機動戦士ガンダムLEGEND   作:黒光りするGさん

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第27話 シアトルの夜(後編)

半壊したビル、倒壊した建物の瓦礫を踏み台にしながら街を駆ける。そしてたどり着いた先にいた嫌な気配の正体に向けて、速度を落とすことなく接近し蹴りを入れた。それをまともにくらい、MSはかなりの距離を弾き飛ばされた。

アランはそのMSに見覚えがあった。『アトゥム』の時に現れたPMCのMS、確か名は≪アルケー≫、パイロットはサーシェスという傭兵だったはずだ。

「……なるほど」

周囲に点々と存在する≪ゲルググ≫のうちの1機のコクピットで傷ついたガルマが気を失っているのを確認した。奴の今度の目標は北米司令といったところか。傭兵というものの中でも特に異端な存在である奴ならばそんな依頼を受けたのも納得できるとアランは感じた。

その後≪アルケー≫は起き上がり、こちらに向けて牽制射撃を行いつつ、上空へと舞い上がった。回避を行いつつ、回線が若干回復したのを確認したアランはアンジェロに指示を出す。

「アンジェロ、≪羽根付き≫はもういい。隊を二分してこちらの援護と大佐の迎えに回せ」

『了解しました!』

多目的ホールの異常と増援の全滅。≪WB≫に関しては諦め、損害がこれ以上でないように最小限に抑えることを考えたアランは、眼前の敵の排除に乗り出した。

≪羽根付き≫が正体不明機の飛来と空を明るく染め上げた閃光に気をとられた隙をみて、待機していたアンジェロ率いる援護部隊の十字砲火によって無理矢理その場に釘付けにした。アンジェロに指示を出した後、こちらに来ないとなるとどうやら追撃はしてこないようだった。となれば何も気にすることはなく≪アルケー≫をたたくことができる。

目の前の敵とは違う無機質な殺気を感じ取ったアランはためらうことなくその方向に向けてライフルのビームを打ち込んだ。ファンネルに似た遠隔操作型の兵器が爆散する。さらに別方向からも同時に複数の兵器からビームが放たれたれるもそれらのすべて避け、≪アルケー≫へと距離を詰めていった。

周囲を飛び回る兵器は何とかなるが、肝心な本体に対しては射撃が展開されたバリアのようなもので無力化されてしまう。やるなら接近戦を仕掛けるしか方法はない。

『流石だな! やっぱりてめえは他の雑魚とは違うみたいだな!』

嬉しそうな声が外部スピーカーを通して周囲に響き渡る。サーシェスの無造作に撒き散らす鋭い殺気にアランは嫌悪感を抱いていた。

右腕の兵装を取り外し、大剣へと姿を変えたそれを≪アルケー≫は≪ゲイツ≫に振り下ろした。それを引き抜いたサーベルで受け止めてゼロ距離でビームを打ち込もうとライフルの銃口を≪アルケー≫の胴体へと向けた。

『甘いんだよ!』

右足のつま先から伸びたビームの刃がライフルを溶断した。さらに左足の追撃が右脇に直撃し、大きくバランスを崩した≪ゲイツ≫は地上へと落下していった。

「ちぃ!」

スラスターで無理矢理体勢を立て直して落下を阻止したものの、再び距離が離れてしまった。

上空と周囲からは絶え間なく攻撃が続く。≪羽根付き≫との戦闘の影響により、機体のエネルギーが尽きる前に先に推進剤が底をつきそうになっていた。もどかしい状況の中で、合図を感じ取ったアランは≪ゲイツ≫を急上昇させた。

『馬鹿が! 追え、ファング!』

舞い上がった≪ゲイツ≫を取り囲むためにファングも上空へと移動した。しかし、ファングが目的を果たすことはできなかった。

『んな!?』

ファングの予測進路に向けて撃ち込まれた拡散弾がその動きを鈍らせ、高出力のビームによる狙撃ですべてのファングが撃ち落とされた。

『梅雨払いをさせていただきました』

「上出来だアンジェロ、そのまま援護を頼む」

『はい!』

アンジェロ達が乗る≪ゲイツ≫は試験的に高度なステルス能力を備えた機体として開発されたもので、こうした不意打ちに近い援護にはうってつけだ。これによって、先ほど≪羽根付き≫の動きを止めることにも成功した。

