機動戦士ガンダムLEGEND   作:黒光りするGさん

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第26話 シアトルの夜(中編)

戦場となっているシアトルの中で、ジープに乗る3人の少年が伝わってきた衝撃と爆音に驚きの声を上げた。運転を任されているジュドーは一瞬宙に舞った車体をふらつかせることなく、目標へと走らせ続けた。

「本当にこんなんで大丈夫なのかジュドー!? やっぱり今からでも引き返して別の手を……」

「大丈夫だよ。いざとなればガロードがいるから問題ないさ」

不安そうにしている『イーノ・アッバーブ』を元気づけるようにジュドーは答えた。もう一人の同乗者である『モンド・アカゲ』は振り落とされまいと車体にしがみついている。

本来であればガロードの手に入れた≪X≫を売り払ってすぐにでも宇宙へと戻る予定だったのだが、取引相手がジオン側に寝返り交渉が決裂。限られた資金と燃料等と駆使して逃走を続ける羽目になってしまった。それから早数日、行く当てもなかったジュドー達はジオンの追撃を受けながらも北米大陸を脱出しようとしている≪WB≫の噂を聞いてここまでやってきた。

「よっしゃ! かなり近づいてきたな、ワイヤー準備してくれ!」

≪WB≫との接触回線をつなげるためのワイヤーの射出準備に取り掛かった。ミノフスキー粒子が散布されていなければここまで近づくことなく通信ができたのだが、ジオンに傍受される可能性が無いことと時間が少しでも惜しい今、逆にジュドー達にとって好都合な状況となっていた。

対空防御と2機のMSの援護を受けながらゆっくりと太平洋へと向けて動いている≪WB≫の真下にたどり着き、すぐさま船底に向けてワイヤーを射出した。それがうまく取りついたことを確認し、回線をつなぐ。

「あー、あー、聞こえてますかー≪WB≫ー」

『その声は……! ……一体こんなところで子供が何をしている! ここは戦場なんだぞ!』

「はいはい、説教は後にしてもらえると助かるかな。手短に済ませるから即決で判断してほしい交渉があるんだけど、聞いてくれる?」

男性士官と思われる怒声を受け流し、ジュドーは続けた。

『交渉だと?』

「脱出の手助けになる強力なMSがあるんだ。そいつやるから俺たちを乗せてくれないかな?」

いきなり現れてこんな交渉を持ち掛けられても無理だと返答されるのはジュドーでも予想はできた。その返答が来る前にとっておきの秘策を使うことにした。

「とりあえずはその威力を見てもらった方がいいよね。さてと」

そういってジュドーが合図すると、イーノが≪WB≫の後部の空に向けて照明弾を打ち上げた。これで手筈通りガロードが動いてくれれば問題はなし。

「もし交渉成立したら、追いかけてくるMSに乗せてもらうからよろしく頼むよ」

『待て、まだ決まったわけでは……』

男性士官がしゃべり終わる前に、空からどこからともなく一筋の光が現れた。空の歪みのようなところから続く光は、合図を確認して上空に舞い上がり背面のリフレクターを展開した≪X≫に照射されていた。

正直に言うとこのとっておきを使うのは今回が初めて。威力は申し分ないという情報は手に入れたのだが、本当に使うことができるかわからなかったからだ。もしこれでだめなら土下座してでも≪WB≫に乗せてもらおうと考えていたが、どうやら大丈夫そうだ。

光が途切れると同時に空の歪みも消え、準備の整った≪X≫は長い砲塔の先を≪WB≫に迫る≪ガウ≫が率いる増援へと向けられた。そして次の瞬間、凄まじい出力のビームがシアトルの空を明るく染め上げた。この攻撃によって増援は壊滅し、≪X≫はその圧倒的な火力を見せつけた。

「とまあこんな感じ。どう? 悪い話じゃないと思うけど」

間髪入れずに交渉を続ける。脅しにも近いが手段を選んではいられない。

『……分かった、乗艦を許可する。ただし時間がない、急いでくれよ』

「良かった。よろしく頼みますよ≪WB≫さん!」

 

 

 

 

    ※

 

 

 

 

「一体何がどうなっている……」

振り下ろされた一撃を避け、背中に蹴りを入れつつ≪ブルーフレーム≫を後退させながら、『叢雲劾』は静かにつぶやいた。

先日の襲撃があったとはいえ、ジオンにはそれなりの戦力がこの北米には残されていた。数で勝るジオンであれば勝てると考えていたが、それを覆すほどの戦力をあの船が保有しているのは劾でも簡単に理解できた。

