機動戦士ガンダムLEGEND   作:黒光りするGさん

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第25話 シアトルの夜(前編)

月明かりが戦争によって無残な姿へと変わった街を照らす。恐ろしいほどの静けさ中、高度を低く保ちつつ≪WB≫がシアトルへと侵入した。後は予定時刻に打ち上げられる照明弾を待つだけだった。

緊張高まる艦橋内。どこから仕掛けてくるかも予想できない敵地の真っただ中。厳重な警戒が続いていたのだが、アキラは現状に違和感を感じていた。何かが、何かが違う。

「中尉すまん。MSの配置変更、今更だけどいいか?」

「今からですか? 何か不安でも?」

「ああ。何だかよくわからないけど、嫌な予感がする」

「……いいでしょう。格納庫で待機中の各機に伝えます。変更内容を教えてください」

「悪い。助かる」

今回MSは大きく分けて3つに分かれて行動してもらうことになっており、接近する敵の陽動を≪ガンダム≫。多くの要人の集まるパーティ会場を襲撃、確保する決起部隊の援護を≪トールギス≫と≪フリーダム≫。≪WB≫の警護を≪ガンキャノン≫と≪ガンタンク≫を配置する予定だった。その内の援護組である≪トールギス≫を警護組へと変更するするというのが、アキラの変更案だった。

内容を把握したブライトが、変更案をMSにて待機しているパイロット達へと伝えた。そのすぐ近くの管制席で、メイリンがため息をついた。

「あら、どうしたんですかメイリンさん」

その様子を見ていたセイラが不思議そうに問いかけてきた。それに対し、不安そうな表情でメイリンは応える。

「大尉の嫌な予感って大体当たるの。少しの間一緒にいたから分かるけど、ほぼ確実に……はぁ」

「……そうなんですか。でも、もしかしたら今の大尉がたまに見せるあの力が、その時から片鱗を見せていたのかもしれませんね」

2人がそんな会話をしながら苦笑いをしたとき、照明弾が地上と上空から打ち出され、周囲を明るく照らした。その合図を見て、即座にブライトが指示を出す。

「よし! ハッチを」

「防げキラ!」

突如艦橋に響き渡ったのはアキラの声。ブライトの指示すらかき消すほどの叫びに近いそれの直後、≪WB≫を衝撃が襲った。

「ぱ、パーティ会場の方向からのビーム兵器による狙撃です! 左側面に被弾、この位置には格納庫が……!」

『大丈夫です、シールドのおかげでこちらは無傷です』

被害状況の最中格納庫内において出撃のため、既にカタパルトに固定されていた≪フリーダム≫のキラから艦橋に回線がつながる。側面は貫通したものの、その内部で≪フリーダム≫は防御に成功したようだった。

『このままでは狙い撃ちにされます! ハッチを開いてください、僕が先に行きます!』

「……だめです! 衝撃の影響でハッチ開きません!」

セイラの悲痛な声が艦橋にいる者達とパイロット達に撃沈の恐怖を脳裏によぎらせた。両格納庫のハッチが開かないという絶望的な状況。打開策は……

『バラエーナでハッチを吹き飛ばします!』

『右もドーバーガンを使います! 許可を!』

「止むを得ん、許可する! 総員、対ショック体勢をとれ!」

2人の要請を聞き入れたブライトの指示の後、2機の攻撃がハッチを吹き飛ばした。衝撃はかなりのものだったが、船体が航行不能になることはなかった。

『キラ・ヤマト、≪フリーダム≫、行きます!』

間髪入れずにまだ高熱を帯び、煙が上がる中を≪フリーダム≫が飛び出してパーティ会場である多目的ホールへと向かった。続いて右から出た≪トールギス≫は周辺の警戒を開始した。

その他のMSも順次外に飛び出したところで、レーダーが≪ゲルググ≫3機と≪ガウ≫と≪ドップ≫の編隊が接近するを捉えた。手筈通り≪ガンダム≫が≪ゲルググ≫の陽動のために動き出し、残ったMSで傷ついた≪WB≫の警護を始める。

