「近づきすぎるから!」
接近してきた《ザク》のコクピットを正確に《ガンダム》のビームライフルが撃ち抜いた。爆散によって生じた衝撃をシールドで防ぎ、《WB》に接近する敵機を確認する。
大気圏突入直前での襲撃。コロニーレーザーの件以外で『あの時』と似た状況がここまで続き、アムロの頭の中は疑問で埋め尽くされていた。何故、自分はこんなことをしているのだろうか。最後に覚えているのは《アクシズ》を押し返そうとして光に包まれたこと。その後のことは記憶が曖昧で、シャアと出会ったことによって全てを思い出すことが出来た。
シャアとの戦いの後、今の自分は確かに『アムロ・レイ』なのだがそれは本来自分ではなく、新たな『アムロ・レイ』だというのを理解した。『今』のアムロ・レイの記憶もきちんと残っており、これまでの人生、そして自分は民間人ではなく連邦のテストパイロットだということが分かったからだ。
もしかしたらあったかもしれない『今』の自分の姿を『過去』の自分を照らし合わせてみて、生まれた時期、通った道が違えばこんな自分もいたかもしれないのかと思い、アムロは苦笑した。
手がかりが全く無い現状では迂闊に行動することはできない。とりあえずは『今』の自分の役割を果たすことが第一優先だ。アムロは接近するジオンの迎撃を続けた。
確認されているジオンの艦は4隻。2隻ずつに別れて挟撃をかけてきている。その中で《WB》に対して攻撃を行う艦の中には《グワジン》が確認されている。恐らくシャアの乗っているものだろう。《グワジン》に乗っているということは『今』のシャアは以前よりも高い功績を上げているのが分かる。
ルナツーでの陽動でもそれなりの数のジオンが確認されていたが、これだけの戦力をこちらに回す余裕があったとは。というか最初から襲撃することを想定して戦力を温存していたと考えるのが妥当だろう。
そう考えていた時、背後から振り下ろされたヒートサーベルをぎりぎりで避け、牽制のバルカンで《ドム》の頭部を破壊しつつ距離をとる。直ぐ近くにはバズーカを装備した《ゲルググ》の姿も確認した。
この時点で《ドム》と《ゲルググ》が配備されていることに、アムロは驚いていた。この2機の量産体勢が整うのは『過去』ではもっと後のはずだからだ。ジオンのMS技術の高さは理解していたが、『今』はさらに高いということがわかる。
2機に張り付かれつつもうまく立ち回るアムロだが、《ガンダム》の反応速度が自分についていけていないことに気づいた。それでも、その動きは2機を圧倒していた。僅かな隙を逃さず、《ドム》にビームライフルを直撃させ、《ゲルググ》に急接近してすれ違いざまにビームサーベルで切りつけて撃墜した。
「3つ!」
周囲の警戒を続けようとしたアムロに《WB》の艦橋から回線が繋がった。
『アムロ少尉、《グワジン》から出てきた《ゲルググ》が通常の3倍の速度で接近中! 警戒を!』
回線越しのメイリンから伝えられた情報に、アムロは身構えた。急速に接近する敵機を捕捉し、それの迎撃にアムロも動き出した。やがて見えてきたのは、赤く塗装された《ゲルググ》。間違いない、シャアだ。
放たれた黄色い閃光を避け、こちらも牽制の射撃を行う。お互いの距離がさらに縮まっていく中、アムロは心の中で叫んだ。
『シャア!』
『アムロ!』
宿命のライバルであり、戦友でもある2人が再びぶつかり合った。
※
《WB》に向けて放たれたミサイルが弾幕に阻まれて爆散する。接近してきた《ドム》を撃墜し、リィナは次の敵の迎撃に移った。
予想はしていたがやはり性能の差が大きく出ているような気がする。《WB》に敵が気をとられていなければ、間違いなく苦戦を強いられているだろう。それでも何としてでも守り抜かなくてはならない。救援到着予想時刻まであと少し。大きな不安となっているのは、《WB》の防衛に《ガンダム》と《イナクト》しか出られなかったことだ。
