機動戦士ガンダムLEGEND   作:黒光りするGさん

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第14話 得た者、失った者

誰もが静まり返る中、士官が告げた。

 

 

「コロニーの自爆を確認。作戦、終了です」

 

 

 それを聞いた誰もが悔しさをかみ締めていた。予想外の戦力の介入により、防衛のために出撃していた艦隊の8割が失われた。これは当初の予想を遥かに超える損害だったのだ。

 作戦の締めとしてコロニーは自爆させる予定だった。しかし、本来は残る連邦の艦隊の殲滅と情報漏洩防止のための自爆であり、こうした形で迎えるはずではなかった。

 情報を与えることなく済んだが、今回の作戦で得られたデータよりも損失の方が大きい。ザビ家の支援で決行された作戦とはいえ、評議会の連中は黙っていない。

 失った物がかなり大きいが、得た物を無駄にするわけにはいかない。十分なデータは取れた。これを元に評議会を黙らせた後に、『あれ』の建造を本格的に開始する。滅ぼさなければならない。地球に救う害虫共を徹底的に駆除するためにも

パトリックは席を立ち、士官にデータの整理を言い渡してその場を後にした。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 

「おー、やっぱり広いねー」

 

 

 サーシェスはルナツー内部の格納庫を歩き回りながら呟いた。それに対して背後から指摘される。

 

 

「当たり前だろ。ここ連邦にとってかなり重要なところだからな」

 

 

 その指摘の主はデュオ。面倒くさそうに、サーシェスの後についてきている。この基地の司令官であるワッケインとの面会の後、何度も寄り道をしようとしているサーシェスをデュオが止めていた。

 直ぐに解散すると思われていたが、仕事で今度はこのルナツーの防衛をサーシェス達が任されることになった。しかも長期。ただでさえ、嫌われ者である自分達がこの基地にしばらくいなければならないことにデュオは憂鬱だった。

 実際にこれまでの廊下で、『戦争屋だ……』『なんであいつらなんかに……』などの小声が聞こえてきた。わざとこちらに聞こえるように言っているのが腹立たしい。

 しかし、現在の戦力上ジオンに侵攻された場合、連邦だけでは持ちこたえることは不可能。だからこそ雇われたのであり、連邦士官の苛立ちをこちらに向けられるのはお門違い。お前達が弱いから俺達が守ってやる。といいたいデュオだったが、そんなことを言えば今以上に嫌われるのは目に見えていたため、止めた。

 これからのことを考えると嫌気がさしてくるデュオだったが、サーシェスは楽しそうだった。戦えればそれでいい戦争狂の気持ちをデュオは理解することができなかった。

 やがて機体の下へと到着し、既に整備に取り掛かっている4機と4人を見上げると、サーシェスはデュオに問いかけた。

 

 

「ヒイロの機体の損傷が一番酷いか。本社の予備の到着は?」

 

「1時間後」

 

「もっと速く来れないのか?」

 

「無理言うなよ旦那。周辺でジオンの姿が確認されてるんだぜ。ようやく見つけた

 

「安全が確保された最短のルートではこれが限界なんだよ」

 

 

 それを聞いて納得したのかそれ以上サーシェスが聞き返してくることは無かった。2人はその後、それぞれの機体の整備に分かれるのだった。

 既にあのコロニーの自爆から1週間経った。ルナツー近辺ではこちらの様子を伺うジオンの姿が後を絶えない。あの兵器化したコロニーを利用した作戦の後ここを襲撃する予定だったようだが、大幅に戦力を削られて攻め込めないようだ。

 こちらの損害はヒイロの《ウイング》のみ。追撃の際に救援に駆けつけた赤い塗装の施された新型にやられた。性能ではこちらが勝っているはずなのだが、技量の差があったと考えられる。もしやあれが《赤い彗星》だったのだろうかと今になって思う。

 その他はいつでも出撃が可能な状態を維持しており、少数だが連邦の量産型もまだ残っているので、よほどの大群が来ない限りは持ちこたえられるだろう。

 近々《WB》と《アークエンジェル》が連邦の本拠地である『ジャブロー』へ向けて出発するらしい。そういえば《WB》のパオロ・カシアス艦長の葬儀がこの前に行われた。本来の艦長を失ったようだが、果たしてジャブローにたどり着くのだろうか。

 だが、出て行く者達の心配している暇は無い。明日は我が身。気を抜けば次は俺達があの世行きの片道切符を手に入れることになる。それだけは勘弁だ。

 そんな感じで思慮にふけりながら、ふとデュオは自分の機体を見上げる。《デスサイズ》。その名に相応しいまるで死神のような見た目。いろいろあってPMCにいるが、《CB》とかいう奴等からご指名付きで送られてきたときには驚いた。ここに並ぶ他の機体も全て同じだ。

 こいつのおかげで仕事も楽になった。まだ指で数えられるほどしか乗っていないが、不思議と何故か懐かしさをこいつから感じることがある。まるでずっと前にも乗ったことがあるような。そんなわけはないんだが。