幸いまだ対空砲火が健在ではあるが、前方に大きな口を開けているようなこの状況は厳しい。果たしてこの敵の猛攻を切り抜けることができるのかどうかも怪しい。

「……やばそうだな。……よし」

「……!? 大尉、どちらへ!?」

「俺も出る! 少尉の乗ってた≪イナクト≫借りるわ!」

そう言い残してアキラはブライトの制止の言葉を聞くことはなく、艦橋を後にしてしまった。確かに手数はあった方が助かるが、この状況においては以前から何度かみせているアキラの力が重要な一手になる可能性が高いとブライトは考えていた。

艦内放送などを駆使して戻るように呼びかけたが、聞き入れる気はない様だ。諦めたブライトが、格納庫にいるアストナージに回線を繋ぐ。

「今そっちに大尉が向かっている。≪イナクト≫がいつでも出られるようにしておいてくれ」

『はあ!? 勘弁してくださいよ! こっちはこっちで大変なんですよ!』

「頼む!」

向こうの要求を最後まで聞かずにブライトは強制的に回線を切った。向こうも苛立っているのと同様にこちらも苛立っている今、これ以上話し続けても埒が明かない。やってもらうしかない。

そうこうしている内に≪ガウ≫と≪ドップ≫の編隊が目と鼻の先まで迫ってきていた。≪ゲルググ≫の方は陽動にうまく引っかかってくれたようで、こちらに近づいて来る気配はない。何としてでも耐え抜かなければいけない。ブライトの指示が艦橋に響き渡った。

 

 

 

 

    ※

 

 

 

 

「そこっ!」

こちらの接近に気づき、移動しようとしたMSのモノアイと思われる光源に向かってキラはライフルによる狙撃を行った。それが命中し、体勢が崩れたのを見逃さずにさらに2発の追撃を放つ。それらはMSの武器と右腕を吹き飛ばした。

会場付近においては複数の銃火が確認できたがすでにごく少数となっており、決起部隊が壊滅状態になっているのが分かった。キラは全速力でその現場へ向かった。しかし、

「!?]

その途中で半壊したビルの影から突如赤い≪ゲイツ≫が飛び出し、強烈な蹴りを繰り出してきた。寸での所でそれに気づいたキラはシールドで防いだものの、≪フリーダム≫はぼろぼろのアスファルトの上に叩き付けられてしまった。

すぐさま体勢を立て直した≪フリーダム≫の目の前には、まるでこちらの出方を窺っているかのように≪ゲイツ≫が静かに佇んでいる。眼前の存在にキラは恐怖に近いものを感じていた。

しかしながらここで立ち止まるわけにはいかない。≪ゲイツ≫が動き出すよりも速くライフルの銃口を向ける。だが、放たれたビームは対象が飛び上がったことで外れてしまう。

「なっ!?」

それを予想していたキラはバラエーナで脚部を吹き飛ばそうとしたのだが、上空から放たれたビームによってその二門の砲塔は破壊されてしまった。完全にこちらの動きが読まれてしまっている。それに、ここまで正確で迷いのない動き。ただものではない。こちらも本気を出さねばやられる。

ためらうことなくキラは『SEED』を発動させつつ、後退しながら牽制のために射撃を行う。こちらの変化に気づいたのか、≪ゲイツ≫は若干の距離を置きながらビームを放ってくる。その後≪フリーダム≫がわざと急停止したところで見せた一瞬の隙を見逃さず、両腰のクスィフィアスを使用した。だが、先ほどの落下の衝撃のためか右腰の方が不調で弾丸が発射されなかった。

左腰から放たれた弾丸の着弾によって発生した爆煙が辺りに広がった。当たりはしたが、手ごたえがない。煙が晴れたそこに姿はなく、半壊したために放棄されたシールドが残されていた。

ミノフスキー粒子が散布されたようで、レーダーが使い物にはならず肉眼による確認が余儀なくされた。気配はあるがどこにいるか予想することができない。先ほどの不意打ちのときも油断していたとはいえ、全く気付くことができなかったのを思い出した。相当戦い慣れしているのがわかる。

