第1話 始動
――宇宙世紀0078 8月10日
「……――」
格納庫内部を映すモニターの明かりでぼんやりと照らされた青年が、機体に問題がないかの最終確認を行っていた。
計器に問題はなく、エネルギー量にも問題なし。推進剤の搭載量とサブカメラが正常に動作するかを確認し終えたところで、通信が繋がった。
『アムロ、準備はいいか?』
青年が搭乗している≪ガンダム≫のコクピット内に響くのは『テム・レイ』の声。
今プロジェクトの責任者であり、父であるテムに『アムロ・レイ』はすぐに返答する。
「大丈夫ですよ父さん。もう僕は子供じゃないんですから」
通信の向こうからほかの研究員の笑い声が聞こえてきた。父親が見せる親バカっぷりがおもしろかったのだろう。
周囲を黙らせるために、テムがわざとらしく咳払いをするのが通信越しにから聞こえてきた。
『――ではこれより、G-02《ガンダム》の機動演習を開始する。第3ハッチを開け!』
テムの号令ののち、≪ガンダム≫の目の前の格納庫ハッチがゆっくりと開いてゆく。コロニーの人口太陽の光がガンダムの目の前を照らし、周りにいた作業員が離れていくのがメインカメラで確認できた。
ハッチが完全に開いたところでアムロは深呼吸をして自分に言い聞かせる。
「大丈夫……。僕ならできるんだ……」
アムロがその手に握るレバーをゆっくりと前に押すと同時に、《ガンダム》もゆっくりとした足取りで実験場へと動き出していった。
◆
現在、連邦軍は窮地に立たされている。誰もこんなことになるとは思いもしなかっただろう。
ジオンが戦線に投入した人型兵器、MSは圧倒的だった。30分の1の国力差があるにも関わらず、連邦をここまで追い詰めたのも全てMSのおかげ。だと言われている。
現状の打開のため、今俺の親父はお偉いさんからの指示でMSの開発に没頭している。
士官学校を出て軍に入隊した俺を親父は呼び出し、MSのテストパイロットとして俺を使い始めたのが記憶に新しい。
最初こそ乗り気ではなかったが、《ティエレン》と《フラッグ》の開発が成功した時の感動は物凄いものだった。
開発された二機は量産され、瞬く間に各基地に配備されることとなった。これでジオンに対抗することができる。誰もがそう思った。
――しかし、ジオンは既に新型MSの開発に成功していた。
今までのMSは熱核反応炉をエネルギーとして可動していた。だが、新型MSは内臓されたバッテリーでの可動を可能とするもので、今日までのMSよりも生産コストを抑えながら十分な性能を発揮するといったものだった。
優勢に立てると考えていた連邦の願いは届かず、ジオンの進撃が止まることは無かった。
ジオンは新型MS、《ジン》と《シグー》を中心として編成された部隊を北米大陸に大気圏外からの侵攻させる作戦、『地球降下作戦』を決行。
連邦の必死の抵抗も空しく、たった2週間の内に北米大陸はジオンに占拠された。
その際、北米にも《フラッグ》と《ティエレン》は配備されていたが、期待されていたほどの効果はなかった。
量産を急ぎすぎた結果本来の性能を発揮できなかった等、さまざまな仮説が挙げられたが、敗北したという大きな結果を変えることはできない。
だが、親父達技術開発局のメンバーは諦めていなかった。ジオンのMSを越える新型MSの製作を目指し親父たちは奮闘していた。
俺もできる限りのこと手伝った。しかし、中々上手くいくことはなく、無情に時が過ぎていく。
そんなとき、ある一報が俺達に届いた。
誰が送ってきたかは分からないが暗号通信によって送られてきたそれには、俺達にとって衝撃的なものだった。
それは……
「――ア…ラさ~ん」
……頭の中で今までを振りかえっている俺に誰かが語りかけてくる。
「ア~キ~ラ~さ~ん。いい加減に起きてくださいよ~」
女性の声。まだ若々しい感じの漂う声。恐らく、『メイリン』だ。
まだ朝だってのに元気そうで何より。若いっていいね、若いって。
「今何時だか分かってるんですか~?」
