皆さん、お久しぶりです。こうしてまたお会いすることができ、嬉しい限りでございます。
こうして私が現れたということで皆さんはもう察していると思います。そうです、あの手に汗握るファイトが始まろうとしているのです。
しかし、『今』と『前』では世界の状況がまるで違います。そんな中でも彼らは熱い闘いを我々に見せてくれるのでしょうか。いや、見せてくれるに違いありません。
それでは、ガンダムファイト! レディィィ、ゴォォォォ!
※
「変な奴がいるぞ!」
「何故だ、何故当たらないんだ」
「MSを要請しろ! 手数が足りない!」
応援に駆け付けた数人の警備兵が侵入者である東方不敗を取り押さえるために非殺傷の弾丸を利用した制圧射撃を行うも、全く効果がない。
大半の弾丸は避け、まるでこちらを煽っているかのようにいくつかの弾丸を「素手」で撃ち落としながら東方不敗はゆっくりと警備兵との距離を縮めていった。
「そんな豆鉄砲でワシを黙らせることができると思っているのか?」
そうつぶやいた直後、目にもとまらぬ早さで警備兵達に近づき、強烈な打撃によって全員を失神させた。
断末魔を上げる暇すらなく倒れた警備兵。静かになったと思った矢先、こちらに向かってくるであろう数台の車の稼働音と地響きが聞こえてきた。
「情けないのう。たった一人相手にここまでの戦力を使うとは」
4、5人の警備兵を乗せたジープが3台、そして≪ザク≫が1機やってきた。ジープに搭載されていた照明が一斉に東方不敗へとむけられる。そして陣形が整ったのちにジオンの士官が話しかけてきた。
「東方不敗に問う。貴様は先ほど我々が捕らえたコソ泥の共犯者か?」
「コソ泥? いったい何のことを言っておる?」
「我々が近郊の地下基地から発見したMSを狙っているのはわかっているんだぞ」
「知らん。ワシとは関係がない」
「とぼけるな。いくら世界チャンピオンだからといっても」
「知らんといっておるだろうが!! 何度も言わせるな!!」
繰り返される問答に嫌気がさした東方不敗の一喝が士官と警備兵達をたじろかせた。
「で、では何故ここにやってきたのですか?」
先ほどまでの態度とは一変し、士官は恐る恐る問いかけてきた。
「旅の途中で立ち寄っただけだ。区域外からではこの街の被害がどれほどのものか完全に把握できないから入らせてもらった」
「ですが、どんな理由があろうと……」
「貴様等は、この戦争の先に何を見ている?」
真っ直ぐな視線を向けつつ、真剣な問いを東方不敗から告げられて士官は思わず息をのんだ。
ジオンの、スペースノイドのために公国軍に所属し、これまでの間戦ってきた士官。勝利すれば我が物顔でこちらを支配したつもりでいる連邦を黙らせ、自治権を獲得することができる。それを目標にしていたが、東方不敗の問いを聞いたことで疑問が生まれた。
独立はスペースノイドの総意であるというのは間違いない。しかし、それを実行することにが本当にこの方法でよかったのだろうか? 根本的に見直せば自分はそうした周りの雰囲気に同調しているだけであって、将来に関して深く考えてはいないのではないか?
こうした思いが心の中で渦巻いた士官は、問いかけに対してすぐに答えることができずに硬直してしまった。
「貴様はどうやら気づいたようだな。自らの『迷い』を」
そう告げると東方不敗はゆっくりと士官の方へと近づき始める。
「貴様のような者は確固たる意志を持つものとは違い、独立、ニュータイプ。そういったものに囚われて今のことだけを考え、その先にあるものを見ようとしていない」
警備兵と≪ザク≫の銃口が向けられるも、全く動じずに近づき続ける。士官はそれをただ茫然と見ている。
「これほどの傷を残せばもう手遅れだ。先に進もうとしても、それがあらゆることの弊害となるのは間違いない」
「……だったらどうしろっていうんです。何をしたらいいっていうんですか」
「それはな」
士官の問いかけを遮るように警備兵と≪ザク≫の砲火が東方不敗を襲う。それを潜り抜けて≪ザク≫へと間合いを詰めると同時に足の関節部分を破壊し、そのまま止まることなく駆け上りメインカメラも破壊した。バランスを保てなくなった≪ザク≫はその場に地響きと土煙を上げながら崩れ落ちた。
「自らの心に何度でも、何度でも問いかけ続けるのだ。本当にやりたいこととは何か。何をすべきなのか」
「……俺の、……すべき」
警備兵が騒然とする中、士官に指示を求めるがその本人は立ち尽くしたまま動こうとも支持を出そうともしない。
「……よし、決めたぞ。ワシのこれからを。もうただ地球を巡る旅は終わりだ」
そういうと東方不敗は静かに構え、いった。
