何故、こんな状況になったのだろうか。これまでの出来事を整理することにする。
《ルナツー》へと向かう中、恐らくシャアの乗る《グワジン》が周辺を離れずに追跡してきていた。あちらから仕掛けてこないところから見て、補給を待っているのではないかという仮説が立てられた。
それは的中し、補給間と合流した。どうやらルナツーの監視エリアの隙である表層のクレーターにて作業を行うようだ。ミノフスキー粒子を大量に散布すればあの大きさのクレーターならば駐屯部隊にも気づかれない。
叩かなければ。見逃せば確実にこれからも俺達の、連邦の脅威になるであろう《赤い彗星》。やるなら今だ。ブライトの指揮の下、作戦が実行された。
戦力不足とも思われたが、避難民の中から二十歳前の男性二人が名乗りを上げてくれた。確か、『カイ』と『ハヤト』といったか。パイロットとしての腕はともかく、動けるMSが増えるのは頼もしい。
急ピッチで進められていたリィナ少尉の《イナクト》も整備完了。この戦力ならばやれるかもしれない。いや、やらなければいけない。
カタパルトから続々と出撃していき、最後にアキラの乗る《G-3》が出撃した。直ぐに合流しようとしたその時、第1の異常事態が発生した。
突如として既に出撃していた面々との回線が繋がらなくなったと思ったら、目と鼻の先に正体不明機が出現した。
理解ができなかった。カメラの故障かとも思った。何も無いところからいきなり現れたのだ。だが、それに蹴り飛ばされたことによりこれが現実だと理解できた。
バランスを大きく崩したが、なんとかスラスターを利用して姿勢を持ち直した。
静かに目の前に佇む正体不明機は、こちらの様子を伺っているようで、その場から動こうとはしなかった。《WB》の艦橋から見えたのだろう。ブライトが回線を繋いできたが、ノイズがひどくて何を言っているのか聞き取ることができない。
ミノフスキー粒子はそれほど濃くはない。もしや正体不明機の機体各部位から噴出している緑色の粒子が関係しているのだろうか。
ジオンの新型か。しかしながらジオン系MS特有のモノアイはない。どちらかといえばその外見は《ガンダム》に似ている。
いつ動いても対応できるよう身構え続けるが、向こうからは動こうとはしない。かといってこちらが動いた場合、こいつがどんな行動をするのかも分からない。
仕掛けるかどうか悩んでいたその時、不明機の背部にビームが放たれた。《ガンダム》だ。しかしそれは不明機の直前でかき消された。異常を察知したのか、ここまで戻ってきたようだ。
攻撃を受けたにも関わらず、不明機は微動だにせずその場に立っていた。それを見てアムロの《ガンダム》が後ろからビームサーベルで切りかかった。
だが、振り下ろされたそこに不明機の姿はなかった。消えた。そう。消えたのだ。
その直後――
『いい動きだ』
――男の声が聞こえた。
回線からではなく、心の中に響いたかのような感じだった。驚きの連続で頭が追いつかず、思わず笑いがこみ上げてきた。
わけが分からない。何が今どうなっているんだ。脳内処理が追い付かずに混乱気味なアキラに、アムロが声を張り上げて伝える。
『アキラ大尉! 右です!』
「んなっ!?」
アムロからの呼びかけに我に返り、右を向こうとしたその時、再び姿を現した不明機からの蹴りを受けて吹き飛ばされた。
「ちくしょうが!」
スラスターを吹かして姿勢制御をしつつ、牽制で頭部のバルカン砲を放つも、不明機を覆う何かに阻まれてそれが届くことは無かった。
どうすればいいのか。何が有効なのか。そもそも敵なのか、味方なのか。多くの思慮を巡らせながら、不明機との戦闘が始まった。
《G-3》と《ガンダム》の2機の攻撃の全てが効かない。理不尽ともいえるほどの性能の差がある。特に、目の前で消える。これが一番理解ができなかった。
恐らくその気になれば直ぐにでもこちらを撃墜することはできるのだろうが、こいつはそれをしない。
不明機の目的が分からない。このまま戦闘を続けることに意味があるのだろうか。
戦闘開始から約5分が経とうとしていた。そして、第2の異常事態が発生した。
『撃ちます! 回避を!』
突然繋がった回線。それに従い、不明機から距離をとる。そしてその上方から大出力のビームが放たれた。地表に着弾し、周囲が舞い上がった土煙で包まれる。
戦艦の主砲クラスの凄まじい威力。だが《WB》は位置から考えても撃つことはできない。では誰が?
その瞬間、嫌な予感がした。まさか、『あれ』がここに来ているのか?
