「以上です」
「……そうか。報告ご苦労」
艦橋にて《フリーダム》に乗って情報伝達兼援軍にやってきたキラの報告を受け、ブライトはいった。その横ではリードが頭を抱えていた。
道中にて補給部隊と合流しつつ、《WB》は敵戦線を突破してジャブローへ。それがキラから伝えられた情報だった。補給を受けられるとはいえ、このまま敵地のど真ん中を『前』と同じように行くことになるとは。
「メイリン、彼を空室へ案内してやってくれ」
「了解しました」
彼もニュータイプの素質を持ったものなのだろうかと考えながら、ブライトはメイリンに連れられて艦橋から出て行くキラを見送った。
その後、ブライトは格納庫で作業をしているアムロと回線をつなげた。
『どうしました、艦長?』
不思議そうな声が回線の向こうから聞こえてくる。聞きなれたその声に対し、ブライトはいった
「少尉……、もし次に言ったことに心当たりがあるなら、この後直ぐに艦長室に来て欲しい。話がある」
『急にどうしたんですか? もしかして何か緊急事態でも』
「アムロ、お前はあの《虹》の向こうから来たのか?」
その一言の後、2人の間に沈黙が流れた。自分の思い違いだったか。そう思ったブライトは謝罪と今回の問いのことを忘れてほしいと言おうとしたそのとき。
『……わかった。きりがいいところで切り上げて、そっちに行く。先に行ってくれ、ブライト』
「ああ。待ってる」
回線が切られたのと同時にブライトは行動に移した。
リードにしばらくの間艦橋を任せることを本人とこの場にいる者に伝えた。いきなりのことに不満の言葉を飛ばしてきたリードを説得し、艦橋を後にした。
艦長である自分が油断が許されないこの状況で艦橋を離れるのはまずいと思われるだろうが、記憶が正しければしばらくの間はジオンはこちらに仕掛けてくることはないはず。ならば直ぐにでも確認したいことが山ほどある。
ブライトは艦長室へ足早に向かって行った。
※
「とんでもないもんだなこりゃ」
「どんな感じなんだ?」
手元の携帯端末で手に入れた《フリーダム》の情報を見て驚きの声を上げたアストナージにアキラが問いかけた。
「重力下においても補助無しで滞空が可能な大推力のスラスター。大出力のプラズマ砲にレール砲、高出力ビームライフル。装甲には『PS装甲』。とんでもないエネルギー消費量だがそれは新型反応炉搭載で万事解決」
「ほうほう」
「攻守共におそらくだが、今連邦で配備されているMSの中じゃトップクラスだな。だが、こいつの開発コストは半端じゃないはずだ。量産性度外視した《ガンダム》や《G-3》とかの4倍くらいかかるぞこりゃ」
「……一体どういう経緯で作られたんだろうな、これ」
「あんまり首突っ込まないほうがいいかもしれないな。色々とやばそうな匂いがするよ、こいつからは。ま、整備はするがな」
格納庫にて先ほどの戦闘で合流した《フリーダム》のことを見上げながら2人が話をしている。周りにもその姿を見ようと多くの作業員が押しかけていた。
そんな中をアムロがかき分けてやってきた。
「すみませんアキラ大尉。ブライト艦長に呼び出されたので、艦長室に行ってきます」
「おう。どうした、何かやらかしたか?」
「いや、そんな記憶はないんですが。行ってきます」
そういってアムロは格納庫から去っていった。艦長直々の呼び出しのようだが、それほど重要なことなのだろうか。
「よーし、各自作業に戻れ。いつでも出られるようにしておけよ」
アストナージのその呼びかけに、作業員はそれぞれの持ち場へと戻って行った。
「大尉!」
《ガンダム》の方へと行こうとしていたアキラを格納庫へとやって来たリィナが呼び止めた。不満げな表情で歩み寄ってくる。
「よう少尉。どうしたそんな膨れっ面で」
「どうしたじゃないですよ。義手の調整もあるし、怪我人なんだからこんなところで動き回らないでください!」
「いや~、こっちも少しでも人手が必要かな~って考えて」
「自分にできることを頑張るんですよね。だったら今大尉がするのは全力で休むことじゃないんですか?」
「ぬぐぅ」
自分の教えたことをその相手に言われ、反論ができずにたじろいでしまったアキラ。その様子を見て周囲の作業員が笑っている。
助け舟は無いのかと周りを見渡したアキラだが、何故か誰も視線を合わせてはくれなかった。というかわざと逸らされているような気がする。
「あーあ、怪我人のこと気にしながらの作業は面倒だなー」
背後からのその一言に振り返るが、そこには何人も作業員がいるため誰が言ったのかわからない。
「誰かが医務室に連れて行った方がいいんじゃないかなー」
明らかな棒読みであることが分かる一言。こちらの身を案じてくれているのだろうが、整備の手伝いや指示をしたいアキラにとってはそれは望んでいないことだった。
どうするか迷ってその場で悩むアキラだったが、結論を出すよりも早くリィナに右腕を握られて格納庫から連れ出されてしまった。その背後からは2人を見送る大勢の作業員の声が聞こえた。
「痛いって少尉。もうちょっと遅くてもいいんじゃないか?」
「……」
アキラの提案が聞こえていないのか、リィナは歩く速度を下げてはくれない。どうしたものかと困惑していると、エレベーターのところまで来たところでようやくリィナは口を開いた。
「リィナです」
「ん?」
「私にはリィナっていう名前があります」
