぞ!!」
「途中から話し変わってません?ヘスティア様?」
「あと、魔法はしょうがないとして、スキルのことは言っちゃダメだぜ?そのスキルはレアスキルなんだから、噂に上がったら大変だ」
「は、はい」
「あとこれを君に」
「これは?」
一つの大きめの紫の袋に包まれた物体を貰った。見た目よりも重量があり、「うっ!」と情けない声を出してしまった。けど意識して持てば、重さなど感じられない。
「君が今日大変なことが起きた時、この袋をあけてくれ、きっと君の助けになるものが入ってる」
オレはヘスティア様が数日留守にしていた理由がわかった気がした。きっとヘスティア様はオレたちのために『何か』してくれていたのだろう。
ベルは素っ頓狂な顔をしているがベルにも贈り物があることなんだろう。ベルがヘスティア様からもらった時からがどんな顔をするのか少し楽しみになった。
「行って来ます!ヘスティア様!」
「ああ、いってらっしゃい、けど!!変な気を起こしたら許さないからなあああああっっ!!」
最後のなければいい話なんだけどなぁ。
******
ダンジョン10階層。
「はぁぁああああああッッ!!」
襲いかかってくるインプを両断し、豚頭人身のオークの大ぶりの一撃を右に躱し、躱した先にいた、オークの頭を抜刀した剣で3体同時に切り抜く。合計で34匹の
「【
ふうぅと一つため息をつき、【
「お疲れ様というべきか、
リヴェリアさんが近寄って来て、杖を先をオレの頭に当て、コンッと音がした。痛みはなかったが、頭をさする。
ちなみにリヴェリアさんの格好は今日の朝買った、服のまま入ってきている。ダンジョンでほかの男冒険者が見たら目を引かれることだろう。オレが守らないと!
「無茶をしすぎだ。少しは私を頼れ、まあ同じファミリアではないからその気持ちもわかるのだけどな」
「いやそんな気持ちじゃないんです」
「なに?」
「いや、そのオレって、いつか冒険をまたしないといけないと思ってるんです。頼る癖がついていると、自分がダメになってしまうというか」
たしかにオレの気持ちはすごくいけないことなのかもしれない。仲間を頼る。それはたしかに必要なんだろう。
けれど、今起こるかもしれないし、明日起こるかもしれない、そんな冒険が来た時に、仲間がいなければ一人で対処しなければならない。リヴェリアさんに頼むのはダメなことだと、自分の心のどこかで否定してしまっているのかもしれない。
「私もそう思うことが今でも時々ある」
リヴェリアさんがオレの目をしっかり見て、ゆっくり喋り出す。オレの目を見た後、ゆっくり景色を見渡す。先には仲間と共に戦う四人の冒険者が協力して
「私が冒険者というのは、困難を経験し、それを乗り越え、冒険をしたものだけが送られる称号だと私は思う」
仲間と一緒に戦ってる冒険者は倒した
「冒険というのは曖昧だが、自分一人で乗り越えるものだけではない。仲間と乗り越える冒険もある。だが仲間を信じすぎるとたしかに悪いこともある」
冒険者たちは、10階層に現れた
「見ていろ、あれは上辺だけで作られたパーティだ。仲間のこともよく知らない。理解しようとしない。だが先ほどの戦いで仲間を信用した結果だ」
四人の冒険者は、背中合わせに戦い、目の前の敵だけを打ち取り、自分の後ろにいる敵を仲間に任せている。しかし大きな盾を持つ、
「あれが仲間を信じすぎた結果だ。だがお前がいれば結果は変わるだろ?」
「え?」
「行ってこい。己の力を信じて戦ってこい。見たところ魔法も使えるようだしな」
リヴェリアさんは杖を引っ込め、オレの遮るものがなくなった。リヴェリアさんの言葉を胸に刻み、足の指に力を入れる。
「【
オレの踏んでいた地面が半壊し、地面の一部に亀裂ができたのがわかった。一歩一歩に力を込め、踏み出して行く。景色である霧の粒子がどんどん流れて行く。
「うあああああああああっっ!?だ、だれか助けてくれええええええっっ!?」
「はあああああああああっっ!!」
「
「は、はひいいいいいっっ!?」
リヴェリアさんの罵声がオレや冒険者の耳に響き渡る。
「【
******
「貴様ら仲間を過信することは良いことだが、仲間をあまり知っていないのに、過信するとは何事だ!」
「「「「す、すみませんでしたあああああっっ!!!」」」」
「今この場に、私たちがいなかったら貴様ら死んでいたぞ。それを肝に銘じて、この場をされ」
冒険者四人は化け物でも見たように、怖がりながら駆け出して行った。リヴェリアさんって見た目通り近寄りがたい人なんだけど、根は優しいんだよなぁ。
「わかったか?けど信頼できる仲間がいれば違う。仲間の力量を把握し、時には仲間の援護し、時には仲間から救援を受ける。それが『仲間』というやつだ」
「............なんとなくわかった気がします」
仲間ってオレが一番に思い浮かぶのはベル。ベルを信頼するに値するか、『値する』と即答することができる。ベルは今は頼りなくて、すぐ泣いて、オレに助けを求めようとする、そんな弱い子だけど。
けど弱くあろうとしてない。いつでも上を目指し、弱い自分から逃げ出そうとしている。そんな彼を助けたいとオレは思うし、そんな彼とまだ弱いオレと一緒に成長したいとそう思えた。
「ほう、ならそれでいい。その関係を大切にな」
「はい!」
オレは大きな声で返事することができた。もっと強くなろうとそう思えた。
だからなのかオレは。
「あ、あのリヴェリアさん、お願いがあるんですけど」
******
「おい、あまり無理をするな」
「だ、大丈夫です、まだいけます!」
オレとリヴェリアさんは現在12階層に進んでいた。
時は戻って数分前リヴェリアさんに無理を言って、12階層まで進んでいた。さっきは仲間に頼るのは甘えだとか言っときながらリヴェリアさんに甘えてるオレがいる。なんかすげー嫌だわ。
あれ?これって結構まずい状況?