それを聞いて枕もとの時計に視線を移す。今は深夜2時を……よく見ると秒針が動いていない。
カーテンの隙間からは、人口太陽の光が部屋の中をうっすらと照らしている。
「《ガンダム》の機動演習始まっちゃいましたよ~」
……ああ。そういうことか。
昨日気合を入れて最後の作業に取り掛かり、直ぐに寝てしまったのだ。
そういえば時計の電池が切れているのを親父に指摘されたのも昨日だったか。
まだ完全に覚醒していない脳内でそんなことを思い出しながら、俺こと『アキラ・ユウ』は静かにつぶやいた。
「……寝過ごした」
◆
「よおメイリン。おはよ」
「遅いですよアキラさん!! 今何時だと思ってるんですか!?」
手慣れた超速度での身支度を整え、開いた扉の先にいたメイリンから怒声が浴びせられる。
赤毛の長い髪を二つに縛っている目の前の少女の気迫に少しアキラはあとずさった。
ようやく現れたアキラを足下の方から頭へとゆっくりとメイリンは見上げていく。そしてその視線は胸の部分で止まった。
「……階級証」
「あ、忘れてた」
指摘を受けて気づいたアキラは急いで部屋へと戻る。
洗面所に無造作に置かれていたそれを胸の適当な位置につける。ふと鏡に映った自分に目がいった。
二十歳を過ぎてから早3年。深い紺色の目、茶髪の自分が鏡に映っている。
いい加減彼女ぐらい欲しいと思うこともあったが、結局忙しくてできない。昨日の作業での疲れが出ているのか、目の下に「くま」が出来ている自分の顔を見て、アキラは深く溜め息をついた。
直ぐに部屋を出ようと思ったが、『いつも』のことをやっていないことを思い出して机の方へ向かう。
資料などが散乱している机の上にある写真立てに向かって、アキラは一礼した。
「んじゃ、行ってきます」
その写真立ての中の写真には、アキラと彼の父である『レギル』、そして一人の少年と女性が写っていた。
すばやく部屋を出て、鍵を閉める。そして振り向くとイライラしているメイリンがいる。言い訳をしようとも思ったが、時間も無い。
「……行くか」
「……多分もう観測所には入れてもらえませんよ」
「うへぇ……」
アキラの寄宿舎から、《ガンダム》の機動演習を行っている実験場まではそれほど距離はなく、歩いて二十分程度。
午前11時に始まる機動実験に対して、アキラは7時に起きて余裕を持って行こうと考えていたのだが……。
不機嫌極まった様子のメイリンが腕に付けている時計の針は、10時45分を指示していた。
「あ~走るのきついねぇ~」
「文句言うんだったらもっと早く起きてください!」
ため息交じりのアキラをメイリンが一喝しつつ、二人は実験場に向かって全力で走る。ちなみにアキラの今日の朝飯はメイリンが持ってきてくれたカロリーメイトだ。
チーズ味が好きだが、今はしょうがない。包みから取り出したチョコ味のカロリーメイトをアキラは口の中に放りこんだ。
「ぐおぉ、こりゃ喉にくるぜ……」
粉々になったカロリーメイトが喉に絡み付く。
「自業自得ですよ」
むせる寸前のアキラに対しメイリンは冷ややかな視線を向ける。何だかんだで結構長い付き合いであり、こういうのは見なれた光景だった。
親父が俺の助手兼秘書的な存在として任命したのがメイリン。テストパイロットを始めた頃だから、すでにこいつとは約2ヶ月一緒にいることになる。
見た目の割りには優秀で、新型艦《ホワイトベース》の通信管制も担当している。ちなみに階級は軍曹。アキラは大尉だ。
喉にカロリーメイトを詰らせ、咳き込みながらもアキラは必死に走り続ける。やっとの想いで実験場の入り口にたどり着くと、入り口の兵士が告げた。
「アキラ大尉。レギル准将から伝言を預かっております」
「はぁ…はぁ…で、伝言?」
息を切らし、苦しさによって血の気が引いた顔でアキラは兵士の方を見る。
「大尉とメイリン軍曹は、観客席から見るようにとのことです」
「あぁ…そう……」
「やっぱり……」
横で残念そうにメイリンがつぶやいた。それに対して「申し訳ない」といった感じのジェスチャーをアキラは息を整えながら行う。それを見たメイリンはあきれた様な目をこちらに向けるのだった。
