形勢逆転。少し前の劣勢が嘘のようにも感じられる。突如現れたPMC所属のMS部隊によってジオンは窮地へと追い込まれていた。たった4機のMSに為すすべもなく撃破されていくMSと戦艦。もしあれが敵だったならと考えたくもない。
それの援護、残り物の追撃も兼ねてアキラ達も出撃したが、その時にはもう敵は残っていなかった。レーダーに映し出されるのは、放棄されたMSか戦艦だけ。まるで嵐が過ぎ去った後のような惨状だった。
『大尉。これを』
「ん、どうした? 少尉」
呼び止められ、アキラはリィナ機が指し示す先にあるものを目にした。
「……敵には容赦なしか」
そこには大破した脱出艇の残骸が漂っていた。周りには恐らくそれに乗っていたであろうジオン兵の姿がある。その全てがノーマルスーツを着用しており、顔を外から確認することは出来なかった。内側からバイザーが赤く染まっていたからだ。
こういったものを見ると、改めて自分達は戦争をしていると実感する。いつ自分達がこうなってもおかしくはない場所にいる。それを思い知らされる。
その後再び周囲の警戒をしつつ、PMCに追いつくために残骸の中を進行するアキラ達に《WB》から回線が繋がった。
『各機、コロニーへ向かえ。確認作業だ』
「了解」
ブライトの指示に従い、それぞれが崩壊したコロニーへと向かった。その途中でアキラはブライトに問いかけた。
「中尉、コロニーのその後は?」
『大丈夫です。先端の一部がまた地球へと向かっていますが、あの大きさなら大気圏突入時に燃え尽きるようです』
「そうか……」
本隊へと向かっていたコロニーは、PMCの3機のMSによって制圧された。たった、3機に。
アキラ達が出撃する前、戦場に現れたMS部隊はその後散開し、二手に分かれた。彼らの様子を見るために指示通り待機していたアキラ達を驚愕させたのはその直ぐ後のことだった。
コクピットに映し出されていたサブモニターには、コロニーへと向かう3機のMSの様子が映し出されており、信じられないものを見てしまった。先頭を行くMSから放たれた大出力のビームが、コロニーを貫いた。その直線状にいたジオンも根こそぎ消し飛んだのだ。
MSであの出力。現在の戦艦に搭載されている主砲、いや、それ以上の火力であるのがその様子から分かった。もちろん、今の連邦のMSであれほどの火力を携行しているMSはいない。できるMSもいない。
その後、随伴していた2機がコロニーの周囲のジオンを、後部の警護をしていたジオンにも分かれていた3機が掃討を開始。瞬く間に制圧されていくジオンを見て、彼らの存在に誰もが恐怖を覚えた。
着々とジオンの数を減らしていく中で、コロニーを2発の閃光が貫く。やがてコロニーは誘爆を起こし、徐々に爆発は全体へと広がっていった。その光景はまるで宇宙が燃えているようにも感じられた。最後に大爆発したコロニーは、先端部分のみが軌道をずらして移動し始めたのだった。
それを確認した頃には既にコロニー周辺のジオンは全滅しており、3機はまだ後部に残るジオンのほうへと向かっていった。残っていた先端部分は連邦の本隊の一斉砲撃によって、粉砕された。PMCはその後もジオンの追撃を行っているのか、こちらの方へと戻ってくる様子はなかった。
こうして現在に至るのだが、自分達はただあのMS部隊に圧倒されていただけのような気がする。性能が桁違い。こちらも最新の機体のはずなのだが。
残っているコロニーの残骸にアキラ達がついたとき、アストナージから回線が繋がった。
『ようアキラ。ご苦労さん』
「おう」
まだ格納庫で作業の最中なのにも関わらず回線を繋いできたということは、何かあったのだろう。その手には1枚の写真が握られていた。
興奮気味にアストナージが見せてきたそれを見て、アキラは驚きながら呟いた。
「……《ガンダム》?」
『だよな。そう見えるよな。さっきのPMCのMSの内の1機だ』
似ている。というよりかは、そのものだともいえる。写真に映し出されているのは、コロニーを貫いたMSをぎりぎりまで拡大して撮られたもののようだ。すこしぼやけてはいるが、その顔の部分は確認することができた。