2機の拡散弾攻撃と1機の狙撃が確実に≪アルケー≫の動きをとらえてその場から身動きをとれないようにした。射点を変え続け、レーダーに映ることのない敵の存在にサーシェスは苛立ちの声を上げつつ、地上へと降下した。

降り立った直後急速接近してきた≪ゲイツ≫に対し横なぎに振り払いをしたものの、動きを読まれて上空へと飛び上がることで避けられたと同時に背後へと回り込まれた。

『おいおいまじかよ!』

そのサーシェスの驚きの声は≪ゲイツ≫に対してではなかった。飛び上がった後に続いて突如赤い≪ゲルググ≫が目の前に現れたからだ。いつの間にか合流してともに来たのだろうが、レーダーでは≪ゲイツ≫と被っていたために気づくことができなかった。

つま先からビームを発振させようとしたが、先に≪ゲルググ≫のナギナタが両足を切り裂き、背後からの攻撃でバスターソードを持った右腕も切り落とされた。全く躊躇することなく、完璧に近い連携をとる2機にサーシェスは手も足も出なかった。

『畜生が!』

敗北を悟ったサーシェスはすぐさまコアファイターで離脱した。上空へ逃げれば先ほどの攻撃の的になると考え、瓦礫だらけの街の中を潜り抜けて行った。

射撃兵装を失った今、これ以上の追撃は不可能だったアランだが、シャアは違った。静かに息を整えて集中し、見えない敵の気配を探り始めた。

『……そこか!』

その一言の後、最大出力に変更した≪ゲルググ≫のライフルから放たれたビームが建物を貫いた。間をおかずに遠くから爆発音が聞こえてきた。その方向からは煙とともに赤い粒子が上がっている。

「お見事です。大佐」

『いや、駄目だな。ギリギリで脱出したようだ。しぶとい男だな』

最後の一射で熱処理の限界を迎え、使い物にならなくなったライフルを捨ててシャアはつぶやいた。

戦闘が終わり、アランの周辺は静まり返っていた。このシアトルで攻撃を行ったジオン軍はアランの部隊とシャアを残して全滅し、傷ついた≪WB≫はMSを収容して太平洋へと向かっていった。唯一聞こえてくるのは、遠くの方から金属同士が激しくぶつかりあう音と男の叫び声だけ。

やがて援護に回っていたアンジェロ率いる≪ゲイツ≫6機が合流し、無残な姿となった多目的ホールへと向かった。

「……彼の処遇はどういたしますか?」

アランは気絶しているガルマのことをシャアに問いかけた。

『君があの男を攻撃しなければもうガルマは死んでいた。一度死に、二度目も無残な死を迎えそうになったガルマを手にかけるには気が引ける。私に考えがある。任せてほしい」

「了解です。周囲の警戒はお任せください」

どう対処するのかアランは気になりつつ、≪ゲルググ≫の手のひらへと降りてガルマを運び出すシャアを見守った。

気づけばもう日の出の時間だった。ゆっくりと朝日が昇る中、一台のジープがこちらに近づいてくるのを確認した。

 

 

 

 

    ※

 

 

 

 

「……少尉。20分後に艦橋に来てくれ。ミーティングを行う」

「……はい」

≪WB≫の医務室の一角で、気のない返事をリィナは返した。その姿を見て、それ以上の言葉をかけることなくブライトは出て行った。

目の前には、意識を取り戻すことなく眠り続けるアキラがいた。ハサンや衛生兵によって一命をとりとめたものの、目覚めるかどうかはわからないというのが現状だ。

だが、リィナは感じていた。そこにはもうアキラがいないということを。目の前にいるのは空っぽになってしまった肉体だけだということを。

「すみません……、すみません……大尉」

ただひたすら謝ることしかできなかった。あの時の攻撃を防いでいれば助けることができたかもしれない。その後悔がリィナの心を大きく揺さぶり続けてい。

その様子を察したのか、ハサンが声をかけてくることはなかった。医務室内にて、嗚咽とともに涙が床へと零れ落ちる。

守れなかった。また守れなかった。なぜ守れなかったのか。ただひたすらのリィナは謝り、泣き続ける。もう今度は立ち直れそうに、前へと進むこともできないと思えていた。

『……まあ、その……何だ。あれだ……ええっと……』

リィナの涙と嗚咽が止まった。

『どうすりゃいいのかな……これ。励ませばいいのやら、現状報告すればいいのやら……』

涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、目の前のアキラを見る。そこには先ほどと変わらず静かに眠り続けるアキラがいる。