少々気まずい雰囲気になりつつも、2人は観客席の方へとゆっくりと歩き出す。後ろからさっきの兵士の視線を感じる。こんなのが上司なのか? とでも思っているのかもしれない。
息が整い始めてようやく楽になってきたとき、横でメイリンがため息をついた。
「ちゃんと上司らしくしないと示しがつきませんよ?」
「分かってるって」
適当にメイリンを相手をしながら観客席の方へと歩いて行く。誠意が感じられない態度が気にくわなかったのか、アキラは鋭い視線を向けられ続けていた。
少々険悪なムード漂わせる二人が着いたときには、ちょうど《ガンダム》が格納庫から出てきたところだった。
連保の高官や今回のプロジェクトに秘密裏に協力してくれた企業のお偉いさん等々、既に沢山の観客がいた。彼らは現れた《ガンダム》の姿を見て驚きの声を上げている。
今までも稼働実験は行われていたが、こうして公の場で《ガンダム》が披露されるのはこれが初めて。演習場は工業区画としてカモフラージュされているため、他の一般人はちょいと派手な工事をしているとしか思わない造りになっている。
多くの視線が集まる中で≪ガンダム≫は指定の場所へと移動していく。心躍る状況にアキラは頬を緩めつつ、空いている席がないかを探し始めた。
「さてと、どこが開いてるかねぇ……」
「あ、後ろの方が開いてますよ」
「お、本当だ。流石管制官。抜群の状況把握能力だな」
「これだけのことで褒められてもちっとも嬉しくないです」
メイリンに軽くあしらわれ、アキラは軽く笑いを返す。その後2人は見つけた最後列の席に座ることにした。
後ろだから見づらいかとも思ったが、案外結構見やすい。良い穴場に座れたことを安堵しつつ腰かけた。
「ま、とりあえず間に合ってよかったな」
「私達の集合時間はとっくに過ぎてますけどね……」
「っははは……。面目ない」
ため息交じりのメイリンの言葉が深くアキラに突き刺さる。苦い表情の彼の視線の先では、ゆっくりとした足取りで定位置へと向かう《ガンダム》の姿があった。
ようやくここまで来た。と、これまでを振り返る。一歩ずつ進んでいく《ガンダム》を見るアキラの目は、まるで我が子を見守るような温かい目だった。
確かあれにはアムロ・レイ少尉が乗っているはず。まだ自分より若いパイロットだが、腕はそれなりのものを持っている。新アピする必要はないだろう。
既にこれまでの機動実験で有用性が証明され、少しのコストダウンをしたMS《ジム》の量産が決定している。近々決行される地球での大反抗作戦においても投入されるとのことで、ジャブローやルナツーにて建造が急ピッチで進められているらしい。
コストダウンしたとはいえ、性能ではジオンの《ザク》や《ジン》等を上回っている。今の連邦の状況を少しでも改善することは出来るはず。いや、しなければならない。
そうアキラが考えていたその時、
「失礼。そこは開いていますか?」
声のした方を見れば、長い赤髪を一つに結って黒いスーツを着ていたの男が立っていた。アキラの隣が開いていたからたずねてきたのだろうが、アキラは男を見て違和感を覚えた。
一見ただの観客のように見える。だけど、何か違う。周りの観客とは明らかに違う、静かな威圧感のようなものをアキラは男から感じ取った。
「……どうぞ」
「ありがとうございます」
男は礼を言ってアキラの左隣に座る。メイリンもなにか感じ取ったか、こちらの方を注意深く見守っていた。
メイリンと男からの視線を感じながらも、アキラは黙って実験場の方を見つづける。すると、
「その服……、あなたは軍の方ですか?」
男の方から、話しかけてきた。
「――ええ、そうです」
静かな問いに対し、動揺を押し隠してアキラは答える。
「ここで会ったのも何かの縁です。あなたの名前を教えてくれませんか?」
男はそういってアキラに笑いかける。笑顔であるはずなのに、全く温かみが感じられない。