こちらに対して真剣な眼差しを向けて言われた一言に、またアキラはたじろいでしまった。今まで落ち込んでいたりしている姿をよく見ていただけに、余計に迫力があるように感じてしまう。
「わ、分かったよリィナ。今度からは名前でよぶから許してくれ。だからもう少しゆっくり歩いてくれ」
「……了解しました」
やがてエレベーターが到着し、2人でそれに乗り込む。医務室がある階へと移動している間も、リィナがアキラの右腕を離すことは無かった。
何ともいえない空気が漂い、息苦しくなったアキラが話し始めようとしたが、先にリィナがつぶやいた。
「ここでこの右腕を離したらいけない気がするんです」
「んん? そりゃまたどういうこと?」
「なんというか、自分でもよく分からないんです。大尉とは一緒にいなくちゃいけない。離れちゃいけないような気がして……」
「……え? 何? リィナは俺のこと好きなの?」
重苦しい声だったが、遠まわしに好意を向けているようなことを言われたアキラは茶化すようにリィナに問いかけた。すると、みるみるうちに顔が赤くなっていく。
あ、そういう感じではないのね。内心残念に思ったアキラ。
「ち、違いますよ! 確かに助けてくれたりとか、恩はありますけど、そういったものじゃないんです! 違います!」
「お、おう。分かった分かった。落ち着け、リィナ」
真っ赤な顔で必死に否定するその様子を見て、本当に無意識にさっきはあんなことを言ったのだということがわかった。だが、そこまではっきりと否定しなくてもいいのではないだろうか。
医務室のある階に到着し、エレベーターを降りたところで、アキラは言った。
「あんなに言っても、腕は離さないんだな」
「……大尉と一緒にいると安心するんですよ」
ぼそっとつぶやいたリィナ。だが、アキラには聞こえてはいなかったようで、
「何か言ったか?」
「……何でもありません。ほら、もう目と鼻の先ですよ」
素っ気無いその一言を一蹴しつつ、2人は医務室へと到着した。中に入ると、軍医である『ハサン』が歓迎してくれた。
「ようやく来たか、アキラ。相変わらず無茶をしているようだな」
「……すみません」
その後、怪我の状態、手当てと義手の調整などが行われた。そういった作業の間も、リィナは医務室から出て行くことはなかった。
義手に関しては予想していたよりも調子がいいようで、余程の無理をしない限りは大丈夫だと診断された。ただ、体の各部の傷を確実に癒すために少なくとも3週間は安静にしておくことが言い渡された。
「割と動けますから大丈夫ですって」
「駄目だ。普通なら立っていることが不思議なぐらいの傷なんだ。絶対安静だ。それに……」
「……それに?」
アキラが首をかしげるとハサンはリィナを指差して言った。
「彼女が悲しむ」
「え、あ、その……、私は……」
その一言を聞いて戸惑いを隠せないリィナ。その様子を面白そうに2人は見守る。
好きとか嫌いとかそういったものではなく、だけども大切な存在という感情はアキラも実は感じていた。
それを感じるようになったのは、大気圏突入のときのあの出来事からだ。今でも何が起きているのかよく分からないがリィナと頭の中、というか心の中で会話ができるようになった。それ以外の人の感情も分かるようになり、最初は自分はおかしくなってしまったのかと考えた。
しかし、あの状態になるのは戦闘が始まるときなど感情が高ぶったときに発生するようで、今は誰とも心が繋がっているような感じはしない。もしかして、いずれはこの力をいつでも使えるようになるのだろうか。
思案に暮れているうちにアキラはベッドに横になっているせいか、眠くなってきてしまった。その様子を見てリィナが側にやってきて、気を利かせたのかハサンは用事を思い出したといって医務室から出て行った。
軍医が医務室からいなくなってしまっていいのだろうか。そんなことを薄れ行く意識の中で思ったアキラの横で、リィナがこの前と同じ様に優しくつぶやいた。
「おやすみなさい、大尉」
優しさ。いや、それ以上の感情がその言葉から感じ取ることができた。今までに感じたことがない安心感で満たされつつ、アキラは眠りについた。
※
――ニューヤーク市街地
「……ここもこれほどまでに荒れているとはな」
マントでその身を覆い、街の惨状を見て男が静かにつぶやいた。この戦争が始まる前に来た時とはまるで別世界のようだった。
ここに来るまでに地球の各地を旅して回ってきたこの男。その何処も彼処もこのような有様だった。
「何が『ニュータイプ』だ……。何が独立戦争よ!」
湧き上がる怒り。男は自らの拳をきつく握り締める。
「おい! 貴様こんなところで何をしている! ここは立ち入り禁止区域だぞ!」
そんな時、見回りであるジオンの警備兵の1人に男は見つかってしまった。無線で応援を呼びつつ、銃口を向けて警告を続けた。
「手を上げてその場から動くな! さもなければ」
「さもなければどうするというのだ」
「撃つぞ! だから早く手を」
警備兵の警告を無視した男は目にも留まらぬ速さで距離を詰めて、銃をはるか彼方へと弾き飛ばした。驚きの余り警備兵はその場に座り込んでしまった。そして、男の顔を見てさらに驚愕し、声を上げた。
「あ、あなたは……!」
その様子を見て男は鼻で笑い、いった。
「そうだ! ワシは第78回世界総合格闘技大会覇者、『東方不敗』よぉぉ!」