 

 

「また頼むぜ。相棒」

 

 

 そう語りかけ、デュオは《デスサイズ》の整備を開始した。

 

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

   

 

 

 

『……尉! だ……です……!』

 

 

 誰かの声が途切れ途切れで聞こえてくる。どうやらかなり焦っているようだ。延々と続くその声が一瞬途切れたと思ったら、今度は目の前のほうから凄まじい音が聞こえてくる。

 その後、あけることが出来るようになった瞳に映ったのは、《イナクト》だった。少しかすれているが、あのシルエット。間違いはないはず。

 コクピットから慌てふためく様子で出てくる人影。その正体であるリィナがこちらに近づいてくるのを見て、アキラは再び気を失った。

 次にアキラが気がついた時には、真っ暗な空間が広がっていた。ここがどこなのか見当もつかない。いや、暗いのはまぶたを閉じているからだ。何故か自分からあけることができなかった。

 一体今自分はどうなっているのだろうか。確認したくても口を開くこともできず、体のどこの部分も動かすことができなかった。

 何かの機械が稼働する音がかすかに聞こえてくる。それ以外には何も聞こえない。しばらくの間集中していたが、状況が変化する感じはしない。もう本当に楽になろうかと考えていたその時、扉の開く音が聞こえた。

 入ってきた足音から、人数は1人。直ぐ隣まで来て、左側にあるであろう椅子に腰掛けたのが分かった。少し間を空けて、こちらに向けて話し始めた。

 

 

「聞こえている……わけありませんよね、大尉」

 

 

 声の主はリィナ少尉。まさか突然放り投げたことを非難するためにきたのだろうか。そんなことを考えていたアキラだが、現状を段々と把握することができていた。

 恐らく、というか間違いなく、今自分は入院していて少尉はそれの見舞いに来ている。あの爆発の後の記憶が曖昧で、長時間気を失っていたということは、それなりに重症なのだろうか。様々な疑問が湧けども、体は動かせない。

 その後は沈黙が続き、重い空気に嫌気がさしたアキラは再び体を動かそうと試みた。そうしてようやく動きそうだと思っていたその時、リィナが口を開いた。

 

 

「そろそろですね、大尉。大丈夫です。アムロ少尉もいますから。《WB》は守りきります。必ず」

 

 

 その決意表明からは彼女の強い覚悟を感じた。そう考える理由を問いかけたいアキラだが、まだ体が動かない。

 椅子から立ち上がった音が聞こえた。それとほぼ同時に扉が開き、複数の人間となにかしらの機材が入ってくるのが音から分かった。一体自分はこの後どうなるのか。心の中で必死にもがいて、ようやく声が出た。

 

 

「…いう、……きょ……」

 

「……え?」

 

 

 出たといっても小さく、かすれている声。しかし、それに気づいたリィナは驚きの声を上げた。さらに目も開くようになり、部屋の照明の灯りで若干目を眩ませながらも、全身の感覚が戻っていくのを感じた。

 左側を見ると、そこには少尉。正面には複数の人の気配があったが、指示されて慌てて部屋の外へと飛び出していく者もいた。

 

 

「大尉! 聞こえますか!」

 

「……おう。そんなに近くなくても聞こえるぞ少尉」

 

 

 直ぐ側まで急いで近づき声を上げたリィナに、その大きすぎる声にうろたえながらもアキラは答えた。

 

 

「申し訳ありません! 私のせいで、こんな、こんなことに……!」

 

 

 謝罪の言葉を告げたと思ったら、泣き出したリィナ。どうしていいのか分からずに戸惑うアキラ。

 何だ。どうすればいいのか。泣くなと叱ったほうがいいのか、優しく接したほうがいいのか混乱している。ここは優しく接したほうが無難なのだろうか。良し、そうしよう。

 脳内会議に結論を出し、とりあえず頭でも撫でて落ち着かせようとアキラは左腕を動かそうとした。

 

 

「……あれ?」

 

 

 動かしたはずの左腕が無かった。左側に見えるのは、泣き崩れる少尉と左腕が無くなった自分の姿。一瞬何がどうなっているのか理解することができず、アキラは言葉を失った。 

 泣きながらも謝罪を続ける少尉。これで先ほどの覚悟の理由が分かった。

 

 

「……はは」

 

「……大尉?」

 

 

 思わずアキラが漏らした笑い声にリィナは顔を上げた。そこには、涙を流しながらも、笑顔のアキラがいた。

 

 

「泣きすぎだぞ少尉。顔凄いことになってるぞ」

 

「で、でも……」

 

「左腕だけで済んだんだ。生きてるだけまだましさ」

 

「……」

 

 

 再び泣き始めようとしているリィナの横で、アキラは天井の方を見て呟いた。

 

 

「……割ときついな。覚悟はしてたけど……」

 

 

 強がってつくった笑顔。その頬に涙が伝うのをアキラは感じた。

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