右隣にいるメイリンが男に問い詰めようとしたのをアキラは遮る。「何故」といった表情を浮かべる彼女に、落ち着けといった意味の目くばせをして止まらせた。
気前が良さそうな外観を繕っている不気味な男。不信な点も多々あるが、このまま名前を教えないことで怪しまれるわけにもいかない。
「……アキラ・ユウです。このコロニーに駐在しています。何処かの企業の方とお見受けしましたが、名前を教えていただいてもよろしいでしょうか?」
動揺を悟られぬように柔らかな態度で答えながら、アキラは男には見えないところで指先を動かす。彼の指が動いていたのはメイリンの手のひらの上だ。
手のひらの上をなぞることで託された指示に従い、メイリンも男の死角となる部分で小型携帯端末を操作していく。内容は『観客席に不審者あり』というもので、警備に当たっている者全員に送られることとなった。
もし何かしようとしても、人の多いこの場所では何もできないはず。それでも、男に怪しまれぬように手は打っておく必要がある。考えうる限りで最善の行動を実行したアキラに、男は微笑んだ。
「私の名前は『アリー・アル・サーシェス』。アナハイム社から参りました。以後、お見知りおきを」
◆
各所に設置されている照明で照らされ、日中と変わらない様相が形成された演習場。そこにはジオンから鹵獲した2機の《ザク》が配置されていた。
定位置まで≪ガンダム≫を動かしたアムロはレバーを元の位置にゆっくりと戻す。動きが止まったのを確認した観測所から、通信が繋がる。
『アムロ。事前の打ち合わせ通り、そこにいる2機のザクは遠隔操作によって実験開始と同時に動きだす。お前はその《ザク》をビームライフル無しで撃墜してもらう』
「用は、ビームサーベルで撃墜すればいいんでしょう?」
『その通りだ。では、実験をはじめるぞ。』
簡潔な再確認の後、テム・レイによる秒読みが始まった。
『実験三十秒前!』
もうまもなく演習が始まる。アムロは緊張しながらも確実に演習を成功させるべく《ガンダム》の最終チェックを行った。
「ジェネレーター出力……よし。ビーム出力……よし。いつでもいけるぞ」
アムロは深呼吸をしてレバーを握る。こちらからでも見える観客席には、たくさんの関係者が確認できた。
これが本番。ミスは許されない。そう思うとレバーを握る力が強くなる。
鼓動の音と秒読みが重なり、時間はあっという間に過ぎ去っていく。そして、その時はやってきた。
『5、4、3、2、1、演習開始!!』
「っ――!!」
演習開始と同時にアムロは右の方にいる《ザク》に、ブーストで一気に間合いを詰めていった。
かかる負荷によって体がシートに押し付けられても、レバーから手を離すことはしない。揺るぎないアムロの覚悟に応えるように、≪ガンダム≫はザクへと向かっていく。
急接近してきた≪ガンダム≫に対し、《ザク》は手にしたヒートホークを振り下ろそうとする。だが、
「そこぉ!!」
それよりも早くアムロの操る《ガンダム》は背部バックパックからビームサーベルを抜き放ち、《ザク》の上半身を一刀両断した。
目の前で稲光を迸らせながら≪ザク≫は崩れ落ちた。左腕に装備していたシールドを構え、直後に発生した爆発を≪ガンダム≫は防ぐ。
予め爆発に備えて強度が大幅に増してい演習場は揺れはしても穴が開くことはない。黒煙が上がる中、次なる目標であるもう一機の≪ザク≫に≪ガンダム≫は振り向く。
機動演習開始からまだ十秒しかたっていない。想定以上の好タイムを多くの者に見せつけるべく、再びブーストを駆使して≪ガンダム≫は演習場を駆けた。
迫る《ガンダム》に《ザク》は装備していたマシンガンで応戦するが、《ガンダム》に直撃してもかすり傷程度しかつかない。
「うおおぉ!!」
急接近と共に繰り出したのはサーベルによる突き。コクピット部分を出力を調整したビームサーベルで貫いたのだ。
ビームサーベルを抜くと同時にゆっくりと《ガンダム》は後退していく。致命傷を受けて撃墜判定が出た《ザク》はその後動くことは無く、ゆっくりとその場に崩れ落ちた。
「――終わった」