オレがリヴェリアさんの名前を叫ぼうとした時。
「やめておいたほうがいいよ」
「ッ!?」
黒衣を被った人物がそこにいた。目深に被ったフードからこぼれ落ちている濃紫色の髪は女性のように長い。
リヴェリアさんじゃない、ましてや冒険者でもない。多分あれは『神』。オラリオにずっといたからわかる。あれは神の風格というか、オーラを感じる。
「自己紹介するのは、止められてるんだけど、まあいいか僕は神タナトスと言うんだ」
「..........タナトス、様?」
「死を司る神なのさ僕は」
「で、神様がオレに何の用ですか?」
「おや?警戒してるのかい?」
警戒をしないほうがおかしい。神がダンジョンにいる。それ自体で不審になる。神はダンジョンに入ってはいけない。これはオラリオに住む者なら誰でも知っているルール。それが今破られ、神がダンジョンにいる。
「警戒しなくてもいい、君にいい話をしにきたんだからね」
「いい話、ですか」
「そう、君は力が欲しいかい?」
「そりゃ、もらえるものならもらいますけど」
「うん、いい回答だ。なら僕のもとにこないかい?」
タナトス様は黒衣を被りながらも口元を緩ませ、オレに問いかける。オレに何を惹かれて、何をオレに求めてるのかは知らんがそんなもん答えは。
「ごめ...........」
「回答を出す前に僕の話を少し聞いてくれるかい?」
「どうせ聞くまで、答えは出せないんですよね。なら聞きますよ」
「君と直接あったのは今日が初めてさ、けれど僕は君のことを出会う前に知っていた」
タナトス様はクルッと半回転してオレに背中を見せる、両手を広げて、まるで喜びを表してるような
「君が初めてダンジョンに潜った時の姿を僕は見たのさ」
オレが初めてダンジョンに潜った日。それはオレが死にかけになった日でもある。その姿を見ていた?いや、視線は感じなかった。
オレの思考はいろいろまとめようとしているが、タナトス様はそのまま話を続ける。
「僕は死を司る神だからね。君は恩恵も持たずにダンジョンに潜るなんて、死んだとそう思えたよ。けれど君は違った。泥臭さを感じさせながらも戦った。生きるために!その生への執着!僕はとてつもなく興奮したよ」
だからと付け加え、また半回転して、こちらに視線を向ける。先ほどとった
「僕は君に見惚れたのさ、だから君は僕の近くに来て欲しい、そして僕の近くにいる代わりと言ってはなんだけど、力を君にあげるよ。今よりも、もっと強い力を君にあげることを約束しよう」
力、オレがいま一番と言ってもいいくらい欲しいもの。きっと彼についていけば、その力はどんなものであれ、もらえるのだろう。たとえ今の自分が壊れたとしても。
けど。
「答えは変わりませんよ。オレはヘスティアファミリアの一員なので、答えはごめんなさいです」
オレは今の自分として成長したい。ベルとヘスティア様と。そんな今が気に入っているから、守りたいから強くなりたいとオレは願っている。今の自分が壊れれば、その気持ちはきっとなくなってしまうのだろう。
「...............そうか君も断るのか。八年前と同じだな」
「............八年前?」
「まあ、いいか。君の抗う姿もまた見て見たいしね」
「えっと、なんのことでしょうか?」
タナトス様は先ほどと全く違う。両手を広げているが、先ほど感じる微かなオーラが、もう認知できるようになる。その瞬間地面が揺れる。まるでダンジョンが雄叫びをあげているような。
「ユウマ!そいつからはやく離れろ!!」
リヴェリアさんが走ってこちらに近づいてくる。リヴェリアさんはその存在を知っているかのようにオレに危険を知らせてくる。距離は遠い。リヴェリアさんの足を持っても、15秒ほどかかる距離。
「リ、リヴェリアさん!?これは一体!?」
「説明は後だはやく.........」
オレとリヴェリアさんがもう少しで近づける時に、オレとリヴェリアさんの間には壁ができオレは完全に閉じ込められた状況になった。
オレはこの状況に振り回されていたが、元凶であるタナトス様に視線を向ける。
「では、またいつか会える日を楽しみにしているよ、まあ、君が生きていたらだけど、ね」
タナトス様を捕まえようとするが、手が届く前に、霧の奥へ消えて言った。追いかけようと、魔法を使用しようとすると、その前にもっとヤバい何かを感じ取った。その感じ取ったその脅威を目にするのは、すぐだった。
「なんだよこれ」
エイナさんに知識を叩き込まれなければわからなかっただろう。決して上層には現れることはない