「――それがお前の考えている未来か」
「ああ」
背を向けたまま、中年の男性は目の前のモニターから視線を外さずに短く問いに
応えた。
分かってはいた。この男が、協力することを拒むのを。
「……いずれ離反者が現れる。それでもいいのか?」
「その時の対策はもう考えている。それとも、助けにでも来てくれるのか? カラジャ」
「私の答えはもう分かっているんだろう? 『イオリア』」
「まあ……な」
この男の行動によって世界は大きく動き出すだろう。そして、再び奴は動き出し、世界を終わらせる。
奴の存在を既にイオリアにも教えた。だが、彼の考えが変わることは無かった。
自らの信念を曲げない、これほどにまでの貴重な存在を失うには惜しい。そう思い、カラジャは彼に接触し、共に来る気はないかと何度か説得を試みた。
これが最後。もうこれ以上彼に問いかけ続けても無駄だろう。
「お前にはあれを託した。それでもういいんじゃないのか?」
「確かに……な」
カラジャはイオリアに淹れてもらったコーヒーを飲み干し、立ち上がった。その場を後にしようと扉の方へと向かう。
ドアノブに手をかけた時、お互い背を向けたまま、別れの言葉を告げた。
「……さよならだ。カラジャ」
「ああ。……さよなら。イオリア」
廊下に出たカラジャを窓から流れ込む光が明るく照らし出した。
あと少し。彼が私に与えてくれた物でようやく奴を追い詰めることができる。
機体はできる。後はパイロット。奴に押し潰されないような強靭な精神力を持つ存在が必要。
そんな存在に巡り合うまでに今度はどれだけの時を過ごせばいいのだろうか。再び途方もない年月を待つ必要があることを考えると、眩暈がしてくる。
それでも、信じるしかない。どんなことにも屈しない”彼ら”のような強い子が何処かで生まれてくることを。
◆
「よくやったと言えばいいのか……」
奴にあそこまで近づくことができたのはよかった。だが、その攻撃が届くことは無かった。
深い海の底へと沈んでいく《OOライザー》を回収し、カラジャは回線を繋ぐ。
「座標を送る。回収のために『ゲート』を開いてくれ」
『了解しました!』
「どれぐらいかかる?」
『30秒で開きます!』
「頼んだぞ」
30秒。《プレトマイオスⅡ》は既に回収した。後は持ちこたえることができるか否か。
奴との戦闘に備えて作業用に建造したMS、《トレーラー》のメインカメラを海上の方へと向ける。
激しく2機がぶつかり合っている。奴、《∀》と。対《∀》用MS《メシア》が。
《∀》に対抗するべく、『クインティプル・ドライブシステム』や対月光蝶用武装『クロニクル』を搭載し、その他にもありとあらゆる技術を投入した機体。それが《メシア》。
だが、やはり精神の侵食が速い。サポートのため《メシア》にリンクさせておいた『ヴェーダⅡ』にも、侵食が始まるのは予想外だった。
既にリンクは切断され、後は精神面を徹底強化したイノベイドがどこまで戦えるかが問題だった。
『ゲート』開通まで後10秒。その時、海上で小規模の爆発が起きたのを確認すると同時に、《メシア》のシールドを装備した左腕が海中へと落下してきた。
周囲から撃墜された《デュナメス》、《GNアーチャー改》を回収してきた《トレーラー》が近づいてくる。
準備は完了。後五秒。
『カラジャ様! 申し訳――』
回線越しから聞こえてきた謝罪の声が途中で切れた直後、海上で大規模の爆発を確認した。
よくやってくれた。無駄ではない。お前の死は。自らのために散ってくれた命への感謝と後悔を抱くカラジャは唇を噛む。そんな彼の目の前に『ゲート』は開通したが、間を置かずしてこちらに《∀》が全速力で向かってきた。
禍々しい喜び、怒り、悲しみ、楽しみ。凄まじい数の人間の感情が入り込んでくる。あらゆる生物への怨嗟は、直接戦わずとも相手を屈服させるには十分すぎるほどだ。
接触危険領域にまで月光蝶が迫る。もう時間はない。
「さらばだ。”友”よ。また会おう」
怒りとは違う何処か悲し気な表情で別れを告げ、カラジャを含んだ3機は『ゲート』を駆使してその場から離脱するのだった。
◆
まさか、こんなにも早く適性人物が現れるとは。イオリアがいた時から世界が約一巡しかしていない。
その人物が『彼』だと確定したときには驚きが隠せなかった。間違いではないのかと、信じることができずに何度も検証した。
運命とでも表せばいいのだろうか。『彼』以外にも、過去に世界で活躍をした者達もこの世界に存在している。しかも、どれも似たような状況で事が進んでいる。奇妙だ。本当に。