周囲の警戒を続けるも発見できず、賭けにはなるが上空へ飛びあがろうと考えた矢先、前方のビル越しからのライフルによる狙撃が≪フリーダム≫を襲った。回避行動も間に合わず、着弾したビームによって両腰のクスィフィアスがやられた。武器でもありスラスターの一部でもあるものを失った≪フリーダム≫だったが、キラの瞬時による調整でバランスを保ちつつ正面のビルに向けて突撃した。

ビルを突き抜けた先には移動を開始しようとした≪ゲイツ≫の姿があった。それに対し、引き抜いたビームサーベルで切りかかる。

「動きが読まれるなら!」

逃げられないと判断した≪ゲイツ≫も同様に腰のそれを抜き放ち、攻撃を防いだ。しかし、≪フリーダム≫の攻撃が止むことはなく、空いている左手でさらにビームサーベルを持ち、追撃を行う。それを空いた手で同じように≪ゲイツ≫は応えたものの、余裕がないようにキラは見えた。

「手数で押し切る!」

ひたすらに続く≪フリーダム≫の攻撃に対応するも、徐々にこちらの動きに対応できなくなった≪ゲイツ≫がゆっくりと後退を始める。

このまま追いつめて無力化できる。そうキラが確信した次の瞬間、コクピット内に警報が鳴り響いた。

「上空から!?」

 

 

 

 

    ※

 

 

 

 

――≪フリーダム≫が多目的ホールに向かったのと同時刻

  ≪WB≫防衛側

 

 

前方からの攻撃と後方からの援護射撃が入り乱れる中、リィナの≪トールギス≫が編隊めがけて突っ込んでいく。

「少しでも数を減らす!」

最前列にいた≪ガウ≫の艦橋をドーバーガンの一撃が吹き飛ばした。接近する≪ドップ≫も引き抜いたビームサーベルで切り付け、シールドで殴りつけたりすることで撃ち落とした。

このままならいける。そう考えたリィナはさらに一隻の≪ガウ≫を撃沈する。

「ああっ!?」

確信したのもつかの間、突如ドーバーガンの銃身を溶断されると同時に、強烈な打撃によって地上に向けて叩き落された。

「一体何が? ……はっ!」

落下によって舞い上がった土煙が≪トールギス≫を包み込み、ゼロに近い視界の中、何かの接近を直感的に感じ取ったリィナはブーストによる移動でその場から離脱した。そこから抜け出すのと同時に、上空から何かが土煙の中へと飛び込んでいった。

瓦礫の山に着地し、様子を見ようと思ったが、そんな暇さえ与えずに土煙の向こうからその手に持ったライフルから緑色のビームを放ちながらMSが接近してきた。

「青い≪ガンダム≫!?」

シールドで防ぎつつ、そのMSを見てリィナは驚愕した。青を基調としたそのMSの見た目は≪ガンダム≫に似ていたのだ。ジオンのMSとは思えないそれは、攻撃の手を緩めることなくこちらに接近してきた。

間近まで迫ったところライフルを後ろ腰に取り付け、ビームサーベルで切りかかってくる。両者のサーベルが重なり合い、激しい閃光が迸る。何度も繰り出される攻撃に、リィナはついていくのがやっとだった。反撃の隙を全く見せない青いMSに苛立つと同時に強い恐怖が心を揺るがせた。

もしかして自分はここで死ぬ運命なのか。そう考えさせるほどに目の前の存在は強大だった。

「くうっ!」

強烈な蹴りが腹部に直撃し、受け身もとれぬまま≪トールギス≫はその場に仰向けに倒れてしまった。右腕をシールドの先で、腰を右足で押さえつけられ、コクピットの部分にはビームサーベルが向けられ身動きが取れなくなってしまった。