傭兵である劾は北米での仕事が終わり、帰路に就こうとしたところでジオンの北米司令から直々に依頼を持ち掛けられた。報酬はかなりのもので、目標はたった一隻と数機のMS。容易に片付くと思ったが、このありさまだった。

ジオンの増援もやられ、雇い主がいる多目的ホールの方にも大気圏外からの襲撃。多目的ホールに向かいたいが、この≪とさか頭≫が邪魔をしてこの場から動けずにいた。

「そろそろか」

こちらに振り向いた≪とさか頭≫のMSのビームサーベルが限界を迎えたようで、形成されていたビームが消滅した。これで2本目。恐らくもう予備はなく、先ほど手渡されたライフルも破壊し、無茶苦茶な機動力で推進剤を大量に消費した今、≪とさか頭≫にできることはもう無いと劾は予想していた。

どう動くかと身構えたが、≪とさか頭≫は先ほどと変わることなく、武器も持たずにこちらに突っ込んできた。

「なめられたものだな」

繰り出された右拳の攻撃を難なく上空に飛び上がって避けると、そののまま強烈な踵落としをくらわせて≪とさか頭≫を地面にたたき伏せた。

先ほど≪イナクト≫がやってきたときに一瞬だけ動きがよくなったのだが、それ以降はこの無鉄砲な突撃の繰り返し。何も考えていないようなそのしつこい行動にうんざりしていた。

『……許さない! 絶対に……!』

つながった回線越しから女性士官の憎しみのこもった声が聞こえてくる。先ほど沈黙させた≪イナクト≫に大切な人でも乗っていたのであろう。しかし、そんなことにかまってはいられない。やらなければこちらがやられる。ここは戦場だ。

足の押さえつけから逃れようとしても、推進剤不足でうまく機能しないスラスターでは無理なようで、ただ四肢を動かすことしかできないとさか頭に引き抜いたビームサーベルの先端を向ける。

「これで終わりだ」

今度は警告も説教もなし。とさか頭を黙らせるためにサーベルを振り下ろした。

「!?」

だが、それがとさか頭を貫くことはなかった。突如何かが≪ブルーフレーム≫の腕に巻き付き、前方に引っ張られたからだった。

突然のことに驚いた劾だったが、引っ張られた先にいた黒いMSを確認すると空いたほうの手でもう一本のサーベルを手に取り、巻き付いたそれを切り裂くと同時に切りかかった。

『ほう! やりおる!』

回線ではなく外部スピーカーを通して聞こえてきたのは男の声。その声の後、黒いMSはまるで人間のようにその場から跳躍すると≪ブルーフレーム≫の後ろ側へと回り込んだ。

すぐさま振り向いた先には、何かしらの拳法の構えをとっている黒いMSの姿があった。

『貴様の相手はこのワシ、≪マスターガンダム≫と東方不敗マスター・アジアが引き受けた。さあ、かかってくるがいい!』

その男の名に聞き覚えはあった。なぜこんな場所でこんなことをしているのかと疑問は浮かんだが、劾は東方不敗に同じく外部スピーカーで問いかけた。

「邪魔をするな。俺はそいつを片付けて雇い主の方に行かなければならない」

『もう戦えることのできない手負いを手にかけると?』

「ああ。それが依頼なんでな」

『気にいらんのう。もう勝負はついているであろうに』

「勝負どうこうの話ではない。ここは戦場なんだぞ」

そうした会話ののちお互い無言となり、緊迫した雰囲気が流れた。少し経ったところで、≪マスターガンダム≫の後方から別のMSが駆け寄ってきた。

『師匠、何とか言い聞かせることができました。あいつは仲間を回収して母艦に向かうそうです』

『ご苦労ドモン。ではお前は少し離れておれ。こいつはワシが相手をするんでな』

「……逃がすか!」

その会話を聞いていた劾はこちらに背を向けて離脱していく≪とさか頭≫に向け、ライフルを向ける。ここで取り逃がして依頼を失敗させれば、自分だけでなく『サーペントテイル』の名に傷がつく。ましてやこんなわけのわからない連中に邪魔されたという理由では話にならない。