「これからは世直し、いや、根性叩き直しの旅を行うことにしよう。ワシが迷える小童どもに喝をいれてやる。今日はその記念すべき初めの1日だ。さあ、かかってこい!」
銃弾の雨の中を突き進み、次々と警備兵を蹴散らしていく。最後に残ったのは士官ただ1人。
「俺の……、俺のやりたいことはぁ!」
銃器を投げ捨て士官は東方不敗へと向かう。
「大切な人を、守るためだ!」
「その心意気、良し!」
士官の右ストレートは空を切り、強烈な一撃が腹部を襲った。耐えられずに悶えながらその場に倒れ、薄れゆく意識の中で一言つぶやいた。
「ありが……と……、…ざい……た」
途切れ途切れだったが、その感謝の念はしっかりと伝わっていた。この士官が目覚めた後、どのような行動を起こすかが東方不敗は楽しみだった。
間髪入れずに新たな増援が駆け付け、すぐさま迎撃のための陣形を整え始めた。先ほどまでの警備兵とは違う雰囲気が漂っている。こちらを本気で排除しようとする気迫を感じ取った東方不敗もいつでも動き出せるように構えた。
数秒の沈黙。お互いに機をうかがう緊迫した中で、先にジオン兵が動き出そうとした。
「待てぇぇぇぇぇぇぇい!」
辺りに響き渡った大声がその動きをとめさせた。叫びにも似た大声の主は、倒れた≪ザク≫の上に立っていた。東方不敗とジオン兵達の視線が立っている男に注目する。
「ここから先の喧嘩。この俺が買わせてもらう!」
そういうと男は≪ザク≫から飛び降り、両者の間に降り立った。そしてジオン兵には目もくれず、男は東方不敗を指さして言った。
「手合わせ願おうか、東方不敗マスター・アジア!」
「ほう。このワシに挑むとは、いい度胸をしておる」
いきなり現れた男に聞きたいことはあったが、喧嘩を売られたならば買わなければならない。構える東方不敗。だが、目の前にいる男の構えを見て違和感を感じた。
「貴様、その構えは」
「ああ。あんたが予想している通りだ」
「……ならば!」
自らの拳に力を込めつつ東方不敗は叫び、男に接近した。
「流派、東方不敗は!」
一気に距離を詰めてきたのに対し、男はそれを避けることなく同様に叫びながら正面から拳を打ち付ける。
「王者の風よ!」
お互いの拳がぶつかり合い、きれいに衝撃が相殺される。
「全新系列!」
「天破侠乱!」
常人の目視では確認できぬほど速さで拳を合わせる。それをジオン兵たちはただただ見守っていた。
「「見よ! 東方は、赤く燃えているぅぅぅ!」」
最後に打ち付けた拳と叫びの後、街は再び静寂に包まれた。何故かよくはわからないが、すごいものを見てしまった気がする。そんなことを思ったジオン兵の1人が息をのんだ。
しばらく続いた沈黙だったが、それは男によって終わりをむかえた。
「お見事、流石です」
敗北を悟ったかのようなその一言。それに東方不敗は答える。
「いや、お前は十分に強い。ワシが新たな道へと進む決意がなければ、お前のほうが勝っていただろう」
「……頼みがあります」
「大体検討はつくが、言ってみろ」
「俺の名は『ドモン・カッシュ』。東方不敗マスター・アジア、あなたの弟子にさせてください!」
突然現れた男、ドモンは深々と東方不敗に頭を下げつつ懇願した。
「流派東方不敗をどこから知ったかは、あえて聞かないでおいてやろう。ワシの行く道は厳しいものとなる。それでも着いてくる自身はあるか? 共にこの流派を進化させる自身があるか?」
「はい! どこまでもお供します、師匠!」
こうして、東方不敗は根性叩き直しの旅における弟子を持つことになった。本来ならば断わるところだが、このドモンから並々ならぬ決意とどこかから感じ取れる懐かしさを感じたのが決め手となった。
熱い何かを感じ取れるその2人の様子に見とれていたジオン兵達だったが、状況報告のための通信がつながったことでやっと我に返り、侵入者の排除のために攻撃を開始した。正確な制圧射撃が2人を襲う。
その気になれば突破もできるだろうが、この区域から離脱するとなると道中にて他の部隊が待ち伏せしていることも考えられる。本格的に面倒くさいことになってきた。そう東方不敗が考えていた横で、ドモンがいった。
「安心してください、師匠。こんなことになると予想してとっておきのものを用意してきましたので」
「ほう。ならば見せてもらおうか」
若干の期待をむけられたドモン。深く息を吸いみ、叫んだ。
「出ろぉぉぉお! ガンダァァァァム!」
※
「うおっと。今度は何だ? 隕石でも落ちたのか?」
とあるMSのコクピットの中で、大きな揺れを感じた少年がいた。
