地球に向けて切り離されたエンジンが重力に引かれ落下していった。赤く燃え、いくつもの破片となり視界から消えていく。
『目標地点到達。大気圏突入準備開始』
今回のために機体に一応搭載されていた音声ナビゲートに従い、1機のMSがカプセルの中から姿を現す。
左腕に装備しているシールドを機体の前面に展開し、大気圏突入に備える。その後、機体に問題がないかのチェックを始める。
「……アスラン、怒ってたな」
このまま連邦に残り、尚且つ《WB》に単独で合流しそのままジャブローまで護衛することを伝えたときの友の困惑と怒りの表情が脳裏に浮かぶ。その後何とか説得できたものの、まだ完全には納得できていないようだった。
敵地の真っ只中を《AA》での強行突破も考えられたが、まだ修復には時間がかかる。戦力の強化が顕著なジオンに対し、いくら《WB》に優秀な戦力がそろっていようと数で押し負ける可能性もある。それを考慮し、デュランダルがあらかじめ用意していたMSを託し、今回の作戦実行の手筈を整えた。
『大気圏突入開始。御武運を』
機体の周囲が赤く染まり、振動がコクピットの中にも伝わってくる。北米大陸の《WB》に向けてMSは落下していった。
※
「よし、アムロ! 最終確認だ」
慌しく作業員が動き回る格納庫の中でアキラがパイロットスーツに着替え、到着したアムロに呼びかけた。
「これまでのお前の戦闘データから考えて、機体の反応をあげるために《G-3》のパーツを各部に使ってマグネットコーティングが施してある状態にしておいた」
「武装に関しては大きな変更はないんですよね?」
「ああ。それと、次が一番大事なことだ」
コクピットに乗り込んで各部のチェックをしていたアムロは、それを聞いて一瞬手を止めた。
「……《サイコフレーム》ですね?」
「覚えてたか。詳細はこの前言ったとおり、俺は知らされてない。こいつがMSの操縦を補助に使えるのは分かってるけど、まだまだ分からないことだらけだ。親父なら知ってたはずなんだけどな」
そういうとアキラは《ガンダム》のコクピットハッチを閉じるのに巻き込まれないために、少し距離をとった。そのままインカムを利用した回線で話し続ける。
「俺が《G-3》をそれなりに操縦できたのもサイコフレームのおかげだと思う。出なけりゃあんなピーキーな反応速度の機体、使いこなせねえよ」
『《G-3》のサイコフレームを《ガンダム》に取り付けたんですよね』
「そうだ。お前なら使いこなせるはずだ、アムロ。というかもう《G-3》と《ガンダム》の予備パーツが少ないから死ぬ気で頑張ってくれ。アストナージと俺を泣かせるなよ」
『了解です。大尉もまだ《義手》の調整が完璧じゃないらしいですから気をつけてくださいね』
「分かってるよ。可能な限り無茶はしないさ」
カタパルトへと移動を開始した《ガンダム》にアキラは義手となった左腕で手を振った。
大気圏突入後、気を失ったアキラ。その後目覚めるまでに取り付けられたそうで、アキラ自身は気づかなかった。先のコロニーでの戦闘の影響でさまざまな物資の供給が間に合っておらず、この義手も《WB》にあった最後の1つだったそうだ。
戻った左腕。だが、無機質なそれはアキラに自分の一部が無くなったことを再び痛感させた。
他の機体も出撃の準備を開始し、作業員が安全な場所への退避をしはじめた。その様子を確認しつつアキラは予定通り現場をアストナージに任せ、艦橋へと向かった。
道中で回線越しからメイリン、セイラの出撃アナウンスに合わせ《ガンダム》、《ガンキャノン》が出撃したのが確認できた。もう少しで艦橋に到着するといったところで、
『行きます。大尉』
回線ではないが、リィナの声が頭の中に響いてきた。
「おう。ちゃんと帰ってこいよ」
リィナに返答したところで、アキラは艦橋へと到着した。それと同時に飛び上がった《ガンダム》の蹴りで爆散する《ドップ》が目に入った。
『やるねぇアムロ少尉殿。こりゃ俺もう帰艦してもいいんじゃない?』
「カイ! 集中なさい!」
『おお怖。了解ですよーセイラさーん』
《ガンキャノン》に搭乗していたカイの気の抜けた回線を聞いたセイラがそれを叱責する。
この2人は人員不足のために手伝ってくれた避難民の者達で、ルナツーでは降りず付いてきてきてくれた。人材に関してはまだまだ足りていない状態だったので助かっている。
次々と飛来する《ドップ》を確実に迎撃し、峡谷の中を進んでいく《WB》。まだジオンがMSを投入してこないのが気掛かりだか、このままいけば突破できるはずだ。
『ブライトさん! 予想通りです!』
「どうした、ハヤト」
《ガンキタンク》に乗っていたハヤトからの回線にブライトが応える。
『こっから先の開けたところに《マゼアタック》がわんさか。やるなら今ですよ』
2人乗りである《ガンタンク》のもう1人のパイロットで正規軍人の『リュウ・ホセイ』がこの先の情報を伝えた。