一気に静まり返ったコクピット内でアムロは安堵のため息をつく。やり切った達成感に浸りながら、通信越しにいるテムへとアムロは問いかける。
「……どうでしたか?」
『演習終了タイム……に、23秒だ!!』
通信の向こうで研究員の驚きと、喜びが入り混じった大歓声が響き渡った。その歓声を聞いたアムロは、ほっと胸をなでおろし、シートにもたれかかった。
「やった…やればできるんだ……」
◆
――サイド7周辺宙域
ちょうどガンダムの機動演習が終わった頃、サイド7から少し離れた宙域にて赤を基調としたジオンの新型戦艦《グワジン》が停泊していた。
物々しい雰囲気漂う艦橋にて一際目立つ存在が仮面の男が1人、回線越しにいるジオンを牛耳る一族の三男であり、現役の中将である『ドズル・ザビ』と会話を交えていた。
『――では健闘を祈っておるぞ、『シャア・アズナブル』』
「お任せ下さい。ドズル閣下」
回線が切れる直前まで、モニターの向こうでドズル野太い笑い声をあげていた。その姿が消えたのを確認して、粗相がないよう細心の注意を払っていた兵士たちはほっと胸をなでおろす。
艦橋の兵士たちの気が緩んでいる中、『シャア・アズナブル』は小声でつぶやいた。
「さて、どうしたものか……」
艦橋からはサイド7を見ることが出来た。今回連邦の「G作戦」のことをいち早く察知したのはシャアだった。
昨今においてこのサイド7で物資を運ぶ輸送艦が頻繁に出入りしているのを目撃したシャアは不信に思い、情報捜索の結果、サイド7内部で連邦が新型MSの開発を行っていると確証を得た。
かねてよりドズル・ザビ中将から薦められていた《グワジン》を受領し、ジオン公国軍の腕の立つパイロット二人を迎え入れつつ、このサイド7へとやって来たのである。
侵攻にあたり、内部の情報を得るためにジオン内部でも凄腕と噂される傭兵部隊にサイド7内部の情報入手を依頼。噂はどうやら本当のようで、サイド7に向かう一週間前には内部の情報が届けられた。
その部隊、『ブラッドファング』の隊長のあの赤髪の男を思い出すたびにシャアは身震いする。純粋に戦いを望んでいる獣のような鋭い目。シャアにとって彼のような存在は信じがたい存在の人物の一人でもあった。
だが、内部の情報はありがたい。報酬は済んでいるが、後できちんと礼を言う必要があるだろう。そうシャアが考えていると、艦橋に二つの回線がつながった。
『こちらジェリド・メサ、並び《ザク》2機。出撃準備完了しました』
『同じくアナベル・ガトー、《ザク》2機。出撃準備完了しました』
「うむ、ご苦労。では私も出よう」
『少佐も出撃なさるのですか!?』
あたかも当然かのように出撃することをシャアは告げ、それに対してガトーが驚きの声をあげた。
「ああ。今回の連邦の作戦に気づいたのは私なのでね、私も出撃して連邦のMSの性能をこの目で確かめたいのだ」
『なら俺たちは幸運ですね。この目で<赤い彗星>の戦う姿を拝めるんですから』
そういってジェリドが回線の向こうで笑う。余裕ある態度から彼らの腕前の高さを見出したシャアは自らがつくづく運のいい存在だと感じ、無意識のうちに頬を緩めていた。
出撃準備が整った彼らを送り出すために、グワジンのハッチが開く。それと同時に、シャアは出撃するパイロット全員に呼びかけた。
「我々の今回の任務は連邦の新型MSの破壊、又は強奪だ。各員の健闘を祈る!」
『了解!!』
『了解!!』
二人からの回線が切れたところで、シャアは最後にもう一度サイド71バンチへと目を向ける。
「ドレン。艦は任せたぞ」
「了解です。御武運を」
「さあ、見せてもらおうか。連邦軍のMSの性能とやらを……」
不敵な笑みを浮かべるシャアは艦橋の指揮をドレンに任せ、自らも出撃のために格納庫へと向かう。
内に秘めた復讐を遂げるために奔走するシャアは気づいていない。攻め入行く先に、決して切れぬ縁が結ばれた存在がいることを。
虹の彼方へと消えていったはずの彼らの再会を祝福するかのように、誰にも見えぬ白鳥がどこまでも続く宇宙(そら)へと羽ばたいていった。