侵入者が現れて大暴れしているらしく、それの対処のために多くの人員が動員されているようだ。この混乱のおかげで脱走し、このお目当てのMSに乗り込むことができた。あとはこれを使って逃げれば完了だ。
「確か、これを右側の方に取り付けてっと」
ジオンよりも先に近郊の地下基地から拝借しておいた特殊な操縦桿を取り付ける。機材の方から入手したデータが正しければ、これがなければこのMSは動かないはずだ。
「お。動いた動いた。≪ガンダムX≫か、派手な名前だな。高く売れそうだ。『ロウ』の奴に感謝しないとな」
この少年『ガロード・ラン』は、同業者であり友人でもあるジャンク屋の『ロウ・ギュール』から情報を得て、この≪ガンダムX≫(以降≪X≫)を手に入れるためにここまでやってきた。座標地点に隠されていた地下基地からこれを見つけ、機体の情報と先ほどの操縦桿を手に入れたまではよかったが、その直後にジオンに捕まってしまっっていた。
離脱の準備が整ったことを郊外にて待機している仲間に連絡しようとしたがつながらない。この本部では回線が使えることから見て、街の中でミノフスキー粒子が散布されたのかもしれない。こうなったら無理やりにでも出て行った方がよさそうだ。
「はいはーい、通りますよー。どいたどいたー」
外部スピーカーで周囲に呼びかけながら、拘束具を引きちぎって前進を始めた。いきなり動き出した≪X≫に驚き、格納庫内が騒然となる。
『誰が動かしている! 今すぐにお』
回線の向こうからのジオン士官の怒声を強制的に切断しつつ、周辺にあったシールドとライフルを手に取り、格納庫から抜け出した。だがその直後、威嚇射撃が目の前に着弾した。
≪ザク≫2機と各部が改装され最近出回り始めた新型の≪グフ≫がその腕に装備されたガトリングの銃口をこちらに向けていた。
「マジかよ、流石にこれは分が悪いぞ」
高く売るためにも何とか傷はつけたくない。しかし、ここを切り抜けるには戦闘は避けることができないだろう。そう考えているうちに、ほかの格納庫から新たに≪ドム≫2機が≪X≫挟み込む形で合流した。さらに悪化していく状況に、ガロードはため息をついた。
やるしかないそう決めた次の瞬間、
『でぇぇいやぁぁぁぁぁぁぁ!!』
『ぬうううぅっおおぉぉぉぉ!!』
叫び声が轟き、≪ザク≫と≪グフ≫の近くの格納庫の壁を突き破って白いMSと黒いMSが現れた。突然のことに周囲は驚きつつも、狙うべき対象を≪X≫からその2機へと変更した。
『どうですか師匠≪マスターガンダム≫の調子は』
『完璧だ。そちらの≪ゴッドガンダム≫もいい感じのようだなだ』
オープン回線越しに聞こえてきたのは、2人の男の声。どうやらわざとオープンにしたままで会話をしているようだ。
その2機に対し、威嚇なしの制圧射撃が行われた。しかし、それをことごとく避けて次々とジオンのMSは無力化されていった。この混乱に乗じてガロードは街の外へとむけて動き出した。
『かなりの数がいますね。師匠、俺が撃ち出します。準備を!』
『いいだろう!』
すでにブーストを利用した移動で基地からある程度の距離をとったところで聞こえてきたその会話が気になり、ガロードは振り返った。
『『超級覇王電影弾!!』
『撃て! ドモン!』
『はいいい!』
顔だけを残し、体の部分を渦巻く強大なエネルギーで包み込んだ≪マスターガンダム≫が、≪ゴッドガンダム≫によって撃ち出された。格納庫とMS、その他の施設を巻き込みながら突き進み、最後は上空へと舞い上がる。
『爆発!!』
決めポーズとともに放たれたその一言ののち、多数の爆発が基地を包み込んだ。
「なんじゃ……そりゃあ」
この世とは思えぬ光景を目にして、ガロードは唖然としながらつぶやいた。回線の向こうからは2人の笑い声が聞こえてくる。夢でも見ているだろうかと頬をつねっていたガロードに回線がつながった。
『やっと繋がった! 大丈夫かよガロード!』
「お、『ジュドー』。すまん、ちょっと手間取っちった」
昔からよくつるんでいる同業者のであり、今回≪X≫の確保のために協力してくれていた『ジュドー・アーシタ』だ。予定時刻になっても連絡がなかったために、心配していたようだ。
基地から離れ、たどり着いた合流地点にはジオンの車両に偽装した大型輸送トラックがあった。その窓からこちらに向けてジュドーが手を振っている。
さて、かなり予想外なことがあったにせよ、今までにないレベルのお宝が手に入った。ジュドーと山分けしたとしても十分すぎるほどの額が手に入ることを思い浮かべ、ガロードは心を躍らせた。
回線越しから聞こえてくる高笑いを背に、ガロードたちは街から去っていった。