「な、ならばMS全てを向かわせて」
「いや、《ガンキャノン》と《ガンタンク》だけで制圧してくれ」
リードの発言の途中でブライトが指示を出した。それに対してリードがしゃべりだす前にカイがいった。
『民間人だけでやれると思ってんのかい、ブライトさん。ちょっと無理あるんじゃない?』
その指摘に隣にいるリードも賛同しているようで、態度でブライトに示している。だが、こうしなければならないとアキラは感じており、ブライトもそれと同じようだった。
「嫌な予感がしてな。こちらにも可能な限り戦力は残したい。頼んだぞ」
『……へいへい。まかされてー。行こうぜハヤト、リュウさん』
渋々了解したカイはハヤトとリュウと共に、《マゼラアタック》撃破のために前進をはじめた。
「ブライト、貴様……!」
「まぁまぁリードさん。おさえておさえて。ここは彼の指揮を信じましょうよ」
不満たっぷりの様子のリードをアキラがなだめる。それでもおさまりそうになく、制止を振り切って不満をぶちまけようとしたその時。
「左後方より複数の熱源確認。MSです!」
メイリンの緊迫した声が艦橋内に響き渡る。すぐさまブライトが指示を出し、アムロとリィナが迎撃体勢をとった。
その時、アキラ接近してくる中に《赤い彗星》がいるのを感じ取ることができた。それを2人に伝えようとしたがそれより先に被弾による衝撃で《WB》が揺れ、伝えられなかった。接近してきたMSに気をとられた結果、対空射撃をぬけてきた《ドップ》の攻撃が艦橋付近に当たったようだった。
『大尉!』
何とか体勢を立て直したアキラの頭の中に響いたリィナの叫び声。ふと前を見れば、濃いオレンジと緑で塗装された《ゲルググ》が少し離れたところから輸送機のような大型の機体に乗り、ビームライフルの銃口をこちらに向けていた。
あの輸送機のおかげでこんなにまでも速く接近することができたのかとアキラは驚いた。それと同時にもう間に合わないと悟った。周囲の人の顔が青ざめていく。もちろん自分も。以外にも呆気ない最後だったと考えていた時、一筋の閃光が空から降り注いだ。
※
「!?」
ビームライフルが上空からの攻撃によって破壊され、ガルマは驚きの声を上げた。火花を散らすビームライフルを投げ捨て、一旦《WB》から距離をとる。
さっきの妨害がなければ仕留めることはできた。苛立ちを隠せないでいると、《ガウ》から回線が繋がった。
『大佐! 上空からアンノウンが接近中! 単機で大気圏を突破してきたようです!』
「単機でだと!?」
安全なところまで離れ、レーダーに映し出されたそれを目視で確認した。まるで翼のような大きなスラスターを展開したその機体は、落下速度を下げつつ確実に攻撃を与えている。
その後、合流したシャアを除く3機全てが被弾していた。そのどれもがコクピットを外しているのが確認できる。
『この状態では戦闘継続は厳しい。ガルマ、ここは撤退した方がいい』
「……いや、それでは示しがつかない。残っている《ドップ》で総攻撃をかける!」
『ガルマ、もう無』
「止めるなシャア!」
シャアとの回線を切断し、《ガウ》と残存戦力に総攻撃をかけることを伝えてガルマは単機で《WB》へと向かった。
今ガルマが乗っている《ゲルググ》はバックパックを取り付け、各部の調整も施された高機動型と呼べるものであり、先行配備された特注品だ。そして、まだ十分揃っていない《ドダイ》も持ち出した。数でも勝るこちらが負けるなんてことなど、あってはならない。
戦いに私情を持ち込まず、冷静に対処せよ。士官学校時代に受けた教官の助言も今のガルマの頭の中にうかぶことはなかった。自らのプライドが、恥を恐れる心がガルマを精神的に追い詰めていた。
「連邦ごときに……!」
後ろ腰のナギナタを右手に持って《ドップ》の編隊に回線を繋ごうとしたとき、《WB》の方向から放たれた赤い閃光がガルマの《ゲルググ》の両足を吹き飛ばした。
「な」
突然の出来事に驚愕するガルマ。機体が傾き、ゆっくりと落下していくのを感じる。
「にぃぃぃぃ!?」
間髪入れずに放たれた2発のビームが直撃し、頭部と右腕が吹き飛んだ。完全に制御を失った《ゲルググ》は地上へと落下していった。凄まじい衝撃がコクピットを襲う。ようやく機体が制止したときには、中は暗闇になっていた。全身、特に右腕が痛む。
朦朧とする意識。しばらくしてから機体が少し傾くと同時に光が差し込んだ。シャアがコクピットハッチを取り外したようで、その後、仮面をかぶった友の姿が現れた。
「無茶をする。大丈夫か?」
「シャア……か」
抱きかかえられ、ガルマは外へと運び出された。既に駆けつけていた衛生兵が状態を確認する。その後、担架へと乗せられたガルマの視界に小さくなった《WB》がはいった。
「この屈辱は……!」
怨嗟の声を届くことはない《WB》に向けて放とうとしたガルマだったが、その途中でついに意識が途絶えた。