何故PMCが《ガンダム》タイプのMSを所有しているのだろうか。このタイプの機体は連邦内部でも極秘に製造されていたはずであり、PMCが知ることができるものではない。
さまざまな疑問がアキラの中で生まれたが、それをアストナージに伝える前にブライトの指示が遮った。
『各機コロニーの調査を開始しろ。まだ爆発の危険がある。注意しろ。それとアストナージ、仕事にもどれ』
『りょ、了解。アキラ、またな』
アストナージはそそくさと作業へと戻っていった。写真のあれが気になるが、今はこのコロニーの調査に集中すると決めて気を引き締めた。
大部分が爆発によって原型を留めていなかったが、まだ損傷の少ない箇所もいくつか発見された。それらはもうアキラ達が知っているコロニーではなく、完全に兵器として改造されていた。間違いなく人が住むようなところではないのが、見た目から分かる。
各部から集められた少ない情報から、このコロニーはサイド3にて既に放棄されていた廃コロニーだというのが分かった。よくもここまで改造したものだ。
だが、何故ジオンはこの時点でこの兵器を使用したのだろうか。確かにこれを投入し、うまくいけば制宙権を完全に確保できたかもしれないが、これほど大きい兵器だ。間違いなく最優先破壊対象にもなる。この戦争の早期終結を目指して過去にもかなりの大事を起こしているジオンだが、今回もそのためなのだろうか。
考えれば考えるほど生まれる疑問の整理ができなくなったアキラは、考えるのを止めた。自分の専門はMSだ。政治とかややこしいのはお偉いさんに任せたほうがいいはずだ。
そう自問自答をしていた時、アキラは何か異変に気づいた。
「……?」
いや、気づいたというよりか、感じたといった方がいいのだろうか。自分でも言葉で表しづらい感覚。気持ちがいいものではないのは確かだ。何かがある。ここ一帯に。このコロニーに。離れた方がいいと何故か思う。何故かはわからないが。
アキラは調査を行っていたリィナたちに回線を繋ぎ、呼びかけた。
「各機、調査を中断してコロニーから離れてくれ。今すぐにだ」
『え、でもまだ』
「いいから。ブライトには俺が伝える」
『……了解しました』
リィナの反対を押し切り、後退を命じた。これでいいはず。たぶん。そうアキラが考えていたその時、アムロが話しかけてきた。
『大尉……、まさか、感じたんですか?』
「……それって、気持ちが悪い何かがここにあるって感じか?」
アムロの言葉に少し驚いたアキラだったが、冷静にそれを返した。アムロもこの異様な感覚に陥っているのだろうか。
その後回線の向こうでアムロは黙ったまま、コロニーから離れていった。聞きたいことはまだあったが、とにかく今はここから離れた方がいい。
カイ、ハヤト、アムロがコロニーの残骸から十分に距離をとり、後はアキラとリィナの2人。残骸の奥で調査を行っていた2人が遅くなってしまった。
直ぐにでもここから離れたいアキラ。あともう少しで出られるといったところで、リィナが止まったことに気づいた。
「何してる、少尉。早くしろ」
『待ってください。大尉。さっきそこで何かが光ったような……』
その瞬間、アキラはリィナの《イナクト》に急接近して腕を掴み、コロニーの残骸の外の方へと放り投げた。いきなりのことで驚いたのだろう。回線の向こうからリィナの悲鳴が聞こえてきた。
だが、こうしなければいけなかった。《イナクト》ではもたない。《G-3》のシールドと装甲ならば持ちこたえられるはず。何故こんなことを考えているのか自分でも訳が分からなかったが、ただ直感的に『少尉を助けなければ』と考え、行動に移した。これならば少尉も自分も助かる。そう思ったからだ。
リィナがアキラの突然の行動に不満を爆発させようとした次の瞬間、コロニーが真っ赤な炎に包まれた。それと同時に凄まじい衝撃が外で待機していたアムロたちを襲った。
生者を許さぬ怨嗟の炎。絶対的な悪意をひしひしと感じながらも咄嗟にアキラはシールドを構えたが、そこで意識が途切れてしまうのだった。