『お、俺だよ、俺。いや、詐欺とか幻覚でもないぞ。本当だぞ少尉。信じてくれ』

確かに感じ取ることができた。その声、存在を。かなり近くに。

「たい……い?」

恐る恐るその声に聞き返してみた。夢ではあってほしくはない。

その後、困惑した様子の声が聞こえてきた。

『俺、今少尉の心の中にいる』

 

 

 

 

    ※

 

 

 

 

『埒があかんわ!』

『それはこっちのセリフだ!』

一進一退の攻防が続く。MS同士の拳が、脚がぶつかり合う。お互いにこんなに長丁場になるとは予想していなかった。

耐久力で勝る≪マスターガンダム≫が肉弾戦になれば有利。いずれは勝てると思われたが、劾の巧みな操縦で衝撃が抑えられ、≪ブルーフレーム≫は持ちこたえていた。

『世直しだか、根性叩き直しだか知らんが、間違いなく俺には関係のない話だ。いい加減に諦めろ!』

≪ブルーフレーム≫の蹴りが決まり、≪マスターガンダム≫は後方へと吹き飛ばされるも、なんとか踏ん張ってその場にとどまった。

すぐに距離を詰めようと動き出そうとした次の瞬間、どこからともなく現れた正体不明のMSが両者の間に割って入った。突然の乱入者にその場にいる全員が驚き、動きを止めた。

「ドモン。自由に動いていいといったが、ここまでしていいとは言ってないぞ」

全員に対してつながった回線から聞こえてきたのは、男の声。

『か、カラジャさん! ≪LEGEND≫に乗ってどうしてあなたが!』

「試運転だ。副座式に変えてからの影響が見たくてな。まあ他にも用があるんだが、それよりも……」

≪LEGEND≫の頭部が≪ブルーフレーム≫へと向けられる。

「すまなかったな、叢雲・劾。そちらの雇い主はもう駄目だろう。報酬と同額をこちらから渡すから、手を引いてくれないか?」

『いきなり何を言う。そんなこと信じ……』

唐突な交渉を断ろうとした直後、劾の膝の上には開いた状態のアタッシュケースが現れた。そこには、ジオンから受け取る予定だった額の金が入っている。

「この御時世に現ナマですまない。足がつくと心配なんでな。部隊の評判に関しても心配はいらない。こちらで情報操作を行う。……満足してくれたか?」

『……いいだろう』

カラジャの要求を聞き入れると、劾はその場を後にしようとした。だが、それを許すはずもなく東方不敗が食って掛かってきた。

『待てい! まだ終わってはおらんわ!』

目の前の≪LEGEND≫を押しのけて、≪ブルーフレーム≫へと向かっていった。その様子にカラジャはため息をついた。

「あなたの場合は」

量子化を利用した移動で再び≪マスターガンダム≫の目の前へと回り込むと、強烈な蹴りで打ち上げた。

「力尽くでの方がよさそうですね」

強烈な一撃をもろに食らい、受け身すら取れていない状態の≪マスターガンダム≫の頭部を掴み、地面に叩き付けた。その衝撃によって、大きなクレーターが出来上がる。

その様子を近くで見ていたドモンはおもわず息をのんだ。以前よりもさらに安定性が増し、その圧倒的な性能遺憾無く発揮する≪LEGEND≫に恐怖すら覚えた。

劾が立ち去り、東方不敗たちも静かになった中で、カラジャは≪WB≫が去っていった方角を見た。正直に言えば今すぐにでも会いたいという気持ちがあるが、耐えなければならない。

「さて」

名残惜しみつつ、今度は崩壊した多目的ホールの方へと視線を移した。ついに、一つの大きな選択の時がやってきたのだ。どうなるかはまだわからないが、この先の決断が世界の行く末を大きく左右することになるかもしれない。

朝日が瓦礫だらけの街を照らす中で、カラジャは静かにつぶやいた。

「さあ、そろそろ時間だ。『キャスバル・レム・ダイクン』」

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