『惜しいな。これほどの機体なのにもかかわらず、乗っているのがこんなのでは』

機体自体を接触させたことによってつながった回線の先にいたのは、連邦軍の軍服を着崩し、サングラスをかけた男だった。

『貴様は機体の性能に頼りすぎている。もう少し柔軟性をもって動いた方がいい。まあ、今更こんなことを話しても無駄だが』

男はこちらのことを気にもかけない様子で説教じみたことをしゃべり続けた。その間に何とか抜け出せないかともがいては見たが無駄だった。

『戦場だからな、恨みっこはなしだ。せめて楽にやってやる』

ここまでか。そう思ったリィナは敢えて一切の抵抗を止め、自らにとどめを刺す存在とその行為を目に焼き付けることにした。握られたビームサーベルの先端が静かにコクピットへと迫った。

『間に合った!』

『ちぃ!』

『うおぉあ!?』

回線越しから聞こえてきたのはアキラの声。猛スピードで青いMSに≪イナクト≫の右足で蹴りを入れようとしたものの、直前で気づかれて避けられたと同時に右足を切断され、瓦礫の山に突っ込んでいった。拘束から抜け出した≪トールギス≫は青いMSから距離をとる。

その後も救援に来てくれたことに感謝を述べる時間を与えられることなく激しい攻撃が続く。

『横なぎ来るから伏せて!』

リィナの頭の中に響き渡ったアキラの指示。その通りに動き、青いMSの攻撃をかわす。

『足払いして体勢崩したらこっちに来てくれ!』

「はい!」

その攻撃によって青いMSはバランスを崩しながらも、スラスターを全開に吹かして無理矢理体勢を立て直して少し後退した。その隙に≪イナクト≫の方へと向かった。

すぐそばまでくると、≪イナクト≫は下半身のほとんどが瓦礫の中に埋まってしまい、身動きの取れない状態なのが分かった。しかし、その右手には≪ガンダム≫のビームライフルが握られている。

『≪トールギス≫でも使えるように調整しておいた。使ってくれ』

「了解です。ありがとうご」

手渡されたライフルが使えることを確認して礼を言おうとした次の瞬間、一筋のビームが≪イナクト≫を貫いた。

「大尉!」

爆散こそしなかったもののコクピット付近にはビームが貫通し、赤く熱を帯びた穴ができていた。その周辺では熱によって異常をきたした機器が火花を上げている。

「返事をしてください! 大尉! 大尉!」

今度はこちらに向けて放たれたビームを防ぎつつ、手渡されたライフルで応戦する。だが、アキラの安否を心配するリィナの攻撃はどれも当たることはなく避けられ続け、青いMSは≪トールギス≫に向けて再び接近してきた。

頭の中に声が響いてこない。応答もない。また守れなかった、何もできなかった。リィナの心の中で渦巻いた悲しみと後悔の念は、青いMSが近づくにつれ徐々に別の感情へと変わっていった。

「……このぉぉぉ!!」

お互いにライフルを格納し、サーベルで切りかかる。両機が一歩も引かぬ鍔迫り合い。

「よくも、よくも、よくもおおぉぉ!」

怒りに満ちた言葉を吐き出しながら、リィナはサーベルの出力を上げた。それに気づき、押し負けると察したのか青いMSは右足で蹴りを入れ、≪トールギス≫から距離をとった。

わずかによろけたが特に問題はなく、追撃を続けようとしたその時、コクピット内に上空から急接近する正体不明機に対しての警報が鳴り響いた。≪WB≫からも注意喚起の回線がつながったが、頭に血が上っているリィナの耳に入ることはなかった。

出力上昇による負荷がかかり、サーベル自体が長くはもたない。とにかく早くけりをつける。そう考えてブーストによる高速移動で一瞬にして距離をつめつつ攻撃するも、同じようにことごとくかわされ続ける。

「くそっ! 当たれ! 当たれ!!」

感情に身を任せた攻撃が当たることはなく、怒りは膨れ上がり、限界が近づく。青いMSはこちらが無理をしていることに気づいているようだった。予備のサーベルがもう一本があるとはいえ、この調子では勝つことは難しい。

ひらすら追いかけ続け、リィナ自身の体が悲鳴を上げ始めたところで、落下による衝撃と音が周囲から伝わってきた。パーティ会場である多目的ホールの場所から大きな土煙が上がっていた。

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