土煙から抜け出し、上方を確認してその支援攻撃を行った存在を確認して、アキラは驚きを隠せずコクピットの中でつぶやいた。
「何で……、《Xナンバー》がここにいるんだよ」
確認できた機体は《イージス》。この《G-3》や《ガンダム》と同時進行で開発が進められていた機体の内の1つだ。
だが、あれは別の中立コロニーである《ヘリオポリス》で開発が進められていたはず。もしや、こちらと同時にジオンに襲撃されたのか。
もう何が何なのやら。もしこの戦闘から生き延びることができたら、大抵の事が発生しても驚くことがないような気がする。そう考えている内に再び不明機が現れる。やはり先ほどの攻撃も直撃していなかったようで、キズ1つ付いていない。
3対1数では有利なのだが。そう考えていると、レーダーに不明機に向けて急速接近する熱源を感知した。
『ビームが駄目なら!』
回線越しから聞こえたのは青年の声。それと同時にエールストライカーを装備した《ストライク》が大推力を駆使した強烈な蹴りを不明機に叩き込んだ。
不明機は消えなかったが、その脚を何と掴み、《イージス》の方へと放り投げてみせた。
『うわぁ!?』
『キラ! くっ!』
《イージス》はMS形態へと変形し、投げつけられた《ストライク》を受け止める。巧みな操縦技術によって姿勢制御をしつつ、両機は土煙を上げつつも着地して見せた。
《Xナンバー》二機という想定外の援軍が加わり、これで4対1。ここからどう動くのか、様子を見ようとしたその時、消えた。今度はどこから来るのか。周囲を警戒したアキラだが、しばらくしても不明機は姿を現さない。
撤退したのか。そう考えるには早計か。油断できぬ状況下で警戒を続けていた次の瞬間、大規模の爆発が生じたのを確認した。
「!?」
爆発方向にはクレーターがある。画面の端に映りだされてた作戦開始のタイマーがゼロとなっているのにも気づいた。
今すぐにでもクレーターへと向かいたいが、不明機がまたどこからともなく現れる可能性も有り、この場から動くことができない。
あの3機で作戦を決行したのだろうが、果たしてうまくいったのだろうか。いや、やってもらわなければ困る。
だがその期待を裏切り、爆煙の中から《グワジン》が浮上してきた。瞬時に浮かんだ打開策を実行すべく、《イージス》に回線を繋ぐ。
「《イージス》! 浮上してきたあれをやれるか?」
『りょ、了解……ん?』
「どうした? 何で……」
返事が途中で途切れたことに疑問を抱き、《イージス》のパイロットに確認を取ろうとしたが、それより前にその理由が分かった。
こちらの攻撃を遮るように、連邦の戦艦《マゼラン》が《グワジン》の前に姿を現したからだ。
何故、あれが今ここで出てきたのか。疑問に思っていたところに、《マゼラン》から回線が繋がった。
『誰の許可を得てこの空域内でジオンと交戦している! 貴艦の艦名と所属艦隊を問う!』
聞こえてきたのは怒声。それもかなり強い声だ。
『即答がなければ僚艦といえども撃沈する!』
この戦闘に気づいて出てきたのだろう。やはり緊急とはいえ、報告することなく戦闘を行ったのがまずかったようだ。おとなしくした方がいいだろう。
緊迫した空気が流れているが、ようやく戦闘が終わったことに安堵する気持ちもあった。特に今回の戦闘では驚くことの連続で疲れた。回線からは引き続き《マゼラン》からの怒声が響き渡る。
その後、《WB》とその搭載機。そして後から来た《アークエンジェル》が《ルナツー》へと入港した。
軍機違反による独房行き。又はそれ以上の刑に処されるのではないかとも思っていたが、予想外の待遇が待っていた。ある意味、これが第3の異常事態ともいっていいかもしれない。
《WB》と《アークエンジェル》の艦長、パイロットなどの主要人物が作戦会議室へと呼び出された。そこにやって来た、ルナツー指令『ワッケイン』少将の表情には焦りが伺えた。
どうやらこちらの処罰よりも重要で、かなり深刻な事態が発生しているのがわかった。
室内の照明が消え、モニターが起動すると同時にワッケイン少将はこの場にいる全員に告げた。
「君達の処罰に関しては後回しとする。何せ時間がないのでな」
モニターに表示されたのは、コロニー。既に居住者はいない、無人コロニーだ。それを見て室内がざわめく。まさか、ジオンはまた「あれ」を行うとでもいえばいいのだろうか。
そして、ワッケインの口から俺にとっての第4の異常事態であり、最も重大な事態を告げられた。
「無人コロニーが地球へ向けて動き出している。その軌道、速度から計算した結果、目標は南米だと思われる」
◆
何度振り返ってみても、今日以上に疲れる日は無いだろうとアキラは考えていた。
現在《WB》と《アークエンジェル》、ルナツーの艦隊が急遽編成され、移動を続けているコロニーへと向かっている。
ルナツーの工場にて先行量産されていた《ジム》と《ダガー》、前々からルナツーに配備されていた《フラッグ》など持てる戦力のほぼ全てを出しての出撃となった。
先行量産組の実戦経験がないのが気掛かりだが、今となってはそんなことどうでもいい。戦力は多いにこしたことはないからだ。
哨戒任務中の艦隊なども呼べるだけ呼んだが、落下阻止に間に合う艦隊は決して多いとはいえない。そういった戦力差を埋めるためにも、《WB》と《アークエンジェル》もこの作戦に加えられたということだ。
かなり早い段階で察知できたとはいえ、今宇宙はほぼジオンが牛耳っている。あちらもかなりの護衛艦隊を引き連れているはず。決死の覚悟で望まなければ、落下を阻止するのは難しいだろう。
まだ死ねない。死ぬわけにはいかない。そして、あれをまた地球に落とさせるわけにはいかない。
「母さん、『ウィル』。大丈夫。俺があれを止めてみせる。だから……」
コクピットの中で待機していたアキラは拳を強く握り締め、つぶやいた。
「あの世から見守ってくれ。父さんも、頼むよ。力を貸してくれ」
そしてアキラは出撃の時を静かに待っていた。