『貴様の相手は!』

「なに!?」

トリガーを引くよりも早く、間合いを詰めた≪マスターガンダム≫。その速さに劾は驚愕する。

『ワシだと言っておるだろうが!』

右足の蹴り上げによってライフルが上空へと打ち上げられ、≪ブルーフレーム≫の手から離れたライフルが放ったビームは近くの瓦礫の山に着弾した。

振り上げられた脚をそのまま振り下ろすことで≪ブルーフレーム≫に踵落としが繰り出される。それを寸でのところでシールドで受け止め、サーベルでシールド越しの≪マスターガンダム≫を貫こうとしたが、追撃の左足の蹴り上げをくらってシールドが腕から外れ、機体も衝撃で後方に弾き飛ばされた。

普通のMSのではできないその動きに困惑しながらも、スラスターを活用して≪ブルーフレーム≫は両手でサーベルを持ち、迎撃態勢を整えた。

『さあ行くぞ! 貴様の力を見せてみろ!』

東方不敗の叫びに近い声とともに、≪マスターガンダム≫は≪ブルーフレーム≫へと向かっていった。

 

 

 

 

    ※

 

 

 

 

またもやあの≪羽根付き≫のMSに狙撃でやられてから少し経った後、突然飛来した正体不明機を乗せたカプセルが落下して視界が遮られ、先ほど空が一瞬光ったと同時に、増援が来る予定だった方角からは爆音が聞こえてきた。

状況が全く掴めない歯がゆさにガルマは唇をかんだ。1度ならず2度までも、上空からのアンノウンに邪魔されることになるとは予想していなかった。

≪WB≫付近においてはミノフスキー粒子を散布して撹乱を行う予定だったが、こちらにおいて散布する予定が無いにもかかわらず回線がつながらない。ようやく視界が回復してきたところで背後から支援に来た≪ゲルググ≫が接触し、回線がつながる。

『大佐! キャリフォルニアからの増援が壊滅! こちらの戦力はあと僅かです!』

「馬鹿な! こんなことが……こんなことがあってなるものか!」

これほどの戦力を揃えても太刀打ちできない。それどころかこちらが追い込まれる側になるとは。

『大佐、ここは諦めて退却し』

「……どうした? なぜ途中で……」

進言の途中で雑音とともに途切れた回線が気になり、ガルマは背後の≪ゲルググ≫を見た。赤く光り輝く粒子を放つ白い何かがコクピット付近に突き刺さっている。

ふとガルマは周囲を見渡した。自らの警護のために周辺を警戒していた他の3機にも同様に突き刺さり、沈黙していた。危険を感じたガルマは、残された左腕で背後にいた≪ゲルググ≫のライフルを確保しようとしたが、遅かった。

地表すれすれを滞留している土煙から飛び出してきた物体が放った赤いビームが左腕を破壊した。

「ぐおおぉぉ!?」

その場から離脱しようと動き出したところで四方八方からのビームといくつかの物体が機体に襲い掛かり、コクピット内で起きた小規模の爆発で飛び散った破片がガルマを切り裂き、突き刺した。モニターと各種機材も機能しなくなって真っ暗になったコクピットの中で薄れゆく意識を何とか保ちつつ、苦悶の声を上げる。

しばらくして、コクピットハッチが無理やり引きはがされた。そこには、赤い粒子を放つ禍々しい姿の機体が立っていた。

『おやおや、派手な塗装だったんでもしやと思いましたが、ガルマ・ザビ様でございましたか』

外部スピーカー越しの男は愉快そうにこちらに話しかけてきた。

『恨むならエッシェンバッハを恨んでくれよ。あの野郎はここまでくるための移動賃と前金もたんまり払って、ただここに来て好きに暴れていいって言ってたんだからな』

今回のパーティの主催者であるその依頼主の名を聞いて、ガルマは愕然としていた。まさかあの男がここまで大胆な戦法を。それもタイミングが少しでもずれれば自分の身にすら危険が及ぶ手段のはずだ。

『ルナツーから溜まり続けた鬱憤もこれで晴れるってもんだ。「侵攻作戦の英雄ここに死す」って感じの歴史の1ページを見れるなんて最高だぜ』

下品な高笑いが周囲に響き渡る。痛みと悔しさで今にもはち切れそうな思いを抱きつつ、ガルマは眼前に立つMSをにらみつける。傷ついたガルマにはそれしかできなかった。

やがて落ち着きを取り戻した男は、右腕に装着された武装の銃口をコクピットへと向けた。

『そんじゃ、いっちまいな!』

その男の一言を聞き、諦めたガルマはゆっくりと瞳を閉じ、かすれた声で愛する者たちに向けて届かぬ思いをつぶやいた。

「すみません……父上、……すまない、イセリナ……」

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