科学ではこの状況を完全に解明することできないだろう。私も解明できなかった。いい加減に終わらせろと世界が欲しているのだろうか。この連鎖を。《∀》を止めろと。
『『量子ゲート』の座標固定。安定化まで後30秒』
コクピット内に回線からイアンの声が聞こえてきた。
そういえば自分がMSに乗って出撃するのは久しぶりか。ふと思い出したかのように準備運動のためにカラジャは軽く体を動かした。すると、すぐさまイアンが声を荒げた。
『おいおい、神経連動してるんだから動くなよ。カタパルトから外れちまうじゃねーか』
「おっと、そうだったな。すまない」
不思議だった。いつものカラジャであれらこんなことはしない。意識はしていないが、無意識のうちに得た喜びがそうさせていたようだった。
『彼』と会うことができる。私の知っている『彼』ではないが。
隣接しているカタパルトには、援護兼非常時のために刹那が《OOライザー》、ニールが《デュナメス》で出撃体勢にはいっている。
少なくとも《メシア》よりは安定している機体とはいえ、起動実験では大丈夫だったが、実戦で何が起きるかは分からない。
後は『彼』が覚醒すれば、全てが揃う。それまで、私は、私達はこの世界への介入を続けることになるだろう。
一体どれだけの世界を犠牲にしたのだろうか。償うには遅すぎるほど時が流れた。
『彼』の言葉を思い出し、コクピットの中で小さく呟いた。
「自分ができることを精一杯やる。それこそ我が人生なり。……ふふっ」
思わず笑ってしまった。『彼』が残した自称世界最高の名言。というかこれは名言と言えるのかどうかも分からない。
変わった奴だった。あの緊迫していた状況の中でも、『彼』は場違いともいえるほど明るかった。いや、実際場違いだった。
『安定化を確認。『ゲート』、開きます。出撃準備完了』
目の前の空間に輪が広がり、その内側には格納庫の壁ではなく、宇宙が見える。
終わらせよう。この世界のためにも。『彼』のためにも。
「カラジャ・アル・ウォーケン。GN-Z03《LEGEND》。出るぞ!」
今回でオリジナルMS、オリジナル技術を登場させてもらいました。
以下に登場した物の説明を書きたいと思います。
良かったらご覧ください。
CB=ソレスタルビーイング
技術名:ヴェーダⅡ
《説明》
その名の通り、二つ目のヴェーダ。
カラジャがイオリアから譲り受けた技術の一つ。
(所在については今後明らかになります)
技術名:量子ゲート
《説明》
ゲート発生装置から指定した座標へと道を作り出す技術。
《トランザムライザー》が発生させた量子化をヒントにカラジャ自身が完成させた。
既に《∀》で似た技術が採用されているのもこの技術が急ピッチで製作できた要因かもしれない。
詳細は機密情報としてヴェーダⅡに保存されており、カラジャ以外閲覧できないとされるが、イアンの推測ではもうその情報も削除しているのではないかとしている。
機体名:トレーラー
型式番号:GNW-004
《説明》
イオリアから入手した技術、GNドライブを動力に利用した作業用MS。
どんな状況下においても作業を行うことのできるMSを目指した結果、武装は一切搭載しないが『フェイズシフト装甲』を搭載しことにより耐久性、機動性の優れた機体となった。
CBに離反者が現れた際にヴェーダから送られてきた『ツインドライブシステム』を試験的に採用し、4機目の試作機が採用され量産が決定した。
《∀》をCBが迎撃した時には4機が製造されており、CBの救出、回収のために3機が出撃した。
作業用MSとしては破格の性能を有しているが、《∀》から少しでも生存率を上げるための措置だった。
このMSが開発される以前にも《∀》襲撃時に、救出、回収を行おうとしたが、大半が失敗。全滅している。
この機体と『量子ゲート』の完成によって救出、回収による生存率は大幅に向上した。
機体名:メシア
型式番号:GN-Z02
《説明》
対《∀》用に製造されたMS。これまでの世界で手に入れたありとあらゆる技術が投入されている。
『クインティプル・ドライブシステム』、『クロニクル』など搭載し、性能では《∀》と同等かそれ以上に匹敵する超高性能機。
クインティプルの名の通り、5基のGNドライブを搭載している。完全同調に成功しており、生み出されるエネルギーは、五倍化ではなく五乗化されている。
これによって《∀》を超えた異次元クラスの出力を有する。
しかし、武装がいくら強くても《∀》には勝てないのが現状である。
(これ以上の詳細は後々明らかにしていきます)