ルナツー出航前日にジオンとの小規模の戦闘があり、それに急遽戦力補強のために《WB》のMS部隊も参加した結果、《ガンキャノン》と《ガンタンク》が出撃不能になるほど損傷してしまったからだ。急ピッチでの作業が行われていたが、今回の戦闘に間に合わせることができなかった。
アムロ少尉の獅子奮迅の活躍でこちらまで到達する敵は少なくすんでいたが、《赤い彗星》が搭乗していると思われるMSとの戦闘が始まり、こちらに敵機が接近しやすくなってしまっていた。警戒を続けていたリィナにセイラが回線越しから敵機の接近が伝える。
『敵2機、接近!』
それを聞いてリィナもすぐに敵機の存在をレーダーで確認した。メインモニターに映し出されたのは、2機の《ゲルググ》。
「『新型』……! くっ!」
すぐさま迎撃に移ったリィナだったがその2機は《WB》ではなく、真っ直ぐこちらの方へ向けてやってきた。状況から判断して、先にこちらを撃墜した方がいいと判断したのだろう。
スピードでは間違いなくこちらが上なのだろうが、数的に不利な上変形しようものならその隙をつかれて撃墜されかねない。《WB》の支援もあるとは思うが、持ちこたえることができるだろうか。
《ゲルググ》の放ったバズーカの弾の回避したが、それに気をとられてもう1機に反対方向へと回り込まれてしまい、挟撃を許してしまった。次々と繰り出される攻撃を回避し続けるが、反撃の一手を繰り出すことができない。
このままではまずい。苛立ちと焦りがリィナを包み込もうとしたその時。
『上に向けてライフルを!』
頭の中に突然聞いたことのある声が響き渡った。一瞬戸惑ったが、指示に従い《イナクト》のライフルを放つ。それは《ゲルググ》に直撃した。一体何が起こっているのか理解できずに困惑するリィナ。だが、間髪いれずに次の指示が響き渡る。
『距離をとりつつ、牽制を。主砲、狙って!』
その指示の直後、残りの1機の《ゲルググ》が切りかかってきた。回避が少し遅れてしまい、左腕を切り落とされてしまった《イナクト》だったが直ぐに体制を立て直しつつ距離をとる。
爆散した味方を背に《ゲルググ》がこちらへと向かってくる。回避行動に移ろうと《イナクト》が動き始めようとしたその時、目の前の《ゲルググ》を《WB》の主砲が打ち抜いた。
『リィナ少尉、まだいけるか?』
「は、はい」
再び聞いたことのある声が頭の中に響く。この声、間違いない。
「大尉……ですよね?」
『ああ。おっと、質問は後にしてくれ。俺も今何が起きてるのかさっぱりなんでな。今は戦闘に集中してくれ。出来る限りサポートするから』
「……了解しました」
本当に訳が分からない。何が起きているのだろうか。だが、この感覚は嫌ではない。むしろこの戦場の真っ只中で安心できている自分がいることにリィナは驚いた。
こちらに向けてやってくる敵機を確認し、それの迎撃に入る。機体が損傷しているのにも関わらず、何故か不安は感じない。ライフルの照準を敵機に合わせつつ、リィナは心の中で叫んだ。
「行きます!」
『おう! 気を抜くなよ少尉!』
※
「ニュータイプによる共振現象を確認したです!」
「数は2つ。内1つが《彼》の物と思われますが……」
「……どういうことだ」
《トレミー》の艦橋でミレイナとフェルトの報告と、モニターに映し出された情報にカラジャは驚きを隠せなかった。
予想外の事態。簡単にはいかないと思ってはいたが、まさかこんなことになるとは考えてもいなかった。これも「運命」だとでもいえばいいのだろうか。
多少強引にでも《彼》を覚醒させ、こちらに引き入れようと考えていたが、それを改める必要が出てきた。
「……どうします? カラジャさん」
スメラギの問い掛けに対し、少し考えた後にカラジャは答えた。
「計画の変更を行う必要があるな。すまないが、私は自室に戻る。《トレミー》はこのまま《CB》に帰艦してくれ」
「了解しました」
そうしてカラジャは艦橋を後にした。自室へと戻る道の途中で、カラジャは小さくつぶやいた。
「これも、お前が望んだことなのか……」